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研究は技術だけでなく「人と人がクロスする連携」が重要。「集積Green-niX」の「X」に込めた半導体への思い

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半導体の研究に情熱を注ぎ、高専時代の学びと熱い議論が研究の原点と語る東京工業大学の若林 整先生。集積Green-niX+研究ユニットで、半導体の高集積化と環境に優しい製品の研究、技術人材の育成を目指す若林先生に、「X」へ込めた思いと半導体の未来についてお話を伺いました。

高専時代のアイデンティティ論議から生まれた、研究への思い

―まず、呉高専へ進んだきっかけについて教えてください。

父親が蓄電池のエンジニアで、技術営業のような仕事をしていました。中国地方であるダムのバッテリーが故障したとの連絡を受けると、車で急行して修理に向かっていましたね。その姿を見て、エンジニアの仕事が社会を支えていることを強く感じました。

中学生の頃の自分は、物理や数学が好きというよりも、「工学が自分に合っている」と感じていました。そこで、普通科高校に進む道もありましたが、最初から高専に進むことを決意。父親は高専出身ではありませんが、「高専は面白いらしいぞ」との情報を教えてくれました。

進学した呉高専では電気21期生で、社会での実績がまだそれほどではない時期でした。若い学生たちが頑張っている状況で、まだまだ先が見えない中での入学でしたが、どうせならドーンと挑戦してみようと入学を決めましたね。

―高専時代の思い出などお聞かせください。

1番の思い出は、みんなで語り合っていたことです。「社会における高専って何なんだ」というテーマで電気系の人たちが1番悩んでいた時期でした。

高専では水泳部や音楽部などのクラブに参加し、学外でも活動していましたが、社会からの認知も中途半端で、例えば高校総体に参加するわけでもなく、自分たちの活動がなかなか理解されないなど、高専の社会的な認知が不足していると感じる日々でした。

ですから、試験期間中などにクラブ活動が早く終わると、いろんな学生たちが夕方から集まり、勉強の合間に自分たちの存在意義や将来について熱く議論していました。こうした議論で生まれた思いや考え方が、その後の研究の礎になりましたね。

2次元物質を活用し、電界効果トランジスタや熱電素子の研究に従事

―高専や大学院では、どのような勉強・研究に取り組みましたか。

高専時代は電気に関する実習を行う機会があり、特に機械実習が印象的でした。旋盤やフライス盤、ボール盤など、様々な実習が豊富にあり、非常に良かったです。

実際、旋盤など大型の機械を使って、高専時代も東京工業大学大学院時代も自ら装置をつくりました。先生方もその装置づくりに興味津々で、作製を奨励される状況でしたね。東工大では機械工場を自ら管理・段取りをすべて行い、先生方に報告すると「良いぞ!やってみなさい!」という感じでした。

現在の私の研究室に来られる学部卒の学生も非常に優秀ですが、高専卒生は経験が格段に違います。高専の方々は、迅速に結果を出してくれる実力を兼ね備えている人が多いと思います。

―現在の研究テーマについて教えてください。

電子機器の心臓部とも言える「半導体」についての研究です。半導体はスマートフォンやパソコンなど、私たちの生活に欠かせない電子機器の中にたくさん使われています。その半導体研究の1つに、「FET(電界効果トランジスタ)」という部品を使った研究があります。FETは、電気の流れをコントロールする部品で、これが上手く働くと電子機器が低消費電力に動きます。

内容としては、半導体集積回路の高速化と低消費電力化を進めることを目的に、2次元物質を用いたFET、熱電素子、デバイスの3次元的な高集積化の研究です。

このFETをつくるための新しい材料として、原子層状物質である遷移金属ダイカルコゲナイドを使っています。この物質はとても薄く、電気をよく通す特性を持っています。遷移金属ダイカルコゲナイドを用いたFETは、世代が2nmよりも微細な世代でも高性能を維持できる材料として学会等でも注目を集めています。

また、熱電素子についても研究しています。これは熱を電気に変える部品で、電子機器が発する熱を無駄にせずに電気に変えることができます。これらの研究を通じて、電子機器をより高速に、そしてより省エネにするための方法を探しており、地球環境を守るためにとても重要な研究です。

環境に優しい性能向上と技術者育成を目指す「Green-niX」プロジェクト

―現在取り組まれている「集積Green-niX+研究ユニット」とは何ですか。

まず、「集積Green-niX研究・人材育成拠点」についてお話しします。これは、文部科学省が推進している「次世代X-nics半導体創生拠点形成事業」の一部となっており、日本の半導体産業の復活を目指しています。代表機関である東工大だけでなく、半導体の製造ラインが完備されている豊橋技術科学大学や広島大学ほかと連携し、研究開発を進めています。

特に、半導体の性能を向上させつつ、環境に優しい製品をつくるための研究プロジェクトです。先にお話しした研究・開発は、このプロジェクトによるものとなります。さらに、半導体業界を牽引する技術者「LSIイノベーター」を育成することも重要な目標としています。

そして、「集積Green-niX研究・人材育成拠点」と「集積システム材料産学連携コンソーシアム」や「EISESiVコンソーシアム」が連携し、お互いの連携と協調が最大限引き出せる「Keep-neutralスキーム」によって運営されているのが「集積Green-niX+研究ユニット」となるのです。

―「Green-niX」のネーミングは先生が発案したとお聞きしました。

「-niX」には、-nicsの語尾に関係を持ちつつ、「人材交流の拠点になり、人と人が“クロス”することで進むべき道が拓けるという思い」を込めています。

この思いの原点は、高専時代に自分たちの存在意義や将来について熱く議論した経験にあります。物事は1人だけでは何も成し遂げられません。半導体集積回路産業は、医歯薬とは異なり、1つのアイデアや特許だけでは世界は変わらないのです。異なる専門を持つ皆さんが協力し、総力として前進することが重要なのです。

そのためには、技術だけでなく、人と人とを巻き込む力が不可欠だと思います。これは日本だけでなく、海外の人々とも連携し、大きな波になっていく力になると考えています。

国際的な環境で、学生が活躍できる研究を

―現在の教育方針や、大学で力を入れている活動等について教えてください。

経済安全保障の課題はありますが、重要な半導体集積回路技術については、研究環境の充実だけでなく、学生による国際会議での発表や海外を含めたインターンシップ、海外からの研究者の招待などを進めています。卒業研究の時点から英語で論文をまとめてもらっていて、国際化に努めているところです。

-これからの半導体の未来については、いかがお考えですか。

非常に明るいですね。もうこれ以上ないくらいです。半導体の活用事例はますます増加していて、今後ますます半導体が使用される場面が増えると思います。半導体以外で半導体のような機能を実現できる代替品は今後簡単には生まれないのではないでしょうか。必要性が減少するシナリオは考えられません。

現在の半導体技術は非常に進化しています。約40年後の2060年、20歳の方が60歳になったときには、その機能が今の百万倍に進化していると思います。

-高専を目指す中学生や現役の高専生へメッセージをお願いします。

「今から2060年には電子機器の機能が百万倍になる世界を、皆さんに想像していただきたい」というのがメッセージですかね。その未来に向けてどのような価値を生み出すべきか、その想像を共有してほしいです。これからの数十年間は、半導体の世界が続くと思います。中学生や高専生たちは、半導体の世界に飛び込むことで、たくさんの仕事が待っているはずです。

2023年12月に九州工業大学で開催された半導体材料・デバイスフォーラムに参加した際、高専での半導体研究が熱いことを強く感じました。半導体関連の研究や学科に興味を持っている方には、ぜひ高専での学修をお勧めします。高専卒業生は大学や大学院で常に主導的な活躍をしており、大学院修了後も国際的に活躍していますね。

ただ、世界で活躍するには、博士の学位を取得した方が良いと私は考えています。必ず役に立ちますから、ぜひとも目指してもらいたいです。大学では金銭的な支援も用意していますので、自信を持って挑んでほしいと思います。

若林 整
Hitoshi Wakabayashi

  • 東京工業大学 科学技術創成研究院 集積Green-niX+研究ユニット(工学院電気電子系担当)教授

若林 整氏の写真

1989年 呉工業高等専門学校 電気情報工学科 卒業
1991年 徳島大学 工学部 卒業
1993年 東京工業大学大学院 修士課程 修了
1993年 NEC(株)勤務(MIT在籍:2000-2021年)
2006年 ソニー(株)勤務
2013年 東京工業大学 工学院電気電子系 教授
2023年7月より現職

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