府大高専ご卒業後に、豊橋技科大に編入し、現在は母校で教壇に立たれている杉浦公彦先生。学生時代のご経験から、常に相手の立場に立って授業や研究を進められています。高専時代の思い出や、教員を目指したきっかけ、学生への熱い思いなどを伺いました。
「アニメの世界を実現させたい!」と、府大高専に入学
―杉浦先生が、府大高専に進まれたきっかけを教えてください。
小さい頃から「宇宙戦艦ヤマト」が大好きで、「アニメの世界を実現させたい!」と思っていました。府大高専自体は中学3年まで全く知りませんでしたが、当時お付き合いをしていた彼女のお兄さんが高専出身だったこともあり、話を聞きに行って、「大学みたいな学校なんや!」と思った記憶があります。
進学校に行ける成績の学生たちが集まるわけですから、勉強も難しくて。授業の進むスピードは速いわ、先生の教え方は不親切だわ(笑)で、頭を殴られるほどの衝撃を受けました。特に「英語は授業で教えてもらうもの」とそれまで思っていたんですが、「自分で学ぼう!」と4年次から英会話教室に通い、モチベーションを維持していましたね。
物理は得意で、常に満点をとっていました。現実に見えているものと計算で出したものが、全く同じ現象になっていることが体感できた時が嬉しかったんですよね。
「パロディープロレス」で、文化祭を盛り上げた
―先生は高専ご卒業後、豊橋技科大に編入されているんですね。
「自分の研究したものを世の中に出していきたい!」という気持ちが強かったので、研究所に行きたかったんです。なので、大学院まで行こうと決めていました。
技科大では、「新日本製鐵」との共同研究で、「コークス燃焼」の研究をしました。実験装置を一から作り上げ、一人で研究を進めていきました。マスター2年の頃は、睡眠時間が毎日3時間しかなかったんですよ(笑)。共同研究でしたが、いくつか学会発表をすることが出来ました。
―技科大では、とある「同好会」を立ち上げたとか。
「技科大祭」という文化祭が毎年あったんですけど、学生はみんな真面目なので盛り上がりに欠けていたんですよね。「これは盛り上げないかん!」と、当時の同級生たちと「プロレス同好会」を立ち上げ、「パロディープロレス」を披露しました。
これが地方雑誌に取り上げられ、一躍有名になったんです。他の大学にも呼ばれるようになり、秋は2tトラックにリングを積んで巡業していました(笑)。もちろん私はレスラー役だったので、筋トレで体を作って、15人ほどいるレスラーと試合していましたね。
今は危険だということで同好会は廃止になりましたが、後輩たちが引き継いでくれ、十数年続いたんですよ。「技科大祭にお客さんが増えた」と運営側も喜んでくれました
現在のライフワークでもある「MCFC」との出会い
―その後、先生は企業で働かれているんですね。
「学年の中でも1番研究している!」と思っていましたし、当然、教授から「ドクターに行かないか」とお声掛けいただけるものだと思っていたんですよね。ただ、僕には声が掛らなくて。
「教授から誘われないとドクターに行けない」と思い込んでいたので、かなり拗ねてしまいました(笑)。それで企業に就職したんですが、後から教授に「杉浦くんはドクターに来てくれると思っていた」と言われて(笑)。めちゃくちゃショックでしたね。
1社目では、やりたかった研究が出来なかったため、「燃料電池」の研究をしている「三洋電機株式会社」に転職しました。そこで今のライフワークでもある「溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)」の研究を始めました。
これは火力発電所に代わる燃料電池なのですが、当時、会社には化学系出身の社員しかおらず、機械系は私だけだったんです。機械設計ができないと仕事にならないため、3年間は研究に明け暮れました。自分のアイデアで研究が進んでいくのは、楽しくて仕方なかったですね。
「圧を感じる」と言われるほどの、パワーを持った授業とは
-そこから母校での教員になったのは、なぜですか?
大学の時にお世話になっていた(故)大竹一友教授と、バイクでツーリングに行く機会があり、その時に「杉浦くんはアカデミアの道に戻るべきだ」と言われたんです。それで高専時代の恩師だった(故)津田先生に相談したところ、「府大高専で公募をかける」と聞いたんです。
ドクターの学位が取れたのは、実は辞めた「三洋電機」との共同研究がきっかけです(笑)。燃料電池の研究は莫大な設備とお金がかかるので、「大阪工業技術研究所(現在の産業技術総合研究所)」にも協力いただき、無事学位を取ることができました。
-先生が授業中に意識されていることは、なんですか。
学生時代、理解できない伝え方をする先生の授業が嫌だったんです(笑)。その経験があり、基本的に「双方向のコミュニケーションで授業をやりたい」と思っています。でも、今の学生は恥ずかしいのか間違いたくないのか、喋らないんですよね。
話を振った後の学生の回答に合わせて、「反応無し」「いいね!」「しょーもな(笑)」と話しながら授業をするのですが、学生は私の真似をよくしていますね(笑)。
「分からないなら、分からないと言えよ?何回でも教えるから」と学生には伝えています。一方的に話しても学生の頭には残らないんですよね。常に学生の立場に立って授業をすることを大切にしています。
また授業に卒業生を呼び、仕事で役立っていることを伝えてもらったりもしています。「ほら、俺が言った通り、授業の知識が仕事に使われてるやろ?」と言ったら、学生のモチベーションも上がってくるので。
反応のない学生にも、どんどん当てますし、自己主張してもらえるよう工夫しているので、「先生の授業は圧を感じる」と学生によく言われます(笑)。「これがエネルギーや!」と言って笑い合っていますね(笑)。
大好きな「宇宙戦艦ヤマト」に通ずる研究とは
―先生の研究を教えてください。
今は「高機能ダイレクトカーボン燃料電池(HF-DCFC)」の研究を進めています。イメージは「バックトゥザフューチャーのデロリアン」ですね。「デロリアン」という、ゴミを入れたら走る車があるんですけど、これが実現すればCO2は排出しないし、ゴミやカラスの問題も解決しますよね。何より、ごみから発電するので国産エネルギーなんですよ!
MCFCは基本「平板型」なんですが、平板型だとゴミを送れないんです。なので、円筒型のMCFC(世界でもこれをやっている人は二人しかいないんですけどね..(笑))を作り、発電できるところまで開発を進めました。今は「ゴミを入れて検証」の段階です。
学生には、「君の研究なんだから、君のアイデアでどんどんやれ!」と伝えています。学生のアイデアで研究が早くなった部分もあります。もちろん8割は失敗なんですけど、「エンジニアには失敗のコストが必要だ!」と、失敗からどんどん学んでもらっていますね。正直,そのお金を用意するのは大変なんですけどね..(苦笑)
別の研究では「CO2分離膜」の研究も進めているので、こちらも形にしたいです。天然ガスから水素を作るときにCO2が出るんですけど、それを分離させることは実はもうできているんですよね。
次は大気中のCO2を分離させたいんです。大気中のCO2って400ppmほどしかないので、これを分離させるとなったら大変です。これが実現できれば地球温暖化にも役立ちますし、どちらの研究も「結果的に地球を救うことになる」という意味では、「宇宙戦艦ヤマトのコスモクリーナー」を作りたいという思いがずっと心の中にあるんですよ。
企業に就職した学生と、定期的に面談をする理由とは
―学生へのメッセージをお願いします。
「就職後の3年保証」と言って、会社に就職した学生を定期的に面談しているんです。面談の時に愚痴を言わせて、状態が悪かったら人事に報告します。「せっかく優秀な学生を送り込んだのに、しょーもないことで辞めさせないで!」と人事には伝えていますね。
人事との信頼関係も出来ていますし、卒業生からの話で、今の会社の状況も分かる。だから学生の進路相談も明確にアドバイスできるんです。
学生に期待することとしては、もっと自己主張をしてほしいですね。「やりたいと思うなら一歩前に出てこい!一歩前に出たら俺が捕まえるから、一緒に研究をやろう!」と常に伝えています。積極性がないと何も始まらないですからね。1年生から研究室に来てくれる、そんな学生が増えてくれたらいいなと思います。
杉浦 公彦氏
Kimihiko Sugiura
- 大阪府立大学工業高等専門学校 総合工学システム学科 教授
1985年 大阪府立工業高等専門学校 機械工学科 卒業
1987年 豊橋技術科学大学 工学部 エネルギー工学課程 卒業
1989年 豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 エネルギー工学専攻 修了
1989年 株式会社鴻池組 中央研究所 研究員
1989年~1992年 三洋電機株式会社 機能材料研究所 研究員
1992年~1999年 大阪府立大学工業高等専門学校 講師
1999年~2000年 通産省工技院 大阪工業技術研究所 客員研究員
2000年6月 豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 環境・生命工学専攻 博士(工学)授与
「溶融炭酸塩型燃料電池の小型化に資する熱流体・反応特性の解明に関する研究」
1999年~2007年 大阪府立工業高等専門学校 助教授
2007年~2008年 (独)産業技術総合研究所 客員研究員
2008年~現在 大阪府立大学工業高等専門学校 教授
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