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未完成ノートを使った、大好評のオンライン授業! 高専卒業から30年が経過した現在地

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沼津高専を卒業後、大阪大学大学院・東京大学大学院に進まれ、今は大阪工業大学にて教壇に立たれている牛田俊先生。高専への進学は、お兄様の影響だったそうです。オンライン授業が学生から大好評の牛田先生に、高専時代の思い出や、研究や授業のお話を伺いました。

「10年後に自分のいる場所が、自分のやりたかったこと」

―牛田先生が沼津高専に進学されたきっかけを教えてください。

中学校は山梨県だったのですが、仲が良かった1つ上の兄が沼津高専に通っていたこともあり、高専のことはよく話に聞いていましたので、自然と高専への進学を考えるようになりました。

小学校の卒業アルバムでの牛田先生
▲小学校6年生の夏休みまでは北海道・札幌の小学校に在学。同校の卒業アルバムより

また、80年代にパソコンを触ることができたという非常にラッキーな環境だったこともあります。当時、『マイコンBASICマガジン』という雑誌があり、プログラムをパソコンに打ち込んでいくと、ゲームをつくることができました。小学生の頃からこれに触れていたことは良かったですね。

―沼津高専に進学されてみて、いかがでしたか。

過去の経験もあり、アセンブリ言語の勉強なども楽しくできましたね。プログラムを使えばロボットをつくるときにも非常に役立つことを学びましたし、現在の専門分野でもある制御工学も3年生のときに勉強しました。

卒業研究では、流体力学の舟田敏雄先生の研究室に配属されました。舟田先生の流体力学は非線形の微分方程式から始まり、理論研究の面白さと厳しさを教わりましたね。私の具体的な研究内容としては、「ナビエ-ストークス方程式」という、大学の必修科目で習う非線形の流体の方程式を、手で解くためにはどうすればいいかという理論の研究です。

舟田先生は、一冊の工学書を学生が数人で分担して読む「輪講」という方法で、厳しく鍛えてくださいました。ただ、先生と1対1で英語の論文を読んだとき、とても簡単な英語を私が訳し間違えて、大笑いされたことも覚えています(笑)

-高専時代は寮生活をされていたと伺っています。

沼津高専は2年生まで全寮制でしたので、上下関係も厳しく教わりました。当時は実家に帰るのが待ち遠しかったですね(笑) 厳しい規律はありましたが、友達と一緒に生活ができましたし、高専での生活は楽しかったですよ。

高専2年次の修学旅行で広島・原爆ドームへ
▲高専2年次の修学旅行で広島・原爆ドームへ

部活はサッカー部に入りましたし、入学当時に第1回大会が沼津高専で開催された高専ロボコンにも3年次に出場しました。その経験が今に生きていますね。

-その後、進学された大学・大学院で、恩師に出会われたそうですね。

当時大阪大学にいらっしゃり、卒業論文から博士論文までご指導をいただいた木村英紀先生や、学位取得のきっかけを与えてくださった山本茂先生(現・金沢大学 融合研究域 融合科学系 教授)との出会いが、大切な宝物です。

実は大学3年生の秋に研究室選びを迷っていた時期があったのですが、高専4年生頃に編入学先を考えていたとき東京大学の先生に「大学や研究室選びでこだわる必要は全くない。研究を続けていって、10年後に自分のいる場所が自分のやりたかったことなんだよ」とアドバイスいただいたことがあります。その言葉に後押しされて、世界的に著名な木村英紀先生のご指導を受け、制御理論の研究をスタートさせました。

ただ、私が研究室に配属されたタイミングで、木村先生が違うキャンパスに移ってしまったんです(笑) そこで、大学院は木村先生の移り先である豊中キャンパスに行きたくて、受験をしました。

木村先生の似顔絵(木村研究室OBの大池さん作)
▲木村先生の似顔絵(木村研究室OBの大池さん作)

そして、無事に卒業研究も済ませて、引っ越しも終わらせて、論文を提出しに行ったら、木村先生から「今度は東京大学に移る。卒研に集中している牛田君(というsystem←制御工学の専門用語)にdisturbance(←外乱という専門用語。制御を邪魔する要因のこと)を与えてはいけないので言わなかった」と言われて(笑) そこから山本先生にご指導いただくようになりました。

-山本先生との思い出はありますか。

修士1年生の冬、山本先生の博士論文の公聴会に参加したときの思い出があります。それは、人生の分岐点になりました。実はメーカーへの就職を考えていたのですが、公聴会での山本先生が発表された姿に感銘を受けて、その日に博士課程への進学を決めたんです(笑)

とにかく公聴会での山本先生がかっこよかったのを覚えています。当時、大学の教員になるつもりがあったわけではなく、博士号を取得して研究者になれば、山本先生のような研究発表ができるかなと思ったんです。

木村先生も山本先生の主査として来られていたので、その旨を話したところ、「東京大学に来てもいい」とお話をいただき、修士2年生から東京大学の研究室に行きました。

東京大学の博士課程1年次、先輩の学位記授与式の日に研究室にて
▲東京大学の博士課程1年次、先輩の学位記授与式の日に研究室にて
木村研究室のみなさんで恒例の富士登山(1998年)
▲木村研究室のみなさんで恒例の富士登山(1998年)

学生に大好評のオンライン授業

―授業での工夫があれば教えてください。

数年前からオンライン授業になったのですが、私は木村先生の方法を真似した板書型の授業を、オンライン上でもやりたかったんです。そのときに様々なことを工夫したのですが、学生からの評価が非常に高く、大阪工業大学内の全教員が見られるFD(※)セミナーで取り上げられました。

※Faculty Developmentの略。大学組織全体で教育方法や内容の改善に取り組むこと

牛田先生のオンライン授業を紹介したFDセミナーについてのニュース「FD NEWS」
▲牛田先生のオンライン授業を紹介したFDセミナーについてのニュース「FD NEWS」

それは「未完成ノートを使ったオンライン授業」なのですが、いわゆる反転授業に近いです。まず、授業の最初の30分間は、私が事前につくった動画を見ながら、学生がノートの7割ほどをつくるんですね。

後半の時間はストリーミング授業で、カメラを私の手元のノートに切り替えて、授業の説明をしながら、予め7割書き込んでいるノートに、万年筆(のインクがネット越しで見やすいとの学生の意見により導入)で書きたしながら解説をします。これによって、学生はほとんどノートを取らなくていいので、私の話に集中できるんです。

さらに特徴がもうひとつあり、学生からのコメントがニコニコ動画のような形で画面に流れてくるんです(笑) 「どうしてそこはそうなるんですか」「先生、計算間違えてます」といったコメントをリアルタイムで拾うことができるんですよ。

授業自体は一方通行なのですが、このコメント機能があるおかげで、対面授業よりも双方向授業ができています。コロナ禍でのオンライン授業では、常に学生の声に耳を傾け、学生の気持ちを推察することを心がけました。

たとえば、コロナ禍1年目の2020年度前期の1年生の授業では、新入生の(他の科目や大学閉鎖に対する)不安の声が私の授業に殺到したので、数学・物理・英語の先生方にお伝えしに何度も足を運びました。さらに、新入生が初めてまともに登学できたのが9月の前期成績発表日でしたので、オンライン交流会、対面交流会、先輩による課外活動紹介等を企画して新入生を迎えました。

―ご研究についてはいかがですか。

現在は、視覚を用いたロボット制御系や、人工知能的な観点から「ロボットによる人の動作の模倣」の研究などをテーマにして、人と同じ高度な知能と機能をロボットで実現する研究に取り組んでいます。

人の体の中の仕組みが分かればロボットに取り入れることができるので、まずは人の運動制御や記憶のメカニズムなどを研究しています。「ドラえもんのような賢いロボットには、高度な制御や知能が必要になる。どうやって実現されているのか考えてみよう」という研究室です。

「ものづくりセンター長」としての活動

―大阪工業大学は、課外活動も盛んらしいですね。

学生たちには課外活動を通じて、エンジニアとして必要とされる基礎的能力を高めていってほしいと思っています。2008年に「ものづくりセンター(通称:モノラボ)」という、大規模な実習工場が利用できるようになりました。今は「ものづくりセンター長」として、安全性の確保や情報発信に力を入れています。

大阪工業大学ものづくりセンターのWebサイトより、ものづくりセンターの紹介ページ
▲大阪工業大学ものづくりセンターのWebサイトより、ものづくりセンターの紹介ページ

ものづくりセンターでは、モノラボプロジェクトという飛行機やロボットや車をつくる課外活動を運営しています。ありがたいことに、鳥人間コンテストでは昨年が全国第2位、NHK学生ロボコンでは2回の全国ベスト4を含めてアイデア賞等の受賞多数、学生フォーミュラでは日本自動車工業会会長賞等6回受賞、ソーラーカーレース鈴鹿ではクラス優勝3回を含む上位入賞を果たしており、全ての競技において強豪校として知られるようになりました。今後も課外活動を通じて、学生の人間力を伸ばしていきたいですね。

―現役の高専生にメッセージをお願いします。

私自身、高専での学びや課外活動の経験が、50歳になった現在でも自分の根底にあります。高専生は高い吸収力をもつ多感な年頃に、受験戦争にさらされることなく、興味をもった活動や研究に打ち込むことが出来ますよね。高専には、短期間で高い社会人基礎力を身に着けるシステムが備わっていると思います。

また、教授や准教授という先生方が、中学校を卒業したばかりの1年次から非常にレベルの高い専門科目を教えてくれるのもメリットです。加えて、国語力と英語力は意識して身に付けておくと良いと思います。

高専は15歳のときに進路を決めるシステムですので、決めた進路が合わなかった学生もいるのではないでしょうか。高専はエンジニアを育成する学校ですが、10年後にミュージシャンになっていても、それはそれで良いです(笑) 進路は自由に変えられますので、枠にとらわれずに過ごしてほしいですね。

牛田 俊
Shun Ushida

  • 大阪工業大学 工学部 機械工学科 教授
    ものづくりセンター長

牛田 俊氏の写真

1993年 沼津工業高等専門学校 電子制御工学科 卒業
1995年 大阪大学 工学部 電子制御機械工学科 卒業
1997年 大阪大学大学院 基礎工学研究科 制御工学分野 修士課程 修了
2001年 東京大学大学院 工学系研究科 計数工学専攻 博士課程 修了
2001~2004年 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻 助手
2004~2008年 東北大学大学院 情報科学研究科 助教
2008~2012年 大阪工業大学 工学部 機械工学科 講師
2012~2018年 大阪工業大学 工学部 機械工学科 准教授
2018年より現職
2023年 同大学 ものづくりセンター長

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