インタビュー

まずは晶析研究の拠点に、いつかは文化財研究を―。自身の夢にも、学生への指導にも全力で向かう

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実験レポートの添削や研究発表会への積極的な参加など、学生指導に熱心な群馬工業高等専門学校の工藤翔慈先生。その背景には、自身の研究テーマに対する責任感や学生たちへの希望が込められています。そんな工藤先生の教育方針や研究内容、そして趣味の話まで、さまざまな角度から話を伺いました。

中学生の頃から仏像が好き

-先生は仏像がお好きだと聞きました。

中学生の頃からずっと仏像が好きで、高専に通っていた頃、歴史好きな先生との出会いをきっかけに、「保存科学」という分野を知ったんです。直接ではありませんが、それが今の専攻である「結晶化現象(特に晶析操作)」を研究するヒントになったんですよね。

右に赤いシャツに黒のベストを着た、学生時代の工藤先生。コンサートでの計3名でのショット。
東京高専時代の文化祭で立ち上げた「クラシックコンサート」の創立メンバー。(右が工藤先生)

本当は文化財に関わる研究をしたかったんです。科学の分野で文化財に関わる研究は何かというと、「X線」を使う調査、例えば「X線CT」で透過して仏像を調査する手法です。でも、そういった分野は「文化財保護」が主な目的で、その道一本で食べていこうと思うと職がそれほどありません。

そこで、まずは生計を立てていける道は何だろうと考え、そのうえでいつか仏像や文化財の調査に役立つ研究は何か、と考えたときに重なったのが、今の研究テーマである「晶析操作」だったんです。

晶析操作とは、身の回りでいうと「薬」や「食塩」「砂糖」などつくるときにも使われる技術です。薬の開発というと薬理成分の合成のイメージが強いですが、錠剤などに固めるための粒子群を作製する工程もあり、晶析技術はその際に使われる技術です。せっかく大学生時代から前職まで培ってきた経緯があるので、まずは群馬の晶析研究の拠点として展開することを考えています。

晶析の研究機器装置。
大学時代の研究の実験装置

実験レポートは真っ赤にして返す

-高専での授業や教育方針については、いかがですか?

周りからは「教育熱心だ」と言われます。でも、仕方がないんですよね。私の研究分野では後継者が少なく、若手を育てないといけません。それでちょっと焦っているんだと思います。学生からすると迷惑かもしれませんが(笑)。

たとえば、実験レポートは真っ赤にして返します。どんなに頑張っても一人のレポートを見るのに20分はかかるので、それを40人見ようと思うと一日がかりです。私自身、学生時代にそうやって先生方から指導を受けていたので、学生たちにもそれを返してあげたいと思っています。

工藤先生が学生時代、先生から返されたレポート。
赤文字でいくつも修正が入っている。
工藤先生が学生の時に、真っ赤に直されたレポート

高専の学生たちはすごく素直なので、レポートを受け取った最初は「わあ。真っ赤っかだ!」と驚いていましたが、その後はしっかり書き直してくれます。私の指示が悪いと、良いレポートにはなりませんから、添削をするのにも真剣勝負です。

-研究室の方針は、どのようなものですか?

2021年3月の工藤先生の研究室メンバーとともに、集合写真。
研究室メンバー(2021年3月学会発表(オンライン)にて)

各自の研究テーマについては、月に一回報告をしてもらっています。ただ漠然と「研究をしましょう」と言っても、最初は何をして良いか分からない。だから、「今月はここまでやりました。次はここまでやります」と定期報告の場をつくることで、研究を進めるサポートをしています。

あとは、個別に話すことですね。これは私の先生が教えてくれたことなんですが、週に一度、ゼミの学生と10~20分ほど一対一でディスカッションをするんです。私が「研究室運営を円滑にするには、どうしたら良いだろう」と悩んでいるときに教えてもらった方法です。学生たちが今、どういう状況にいるかがよく分かります。なかには「監視されている」と感じている学生もいるかもしれませんが(笑)。

私の研究室で一年過ごした学生は、「計画的に進められるからありがたい」という子もいますし、新しく入ってくる子は「工藤先生のゼミは、絶対にやらざるを得ない状況なんですよね」と、期待とプレッシャーを同時に感じている子もいます(笑)。

-本当に、教育熱心ですね。

高専生の良いところは、とにかく素直で頑張るところです。高いポテンシャルを持っているので、教師としてはどれだけ手間暇をかけて、その可能性を引き出せるかどうかが大事だと思っています。

彼らには、なるべく発表の機会を与えたいと考えているんです。人前でプレゼンをするトレーニングをして欲しいという意味もありますが、高専の中だけではなく、外の世界も知って欲しい。たとえば大学生の研究発表では、高専生の何倍ものデータを取っています。「学会で発表するときは、これくらいデータを取るものだ」という基準を知っていて欲しいな、と。

高専は学校でもあり、研究機関でもあります。高専に通う学生たちは授業だけでもすごく忙しいので研究に割ける時間が限られていますが、そのなかでもなんとか頑張って欲しい。
2021年3月には、オンラインの「研究発表会」で私の研究室に所属する学生が優秀賞をいただきました。24件あるうち、他は全部、大学の学部3年生。高専生で受賞したのはその学生だけで、とても誇らしかったですね。

ノートパソコンを間に、左右で学生とディスカッションする様子。
学生との研究ディスカッション

諦められない文化財研究の夢

-趣味についてもう少しお聞かせください。先生が仏像に興味を持ったきっかけは?

私には兄がいるんですが、その兄の顔が三十三間堂の千手観音に似ていたんです(笑)。それでなんとなく親しみが湧いて。本格的に仏像を見に行くようになったのは中学生のときです。「仏像の見方」の本を買って、鎌倉へ行って見てまわりました。周りにはそんな趣味を持つ友達がいませんでしたが、中学校の警備員さんも仏像好きだったので、意気投合してよく語り合っていましたね。

その頃、特に好きだったのは西大寺の「愛染明王」でした。あとは、唐招提寺の本当に手が1000本(現数は953本)ある「千手観音」ですね。

お祝いの席にて。右に、仏像の絵を手にして収まる工藤先生。
2014年 奈良で開催された晶析技術の国際会議で受賞した時の写真。手にしているのは副賞(奈良唐招提寺の千手観音の写真。この副賞を誰よりも喜んで受け取っていたそう)

仏像は見るのも好きですが、描くのも好きです。次はいよいよ彫ってみたいと思って、彫刻刀と木を買いました。まずは「地紋」という台座にある紋様を彫る練習をしています。仏像本体を彫るまでには、まだまだ道のりが長いですね(笑)

白いキャンバスに鉛筆で描かれた仏像。
先生の描いた仏像①(瀧山寺の聖観音(運慶作)がモデル)

-今後の目標は?

5年後くらいには文化財科学研究のテーマも一つくらい入れて、文化財科学研究に携われるといいな、と思っています。今は趣味の範囲で「文化財保存修復学会」に参加しているんですが、できれば研究に関わりたい。たとえば、仏像をX線CTスキャンで見てみると、どうやって「木取り」をしているかが見えてくる。「木目を意識して彫られている」とか、隠れていた内側まで見えるんです。

仏像は造形美も魅力の一つですが、そういったつくり手の背景に触れると、「精神性の高さ」というか、こうして鎌倉時代から令和の時代に至るまでには、いろんな人の手によって守られてきたんだな、と感慨深くなるんです。仏像の話になると止まらないので、今日はこのあたりにしましょうか(笑)。

仏像の上半身が鉛筆で丁寧に描かれている。
先生の描いた仏像②(中宮寺の弥勒菩薩)

工藤 翔慈
Shoji Kudo

  • 群馬工業高等専門学校 物質工学科 准教授

2009年 東京工業高等専門学校物質工学科 卒業
2011年 東京農工大学 工学部 化学システム工学科卒業
2012年 東京農工大学 大学院 生物システム応用科学府 生物システム応用科学専攻 博士前期課程(修士号取得)
2014年 東京農工大学 大学院 工学府 応用化学専攻 博士後期課程((博士(工学)取得))
2013年4月-2014年3月 学術振興会特別研究員DC2
2014年4月-2018年3月 東京農工大学大学院工学研究院 助教
2018年4月-2021年3月 群馬工業高等専門学校物質工学科 助教
2021年4月-      同 准教授

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