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「教員も恥をかこう」を合言葉に実践する国際交流活動と、プラナリア研究

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科学を専門に学ぶ学科の立ち上げメンバーとして科学教育に力を注ぐ、津山高専総合理工学科の前澤孝信先生。学生の興味を刺激するプラナリアの研究のほか、国際交流活動にも意欲的に取り組む前澤先生の、人となりにフォーカスします。

地域に根差した教育の場で、科学を学べる学科を創設

-津山高専に赴任されたきっかけは?

大学時代の研究室にて集合写真。
弘前大学時代の写真(左から2番目が前澤先生)

津山高専赴任前は、弘前大学で研究をしていました。そこでのプロジェクトに区切りがつくタイミングで、次に研究を続けられる場所を探していたんです。そんななか、当時弘前大でお世話になっていた先生のお父様が釧路高専の教員をしていたという話を聞き、高専教員という道を知ったんです。それまでは高専についてほとんど知らずにいたので、その先生からいろいろと高専について教えてもらいましたね。教員という立場は高専に来てはじめてのことでしたが、津山高専の学生は素直で純粋な学生が多く、吸収力も良いので教え甲斐があります。

これまで慶應義塾大学・弘前大学・そして津山高専と点々としてきていますが、その土地ごとの良さがあって、それぞれに楽しんで生活してきました。津山に来て8年目になりますが、適度な田舎感というか、いろいろなものがコンパクトにまとまった街という感じで、とても暮らしやすいです。また、研究や教育面でも、何かしらの事業や取り組みを行うと、街への波及や影響が目に見えて分かるので、地域に貢献しているなという実感が持ちやすいんです。それがやりがいにも繋がっていると思います。

-総合理工学科先進科学系の創設メンバーと伺いました。

学生3名が熱心に顕微鏡をのぞいている。それをうしろでサポートをする前澤先生。
先進科学系、生物の実験実習

ちょうど私の赴任が決まったタイミングで改組の議論があったんです。高専内部での調整などあって、赴任して3年後に改組が行われたんですが、それまでに津山高専としては具体的に何をどうしていこうかという議論があり、そのひとつとして科学を専門に学ぶ学科の創設がありました。実際、高専に入学する学生たちは、ただ「理科が好き」という理由で来る子が一定数いるんです。それなのに、中学を卒業してすぐに、機械系か電気系が選べと言われても難しいのが正直なところ。生物や化学が好きという子もいるので、そうした学生を広くカバーする意味で、生物や化学を専門に扱うコースを提案しました。私の提案がどこまで影響したかは分かりませんが、結果として先進科学系が創設されました。特に女子学生の取り込みには一役買ったと思います。創設して5年が経ちますが、女子学生の数は倍に増えました。

学生と一緒に楽しく学ぶ、プラナリア研究

-ご研究内容について教えてください。

黒い目が2つ、ちょこんとある、縦に長い物体、プラナリアの全身。
プラナリアの写真

慶應義塾大学時代から、プラナリアの研究を続けています。「切っても切ってもプラナリア」という有名な本があるんですが、ご存じですか? タイトルの通り、カミソリで切っても1週間くらいで再生する生物なんですが、この生殖様式についての研究を行っています。

大学時代の恩師の研究室では、ヒトデを使った受精の研究やホヤの免疫における自己非自己認識の研究など、さまざまな動物を扱っていたんですが、そのなかでもプラナリアは「一番難しいテーマだよ」と先生に言われたので、選びました。難しいって言われると挑戦してみたくなっちゃうんですよね(笑)。

プラナリアは、夏場は分裂・再生して子孫を残す、いわゆる無性生殖をするんですが、冬場になると雌雄同体の生殖器官を発達させて、交尾をして卵を産むんです。そういった生殖転換をする生き物なんですが、その仕組みを研究しています。見た目が1㎝くらいの茶色い生物で、クリっとした目が付いていて、学生たちは「かわいい!」と言って楽しんで実験などに取り組んでいますよ(笑)。3年生の研究活動が週に1回あって、その際に岡山県の奥津という温泉地にある河川に、研究用のプラナリアを採取しに行くこともありました。高専生の良さって、こういうフットワークの軽さ、活発さみたいなところにもあるのかなと思います。

教員もプレーヤーとして参画する国際交流

-国際交流活動にも尽力されていると伺いました。

薄い水色のポロシャツに、胸元に華やかなオレンジ色のお花を挿してスピーチをする前澤先生。
タイ・ブリラム県のプリンセス・チュラボーン・サイエンス・ハイスクールにて

同じ学系教員の廣木一亮先生に誘われて、タイ・ブリラム県のプリンセス・チュラボーン・サイエンス・ハイスクールとの交流活動を続けています。私が津山に赴任した初年度から取り組んでいる活動のひとつです。現在は、高専機構本部が中心となった留学生の受け入れなどにも活動を広げていますが、当初は学生と一緒に現地を訪れて実験教室を開くとか、学生に研究発表をしてもらうなどした活動をメインに行っていました。国際交流が始まったのが2013年からで、私は翌年の2014年から参画しています。

留学生の受け入れは2年前くらいから行っていて、現在1年生と2年生のクラスにタイから来た学生が在籍しています。1年生から津山高専の学生と触れ合って寮生活を送っていると、仲間意識みたいな絆が生まれやすいみたいで、割とすんなり溶け込んでいる印象ですね。ある程度日本語が喋れる状態で来日するので、コミュニケーションが取りやすく、日本での生活を楽しんでいるようです。

もともとこの留学生のプロジェクトをやるにあたって、タイでは工学系の人材が不足しているという背景がありました。タイで理系といったら、エリートはみんな医者を目指すんです。ですので工学系の人材を育成し、タイで活躍してもらう、日本企業に勤めたとしても将来的にタイの工場で工場長を目指すとか、そういうキャリアを積んでくれれば、双方にとっていいんじゃないかなと思っています。

-タイの学生との交流などを通して、学生の海外志向に変化は出てきましたか?

タイにて、象の鼻先に乗る前澤先生。とても笑顔。
タイ・スリン象センターにて

国際交流に関してはほかにも、東南アジアの国々へのインターンシップなども行っているんですが、そうした取り組みに参加した学生たちの英語力は確実に伸びていますね。とくに、タイの交流校は9割が女子で、津山の学生が訪れると、めちゃくちゃモテる(笑)。LINEの連絡先を交換するなどして100人規模で友達ができるので、自然と英語での文章力、会話力が身に付いていくんですよね。

また私たち教員側は単なる引率ではなく、プレーヤーとして英語で1時間講演をするなどして、拙いジャパニーズイングリッシュでもなんとかできるんだよってところ学生たちに見せています。「教員も恥をかこう」ということに重きを置いて、背中でみせるような講演をしているので、それが伝わっていれば御の字かなと思います。

前澤 孝信
Takanobu Maezawa

  • 津山工業高等専門学校 総合理工学科 先進科学系 准教授

前澤 孝信氏の写真

2003年 慶應義塾大学 理工学部 化学科 卒業
2005年 慶應義塾大学大学院 理工学研究科 基礎理工学専攻 修士課程 修了
2009年 総合研究大学院大学 生命科学研究科 基礎生物学専攻 博士課程 単位取得退学、同年 慶應義塾大学 理工学部 生命情報学科 特任助教、同年 総合研究大学院大学 博士課程 修了
2010年 慶應義塾大学 医学部 総合医科学研究センター 特任助教
2012年 弘前大学 農学生命科学部 研究機関研究員
2013年 津山工業高等専門学校 一般科目 講師
2016年 津山工業高等専門学校 一般科目 准教授、同年 津山工業高等専門学校 総合理工学科 先進科学系 准教授

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アルバイト、闘病、フリーランス、転職——人生のさまざまな場面で道を切り拓く、高専で培った知識と技術

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