高専教員教員

生命の源「水」を守る技術者として、自分たちにとって当たり前の今を未来へ繋いでいく

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生命の源「水」を守る技術者として、自分たちにとって当たり前の今を未来へ繋いでいくのサムネイル画像

高専生の頃から現在にいたるまで、水処理の研究をずっと続けてきた徳山高専の段下剛志先生。「自分の未来を賭けてみたいと思うものに出会えた」と、これまでの研究内容について話してくださっています。そんな段下先生が教員の道に進むきっかけとは、何だったのでしょうか。

「自分の身近な暮らし」を守ることに興味があった

―なぜ高校進学時に高専を選んだのでしょうか?

中学3年生になってから複数の公立高校を見学したのですが、自分の中で決め手に欠けている気がして、迷っていました。通学が楽だから、家から一番近い公立高校を目標にしようかな、と考えていた時期もありましたね。

そして秋になり、いよいよ第一志望を決めなければというときに、当時の担任の先生から高専の見学を勧められたんです。実はそのときに初めて「高専」の存在を知りました。実際に高専に行き、高専の仕組みを学び、体験授業も受けてみて、高校とはまったく違うことに魅力を感じ、「ここだ!」とひらめきました。

最初は家から近い高校に通いたいと思っていた私が、最後に選んだのはまさかの片道10kmほどある岐阜工業高等専門学校。雨の日も含め、ほぼ毎日、自転車で40分以上かけて通学しました。

―環境都市工学科を選んだ理由は何だったのでしょうか?

「環境」と言葉に惹かれたという理由が一番大きかったです。私は小学生の頃から美術系の科目が特に苦手だったこともあり、正直、徳山高専のように「土木建築工学科」という名前だったら、他の学科を選んでいたかもしれません(笑)

ご友人におんぶされる段下先生
▲高専5年生のときに、徳山ダム(岐阜県)の現場見学へ。このときは自分が“徳山”高専に着任することになるとは、夢にも思っていませんでした

その当時は「将来は○○したい!」という明確な意思はまだありませんでした。ただ、もともと山とか川とか自然が好きだったということもあり、それを守りたいということをぼんやりと考えていましたね。あの頃の自分にとっては、そういった思いが「環境」という言葉とマッチしていました。

―進路が見えたのはいつ頃でしたか?

高専4年生の春休みです。それまでは勉強や部活、友人と過ごすプライベートなど楽しいものや大変なものが目の前にたくさんあって、将来を意識したことはほぼありませんでした。

しかし、春休みになって、母の実家に遊びにいったときに、改めて、将来は何をしたいのか真剣に考えてみたんです。そのときに浮かんできたことの1つに、高専3年生で受けた角野先生(月刊高専No.194)が担当されていた環境工学という授業がありました。

この授業では、地球をとりまく環境問題のことや、汚れた水を微生物のチカラを使って浄化する方法について学びました。水って“生命の源”って言われることもありますよね。それを守っていく技術者って、すごくかっこいいなと思って。

このときはじめて、「生命の源である水を守っていく技術者になりたい」という、自分の未来を賭けてみようと思える、自分が進むべき1つの道が見えました。そして、この思いが専攻科への進学を決め、3年間、角野先生の下で研究を行うことに繋がっていきました。

田んぼが広がるのどかな風景
▲特段何かがあるわけでもない日常の風景ですが、ここが段下先生の進むべき道を決めた特別な場所です

―その際、就職は考えなかったのでしょうか?

就職したいと思っていた気持ちもあったのですが、私が就職したいと思っていたところは高専卒での就職は難しいという現実を知ったこともあり、進学にしました。

そのときの言い訳ではないのですが、「ここで社会人となって働き始めるか」もしくは「2年長く学生を続けるか」の選択ができるとき、何か目的があって後者を選べば、何十年と続く人生を長い目でみれば、絶対にプラスになることのほうが多いと考えるようにしたんです。実際に私は、専攻科時代に就職や研究に繋がるような資格試験勉強にも取り組むと決め、2年かけて「公害防止管理者(水質関係第1種)」の資格を取得しました。

専攻科時代の2年間は、自身の研究だけでなく、TAとして、学科の後輩に実験や勉強を教える機会も多くありました。その中で、自分が教えることで、後輩に伝わる・後輩ができるようになるといったことにやりがいを感じるようにもなり、本科の5年間とはひと味違う充実した時間を過ごせました。

大阪のグリコの看板の前で
▲専攻科生のときに、大阪へ(後列左から2人目:角野先生。3人目:段下先生)

大学院進学後に思い出した、高専生時代のこと

―その後、教員にいたるまでには、どんな道のりがあったのでしょうか?

角野先生からの勧めもあり、専攻科修了後は大学院でさらに研究を極めようと、長岡技術科学大学に進学し、水処理の分野で素晴らしい実績を築きあげている山口隆司先生の研究室に所属しました。最初は、自分がここでやっていけるかとても不安でしたが、同級生や先輩にも恵まれた環境の中で研究を進めることができました。

実は修士のときに就活をした時期もあったのですが、自分が企業で働くイメージをうまく抱けずに、というよりも本当に自分がやりたいことは何だろうと思いながら就活をしていたような気がします。

もう一度立ち止まって、これまでとこれからの人生のことを考えたとき、7年間という高専生活でできたたくさんの思い出と共に浮かんできたのは、専攻科生のときに感じた教えること、伝わることへのやりがい。「やっぱり高専の教員になりたい」と、一気に方針転換しました。

それは修士2年になった4月のこと。そんなタイミングでの決断であったのにも関わらず、山口先生は私の決断に理解を示して下さり、博士課程に進むための準備に関して、急ピッチでご指導をしていただきました。

無事に博士課程に進学してからは、角野先生や山口先生と共同で研究をされている国立環境研究所の珠坪一晃先生に実質的なご指導をしていただきながら、研究を進めていきました。そのご縁で、バンコクで実施していた下水処理に関するプロジェクトにも参加させていただきました。

タイの方と話をする段下先生
▲博士課程のころ、タイで実施している研究プロジェクトにも参加(左から1人目:段下先生。2人目:珠坪先生)

現地の大学の先生・学生とともに、下水処理場に設置した装置の性能評価を実施できたことは良い思い出です。珠坪先生には国の研究機関、そして海外というフィールドで、研究の楽しさや難しさを教えて頂き、博士課程の3年間は高専生活とは全く違った充実した日々を過ごせました。

―博士課程修了後、すぐに徳山高専に着任されたのですか?

こればかりは本当に「タイミングに恵まれた」としか言えないのですが、博士課程3年次の11月頃に、徳山高専の土木建築工学科で私の研究分野にピッタリの公募が出たことを、面識のあった他高専の先生から教えていただいたんです。今振り返ってみても、私は人との出会いとタイミングにとても恵まれてここまでこれたと感じています。

「段下研究室」と書かれた部屋の前で写真に写る段下先生
▲徳山高専の教員に着任されたころの段下先生

―実際に教員になってみていかがですか?

高専の教員になれて本当によかった。そのひと言ですね。授業や課外活動、学寮での学生との関わりはもちろん、同僚の先生方の学生教育に対する信念にも刺激を受けながら教員生活を送っています。

ただ、研究に関しては、実験設備の整備も、地域との関係づくりも一から始める必要があり、着任して1年後には新型コロナウイルスが発生してしまいました。そのため、思うように研究が進められずに悔しい思いもしましたし、自分の力不足も痛感しています。

ようやく設備が整い、地元との連携も少しずつ広がってきています。遅れをとってしまった部分もあると自覚していますが、新たな研究室メンバーの学生とともに、これから研究を着実に進めていきたいです。

笑顔の段下先生と、学生のみなさま
▲令和5年度の研究室メンバーのみなさんと集合写真(前列:段下先生)

学生指導や地域貢献活動にも積極的に挑戦してみたい

―現在の研究についてお聞かせください。

高専生の頃、心に決めた「生命の源である水を守っていく」ために、エネルギーの消費を削減しながら、生活排水や産業排水等の汚れた水を浄化する技術に関する研究を進めています。これは自分が高専生の頃から取り組んでいる研究が基礎になっていて、簡単に言うと「微生物の住みかとなるスポンジを装置に詰め込んでおき、汚れた水をシャワーのように上から流せば、スポンジに微生物が集積していき、ただ流しておくだけで汚れた水を浄化できる」という装置です。

実際に社会実装された事例もありますが、私は、主に安定して浄化能力を発揮できるという観点に着目し、技術の高度化に貢献できる研究をしています。その他にも、研究の一環として、学外でのフィールドワーク(河川や下水処理場の水質調査)を行うこともあります。

学生さんと段下先生で水質調査を行っている様子
▲学生と共に水質を調査中

―研究の他に力を入れている活動があればお聞かせください。

インフラが抱える様々な課題(頻発する災害、老朽化、人材・財源の不足)と向き合い、安心して住み続けられるまちづくりをしていくためのアイデアコンテストである「インフラマネジメントテクノロジーコンテスト(通称:インフラテクコン)」に取り組んでいます。

私はコンテスト等の課外活動における学生指導も高専教員の醍醐味の1つだと思っていて、何かやってみたかったんです。「これなら自分でもいけるかも!」と、2回目のインフラテクコンから本校の海田先生(月刊高専:No.148)とともに挑戦しています。そして今年度からは土木建築工学科に新たに着任された山根先生(月刊高専:No.174)にも加わっていただきました。

実は私自身は学生時代にコンペに参加した経験はほぼなく、決してコンテストに関するノウハウがあるわけでもありません。そんな自分だからこそ、課外活動においては、「教員として学生を指導する」という考え方だけではなく、ときには同じ目的に向かう“仲間”として、学生と同じ目線で接していくことを大切にしています。

戦隊物の格好をして演技をされている様子
▲インフラテクコンの提案紹介動画での寸劇における1コマ。同じ目標に向かう“仲間”の1人として全力で演技

もう一つは、同じ徳山高専の宮崎先生(月刊高専:No.146)が発案した幼児・小学生のワークショップ「まるごと徳山高専」への参加です。「まるごと徳山高専」は幼稚園児から小学生を対象として、機械電気・情報電子・土木建築の各分野のモノづくりを一度に体験してもらおうというイベントです。

オープンキャンパス等で中学生を対象に徳山高専のことを知ってもらう取り組みだけでなく、もっと早い時期に高専の存在を知ってもらい、子どもたちが科学技術分野に興味を持つきっかけをつくりたいという思いで、2022年度から始まりました。現在は、7月に開催する第2回のワークショップに向けて、クラウドファンディングで資金を募る試みにも取り組んでいます。

まるごと徳山高専2022 ワークショップの受付
▲2022年度に徳山駅で「まるごと徳山高専」を開催したときの受付案内

―今後、挑戦したいことはありますか?

今の段階では、具体的に「これに挑戦したい!」と明確なものがある訳ではないのですが、自分から何か新しいことをやってみたいという気持ちがあります。高専教員になって5年目となりましたが、今までは、自分がやるべきことをとにかく必死にこなしてきたという部分が多かったです。その中で少しずつ「他の先生と一緒に」、「学生と一緒に」何かをやり遂げる達成感を味わう経験もできるようになりました。

とはいえ、「インフラテクコン」も「まるごと徳山高専」も、他の先生の声かけがなければ、自分は関係していなかったかもしれません。だから、これからは自分から他の誰かを巻き込んで、学生にとって、徳山高専にとって、プラスになるような新しい試みにもチャレンジしていきたいですね。

―最後に、学生にメッセージをお願いします。

美しい夕日の風景
▲段下先生の趣味はドライブや写真撮影。徳山高専の周辺は豊かな自然に恵まれており、水平線に沈んでいく夕日を眺めるのが大好きとのことです

何かひとつ、本気になって取り組めるものを見つけてほしいです。私の場合は、高専生活を送る中で「自分の未来を賭けてもいい」と思えた、生命の源である水を守っていくこと、そのための研究活動に出会い、やがて高専教員というカタチとなって今に至っています。みなさんにも、そう思える“何か”と出会ってほしい。そのお手伝いができるよう、私自身も学び続ける・挑み続けることを大切にしたいと強く思っています。

人生は一度きりの「思い出づくり」です。だからこそ、目の前に広がっている様々なチャンスをつかみ取り、自分らしい道を歩き続けてください。

段下 剛志
Tsuyoshi Danshita

  • 徳山工業高等専門学校 土木建築工学科 准教授

段下 剛志氏の写真

2012年3月 岐阜工業高等専門学校 環境都市工学科 卒業
2014年3月 岐阜工業高等専門学校 専攻科 建設工学専攻 修了
2016年3月 長岡技術科学大学 大学院工学研究科 環境システム工学専攻 (修士課程) 修了
2019年3月 長岡技術科学大学 大学院工学研究科 エネルギー・環境工学専攻 (博士課程) 修了
2019年4月 徳山工業高等専門学校 土木建築工学科 助教
2023年4月より現職

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