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科学の魅力を広めたい! 「まるごと徳山高専」を通して挑戦する地域社会との共創

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「音」に関する研究を進めながら、徳山高専で教員を務める宮﨑亮一先生。前回の取材から現在に至るまでの2年半は「激動の時代」だったそうです。今回は、現在先生が注力している科学イベント「まるごと徳山高専」の話題を中心に、近年の活動ついてお話を伺いました。

子どもたちに科学の楽しさを伝えたい

―「まるごと徳山高専」を始めようと思ったきっかけを教えてください。

ちょうど前回の取材が終わった頃(2021年10月11日)、「ワークショップコレクションinやまぐち」が開催されました。県や教育委員会、山口大学とかが主体でやっているイベントなんですけども、ちょっとおもしろそうだなと思って、徳山高専から4つ出展したんです。私もここでプログラミング体験みたいなことをしましたね。

このイベントの特徴は、幼児・小学生を対象としたワークショップという点でした。普段、我々も高専に興味を持ってもらおうと、主に中学生に対していろんな公開講座などをしているのですが、こういう層に対してすることは今までなかったので、すごく斬新だなと思ったんです。

あと、山口県は横に長い県で、西部では山口県庁、山口大学、宇部高専が集まっていることもあり、地域と科学の距離が近いと感じていました。ですので、徳山高専のある東部でも、科学を盛り上げていけるような環境づくりをしていけたらと思ったんです。

そして、翌年以降も先ほどのワークショップに出てもよかったのですが、「自分たちでやってみよう」と思いまして。それが「まるごと徳山高専」のきっかけです。予算はありませんでしたが、県の補助金に採択されたので、第1回はそれで実施しました。

―そこから企画したイベントはどういった内容でしたか。

そのワークショップコレクションに倣って、対象は幼児・小学生のみにしました。イベント名は「まるごと徳山高専」と、「神山まるごと高専」に似てはいますが、「徳山高専の3学科全部を1日で体験しよう」という意味でこういった名前にしています。

参加者には幼稚園の子たちもいるので、あまり長くてもしんどいだろうと、1回20分ぐらいにしたんです。内容としては、子どもたちに、純粋に科学や技術――「光る」とか「動く」とか「音が鳴る」とか、そういうものを提供できないかなと。つくり方は簡単なものにして、親子で一緒につくれるようにしました。

▲2022年に開催された【まるごと徳山高専】のダイジェストムービー

それと、私ははじめから「学校のPRはしない」と決めていたんです。でも、保護者の方もたくさんいらっしゃって、「高専の学生は子どもたちに分かりやすく丁寧に教えてくれる」とか「何か困っていても自分で判断して対応してくれる」とか、何もPRしてないのに高専の評価が上がったという思わぬ成果もありました。

【まるごと徳山高専】の様子
▲【まるごと徳山高専】の様子

最低5年間はやっていきたいなということで、少なくともあと3回開催することが今の目標です。そこで課題となるのが資金調達ですので、今年(2023年)からクラウドファンディングを始めました。

ゆくゆくは多くの地元企業と連携しながら、企業も学生と交流したり、実際に地元の住民たちに企業のことを知ってもらう機会にできたらいいなと思っています。

―今年の第2回のイベントも大盛況だったと伺いました。

子どもたちが120人も来てくれたんです。保護者の方も合わせると、本当に数多くの方にご来場いただきました。プログラムに1つだけ参加するとか、全部参加するとか、いろんな方がいらっしゃったものの、だいたい人数でいうと120人ぐらい。充足率も90%以上の展示がほとんどで、ほぼ満員でした。

【まるごと徳山高専】の様子
▲【まるごと徳山高専】の様子

場所も徳山駅のすぐ近くに広い会場を借りて、当日のプログラムはもちろん、ロボコンの全国大会でロボコン大賞を受賞したロボットも展示しました。紙飛行機を美しく飛ばすロボットだったんですけど、こういうのを見るのも、やっぱり子どもからしたらすごく刺激的なことかなと。アンケートもかなり満足度が高くて、よかったという感想が多かったですね。

【まるごと徳山高専】の様子。紙飛行機をロボットが飛ばしています
▲【まるごと徳山高専】の様子。紙飛行機をロボットが飛ばしています

開催資金としてのクラウドファンディングは、50万円の目標で、最終的には49人からのご支援で41万円集まりました。ただ、これはお金を集めたいというのもあるんですけど、もっと言うと、リターンを「まるごと徳山高専」で実際に20分かけてつくるものと同じ制作キットにしているので、山口県外にお住まいの方でも、ご支援いただいた返礼によって、お家でイベントと同じようなことが実現できたらいいなという思いもあります。

▲返礼品をつくるための制作ムービー

―開催当初からイベントのコンセプトとして「学校のPRはしない」とおっしゃっていましたが、そう決めたのはなぜですか。

大事なのは私たちが持っている科学技術を伝えることなので、小難しいパンフレットとかを置いて説明していても、子どもたちにとってはおもしろくないと思ったんです。

返礼品「色が変わるランタン」の制作キット
▲返礼品「色が変わるランタン」の制作キット
完成後の「色が変わるランタン」
▲完成後の「色が変わるランタン」

短い時間でぱっとやって「おもしろかった」と言ってもらえるものをたくさんつくりたいので、保護者の方に質問をいただいたら説明はしますけども、聞かれない限りはいいんじゃないかなと。学校PRをするイベントは、オープンキャンパスや文化祭、出前授業などたくさんありますので、そちらに任せるつもりでやっています。

プログラムを3学科分やるのも正直大変なんですけど、タイトルで「まるごと」と銘打っていることもありますし、やっぱり全部に触れてもらって、「科学といってもいろんな分野があるんだな」ということを少しでも伝えられたらうれしいです。本当に準備はすごく大変なんですけど、そこは譲れないなという気持ちがありますね。

―あくまで科学のPRということですね。

はい。やっぱり私たちは科学技術を地元の人たちに伝えることが一つの大事な責務・義務だと思っていますので、その活動の一環です。

動画教育の可能性を探る

―先生はこの「まるごと徳山高専」の取り組み以外にも何かやっていらっしゃるんですか。

出前授業はもう5年ほどやっています。でも、これは私というより技術職員さんにかなり頑張っていただいているので、私が意識していることとしたら、YouTubeを使った授業配信でしょうか。

―先ほどの「まるごと徳山高専」の動画も先生が編集されていましたが、動画を手段として取り入れるようになった理由はありますか。

やっぱりコロナの時にかなり考え方が変わりました。半年間、遠隔授業になって、オープンキャンパスもできなかったので、「YouTubeチャンネルをつくりましょう」と言った記憶があります。

独学で大した動画はつくっていないんですけど、やっぱり同じことを何回も説明するのは大変ですし、この情報社会で何かをやろうとしたとき、今・ここにいないとできないというのは違うと思うんですね。ネットさえ繋がっていればどこでも誰でも勉強できるほうがいいと思うので、使えるところは使っていきたいです。

授業も全部動画に録画しているので、今は対面授業ですけども、対面授業している様子を全部録画して、学生が見れるようにアップロードしています。復習で見てもいいですし、欠席した学生が見てもいいです。公欠にしても病欠にしても、欠席によって授業が受けられないというのは教育機関としてどうなんだろうと思うので、ちゃんとその回の授業を学生が受けられるようにしています。

宮崎先生の授業動画より
▲宮崎先生の授業動画より

IoTで効率化。部活動運営の革新的取り組み

―地元の周南市で、部活の地域移行のお手伝いもされているとか。

最近、部活を地域移行しようってニュースになっているじゃないですか。少子高齢化や学校教員の働き方改革の問題で、学校の運動部をなくして、地域主体でやる取り組みですね。そのお手伝いをしています。

この辺りにある地域の合同テニスチームは、中学校の元教員の方がボランティアで運営されているんです。でも、その人がいなくなったら多分成り立たないし、私は徳山高専のテニス部の顧問ですから、やっぱりテニスを盛り上げたい。そこで、なんとかここの負担軽減をできないかなということで、IoTを活用した効率化に取り組んでいます。

合同テニスチームの活動風景
▲合同テニスチームの活動風景

―それは先生もボランティアですか。

私もボランティアです。この半年は色々しました。具体的には、ホームページ作成、出欠確認システムの管理、スマート会計システムの確立、請求書の自動作成あたりです。ただ、ボランティアですけど、最終的には機械が全部やってくれる予定です。

例えばクラブの会費の精算はLINEやPayPayを使っているんですけど、保護者の方からも「やっぱりPayPayの会計はすごく楽です」と言っていただいています。小銭を準備するのは手間もかかりますし、もしお金がなくなったなんてことがあると嫌ですよね。ボランティアでやっているのに、そういうトラブルがあったらお互いよくないので、透明性のためにやっている部分もあります。ほかにもいろいろ紹介できますよ。

―最後に、高専生に向けて一言お願いします。

情報社会の変化が激しい昨今、例えばChatGPTがプログラムを書いてくれる場面も出てきました。そうなると、仮にプログラミングができても、それ一本で今後10年後、20年後も生きていくのは不安な部分があるのかなと。ですから、いろんなことに興味を持つというのが大事ですね。一つの分野に限らず、いろんなものに触れて、「おもしろい」とか「なんで?」という疑問を大切にしてもらいたいです。

まるごと徳山高専のモットーは「好奇心・探求心・探究心」を育むことです。「探求心」と「探究心」は、自分から求めることと、そこから突き進むことということで、あえて2つ書きました。これは私も意識しているところですね。

宮崎 亮一
Ryoichi Miyazaki

  • 徳山工業高等専門学校 情報電子工学科 准教授

宮崎 亮一氏の写真

2008年 大阪府立工業高等専門学校 システム制御工学科 卒業
2010年 大阪府立工業高等専門学校 総合工学システム専攻 機械工学コース 卒業
2012年 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 博士前期課程 修了、
     大阪府立工業高等専門学校 非常勤講師
2013年 日本学術振興会 特別研究員(DC2)
2014年 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 博士後期課程 修了、
     徳山工業高等専門学校 情報電子工学科 助教
2020年より現職

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