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阿南高専・ACT倶楽部で「企業課題解決のための学内見学ツアー」を開催! その模様をレポート

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2023年4月26日(水)、「阿南高専 ACT倶楽部の教職員や学生」と「企業」とが交流する「企業課題解決のための学内見学ツアー」(運営:メディア総研イノベーションズ株式会社)が開催されました。企業の方の目にACT倶楽部の高専生はどう映ったのか。本記事では、そのツアーの様子についてレポートします。

そもそも、ACT倶楽部とは何なのか?

ACT倶楽部は、阿南高専教育研究助成会(ACTフェローシップ)内に設立されたクラブです。阿南高専の教育・研究活動を支援する企業および個人の会であるACTフェローシップ自体は1995年に設立・発足しました。ACT倶楽部は2021年に設立されました。

ACT倶楽部の仕組みは、阿南高専に持ち込まれた「企業等が抱える経営課題・技術課題・地域課題」の解決を、企業と学生・教職員が連携して行っていくもので、どのような企業でも課題を持ち込むことが可能です。

持ち込まれた課題は教職員によるチェックがあるものの、そのほとんどが学生に公開されます。課題を解決したい学生がいた場合、解決に向けて連携して動き出すことになるシステムです(その際、企業はACTフェローシップに入会する必要があります)。

解決にあたって阿南高専からは、研究室・研究設備、研究費、メンター教員を提供。課題解決に取り組み、社会実装を目指していくことになります。このようなサポートを受けつつ、ACT倶楽部の活動によって企業と学生の間に「つながり」が生まれるのです。

ACT倶楽部の説明(図解)
▲ACT倶楽部の仕組み(ACT倶楽部HPより)

ACT倶楽部立ち上げメンバーの吉田晋先生(月刊高専No.339)は、本イベントの最後で参加企業のみなさんに「今回のイベントでは、高専生のポテンシャルや能力を身近に感じていただきたいと思っていました」とお話しされていました。その目的が果たせたのか、イベントの流れを振り返っていきます。

いよいよツアーがスタート。阿南高専、ACT倶楽部の内部へ

今回のツアーは、最初に校内見学、箕島校長・教職員との名刺交換や交流が行われました。参加企業の中には、高専の中に入ったことがない方もいらっしゃり、高専とはどのような“雰囲気”なのか、まず体感されたのではないでしょうか。

阿南高専へ企業の方々が向かっている様子
▲学内見学ツアーがスタート。4つの企業が参加しています
ラーニングコモンズを紹介する吉田先生
▲ラーニングコモンズを紹介(最奥:吉田先生)

箕島校長は、「高専は実験・実習や企業の課題解決科目を多く取り入れることにより創造的かつ実践的技術者の養成を行っており、企業からも高く評価いただいています。特にACT倶楽部の学生は企業の課題解決に強い意欲を持っています。本日は阿南高専の大きな特徴の1つであるACT倶楽部をご見学ください」と挨拶し、企業との連携をさらに深めていきたい旨もおっしゃっていました。

箕島校長が立ち上がり、挨拶をされているところ
▲参加企業のみなさんにご挨拶される箕島校長(右)(中央:地域連携・テクノセンター長 長谷川先生、左:吉田先生)。ACTフェローシップは、地域連携・テクノセンター内に位置付けられた活動です

ご挨拶や教職員との交流が終わると、ACT倶楽部の活動場所へと移りました。活動場所は阿南高専の中にあり、建物の入口には「ACT倶楽部」の表札が目立つかたちで掲出されていました。

ACT倶楽部と書かれた建物に入る企業の方々
▲ACT倶楽部の活動場所を訪問

中に入ってみると、その活動場所が天井の高い、広いスペースであることに驚かされます。ACT倶楽部の研究ユニット3~4組が同時に課題解決を進めることができるほどの広さだそうです。もともとはがらんとした部屋でしたが、床に板を貼ったり、一部に人工芝を敷いたりと、学生のアイデアと実行力によって部屋がレイアウトされています。

木造仮設住宅と、机と椅子が並んだスペース
▲ACT倶楽部の活動スペース

そして何より、目を引くのは、部屋の中にある家でしょう。建設コースの多田先生によると、これは木造仮設住宅で、学生によって建設されたもの。プレハブではなく木造なのは、プレハブの場合、阿南高専のある徳島県だと、建てるのに必要な大規模な土地が津波で浸水してしまいますが、木造の場合は小規模な土地でも建設できるためだそうです。目に見える形で、学生のすごさが伝わってきます。

木造仮設住宅を内部から撮った写真
▲木造仮設住宅の内部の様子

研究ユニットと交流。ACT倶楽部の学生を知る

一通り内部を見学した後は、ACT倶楽部の活動場所内で、長谷川先生が地域連携・テクノセンターとACTフェローシップについて、吉田先生がACT倶楽部について企業に説明。この中で、ACT倶楽部設立のきっかけや、運営をよりよくするための方策について話されます。

まずきっかけについて。そもそも、高専と企業の連携としては「インターンシップ」や「共同研究」が一般的ですが、阿南高専は独自の活動として「コーオプ教育」をしています。これは高専3年生から、「高専での勉学」と「長期休業を利用した、企業での長期就業(2~3週間)」を交互に繰り返すものです。

コーオプ教育の流れを説明した図
▲コーオプ教育の流れ(阿南高専HPより)

これにより学生は企業理解や実践力などを向上でき、企業は社内活性化や学生への広報などができるので、お互いにとって有意義な活動となります。しかし、受入企業側は長期にわたって断続的に学生を受け入れる必要があり、受入体制の構築など企業にとってハードルが高く、受入企業数を増やすことに苦労していること、参加できた学生は1社とは深く関われるが、複数の企業と関わる機会が少ないことが課題として挙げられていました。

そんななか、学生が企業と関わる機会を増やすために「コーオプ教育をプロジェクト単位で行えないか」という発想から生まれたのがACT倶楽部です。企業が持ち込む課題(プロジェクト)単位で、企業と学生とが直接やり取りをし、教職員はあくまでメンターとしての役割に徹するのが、共同研究との違いといえます。

また、卒業研究として高専5年生から取り組むことが多い共同研究よりも、低学年の高専生や幅広い専門分野の学生と連携できる可能性が高いのもACT倶楽部の特徴です。

ツアーの配布資料
▲今回のツアーで配布された資料

ACT倶楽部の運営をよりよくするための方策については、例えば企業が学生と取り組みたい課題を丁寧に聞き取り、その課題解決に阿南高専の学生が取り組むのに適した課題かどうかについて相談に乗り、企業の参加を推進する「インターミディエイター」を設置済で、企業からの課題に対して、学生の参加を学生の立場から推進する「学生推進委員」も今年度新たに設置したとのことでした。

ACT倶楽部についての図を指しながら説明する吉田先生
▲ACT倶楽部について説明されている吉田先生

ACT倶楽部の説明後、参加企業それぞれから学生に向けて自己紹介として事業内容等を説明。ちなみに今回参加した企業はすべて、大阪中小企業投資育成株式会社からの投資を受けている企業です。公的な投資育成機関であり、そこから投資を受けているということは、優良な企業経営が行えているという証拠でもあります。

そのような企業の目から、高専生はどう映るのか。いよいよACT倶楽部の学生の活動見学や交流の時間に移ります。

当日は4組の研究ユニットの学生と交流。1組目は阿南光のまちづくり協議会からの課題解決(イベント企画)から生まれた「LEDイルミネーションオブジェの開発」を行っているユニットです。ツアー当日は、さらなるイルミネーションオブジェの進化を目的として、さまざまなイルミネーションイベントを訪れた内容についての報告会と今後のイベントアイデア出しが行われており、学生の向上心の高さが見受けられるものでした。

学生と企業の方々がモニターを見ている様子
▲訪問したイルミネーションイベントの報告会の様子

阿南測量設計株式会社からの課題である「ため池用の安価な水位計キットの開発・製作」を行う研究ユニットでは、レーザーを用いた水位計キットを開発中。レーザーを用いることで、台風などの風が強い環境下でも正確に測定できるそうです。参加学生は高専ロボコンにも出場していますが、「企業の方と一緒にできてやりがいがある」とモチベーションが高く、企業側からも、「不慣れな分野を担ってもらって助かっている」という声がありました。

水位計キットについて説明する学生の方
▲水位計キットの開発について説明中

個人の方から寄せられた「IoT×昭和の家具へのアイディア募集」は、古くなったタンスの再利用という、「あらゆる地域で展開可能な資源の再活用」につながる課題でした。現在も検討と制作を続けていますが、バーをイメージして、上から1段目がバーカウンター、2段目がスマホ連携スピーカー、3段目と4段目は1つにまとめて、カクテルに使用するミントの栽培に活用しています。

古いタンス
▲古くなったタンスを再活用中。板は経年劣化によって収縮・変形しているので、その形に合わせた新しい板をはめるのにも、高い技術が用いられています

最後の1組の課題は「阿南市内小中学校におけるプログラミング教育のレベルアップ」です。プログラミング教育の必要性は年々高まっていますが、それに必要な教材や授業方法の確立はまだまだ不十分な状況といえます。そこで、プログラミングに長けている高専生によって教材や授業方法を確立できるよう、教材や授業方法を考案し地元の中学校での授業や、ショッピングモールでのプログラミング教室等を開催。そのフィードバックをもとに、教育方法の精度を高めています。

プログラミング教育について紹介している様子
▲プログラミング教育の充実について、これまでの取り組みを紹介

今回のツアーでは上記4組の研究ユニットの取り組みについての紹介を受けつつ、企業からの質問に答えるなど、学生と参加企業との交流が行われていました。高専生の声を直接聞くことによって、企業の方にはACT倶楽部の高専生がどのような学生なのか、体感できたのではないでしょうか。

研究ユニットの見学終了後は、企業と高専教職員との間で、今回のツアーおよびACT倶楽部との関わり方についての意見交換会が行われました。そこで出たコメントを見ていきましょう。

ACT倶楽部への課題は、難しく考えなくてOK

まず、今回のツアーに参加した感想として参加企業からは、「楽しみつつも地道な活動をしているのが成長につながると思うし、企業や自治体でも力になるだろうなと思いました」や、「共同研究と違って、多岐にわたる学生が集っているところに、学生・企業の双方にメリットがあると思いました」、「凝り固まった社内の活性化のためにも、高専生の力が欲しい」といった声が上がりました。

一方、教職員からのコメントとして、地域連携・テクノセンターの前々センター長である杉野先生は、「社会人として重要なコンピテンシーの中でも、意欲とコミュニケーション能力は育てるのが難しいです。しかし、ACT倶楽部の学生にはあると、今回感じていただけたと思います。今後もそういった高専生を育てていく所存です」とおっしゃっていました。

企業の方と阿南高専の先生方が意見交換をしている様子
▲意見交換会の様子

また、吉田先生から「せっかくの機会ですので、ACT倶楽部をより良くするため、企業様からの意見をお聞きしたい」という“あえての質問”が企業サイドに振られると、「どういった課題をどういったレベルで相談したらよいのか、少し躊躇する部分がある」といった意見がでました。

吉田先生はその回答として、「持ち寄る課題を難しく考えない方が良いと思います。例えば、オフィスのレイアウトを考えてほしい、など、事業内容と直結していなくても大丈夫です。難しすぎると学生が手を挙げにくいですし、必ずモノづくりに関わるものでなくても問題ありません」とし、ACT倶楽部への課題が、企業と学生が知り合い、連携した活動を行うきっかけにまずはなってほしいとも答えていました。

また、ACT倶楽部は企業からだけでなく、学生からも「こういった課題をやりたい」という声を募り、その学生提案課題リストから企業側に選んでもらう仕組みを新たに作ることを検討しているとのことです。

意見交換会の様子
▲意見交換会の様子(奥側左から吉田先生、長谷川先生、杉野先生)

そして、企業と高専教職員との活発な意見交換会を最後に、本イベントは終了。阿南高専・ACT倶楽部の学生の優秀さ、意欲の高さを肌で感じられるイベントになったのではないでしょうか。約5時間のイベントは、あっという間に過ぎました。

なお、ACT倶楽部は2023年度の新規課題(テーマ)を募集中です。課題持ち込みは2023年6月2日(金)までに、専用フォームにご入力のうえ、お申し込みください。

◎阿南高専 ACT倶楽部HP
https://sites.google.com/anan-nct.ac.jp/actclub/act%E5%80%B6%E6%A5%BD%E9%83%A8

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