島根大学大学院を修了後、舞鶴高専に着任された七森公碩先生。「高専教員になりたい!」と学生時代に思いたち、ドクターに進学されたそうです。念願の高専で教育に力を入れている七森先生に、学生時代の思い出や、高専生への思いを伺いました。
理系科目の全てが、輝いて見えた
―七森先生はどのような幼少期を過ごされたのですか。
小さい頃から、細かい作業は結構好きだったんですよね。「おじいちゃんの絵コンテスト」で賞をいただいてから、絵を描くのがすごく好きになって(笑) そこからスタートして、ミニ四駆をつくったり、釣りで使うルアーの手入れをしたり、そういうのが好きな少年でした。
理系にハマったのは中学校の時で、その頃は生物が特に好きでしたね。でも、高校の時に出会った物理の先生がすごく熱心に授業してくださって、「なぜ起きるのか分からない現象」を理論立てて考えることなどが面白く、全てがすごく輝いて見えました。そこから生物よりも物理が面白いと思うようになったんです。
―そこから島根大学に進学されているのですね。
大学の3年生までは勉学に対して面白いと感じることは少なかったのですが(笑)、のちに指導教員となる山本真義(まさよし)先生の電気電子回路系の授業を受けて変わりました。「今まで勉強してきた数学や電気の知識が、実際にものづくりで使われているんだ!」ということに気付いて、勉強にハマるきっかけになりましたね。
山本先生は、非常に牽引力がある先生で、常に先を見据えて研究されている姿に影響を受けました。進学を勧めている研究室だったこともあり、配属されるころには大学院への進学を決めていましたよ。
研究対象は、「SiC(炭化ケイ素)」を用いた高効率なソフトスイッチングインバータでした。シリコンで半導体をつくるのが今の主流なのですが、それよりももっといい素材はないかと考案されたものです。回路を自作してマイコンで制御するのですが、もともとプログラミングに苦手意識があって、学部時代はそこが大変だった記憶がありますね(笑)
「七森くん、うちでそれは出来ないよ」
-研究を通して、心境に変化はありましたか。
実は、山本研は共同研究がすごく多い研究室だったんですよ。そして、企業の方とお話ししていくうちに、「もっと社会問題を解決していきたい」と思うようになりました。
例えば太陽光発電とか、電気自動車など、家電製品よりも大きな電力を使用する場合、半導体は並列に使用するんですよね。1つだと100Aの電流が、2つ並列にすると1つあたり50Aずつの電流で済むので、エネルギー損失が少なくなり、発熱が減るという利点があります。
ただ、「GaN(窒化ガリウム)」や「SiC」を並列化すると、多くの問題が発生するということが分かって。そのあたりを理論的に考えていくのが博士の時の研究になりました。
いくつも共同研究のプロジェクトを進めていたので、スケジュールマネジメントは大変でしたね。山本先生は、私たちを信頼して任せてくださっていたので、「中途半端な仕事はできない」と、報告会の前は徹夜もしました(笑) さらに、後輩たちのプロジェクトもマネージャー的な立ち位置で同時に見ていまして、結果的にそれが現在の研究室運営にも生かされていると思います。
-七森先生はいつ教員を志したのですか。
大学院生(修士課程)の時です。しかし、そこに辿り着くまでに紆余曲折ありまして……。実は、学部生のころ、大学院への進学が決まっていたのに就活をしたんです。「働くとはどういうことなのか」を知りたくて、悩んでいた時期でもあります。
大学院生の頃にも就活をしました。そのときは「医療系企業のエンジニアになりたい」と思い、志望先の会社の部長さんと2人でご飯に行ったことがあるのですが、「七森くん、うちでそれは出来ないよ」とバッサリ言われて(笑)
その後、改めて自分は何がしたいのかを考えたときに「人に教えることがすごく好き」ということに気付きました。それで「教員になりたい」と周りに伝えると、全員が大賛成してくれたんです。「エンジニアリングの面白さを伝えたいから、高専の先生になりたい!」と、そこで博士課程への進学を決めました。
研究室には高専卒の先輩方がたくさんいて、素晴らしい学校だということは分かっていましたからね。今思うと、この就活経験が高専での就職指導ですごく役に立っています。
Appleの共同設立者。スティーブ・ジョブズと……
-高専での教育で、意識されていることを教えてください。
「体験して学ぶ」「失敗から学ぶ」「好奇心を駆り立てる」を意識しています。やっぱり「やらされている勉強」って全然面白くないじゃないですか(笑) 勉強は、自分で「面白い!」と思って初めて身に付くものですので、そこを意識しながら授業をしています。
知識って、授業をただ聞くだけじゃ定着しないんですよね。例えば、重力の説明をするときに、物を落としながら説明するとか、できるだけ身近にある体験をもとに学んでもらえるよう工夫しています。
また、私は学生時代、半導体や回路をたくさん壊してきたのですが(笑)、失敗して初めて学ぶことの方がやっぱり多いんですよね。「何がダメだったんだろう」「次失敗しないために、どうしたらいいだろう」と考えることができますから。「失敗しないように」と考える学生は多いですが、私は失敗させたいと思っていて(笑)、「失敗こそが1番の学びだよ」と伝えています。
さらに「好奇心を駆り立てる」は「体験して学ぶ」にもつながりますが、高専はエンジニアを育てる学校でもあるので、知的好奇心をどんどん育てていきたいです。
例えば「Apple」といえば「スティーブ・ジョブズ」が有名ですが、実は最初にMacの前身であるApple IやApple IIと呼ばれるコンピュータをつくったのは「スティーブ・ウォズニアック」なんですよね。ジョブズはエンジニアでもありますが、マーケティングを得意としていました。Apple IやApple IIの生みの親であるウォズニアックがいて初めてAppleは成り立っていたんです。
ですので、学生には「君たちはウォズニアックを目指せ!」と伝えています。彼はアニメやマイコンが好きで、楽しみの中でコンピュータをつくり上げていったので、高専生と重なる部分が多いのではないかと思っています。
今後の日本を支えていくエンジニアを生み出していくためには、世の中の問題に対して疑問を持ってもらいたいです。そのような理由から、「体験して学ぶ」「失敗から学ぶ」「好奇心を駆り立てる」という3つを大切にしています。
身近な製品にも「GaN」が——もっと周りに疑問を持とう
―現在はどのような取り組みをされているんですか。
研究では、パワーエレクトロニクスを専門分野にしています。GaNを並列化したときの安定駆動のために理論的な解析をしたり、モデルをつくったりをメインに行っています。
シリコンの代わりにGaNを付けると、共振や誤動作が起こって過大な電流が流れてしまい、お互いを壊し合ってしまうという問題が起こるんです。シリコンでは発生しない問題が、GaNでは起こるので、その原因を突き詰めていく研究ですね。
最近、GaNを使った家電製品が発売されています。Ankerの充電器がその例ですが、小型化されていて、かつ高出力ができますよね。これは半導体から発生する損失がすごく少ないので、熱が出ず、小型化できたんですよ。
電気自動車などに搭載されるほどの大きな電力ではまだ並列化できていないのですが、これが小型化できると、電力変換機が小さくなって軽くなります。すると、燃費が良くなって、車の移動距離も伸びるんですよ。充電する電力も減るので、電気不足も改善が期待されます。ポテンシャルを秘めている研究なので、面白いですね!
―小中学生や現役の高専生にメッセージをお願いします。
目の前で起こっている小さなことや、何ともないと思われることに、一度立ち止まって真剣に向き合ってほしいと思います。見過ごしたらもったいないことが世の中には転がっていて、それに気づいて「なんでだろう」「どうしてだろう」と考えることってすごく面白いし、重要なんですよね。もっと世界に疑問を持って、疑問という虫眼鏡で世界を面白く覗いてほしいです!
高度経済成長期に比べて、今の日本の技術成長力は尻すぼみになってきているので、アメリカやヨーロッパに比べて、やや遅れをとっています。だからこそ学生には、日本だけでなく世界を牽引していくような技術者になってほしいです。日本には世界に負けない技術者がたくさんいます。そして、高専生にはそのような技術者になれるポテンシャルが充分にあるので、それを生かして活躍してほしいですね!
七森 公碩氏
Kimihiro Nanamori
- 舞鶴工業高等専門学校 電気情報工学科 講師
2009年 広島県立大門高等学校 理数コース 卒業
2013年 島根大学 総合理工学部 電子制御システム工学科 卒業
2015年 島根大学大学院 総合理工学研究科 総合理工学専攻 博士前期課程 修了
2018年 島根大学大学院 総合理工学研究科 総合理工学専攻 博士後期課程 修了
2018年より現職
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