ご祖母様の家の近くに住んでいた知り合いのお兄さんの影響で鹿児島高専に進学された、長崎大学・准教授の古里友宏先生。大学の研究室で出会った先生に憧れて大学院まで進み、アカデミックの道を選ばれたそうです。そんな古里先生に、学生時代のエピソードや今後の展望について、お話を伺いました。
小学生の頃から、「高専に行く」と決めていた
―鹿児島高専に進学された理由を教えてください。
私の祖母の家の近くに、鹿児島高専に通っている知り合いのお兄さんがいたんですよ。親や祖母がそのお兄さんの話をよくしていて、「高専はすごいところなんだ」という認識が、小学生の頃からありました。
お兄さんに対する憧れもあったので、小学生の頃には高専に行くことを決めていたと思います。中学生の頃には、お兄さんから直接、高専の話を聞いたこともありましたね。
私自身も勉強は好きで、特に物理現象には興味があったんですよ。さらに私の家は電気工事の自営業をしていて、「電気」という存在は身近でした。電気は目に見えない物理現象の根本だったこともあって、電気電子工学科を選びましたね。
―鹿児島高専での生活はどうでしたか。
小学生の頃からずっと入りたいと思っていた高専に入学することができたので、毎日が楽しくて充実していましたね。最初は親元を離れて寮に入ることに不安を感じていたのですが、寮生活をしている人も多くて友達もたくさんできたので、不安はすぐに解消されました。
高専で印象に残っているのは、4年生のときの創造実習の授業ですね。学生同士でチームを組んで、自分たちでテーマを決めてものづくりをする授業でした。私のチームは、「自動散水機」という水を撒く船型のロボットをつくりました。鹿児島高専の入り口には花壇があったので、そこに散水をするロボットをつくろうと思ったんですよ。
船の上に太陽光パネルを設置して、そこで得たエネルギーを使ってポンプを動かして、池の水を吸って撒く仕組みでした。初めて自分たちで考えたものを形にできる授業だったので、今でも思い出に残っていますね。
「グローバルCOE」に採択されていた熊本大学に進学
―高専卒業後、熊本大学に進学されたんですね。
「グローバルCOE」という国から援助を受けて研究をする制度があったんですが、この制度に採択されている研究室が、熊本大学にあったんですよ。高専の先生に進路を相談したときに「地方大学でグローバルCOEに採択されているのは珍しい」という話も聞いたので、この研究室に入りたくて熊本大学を選びました。
熊本大学には、推薦入試で受験しました。推薦で使われるのは4年生の成績だと聞いていたので、4年生の間は頑張って勉強しましたね(笑) そのかいあって、4年生になってからは1位の成績を取ることができました。熊本大学進学後の講義は、高専で習った内容と重複する部分もあったので、勉強で苦労することはありませんでしたね。
「超臨界CO₂」という基礎的な研究テーマを選んだ
-大学では、どのような研究をされていたんですか。
私が熊本大学に進学するきっかけとなった、「グローバルCOE」に採択されている秋山秀典先生の研究室に、無事入ることができました。秋山先生の研究室では、「放電プラズマ」という雷の研究を行いましたね。
私が研究していたのは、「超臨界CO₂」という「CO₂に圧力をかけて高密度にした状態で、プラズマを発生させる」というものです。この技術はスターバックスで売ってある「デカフェ」をつくるときにも使われていて、ものから何かを抽出したり、布を染めたり、半導体を洗浄したりと、あらゆる場面で応用されています。
秋山先生の研究室には様々な研究テーマがあったのですが、学生の間は基礎的な研究がしたいと思って、この研究テーマを選びましたね。この研究テーマだけ、九州大学で名誉教授をされている原雅則先生も入られていて、原先生との出会いが今後の進路に大きく影響を与えてくれました。
成果を出せたから、修士課程も博士課程も早期修了できた
―古里先生は、大学院まで進まれたそうですね。
研究室で秋山先生と原先生に出会ったことで、アカデミックの世界に興味を持つようになり、博士課程まで進みました。博士課程まで「放電プラズマ」の研究を一貫して行っていて、レーザーを使って超臨界CO₂中のプラズマを観測することに成功したんですよ。「プラズマを観測できる環境をつくって、観測して、論文として残せたこと」が研究の成果でしたね。
そして、私は修士課程も博士課程も早期修了することができました。早期修了をするためには、研究で成果を出して論文を書く必要があります。私は無事に業績を残すことができたので、早期修了することができましたが、早期修了にはメリットしかないと思いますね。
早期修了が出来れば、通常課程よりも2年早く修了することができるので、若いうちから働くことができます。私は「アカデミックの世界で働きたい」と思い長崎大学を選びましたが、企業に就職する方は特に有利になるんじゃないかなと思いますね。
―大学院時代には、海外での活動もされていたんですね。
国際会議に参加させてもらう機会もあって、アメリカには3回行きましたね。日本だと、英語を学んでいてもアウトプットをする機会が少ないので、現地の人と英語で会話ができたことは自信にもつながりました。英語の論文を読んでいることも多かったので、思ったより喋ることができたんですよ(笑) 問題なくコミュニケーションを取ることができたので、海外に行くハードルは、国際会議に参加したことで下がりましたね。
ハードルが下がったことで、オランダに留学に行くこともできました。オランダの人たちは集中力がすごくて、オンとオフの切り替えがはっきりしていたんですよね。夕方になったら研究を切り上げている姿を見て、カルチャーショックを受けましたが(笑)、オランダでの日々は私に刺激を与えてくれたので、行って良かったと思っていますね。
1つのことだけ見ていては、気付かないこともある
―今後の展望はありますか。
大学の頃から引き続き、「超臨界CO₂」の研究も進めているのですが、企業との共同研究を今後はもっと進めていきたいですね。現在は「発電所で使われているモーターが、どれくらい劣化しているか」を診断する装置の研究をしていますが、これ以外にも共同研究を進めて、実社会で役立たせたいと思っています。
学生時代は基礎研究に力を入れていましたが、基礎知識を応用して役立たせることが大切です。だから、「私の研究は社会に役立っています」と言えるように、応用研究にも力を入れていきたいですね!
教育面では、学生に対して「広い視野を持って自分で考える力」を身につけてほしいと思います。過去に海の中で音波の研究をしていた方が、ノイズ的な信号に気づいたことで、「イルカが超音波でコミュニケーションを取っている」ということがわかりました。
これは動物同士のコミュニケーションの研究につながっていて、ノイズに関しての研究がされてなかったら、「動物のコミュニケーション」については解明されなかったかもしれません。1つのことだけ見ていては、気づかないこともたくさんあります。だから、学生には「洞察力を身につけることが大切だ」ということをしっかり伝えるようにしていますね。
高専生は英語ができれば「鬼に金棒」
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
高専では、専門的な分野を幅広く学ぶことができます。だからこそ、高専だけで終わるのはもったいないと思うので、大学に進学できる人は進学することをおすすめします。大学に進学することで、将来の選択肢も増えるんですよ。特に、研究や開発の分野で働きたいと思っているのであれば、大学でさらに知識や技術を身につけて欲しいですね。
そして、今高専で学んでいる人たちは、英語の勉強にも力を入れて欲しいです。日本語しかできないと、世界中の情報のごく一部しか手に入れることができません。英語ができるだけで、世界中の情報を知ることができるので、自分の視野を広げることにもつながります。
研究者として生きていく上でも、英語の論文を読んだり、英語で論文を書いたりする機会もありますよ。高専生は専門知識を持っている分、英語ができれば「鬼に金棒」です。将来の選択肢を広げるためにも、英語の勉強も頑張ってくださいね!
古里 友宏氏
Tomohiro Furusato
- 長崎大学大学院 工学研究科 准教授
2009年 鹿児島工業高等専門学校 電気電子工学科 卒業
2011年 熊本大学 工学部 情報電気電子工学科 卒業
2012年 熊本大学大学院 自然科学研究科 複合新領域科学専攻 博士前期課程 修了(早期修了)
2013年 日本学術振興会特別研究員(DC2)
2014年 熊本大学大学院 自然科学研究科 複合新領域科学専攻 博士後期課程 修了(早期修了)
2014年 長崎大学大学院 工学研究科 助教
2021年より現職
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