
物理の授業だけど、操作しているのは……タブレットPC! 一般教育の授業からデータサイエンスに触れる教育活動を進める、鹿児島高専の池田昭大准教授にお話を伺いました。
物理嫌いだったから、気持ちが分かる
―鹿児島高専に着任した経緯を教えてください。
2012年まで九州大学で研究員をしていましたが、鹿児島高専に赴任することになりました。分野は地球物理。地球の高度100kmの領域にあたる、磁気圏・電離圏の観測が主な活動です。
研究員時代は海外での観測も多く、エジプトやミクロネシア、ナイジェリアなど世界中に飛んでいましたね。パスポートのページがなくなるほどでした(笑)。

ご縁あって鹿児島高専の一般教育科に物理講師として着任しましたが、教育に携わるのは初めて。しかも高校生のときは物理が大嫌いだったんです。
現役生のときには苦手意識のあった物理ですが、大学で勉強するうちに「理科、ひいては理学工学の根底には物理がベースにあって、物理の理論を前提に研究は発達していくものなんだ」と感じるようになりました。
ニュートンがリンゴの落下から万有引力を発見したように、ある程度の自然現象は物理の数式で書き表せる。「教科書で勉強したことが現実の世界でこういうふうに関係しているんだ」と分かると実感が湧いておもしろくなってきます。

宇宙や自然界にはまだまだ説明しきれない部分があるけれど、物理学が否定されるようなことはそうありません。いつか、人間が理解してきた物理という道具であらゆる自然現象を説明できるようになる……すごいことですよね。
この感覚を学生に伝えられたらなと。私自身、物理ができない、おもしろくない……と感じていた学生なので、気持ちはよく分かります。だからこそ興味が持てるような方法を見つけられると思うんです。
Society5.0を見据えた授業
―では、授業でどんな工夫をされているのでしょうか?
本科4年生を対象に、実際に観測された太陽風のデータを学生に解析してもらう実験を授業に組み込みました。「Society5.0で活躍できるエンジニア育成」を理念としています。
日本政府が進めるSociety5.0ではIoT化された社会であらゆる分野の技術者にデータサイエンスやIT・ICTの知識が必要になると言われています。学生たちもデータサイエンスの必要性は感じていて、事前アンケートではほとんどの学生が「データ解析をしたことはない」「今後プログラミングを用いたデータ解析の必要性は増す」と回答していました。

そこで、データサイエンスの導入教育として、太陽風データの解析実験を取り入れたんです。
太陽風とは、太陽から放出されるプラズマの流れのこと。太陽風は常に発生しているもので、地球の磁気圏・電離圏に影響してオーロラや磁気嵐などの自然現象を引き起こします。

またICT教育の入門として、タブレットPCを使った光のスペクトルの測定も実施しています。分光光度計によってスペクトル(色ごとの強度)を測り、太陽光や蛍光灯の光などそれぞれの特徴や特性を調べる実験です。
さらに太陽光では測定値と太陽が放射している光の理論値を比較します。すべてタブレットPC上で操作できるんですよ。

高専生ならば、多くが卒業研究でテータ解析に触れることになります。卒業後に進学しても就職しても使うことは多いはず。早いうちから慣れておいて損はありません。
研究室がなくても、学生と密になれる
―専攻科生にはどのように接していますか?
担当している授業は通常の座学なのですが、アクティブラーニングの要素を取り入れようと、問いかけを意識しています。
例えば、地球の内部の構造について。図鑑や資料集に、よく地球を輪切りにしたイラストが載っていますよね。マントルがあって核があって……と何層かに分かれた図ですが、これまでの人類の歴史で掘削された深度って、せいぜい10km程度なんです。
内部にたどり着けていないのに、なぜ構造が分かるのか。実は、地震が起こる際に発生する地震波から地球の構造は推測されています。このように「知ったつもりのことだけれど、どうやって調べたんだろう?」と考えられるよう意識していますね。学生たちが意外にもおもしろがってくれていて、うれしいです。
― 一般教育科の先生ですので研究室はお持ちではないですよね。他には、ご自身の研究分野をどのように教育に生かしているのでしょうか。
環境創造物理研究部があるので、声をかけて「桜島の噴火と磁場の異常」や「桜島の噴煙と大気電場」といった研究に取り組んでもらいました。大学生ばかりの科学シンポジウムで累計7回も発表しているんです。

発表した学生たちに話を聞くと「卒業研究の発表前だったんですが、この発表がすごくいい経験になった」「未知の分野のデータを使えて楽しかった」と言ってくれましたね。
理学と工学は密接に関係しているので、工学の分野の子たちの力がすごく生かせるな、と感じています。
池田 昭大氏
Akihiro Ikeda
- 鹿児島工業高等専門学校 一般教育科 准教授

2010年 九州大学 理学府 地球惑星科学専攻 博士後期課程 修了。九州大学 宙空環境研究センター(現・国際宇宙天気科学教育センター) 講師(非常勤研究員)
2012年 鹿児島工業高等専門学校 一般教育科(物理) 講師、2020年 同 准教授
鹿児島工業高等専門学校の記事

-300x203.jpg)
-600x382.jpg)
アクセス数ランキング
- 源流は高専時代!? 多様化するキャリア形成のあり方を、3者3様のスタイルから感じる
- DoubleVerify Japan セールスディレクター
小松 昇平 氏
キリンビール株式会社 流通営業本部 広域流通二支社 EC部
棚田 祥太 氏
総合コンサルティング企業 テクノロジー所属
中谷 美咲 氏
- 研究者として、教員として、父親として——2度の育児休業を経て、現在の目標は「今あるモノを残しておくこと」
- 一関工業高等専門学校 未来創造工学科 情報・ソフトウェア系 准教授
小林 健一 氏
- 数学は2つの側面を持った面白い科目! 苦手な学生にこそ伝えたい「式の意味」
- 広島工業大学 工学部 電気システム工学科 講師
石橋 和葵 氏
- 「朝活」と「Co+work」で切り開く、 コンピテンシーを育てる教育
- 明石工業高等専門学校 建築学科 教授
平石 年弘 氏
- 高専が開発する人工衛星「KOSEN-1」など、 宇宙開発に携わる人材育成に熱意を燃やす
- 明石工業高等専門学校 電気情報工学科 教授
梶村 好宏 氏
- 「KOSEN-1」がきっかけで、人工衛星開発の道へ。自分たちの研究で、少しでも課題解決の糸口を示したい
- 米子工業高等専門学校 総合工学科(情報システム部門) 准教授
徳光 政弘 氏
- 排水処理の研究は実用化まであと一歩! 高専卒の角野先生が続けた現場における研究とは
- 岐阜工業高等専門学校 環境都市工学科 教授
角野 晴彦 氏
- 東京での「修行」を経験して、いずれは富山に! 高専を卒業した2年目社員の仕事への取り組みと、キャリア設計
- 株式会社古田土経営 フィールドマーケティング課
金津 充貴 氏
株式会社Another works 経営管理部 広報
高岡 慧 氏