早稲田大学大学院を修了後、海外でも研究をされて、現在は八戸高専でご活躍されている水野俊太郎先生。幼少期から興味のあった「宇宙」を研究テーマとして選ばれた水野先生に、研究の面白さや海外での経験、教育の思いなど、お話を伺いました。
宇宙が好きで、物理学を学ぶために早稲田大学に進学
-水野先生はどんな子ども時代を送られたのですか?
小さい頃から宇宙が好きでした。私は東京都出身なのですが、渋谷に昔プラネタリウムがあったんですよ。小さい頃よく両親に連れて行ってもらって、星の話を聞いていました。また、テレビでサイエンティフィックな内容が紹介されるたびに、「不思議だな」という感覚がありましたね。
高校になってからもずっと宇宙には興味がありました。漠然と宇宙について知りたいと思っていて、そのためには物理学の知識が必要と考えたので、それが学べる早稲田大学に進学したんです。
-大学時代、印象に残っている先生はいらっしゃいましたか?
早稲田大学は、有名な先生がたくさんいらっしゃったんですよ。その中でも大槻義彦先生の授業は面白かったですね。大槻先生は、ミステリーサークルや火の玉などの「超常現象」を理論的な物理で説明されていたんです。20年ほど前の話ですが、よくテレビにも出演されていて、大学でも有名な先生でした。
ですが、授業を受けてみると、テレビのコメンテーターでお話しされるときと、授業ではかなり印象が違いました(笑) テレビに出演されているときは、面白くて分かりやすい説明をされていましたが、教壇に立つと学生相手なので、細かいところまで理論的にきっちり授業してくださいましたね。
「初期宇宙」を研究テーマに選び、数々のシナリオを考案
-水野先生は、大槻先生の研究室に入られたのですか?
私は前田恵一先生の研究室に配属になりました。前田先生は科学雑誌に宇宙関係の解説を書かれたりしていて、高校生の頃から知っていたんですよ。前田先生は「宇宙を理論的に考える」という研究なのですが、私はそこで「宇宙初期の色々な問題を説明するシナリオを考える」という研究をしました。博士論文も前田先生のもとで手掛けましたね。
「宇宙ができてすぐの光」は観測できないのですが、ある程度宇宙の温度が下がってくれば、光が宇宙の中を直進できるようになるんです。その「名残りの光」は観測ができるんですよ。「名残りの光から、初期宇宙を説明するシナリオを考える」のが私の研究でした。
観測できる「名残りの光」は、宇宙がだいたい4,000度に下がった時の光なんです。それより前の「高エネルギー期では何があったか」「次元がもうひとつあったのではないか」など、「シナリオとして妥当かどうか」を1つの基準として考えていくんです。
ちょうど大学院生の時は、もう少し詳細な観測結果が出るかもしれないという時期だったので、情報が解禁になるまでは、なかなか白黒付けられないというもどかしさはありました。それでも、いろいろな切り口で複数のシナリオを考えることは面白かったですね。
恩師の影響で、イギリス・フランスでも研究を進める
-その後、海外で研究もされていたのですね。
これは前田先生の影響が大きいです。とても視野が広い方で、多くの物事をご存じでした。日本だけでなく海外でも共同研究されていて、私が海外で研究をするきっかけもつくってくださいましたね。
前田先生からは、「日本人は枠組みの中できっちりした仕事をしようと考えるが、枠組み自体をもっと面白いものにしようと考えるのが海外」と教わりました。ポーツマス大学もパリ大学も、前田先生の共同研究先だったんです。
-日本とのギャップはありましたか?
ポーツマス大学にある「宇宙論重力理論研究所」は、私がやっている研究では名の知れた先生方がいらっしゃる研究所でした。そこでは、11時になると「お茶の時間」があって、みんなで集まって紅茶を飲みながら雑談する時間があるんです。
時事ネタがよく話されていたのですが、イギリスの物理の研究者はみんな教養があって、政治の話でも一通り自分の意見が言えることには驚きました。日本では学生がいる前で、教授が「自分は政治に対してこう思う」という話はあまりしないじゃないですか(笑) 文化の違いを感じましたね。
パリ大学では、ちょうど時期的に「宇宙からの光の統計的な性質を明らかにできるような観測結果」が出るタイミングだったんです。自分たちが進めていたシナリオにとっては不利な結果になったのですが、パリ大学の「天体核物理宇宙論研究所」の中で、自分たちの提唱しているシナリオの白黒を付けてくれるような観測結果を出してくれたりもして、やりがいはありました。
専門知識がない学生にも好評だった授業とは
-水野先生が八戸高専に着任されたきっかけを教えてください。
早稲田大学高等研究所にいるときに、初めて物理学専攻以外の学生さんに教える機会があったんです。「宇宙の面白さを伝える」という授業を行って、物理の「式」も一切出さず、図やイラストをたくさん使い、神話などにも絡めて授業を行ったところ、アンケートで嬉しい言葉をたくさんいただいて。それで、本格的に腰を据えて教育の道を目指したいと思いました。
今までは任期付きだったので、公募が出ていた八戸高専にしたところ、無事にご縁をいただきました。国際経験の部分も評価していただけたのではないかと思っています。
-八戸高専での取り組みを教えてください。
今も宇宙に関しての研究を続けています。6年ほど前に、ブラックホールの合体によって発生した「重力波」が観測されました。ですが、初期宇宙からの重力波はまだ検出されていないんです。将来、検出されるかは分からないのですが、検出できるようなシナリオをいくつか提案しているところです。
その時になってみないと分からないし、検出されたとしても、自分が提案しているシナリオ通りにはいかないかもしれません。それでも自分が提案するシナリオ通りにいけば、「このような特徴をもつ重力波が観測されるはずだ」というところまではたどり着いています。
「宇宙論」は検証可能な科学として扱われていて、それに自分が携われていることに、やりがいを感じますね。
学習していて「楽しい」と思える科目を見つけてほしい
-学生と接するうえで大切にしていることを教えてください。
私自身は「いろいろと考えることが好きだから、宇宙の研究を長年やってこられた」という経験があるので、高専の学生にはどの科目であれ、学習していて「楽しい」と思える科目を1つは見つけてほしいと考えています。
人間が力を発揮する時は、やはり「やりたいことをやっている時」だと思うんですよ。やる気になっていない学生に対して、頭ごなしに「やりなさい」と言うよりも、学生が心から勉強を楽しめるようにもっていかないと身に付かないと思います。
私は物理の教員なので、物理が出来るだけ楽しくなるよう努力はしていますが、必ずしも学生全員が「物理を楽しい」と感じる必要はないと思っています。物理を押し付けることはせず、何でもいいから楽しめることを見つけてほしいですし、そのサポートは今後も積極的に続けていきたいと思います。
-最後に高専生にメッセージをお願いします。
高専は、大学の研究室に入らないと得られないアドバイスが、日常で得られます。高校の先生は高校の学習内容を分かりやすく教える専門家である一方、高専教員は研究者であり、その人の知識を間近で聞けるのは大きなメリットだと思います。この普通高校にはないメリットを上手く使えば、有意義な5年間を過ごせると思いますよ。
また、「自分の中で常識だと思っていることが、万人に対して成り立つ常識じゃないかもしれない」と思うと、違う文化を受け入れることができると考えています。そのためにも英語は重要だと思いますね。
英語は英語でも、「受験英語レベルで単語や文法を知ること重視」より、「たくさんのことに興味を持つ」ことや「視野を広く持つ」ほうがコミュニケーションでは大切です。高専生には興味関心や視野を広く持って、日々を過ごしてほしいですね。
水野 俊太郎氏
Shuntaro Mizuno
- 八戸工業高等専門学校 総合科学教育科 准教授
1996年 私立武蔵高等学校 卒業
2000年 早稲田大学 理工学部 物理学科 卒業
2001年 早稲田大学大学院 理工学研究科 物理学及応用物理学 修士課程 修了
2004年 早稲田大学大学院 理工学研究科 物理学及応用物理学 博士課程 修了
2004年 早稲田大学 理工学術院 物理学科 助手
2006年 日本学術振興会 特別研究員(PD) 東京大学 ビッグバン宇宙国際研究センター
2009年 日本学術振興会 海外特別研究員 ポーツマス大学 宇宙論重力理論研究所
2011年 パリ第七大学 天体核物理宇宙論研究所 研究員
2014年 早稲田大学 高等研究所 助教
2017年 京都大学 基礎物理学研究所 特任助教
2019年より現職
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