恩師との出会いに導かれ、幼い頃から憧れていた京都大学に進学された、神戸市立工業高専の南政孝先生。私立高校出身の南先生は、どうして高専の教員になる道を選ばれたのか。その足跡をたどりながら、教育や研究への思いを伺いました。
数学の楽しさを教えてくれた塾の先生
―研究内容に興味を持ったきっかけはありましたか?
幼少期、母方の実家で、当時はめずらしい住宅用の太陽光発電システムを導入していて、幼いながら興味を持っていました。この時の興味関心が、現在の系統連系インバータの研究にもつながっています。
また、中学時代に通っていた塾の数学の先生がとても印象深く、こちらも私の人生に大きく影響しています。楽しそうに教えてくださる姿が魅力的で、授業はもちろんわかりやすい。そんな先生に触発されて、もともと好きだった数学好きに、さらに磨きがかかりました。
振り返ってみると、私が「教育」に関心を持つ、最初の出会いがこの先生でした。ちなみに先生とは今でも交流があり、当時の塾仲間たちと年に1回のペースで同窓会のように集まってお酒を飲みに行っています。
—高校はどのように選んだのでしょうか?
塾の先生方の勧めで、大阪府枚方市の自宅から通えて、かつ自分の学力で戦える洛南高校か洛星高校かという選択肢でした。当時は洛南が「ビシバシと鍛える」、洛星が「自由に学べる」というイメージだったので、どちらを選ぶかで道はまったく異なるのです。
結果的に洛南を志望したのは、当時、京都大学への進学実績が100人を超えていたからです。歳の近いいとこが京都大学に通っていたこともあり、憧れを持っていました。
そう言うと真面目に聞こえますが、実は私は進んで勉強するタイプではなく、けっこうサボってしまうタイプなんです……(笑) だから「自由にしていいよ」という環境だと自分は何もしないだろうと思い、ある程度、もしくは結構な強制力が働きそうな洛南を選びました。
また、より厳しい環境に自分を追い込もうと、入試後に当時1期生となる中高一貫クラスへの編入試験を受け、内部進学に入りました。すると、同級生たちは1年くらい先の勉強をしていたため、入学してすぐは彼らに追いつくのが大変でした。
現在は共学ですが、当時の洛南は男子校。文化祭や体育祭、スポーツ大会などの行事もたくさんあり、勉強とそうでない時の「メリハリをつける」ことを大切にする校風でした。おかげでクラスのメンバーとも仲良くなれたし、学校生活は充実していました。
恩師から言われた「京都大学の外に出なさい」
―なぜ京都大学に進学されたのですか?
進路の選択肢は「憧れの京都大学」一択でしたが(笑)、数学がかなり好きだったので、理学部(数学科)にするか、興味のあった電気系(工学部電気電子工学科)にするか、最後まで迷い続けていて……。選択のきっかけは、高校3年生の夏に参加したオープンキャンパスでした。
京都大学の工学部電気電子工学科に見学に行くことになり、そこで出会ったのが後々もお世話になる引原先生です。太陽光発電システム関連の電力変換のことや非線形力学系のこと、磁気浮上の話を聞いたりしたほか、実験も見学させてもらい、さらに興味が深まりました。
何より、携わっている先生方がとても楽しそうに研究内容を紹介しているのが印象的だったんです。この時、大学受験の志望学科はもちろんのこと、4年生で配属される研究室の希望も、自分の中では固いものとなりました。
電気電子工学科の中では、学部から同じ大学・同じ研究室の修士課程に進むのが一般的です。私も例に漏れず、周りの優秀な友達に影響され、大学3年生の夏ごろから院試勉強をコツコツと進めていました。
そんな中、お世話になっていた引原先生から、修士課程と博士後期課程が一貫となった【連携コース】への進学を勧められ、思い切って受験することに決めました。当時は博士後期課程に行くかどうかは決めかねていましたし、今思えば無謀だったかもしれませんが、まあそれも良しということで……(笑)。
―なぜ高専の教員になることを選んだのですか?
博士後期課程の先となると、就職を考える必要があります。中学時代の塾の先生や、お世話になった引原先生の影響で、研究と教育の両方に興味があったので、博士後期課程2年生ごろからアカデミックポスト(大学や高専の教員)を考え始めました。
その冬、指導教員の引原先生から「ポスドクなどで今いる研究室に残るのではなく、(京都大学の)外に出なさい。そして自分の研究(テーマ)や研究室を3年で立ち上げること。就職先は国公立大学のみにこだわらず、私大や高専も含めて視野を広げること。いちばん最初に採用してもらった先に行き、どんな場所でも埋もれずに自立しなさい」と激励をいただきました。
研究をしたり、教育(講義)を受けたりするうえで、京都大学は恵まれ過ぎていますが、私は当時そのことには気付かず、今いる環境が当たり前だと思っていました。そのため「外を見よ」「3年で自立せよ」という言葉が強烈に胸に刺さり、就職活動で最初にご縁をいただいた神戸高専に赴任して現在に至ります。
これまでの「教える」ノウハウの集大成
―高専で教えるのはいかがですか?
大学時代に塾でアルバイトをしていたので、一般科目を教える機会はありましたが、高専では専門授業を担当しています。教える内容も高度なので、わかりやすいようにかみくだいて、自分の言葉で伝えることを大切にしています。
教えるときのポイントは、板書と講義を分けること。ノートをとる時間は書くことに、講義の間は話に集中してもらうことで、理解をより深めてもらいたいからです。
板書は最低限のキーワードに留めておいて、話す間に大事だと思うところはメモをしてもらいます。そうすることで、教える側の私も学生たちの顔が見えるので、「理解できている/いない」「話を聞いている/いない」がわかるんですよ。この指導方法には、今まで教わる側だった自分の経験や塾でのアルバイトの経験、出会った先生方の教え方が大いに生かされています。
―研究内容について教えてください。
研究内容は多岐に渡りますが、博士後期課程時の研究のキーワードとしては「非線形力学系」「(制御を含む)電力変換回路」「電力系統」の3本柱でした。高専に着任してからは、特に電力変換回路を中心に研究内容を発展させていきました。
「系統連系のインバータ」は、簡単に言うと太陽光発電のシステムについての研究です。そのエネルギーを単体で使うのか電気と合わせて使うのかは、発電の量によって異なります。例えば、雨の日や夜は太陽が隠れるので発電量が少なくなり、エネルギーの調整が必要となるわけです。
他にも、Cockcroft-Walton回路を基にした高電圧発生回路と、それを用いる分散系ER流体関係の研究を進めています。「分散系ER流体」は聞きなれない言葉ですが、簡単に言えば電気をかけることによって流体の粘性を変化させる研究です。
水はサラサラ、歯磨き粉はドロドロといったように、流体の粘性はさまざまです。電気をかけると粘り気が出る流体は、ブレーキや振動抑制のダンパーなどに応用することができ、社会でどう活用することができるのかを考察しています。
最近では、電気工学科の教員たちが「e3研究会」というプロジェクトを立ち上げ、低学年からの早期研究指導(教育)に取り組んでいます。「機械工学」に興味のある学生は、ロボコンやレスコン、ソーラーカー部などの部活動に所属し、低学年から専門的な知識や技術を身につけることができます。
しかしその一方で、「電気工学」に興味のある学生が低学年から活動する部活動・研究会活動が本校にはなかったのです。
それまでは各先生方がボランティア的に指導していたのですが、2021年度から正式に研究会活動として「e3研究会」を立ち上げました。「研究をしたい!」「ものづくりをしたい!」などの興味を持つ学生を対象に、得意分野の先生とマッチングして、その先生のもとで早い段階から専門的な指導を受けることができます。
―未来の高専生や、現役高専生にメッセージをお願いします。
若いうちに、失敗をしておいたほうがいいと思います。ただ失敗するのではなく、なぜ失敗したかをしっかり考え、自分で試行錯誤する。そうすれば、失敗しても必ず次につながるからです。高専では「うまくいかないな」「何かおかしいぞ」という体験をたくさん積み重ねてほしいと思います。
南 政孝氏
Masataka Minami
- 神戸市立工業高等専門学校 電気工学科 准教授
2004年3月 私立洛南高等学校 卒業
2008年3月 京都大学 工学部 電気電子工学科 卒業
2010年3月 京都大学大学院 工学研究科 電気工学専攻 修士課程 修了
2013年3月 京都大学大学院 工学研究科 電気工学専攻 博士後期課程 修了
2013年4月 神戸市立工業高等専門学校 電気工学科 助教
2014年4月 同 講師
2017年4月より現職
2018年4月~2019年3月 スイス連邦工科大学ローザンヌ校 パワーエレクトロニクス研究室 客員教員
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