核融合だけでなく、特色のあるプラズマ研究を目指して研究活動を行っている、長岡技術科学大学プラズマ力学研究室の佐々木徹先生。佐々木研究室に所属する高専出身のOBOGお2人をゲストに迎え、研究内容や環境についてインタビューしました。
「こだわりがない」がキーワード
―佐々木先生の研究分野について教えてください。
佐々木先生:基本的には、プラズマをテーマに研究しています。ただ、そのときの環境や状況によって、あるいは物理的、工学的に面白いと思えるような内容であれば、プラズマ以外の研究テーマでも柔軟に取り入れています。
プラズマはモノをつくるという観点においても重要な役割を果たしますし、予測がつかないものにアプローチもできるので、研究内容があっちこっちに行きがちで(笑) カッコよく言えば、「いろんなことに挑戦できる」。違う言い方をすると、「こだわりがない」というのがキーワードだったりしますね(笑)
―所属する学生さんは、どんな研究をしていますか?
佐々木先生:私の研究室は大所帯なので、学生さんそれぞれがいろんな研究をしています。基本的には核融合に関わる内容や、瞬間的に大きなエネルギーを注ぎ込むようなパルスパワーやパワーレーザーを用いた研究、大気圧プラズマの応用研究をしています。今日同席してくれている岩佐さんは「パワーレーザーを用いた研究」、五十嵐くんは「大気圧プラズマの応用研究」ですね。
分野を融合した研究ができる
―岩佐さんと五十嵐さんは、なぜ佐々木先生の研究室へ?
岩佐さん:私は苫小牧高専の出身なのですが、進学を考えたときに、「電気専攻を生かして宇宙推進機関連の研究に携わりたい」と思ったので、インターネットで全国の国立大を調べられるだけ調べて、実際にいくつか足を運んでみたりもしました。
でも電気系の研究室の中で、宇宙推進機関連の研究ができるところは非常に限られており、そのうちの1つが佐々木先生の研究室だったんです。そこで、「長岡技科大に進学したら、佐々木先生のもとで研究できるかもしれない」という期待感が膨らんだため、この研究室をピンポイントで狙い、長岡技科大へ進学しようと思いました。
佐々木先生:やっぱり宇宙推進機のような「機械と電気などが学問的に融合している分野の研究をやりたい」となると、たいていは大学院大学がメインなので、高専の学生さんが行きやすい研究室は少ないんですよね。私の研究室では異分野が融合した研究ができるので、そこは特徴かもしれないです。
五十嵐さん:僕は鶴岡高専の出身なのですが、4年生のときに長岡技科大のオープンキャンパスに参加して、キャンパスの広さや設備の豊富さに感動し、進学を決意しました。特に佐々木先生の研究室は実験装置とか、メカメカしいものがたくさんあって。男心をくすぐられましたね(笑)
佐々木先生:私の研究室は3研究室分ぐらいの規模があって、学生さんも多いんです。また、普通の電気電子分野に比べると実験装置もゴツゴツしていますね。電気的な配線もやりますが、機械設計の知識がないと組み立てられない部分もありますので、ものづくりをしたい高専の学生さんには向いている研究室なんじゃないかなと思います。
―岩佐さんと五十嵐さんは、どのようなご研究をされているのですか?
岩佐さん:テーマとしては、「高繰り返し・高出力レーザーを用いた次世代宇宙推進機の推進性能の向上に関する研究」になります。簡単に説明すると、宇宙推進機の推進剤に外部からレーザーを照射するとプラズマが出るんですが、それを高速で排出することによって、機体が推進する形になるんです。その推進の機構をまずつくり上げることと、推進力を向上させるためには何が必要かを研究しています。
佐々木先生:実は、「瞬間的にエネルギーを投入したときに、何が起こるのか」は、ある程度分かっている部分なんです。ただ、岩佐さんが今取り組んでいるのは、それが1秒間に何千回というレベルでレーザーを照射したときに、これまで見られなかったような構造が見られたりするんです。
また、真空中で材料にエネルギーを投入したということは、そこに熱が蓄えられるので、電気ではなく熱エネルギーの伝達の話にもなります。最終的な材料の状態はさまざまな分析計測で分かっているので、このような構造ができた原因を調べ、それが最終的に推進力に与える影響を明らかにしようとしています。
岩佐さん:実はレーザー推進機自体は、まだ実用化には至っていないので、今後活躍するかもしれないという期待感はあります。ただ、私が研究室に配属された時に新しく立ち上げたテーマなので、手探りの部分も多く、そこは大変ですね(笑)
五十嵐さん:僕は「大気圧プラズマを用いての表面処理」の研究をしています。プラズマを発生させるには、真空状態が必要になるのですが、僕の研究である「大気圧プラズマ」は、真空ではない状態で、大気圧下でプラズマを発生させるんです。そして、加工したい材料の表面に大気圧プラズマを照射して、さまざまな特性を与える研究をしています。
佐々木先生:五十嵐くんがやっている研究は、私が請け負っているNEDOの「官民による若手研究者発掘支援事業」の研究の一部なんです。大気圧プラズマは比較的低温で処理できるので、材料にダメージを与えにくく、プラスチックなどの有機材料でも加工ができるんですよね。
五十嵐さん:よく、設計シミュレーションとかは「結果を狙っていく」というところがあると思うんですけど、この研究に関してはやったことが結果になるので。自分の想定していなかった結果が出たときは、悩んじゃいますね(笑)
踏ん張るときに、きちんと踏ん張れる
―研究室のいいところを教えてください。
五十嵐さん:人数が多く、それぞれ他分野の研究をしているので、研究中に分からないところが出ても、誰かしらは知っているという環境はありがたいですね。
佐々木先生:私の研究室には教員が3人いますけど、分野がちょっとずつ違うんですよね。そういう意味では、「この質問はこの先生に聞いてみたらいい」とバトンタッチもできますし、学生さんが困っているときはこちらから提案もします。
あと、学生さんには基本的に自分のスケジュールを全部公開しているんです。「空いているところがあれば、スケジュールいれていいよ」って(笑)
岩佐さん:それ本当にありがたいんですよね。佐々木先生はお忙しいので、ご相談したいことがあれば早めに先生のカレンダーに予定を入れることができます。もちろん早い者勝ちにはなりますけど(笑)
佐々木先生:私としては、学生さんがわざわざアポイントを取るためのメールのやり取りをするくらいならば、私の予定を決めてくれたほうがより効率的なので(笑)
五十嵐さん:確かに「アポを取る」というちょっとした時間が削れるので、その時間は別のことに集中することができ、助かっています。あと、研究室にコアタイムがないので、自分が集中できる時間に研究できるのもいいところですね。
―お2人から見た佐々木先生はどんな存在ですか?
佐々木先生:これ、言うのも聞くのも…なんか罰ゲームみたいだね。
一同:(笑)
岩佐さん:私はコツコツ努力型のため、何事も人よりも時間をかけて習得していくタイプですが、先生は私の性格を理解して、「焦らずにまずはこれを」と、すごく的確なアドバイスや、一言で自分の心にぐっと響くような言葉を下さるんです。
もちろん研究室にはいろいろタイプの学生がいるので、それぞれの学生をよく見て、合っているやり方とか伝え方をしてくださっているなと感じます。
佐々木先生:そう見られているのであれば良かったです(笑) 基本的なスタンスは一緒ですが、学生さんの個性に合わせてちょっと変えたりはしていますね。
五十嵐さん:実験や文章作成、プレゼンテーションとか、ちょっと自分がつくって佐々木先生に見せたときに、「ここをこう直して」と、すぐレスが返ってくるんですよね。研究が早く進められるので、すごく助かっています。
佐々木先生:メールでもチャットでも、質問から時間が空いてしまうと学生さんが不安になるだろうから、できる限り早く返信しようとはしていますね。
私の研究室は「踏ん張る時に、きちんと踏ん張れる」学生さんが揃っていると感じます。逆に言うと、2人は踏ん張り過ぎているところもあるので、そこは私の方でも調整するようにはしていますね(笑)
学生さんに合わせて、これからも柔軟に変えていきたい
―最後に、高専生へメッセージをお願いします。
佐々木先生:長岡技術科学大学の設置目的が、より高度で指導的技術者を目指したい高専生のための大学であり、他の大学と比較しても特色のある設備や環境で研究や教育を受けられるということが大きな特徴だと思います。本年度から技術革新フロンティアコースという編入学直後から希望する研究室に配属できるコースも設置されました。
その他にも、長期インターンシップ制度などといった他大学にはない制度もあり、自分の能力を学生時代に高めることができる仕組みがあります。
また、ツイニングプログラムによって日本語を学んだ留学生も多くいるので、国際色も豊かです。さらに大学院では、私の所属する技術科学イノベーション専攻のように5年一貫の博士コースにより、通常の研究以外にもクリエイティビティを高め、国際性が豊かな人材を育てる工夫のある教育プログラムがあるので、国内外で活躍できる人材を目指す学生にとっては、恵まれた環境で過ごすことができると思います。
私の研究室では、入ってくる学生さんの希望に合わせて、柔軟に研究テーマの設定もできます。このため、他の研究室よりも研究分野の選択肢があり、さらにさまざまな知識を学べることが強みなので、プラズマだけでなくプラズマに関連する分野の研究テーマも選べます。高専生には、目標があれば、すごく充実した学生生活が送れるよと伝えたいです。
五十嵐さん:僕は高専のとき、けっこう勉強を頑張ってきたので、成績が良かったんですよね。それで天狗になっていたんですけど、大学では周りの人がすごく頭がいいことに気づいてショックを受けたんです(笑) でも、その分自分も頑張ろうと思えたので、進学して良かったと思っています。環境を変えてみたいとか、研究をもっとしたいと思うのであれば、進学はおすすめですね。
岩佐さん:私は高専在学中に興味のある分野をもっと学びたいと思ったので進学を選びました。進学して良かったことは、研究に没頭できることはもちろんですが、人との交流が広がったことです。佐々木研では、先輩たちとの交流会や、長岡の花火大会、フットサル大会や、追い出しコンパなど、感染対策はしっかり行ったうえで楽しんでいます。そこで先輩や同期と仲良くなって、研究でもサポートしてもらえるので、安心してもらえたら嬉しいです。
佐々木 徹氏
Toru Sasaki
- 長岡技術科学大学 技学研究院 技術科学イノベーション系 准教授
2008年 日本大学 理工学部 物理学科 助手
2009年 長岡技術科学大学 電気系 助教
2012年 同 准教授
2015年 長岡技術科学大学 技学研究院 電気電子情報工学専攻 准教授
2022年より現職
岩佐 百華氏
Momoka Iwasa
- 長岡技術科学大学 大学院工学研究科 工学専攻 電気電子情報工学分野
2020年 苫小牧工業高等専門学校 電気電子工学科 卒業
2022年 長岡技術科学大学 工学部 電気電子情報工学課程 卒業
2022年 長岡技術科学大学 大学院工学研究科 工学専攻 電気電子情報工学分野 1年
五十嵐 滉大氏
Kodai Igarashi
- 長岡技術科学大学 電気電子情報工学課程
2021年 鶴岡工業高等専門学校 創造工学科 電気・電子コース 卒業
2022年 長岡技術科学大学 電気電子情報工学課程 4年
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