全国高専に先駆けて取り入れた「情報セキュリティ教育」や「オンデマンド型授業」など、新しい指導方法や教える仕組みを常に工夫されてきた石川工業高等専門学校 電子情報工学科の小村良太郎先生。「高専は学生も教員も多様性があるので、それぞれに合った授業や勉強方法を見つけてもらいたい」と語る、小村先生の取り組みについて伺いました。
全学科横断型の「情報セキュリティ教育」とは
-高専教員になったきっかけを教えてください。
実は就職先を考えるタイミングまで、高専教員ってまったく思い描いてなかったんですよ(笑)。もともと子どもの時から理科好きで、高校は普通科でしたが、物理や化学が好きなタイプでした。アマチュア無線の免許を取ったりもしていましたね。そう考えると学生時代から情報系の分野に興味があったんだと思います。大学院時代の恩師が、もともと高専教員をしていた方だったので、高専についてはその時にいろいろと教えてもらいました。ちょうどその頃、石川高専の募集が出ていたので、縁あって本校に着任したという経緯ですね。
-石川高専では、「情報セキュリティ教育」に力を入れていると伺いました。
高専機構が主体となって取り組むK-SEC(情報セキュリティ人材育成事業)という事業があるんですが、石川高専はその拠点校のひとつとして5年ほど前から活動しています。中核拠点となっているのが高知高専で、ほか一関・佐世保・木更津・石川の4校の拠点校があり、相互に連携しながらカリキュラムや教材をつくったり、イベントやコンテストの開催などを行っています。
さまざまなものがインターネットに繋がるようになり、情報セキュリティが重要になってきた世の中で、高専でもセキュリティについてある程度対応できる人材を育てていこうという目的でスタートした事業です。私は情報科の教員なので、情報セキュリティについて学ぶことはありますが、この事業は機械科や建築科など全学生を対象に「情報セキュリティ教育」を実践しようというところが特徴です。
-「情報セキュリティ教育」をどういった授業で取り入れているのですか?
情報科ですと「情報リテラシー」という授業で、これまでは「WordやExcelを使えるようになりましょう」という内容だったのですが、そのコマを利用してセキュリティの実験などを行っています。また環境都市工学科ではドローンを使用し、ドローンがハッキングされると落下する危険があるんだよということを実際に見せつつ、授業を行っていますね。
K-SECの事業は、今年から高専機構が進める「COMPASS 5.0」の事業に組み込まれることになり、次世代のイノベーション創出に向けた人材を輩出するための基盤となる予定です。「COMPASS 5.0」というのは、AI・数理データサイエンス、サイバーセキュリティ、ロボット、IoTという分野を、これからの技術の高度化に関する羅針盤(COMPASS)と位置付け、高専教育に組み込み、新たな時代の人材育成機関としての高度化を図ることを目的とした事業です。
-情報セキュリティの分野において、イベントやコンテストなども行っているとのことですが、具体的にはどのようなものでしょうか?
SECCONという、情報セキュリティをテーマにさまざまな競技を開催する情報セキュリティコンテストイベントがあるのですが、その大会と連携して、高専向けの「CTF (=Capture the Flag:隠されたキーワードをセキュリティのスキルを用いて探し出すゲーム)」の大会などを開催したり、セキュリティ上の問題が発生した際の経済的な損失はいくらになるかという、経営に関わるような課題に取り組む講習会などを行っていますね。
COVID-19の流行以前にいち早く取り入れた「オンデマンド型授業」
-先生は「オンデマンド型の授業」も、5年ほど前から取り入られていたそうですね。
NTTドコモが主体となって立ち上げたオンライン学習ツール「gacco」を取り入れたんです。2015年頃だったと思うんですが、NTTの方からこのコンテンツを実際の授業の中で展開してほしいという相談を受け、取り組み始めたのがきっかけでした。
「gacco」は、MOOCs(=インターネットを通じたオンライン学習)と呼ばれる仕組みなんですが、当時は事前学習教材として取り入れていました。2年生を対象とした授業で「3Dプリンタとデジタルファブリケーション」という科目を採用し、学生たちには事前に宿題としてオンラインで学習してもらってから、教室ではディスカッション等の発展的な学習を対話的に行なうといった反転授業です。
全国高等専門学校デザインコンペティション(=デザコン)に3Dプリンタ部門があるのですが、gaccoで3Dプリンタの授業を受けた学生が出場したんです。3Dプリンタを使い情報技術と組み合わせた作品をつくって優勝したので、この授業を取り入れてよかったと思いましたね。
gaccoのコンテンツ自体は、いまはもう取り組んでいないのですが、この経験があったからこそ、昨年のCOVID-19による授業のオンライン化には特に困ることもなく、スムーズに対応できました。
-新しい指導方法などにいち早く取り組まれていていたことが、役に立ったんですね。
そうですね。COVID-19渦でのオンライン授業は、まず学生がどうやったら勉強しやすいかということを考えました。オンラインでのリアルタイムのやりとりもいいんですが、学生のインターネット環境が分からないということもあったので、やはりgaccoのスタイルに行きつきましたね。
gaccoでは、ビデオを聴講するとその内容に関する小テストが出題されるんです。その仕組みをCOVID-19渦でも使って、10分のビデオを聴講したらテストに取り組み、テストで満点を取らなければ次のビデオが聴講できないという形につくりこみ、授業を行いました。ビデオとテストがセットになったスタイルですね。ありがたいことに、学生からの評判も良かったので、この仕組みは今後も取り入れていく予定です。
-常に新しい教育方法や育成事業に取り組まれているんですね。学生と接する際に心掛けていることなどはありますか?
私の学生時代もそうでしたが、学生にとって、合う先生と合わない先生がいるし、合う授業スタイルと合わない授業スタイルがあると思うんです。そういう意味では、高専は教員ごとに教え方が異なるので、そこが学生にとってもプラスになってくれればと思っています。オンライン授業のやり方ひとつとっても、私のようにビデオを活用した授業をする教員もいれば、板書を撮影してリアルタイム配信する教員もいます。いろいろなスタイルの授業をやっているので、学生が自分に合った勉強方法を見つけてもらえればいいなと思っていますね。
小村 良太郎氏
Ryotaro Komura
- 石川工業高等専門学校 電子情報工学科 准教授
2000年 金沢大学大学院 自然科学研究科 電子情報システム専攻 博士課程前期 修了、2003年 同自然科学研究科 数理情報科学専攻 博士課程後期 修了、同年 日本学術振興会 特別研究員
2004年 石川工業高等専門学校 電子情報工学科 助手、2006年 同講師、2008年 同准教授
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