入試倍率や地元就職率が、全国高専のなかでもトップクラスの石川高専。その校長として学校運営に携わってこられた須田義昭先生に、校長としての役割や取り組まれてきた教育改革について伺いました。
佐世保高専でのキャリアを経て、石川高専の校長へ
-石川高専の校長に着任されるまでは、佐世保高専にいらっしゃったそうですね。
マスターを出て、24歳で佐世保高専に赴任し、そのまま佐世保で38年教鞭をとっていました。その後62歳のときに校長に推薦していただき、石川高専に赴任。石川に来て今年で5年目になります。
校長職は、教員に就いていた高専とは異なる高専に赴任することが通例です。私も校長になることを機に佐世保から石川に越してきました。
-石川高専に赴任されたときの印象は?
生まれは福岡で、石川はこれまで1度くらいしか訪れたことがなかったので、当初は生活の違いに驚きましたね。なにせ九州と違って雪が多い。赴任して2年目くらいまでは雪も楽しんでいましたが、雪かきの大変さに苦戦したりもしました。そういう意味では九州が恋しいと思うこともありますね(笑)。
石川高専に赴く際、「石川高専は全国高専の中で入試倍率も地元就職率もトップクラス。科研費も全国トップ5」ということで、「とにかくいまのレベルを落とすことがないように」と言われていました。
赴任して知りましたが、「地元に就職できる企業が多い」というのも際立っているんです。40~50%の本科学生が地元に残って就職しており、専攻科を出た学生だと50~60%が地元に就職しますね。この数字には私も驚きました。
確かに佐世保と比べても、地元に企業が多いんです。佐世保は三菱重工とか佐世保重工など造船系が多いんですが、ここ石川はコマツに澁谷工業、アイ・オー・データ機器など、機械系の会社やニッチトップの企業がたくさんあります。
また「石川高専技術振興交流会」というものがあって、会員企業と石川高専とで連携・交流を深めている企業が252社あり、企業技術説明会やインターンシップなどが盛んに行われています。
校長として実践するグローバル技術人材育成事業
-そんな石川高専で先生が実践された取り組みとは?
校長としての業務は、やはり学校全体を見なければいけません。学校全体の運営や入試関連、また危機管理やリスクマネジメントなど、会社経営に近い部分もあると思います。
最初は「今のまま維持してもらえれば十分です」というようなことを聞いていたんですが、それでもさまざまな改革をして、グローバル技術人材の育成や、授業改善などに取り組みました。
特に国際化、グローバル技術人材の育成に関しては、佐世保高専でやってきた経験を活かした取り組みで、先生方にも協力してもらって「“KOSEN(高専)4.0”イニシアティブ」に採択され、「地域連携による実践的なグローバル技術人材育成―地域企業との共同によるキャリアデザイン教育」というプログラムに技術振興交流会と連携して取り組んでいます。
本科4年の全学生を対象にした海外研修旅行や、長期海外インターンシップ、また文部科学省が展開する官民協働の留学促進事業「トビタテ!留学JAPAN」を利用した海外留学などは力を入れましたね。とはいえ、なかなか思うように進められないこともあったりして、学校全体の改革の難しさというのは感じました。
-海外研修旅行や留学においての学生の反応は?
最初は、「海外に行きたくない」という学生もいましたが、行ってみたら「こんなに英語が必要なんだ」ということを実感し、海外の学生が一生懸命勉強しているのを見て刺激を受けるようです。「今度訪れるときはもっと英語力をつけてコミュニケーションできるようになりたい!」など、意識が変わる学生が多い印象です。
当校の建築学科は、4年生の海外研修旅行として約1週間ベトナムに行き、ハノイ建設大学との交流をメインとした研修を行います。事前に、石川高専の学生は、「金沢の街並みをどう維持していくのか」、ハノイ建設大学の学生は、「ハノイの古い街並みをどう維持していくのか」を議論してから臨み、現地で互いに英語でディスカッションするプログラムを組み込んでいます。
また、現地で起業したOBとの交流もあることから、学生にも良い経験になっています。このことから、トビタテ!留学JAPANにてベトナムに留学する学生や専攻科修了後、ハノイ建設大学の大学院に進学し、そこでマスターの学位を取って、さらに国立台湾大学のマスターの学位(ダブルディグリー)を取得した学生もいます。
国際化については、下級生にも良い影響が出ていると思いますし、私が取り組んだ事業のなかでも良い方向に進んでいると思います。
40年以上高専教育に携わってきた、集大成の1年に
-これまで40年以上、高専教育に携わってこられた先生から見た高専の良さとはなんでしょうか。
そうですね。学生と教員の距離が近く、一緒にいろんなことができたというのは一番良かったかなと思います。また、卒研やクラブ活動などを通して、5年間で大きく成長した学生たちを見てこられたことは思い出深いです。私自身、5年生の担任を4回ほど受け持ったことがあるのですが、送り出した子たちとは、今でも時々連絡をとっていますし、教え子が教員となって遊びに来てくれることもあります。
-来年はご定年ということで、校長職も残りあと1年と伺いました。
定年まであと1年。このまま石川高専での取り組みに全力を注いでいきたいと思っています。2020年はCOVID-19の影響で、海外研修や留学など軒並み中止になってしまいました。今年はCOVID-19が収束して、課外活動や国際交流を含めた研修旅行など、いろんなことができる世の中になってくれないかなという期待を持ちつつ、入試倍率を上げ、良い学生を集めてしっかりと教育できる環境を整えていきたいと思っています。
須田 義昭氏
Yoshiaki Suda
- 石川工業高等専門学校 校長
1978年 熊本大学大学院 工学研究科 修士課程 修了、同年 佐世保工業高等専門学校 助手、1981年 同講師。
1983年 文部省在学研究員(西オンタリオ大学・テキサス大学)
1985年 佐世保工業高等専門学校 助教授
1998年 スウェーデン王立工科大学 客員研究員
1999年 佐世保工業高等専門学校 教授・寮務主事、2004年 同専攻科長、2007年 同副校長(教務主事)、2013年 同校長補佐(広報・国際交流・男女共同参画担当)
2016年 石川工業高等専門学校 校長
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