富山商船を卒業後、信州大学に進まれ、現在は富山信用金庫で働かれている牧野収さん。中学生の時、中国へ行った経験がきっかけとなり、高専への進学を決意したとのこと。お客様や地域のためにお仕事をされている牧野さんに、高専時代の思い出や、お仕事のやりがいについて伺いました。
「国際交流派遣団」がきっかけで、富山商船高専に進学
―牧野さんが富山商船高専(当時)に進学されたきっかけを教えてください。
兄が富山工業高専(当時)の出身だったこともあり、ルールに縛られない校風や、自分が志した専門分野の勉強ができること自体は知っていました。私にとって高専は入学する前から身近な存在でしたね。
また、中学校3年生のときに「富山市国際交流派遣団」の一員として、富山市の姉妹都市である中国河北省の秦皇島市に行く機会がありました。学校の代表として参加したのですが、当時の中国はまだ発展途上で、中学生ながらにエネルギッシュさを感じ、非常にカルチャーショックを受けました。
自分自身にとって初めての海外経験でしたが、自分の世界が大きく広がったように感じ、「将来的に海外を行き来するような仕事がしてみたい」と考えましたね。その経験もあり、自然と国際流通学科(現:国際ビジネス学科)への進学を考えました。
-高専に進学されていかがでしたか。
語学の時間が非常に思い出深いです。3年生まで担任していただいた長山昌子先生には大変お世話になりました。自分で決めて高専に入学したとはいえ、中学を卒業したばかりなので、当たり前に子供なんですよ(笑) そんな私たちに「もっと考えた方がいい」とよく問いかけてくださいました。
また3年生の時にはオーストラリアに留学し、3週間ホームステイをしました。ホストファミリーと過ごすのは貴重な体験でしたし、「オーストラリアで過ごしている間も、日本では別のことが起きている」のは不思議でしたね。また、オーストラリアは晴れた日が多くて青空が綺麗なのですが、「この空が日本まで続いているんだな」と世界の広さを感じました。
あとは商船高専なので、「若潮丸」で乗船実習をする機会があったんです。そのおかげで、今でも出張などで港の貨物船が動いているのを見ると、経済の動きを感じてぐっときます。
-高専時代はどのような部活に所属していたんですか。
小学校からずっとサッカー部だったので、高専も3年生までサッカー部に所属し、ずっとMF(ミッドフィルダー)という中盤のポジションを任されていました。
高専という枠組みではありますが、3年生の時に全国高専大会に出場できたのは非常に良い思い出です。しかし、全国高専大会では1回戦で都立航空高専と対戦し、7-0で大敗しました(笑) 会場だった愛媛の新居浜高専まで行きましたが、1回戦で負けてすぐに帰ってきたのが思い出に残っています。
あとは3年生の時に北陸地区の高専大会に出場し、1試合で2点取れたことは活躍できた瞬間でしたね。
-卒業研究はどのようなことをされたのですか。
松尾ゼミで松尾先生と宮重先生に非常にお世話になりました。松尾先生は物流関係が研究分野だったので、私は「ロードプライシングによる交通需要マネジメント」について研究。簡単に説明すると、「道路が渋滞する場所の寸前で課金し、経済的負担を与えることで需要をコントロールする」という発想ですね。
一つのテーマに対し論理的に考えることなど、指導を受けたことが大変よかったです。また、研究を通じて、経済学者である宇沢弘文先生の「社会的共通資本」の考え方に触れたことで視野が広がりました。環境に対して負荷をかけている方は経済的な負担をすべきなど、現在のSDGsにもつながる、「公共財に制約をかけ需要と供給のバランスを取る考え方」に感銘を受けたのです。
恥ずかしいことに私はそれまで本を読むことがあまりなかったので、まず文献を読むこと自体が大変でしたし、自分なりにかみ砕いてまとめることも難しかったですね。しかし、自分で勉強するきっかけにもなりました。
松尾先生の論文の書き方のご指導は本当に勉強になりましたし、宮重先生は自分の将来像を考えるにあたっていろいろな示唆を与えてくださいました。
財務省出身の教授の下で、財政・金融について学ぶ
―その後信州大学に編入学されているのですね。
私は国際流通学科の2期生でしたので、高専に来ている求人も運送会社や物流会社の事務職で、なかなかイメージが湧かなかったんです。自分のキャリアや人生の幅を広げることを考えると、やはり大学に進学した方がいいだろうと思いました。
高専を卒業した2002年は、ちょうど小泉構造改革の時代。ゼミを通して社会の動きに関心を持つようになり、銀行の不良債権問題などが取り上げられていたので、「財政金融のゼミに行くと刺激的で面白いだろう」と思い、宮重先生の出身大学でもある信州大学に編入学しました。
当時ゼミ担当だった先生は財務省出身で、時流を捉えた話をよくしてくださいました。「税のあり方が国のあり方を決める」というお話が印象的で、限られた財源の中でどう運営していくかという考えや、地方創生などのお話が非常に印象深く残っていますね。
卒業研究は、当時、富山信用金庫に就職が内定していたため「リレーションシップバンキングと地域金融」について研究を行いました。「リレーションシップバンキング」とは、まさに今の仕事ですが、「お客様と長期的・多面的な関係を構築し、金融を推進する」という考え方です。「お客様がどんなビジネスをされているか、どんな世帯や地域でどのようなポジションについているのか」など、地域により密着した事業者と金融機関による関係性と信頼に基づく金融について考えました。
やはり地域の金融機関が生き残る一つの大きな手段は地域に密着していくことですし、地域に貢献するためにはあくまで足元の数字で判断するのではなく、お客様の事業そのものをしっかり見て、しっかり情報を取れるように関係性を強化することが大切だという結論に至りました。
編入学した後も、論文やレポートを出すと研究室の先生に褒められたので、高専の時期にトレーニングを受けたことが活きましたね。
富山信用金庫だからこその、お客様との関わり方
―現在はどのようなお仕事をされているのですか。
富山信用金庫で営業推進部の部長をしています。営業推進部は金庫全体の営業戦略の立案と実行をサポートする部署です。例えば、預金や融資の商品開発も我々の業務になりますし、最近では投資信託や資産運用の商品を仕入れて販売することも業務の1つです。業績の責任は我々の部署にあるので、営業店の収益管理もしています。
私たちが大切にしていることは「お客様に真摯に向き合うこと」です。お客様に対して、どの銀行の窓口よりも気持ち良い挨拶をして、お待たせすることなくスムーズにご案内し、ご相談には親身になってじっくりお話をお伺いすることを徹底しています。
これは、富山信用金庫の前身である「富山売薬信用組合」から受け継がれている、お客様第一という考え方です。富山の薬売りには「先用後利」という、まずはお客様の役に立つのが先で、利益は後にといった独特の商法・哲学で、置き薬をお客様のお宅に預け、使用した分だけ後から代金を受け取るビジネスモデルです。
単に「ファースト・ユーズ、ペイ・アフター」だけでなく、定期的な訪問によるお客様とのコミュニケーションの中で、お互いの信頼関係を構築していくといった営業活動を実践していたのです。我々は株式会社ではなく「協同組織金融機関」のカテゴリーですので、「地域の中で経済を回す」ことが我々のミッションです。そこは他の銀行さんとは違うところかもしれないですね。
ですので、「すぐに結論を出さず、しっかりお客様のお話を聞いて、精一杯お応えできるように向き合う営業をしてください」と営業には伝えています。以前はお客様の経営相談の担当をしていましたので、その時はお客様の事業がうまくいって感謝されたときに大きなやりがいを感じました。支店長の頃は、店舗職員と一緒にチームで何かを達成したときの喜びは非常に大きかったです。
今は常勤理事という、いわゆる法人の役員と同様の立場ですので、信用金庫全体のことも考えなくてはなりません。今は会社の業績が少しでも良くなるとやりがいを感じますし、メンバーがハツラツと仕事に取り組んでいる姿を見ると幸せです。なにより、お客様からいただく「やっぱり信用金庫はいいよね」というお言葉が非常に嬉しいですね。
私自身もまだまだ経験が足りませんので、成長してステップアップできるよう努力をしています。また、会社自身がより成長し、お客様や地域にとって本当に必要とされる金融機関になっていくことが我々の責任であり目標です。
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
高専生の時期は本当に楽しいですし、人生についても悩む時期ですので、辛いときもあるかもしれません。しかし、それも含めて今を大事にしていただきたいと思います。遊ぶことも全く否定しませんし、勉強もした方がいいと思いますし、思い切り何かにチャレンジされたらいいと思います。
私の場合、自分で勉強する必要性に自分自身で気付いて、納得して勉強したり遊んだりした学生生活を過ごせたのは非常に良かったですね。思い切り楽しむことも悩むことも若者の特権だと思います。「今」を大切に様々なことに挑戦してください。
牧野 収氏
Osamu Makino
- 富山信用金庫 常勤理事 営業推進部長
2002年3月 富山商船高等専門学校 国際流通学科(現:富山高等専門学校 国際ビジネス学科)卒業
2004年3月 信州大学 経済学部 経済学科 卒業
2004年4月 富山信用金庫
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