土木の観点から社会基盤や地形変動、河川工学などの研究に取り組まれている北海道大学の岩崎理樹先生。きっかけをつくったのは、岩崎先生が5年間通った苫小牧高専 環境都市工学科(現:創造工学科 都市・環境系)でした。研究内容と、これまでの道筋などについてお伺いしています。
高専で見たシミュレーション動画
―現在の研究について教えてください。
学生時代から変わらず、自然環境中の水の流れや、それによって移動する土砂、その相互作用として変化する地形の研究をしています。具体的には、「どのくらい雨が降ったら、どの程度の河川の流速や水位になるか。また、地形はどのように変化するか」を定量的に予測する研究で、洪水や氾濫といった被害を起こさないためにはどのような対策が必要かという観点で重要になります。
また、こうして自然に形成される河川の流れや地形は、動植物の生息環境にも関わります。将来的に洪水や渇水などの極端な事象の増加が予想されている中、安心安全な社会を実現するための河川づくりが強く求められると同時に、そこに育まれる生態系を保全し、より良い環境をつくっていく必要があるのです。
このように、河川に求められる目標像は時代とともに多様化・複雑化しています。より良い河川づくりのために、多くの研究者や技術者、行政担当者などと議論を交えながら研究を続けているところです。
―その研究に出会ったきっかけを教えてください。
2003年8月、台風10号が日本列島を縦断し、各地に様々な被害をもたらしました。特に、私が住んでいる北海道の人的被害が最も多く、同級生の実家の前が川のようになったという話も聞き、とても印象に残っていました。その後、北海道内の研究者により水害調査が行われ、ある講義の中で当時の氾濫被害をシミュレーションした動画を見る機会があったのです。
高専で工学を学んでいる以上は何か役に立つことがしたいと考えていたこともあり、自分もこんな研究をやってみたいと思いました。その氾濫シミュレーションを実施したのが北海道大学の清水康行先生だと知り、高専卒業後に北海道大学へ編入した後は、清水先生の研究室に配属となり、シミュレーションを中心とした研究を続けて今に至ります。
―そもそも、高専に進学をしたのはなぜだったのでしょうか。
進路を決める時期の2000年頃はいわゆる就職氷河期で、将来的な就職先を見つけることに漠然とした不安を持っていました。そんな中、当時でも就職率ほぼ100%の高専という選択肢はある程度魅力に感じたのが、正直なところです。また、長期休暇が長く、校則が高校のように厳しいわけではないといった大学に近い部分にも惹かれました。
入学式当日に担任の先生から「高専は進級が簡単ではない」と説明されたこともあり、焦りを感じて勉強はおろそかにしないようにしていました。寮では平日20時半から22時半までが学習タイムと設定されていたので、半強制的ではありましたが、自然と学習をする習慣が身についたと思います。
特に将来的にやりたいことはなかったのですが、大学進学も選択できる成績は維持できていたので、卒業後は大学に行くことは4年次頃から決めていました。そんなときに先述したシミュレーション動画に出会ったという流れです。
ニーズに合わせて研究の幅を広げていきたい
―大学で希望の研究に携わってみていかがでしたか。
修士から博士課程まで清水先生の研究室に所属し、自然環境中の河川の流れ、およびそれがつくり出す自然地形に関する研究を行いました。しかし、これらの期間では研究がうまくいくことはあまりなく、良い結果が出せなくて日々悶々としていたことが強く記憶に残っています。
実は修士1年の頃に早々に自信を失い、就活に励んだこともあったのです。当時は「このままだったら博士まで進むなんて無理だ」と思っていました。また、企業で働きながら研究が恋しくなったらまた戻ってきたらいいか、というようにも考えていました。ところが、周囲の方に相談にのっていただく中で、やはり博士号は先に取得したほうがいいと思い直し、なんとか続けることができました。今考えてもその選択は間違っていなかったと思います。
―博士号取得後の進路について教えてください。
学位取得後は、紹介を受けてアメリカに2年間留学しました。それまでは「博士号を絶対に取らなければ」という一心で駆け抜けていたので考える余裕があまりなかったのですが、留学するにあたり自分の研究結果をまとめたり、発表をしたりしていく中で、少しずつ「研究職の道でやっていけるかもしれない」と、自信がついたのを覚えています。
帰国後はありがたいことに縁があり、北海道大学の工学研究院で准教授として現在は働いています。学生は私が考えつかないことをやってのけたりするので新鮮ですし、最初は右も左もわからなかったような学生が卒業時には成長している姿を見ると、やりがいを感じますね。そういうところは子育てに通じるところがあると思います。
―学生時代から今に至るまで研究を続けてきて、思うことはありますか。
私が今の研究の道に進んだきっかけは、コンピュータによる数値シミュレーションです。当時に比べると性能は格段にあがり、シミュレーションを主なツールとして扱う研究も増えてきました。
また、ソフト化されるなど使いやすい技術となってきており、私も河川解析ソフト開発プロジェクトの一つであるiRICという活動に参画し、国内外で講習会に講師として参加したりしています(プロフィール画像はその際の一コマ)。ところが、シミュレーションはあくまでもシミュレーションであり、実際のものと照らし合わせなければ、コンピュータの計算が正しいかどうかはわかりません。
こうしたことから、最近は実態把握も大事な研究だと考えるようになりました。そこで、河川植生の生育状況をUAV(無人航空機)で測量して把握する研究や、流木やプラスチックごみなど、河川を流れる物質動態を把握する観測や計測なども行っています。多様な社会ニーズに対応するためには幅広い技術と見識が必要ですから、今後も地道に続けていきたいものです。
また、私が先にお話しした研究に取り組んでいるのは、もちろん社会的に重要であり、土木工学の研究者としてするべきだからですが、一方で「どのような現象が起きているのかを深く知る」という研究をとても面白いと思っているからでもあります。そのため、基礎的な研究に傾倒する場合もあり、学生からは「何の役に立つんですか?」と聞かれることもしばしばです。
しかし、基礎的なことを知ると、応用的なことが分かるようになりますし、興味やアイデアもさらに湧いてきます。「とことんはまり込んでいくこと」でそういったことが可能になりますから、できれば「面白いと思うこと」と「社会的に重要であること」のバランスを取りながら研究していきたいです。
心身の健康がパフォーマンスに繋がる
―今後の目標を教えてください。
心身の健康を保ちながら成果を最大化することですね。最近は研究以外の業務に関わる機会が増え、なかなかまとまった時間が取れずに「こなす」日々になっているのが気になっています。自分がやりたいことに没頭する時間もとれるように、バランスをとっていくことがひとまずの目標です。
また、バランスといえば、5歳と3歳の息子たちの子育てをはじめとした家庭と仕事のバランスについても大きな課題です。コロナ禍では出張や対面会議、飲み会がほとんどなくなり、手はかかるがかわいい時期に結構な時間を家庭で過ごすことができました。しかし、最近はいろいろなことがもとに戻り始めているので、頑張りどころかなと思います。
最近は気分転換のためにランニングにはまっています。体力づくりも兼ねて週に40km走るようになりました。いつか、フルマラソンの大会にも出たいなとも思っています。
―高専生にメッセージをお願いします。
高専に入学し、順風満帆の人もいれば「こんなはずでは」と思っている人など、様々な学生がいると思います。いい風が吹いている人にはたくさんのチャンスが訪れるでしょうから、その機会を逃さずたくさんの経験をしてください。
ただし、中には苦痛を伴うものもあるでしょう。そんなときにはよく考え、「やる」「やらない」を自分の意志で決めることも大切です。何より、パフォーマンスを最大にするには心身の健康を保つことが欠かせません。悶々とした気持ちのままでは良い成果は出ないので、気持ちを元気にする手法を持っておくことをおすすめします。
また、特にうまくいっていない人は不平不満によりつい愚痴っぽくなると思いますが、他人や環境に責任転嫁したところで現状は変わりませんし、失った労力や時間は永久に返ってきません。そうならないためにも、やはり日頃から考えを巡らせておきましょう。なんとなく流されて決めたことで失敗すると必ず後悔します。周囲の意見を参考にしつつも、最後は自分できちんと決断し、進むべき道を見つけてください。
岩崎 理樹氏
Toshiki Iwasaki
- 北海道大学 工学研究院 土木工学部門 准教授
2006年3月 苫小牧工業高等専門学校 環境都市工学科(現:創造工学科 都市・環境系) 卒業
2008年3月 北海道大学 工学部 土木工学科 卒業
2010年3月 北海道大学工学院 北方圏環境政策工学専攻 修士課程 修了
2013年3月 北海道大学工学院 環境フィールド工学部門 博士後期課程 修了
2013年4月 北海道大学 工学研究科 博士研究員
2014年5月 米・イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 土木工学科 博士研究員
2016年6月 国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所 寒地河川チーム 研究員
2019年6月より現職
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