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何事も極めたい、突き詰めたい——苦手な英語を天職にした「コーパス言語学」との出会い

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「何事も極めたい、突き詰めたい」がモットーである、神戸市立工業高等専門学校(以下、神戸高専)で英語を担当されている石井先生。意外にも高校時代まで英語が苦手だったそうです。大学卒業後にイギリス留学で学んだ「コーパス言語学」の研究についてお話を伺いました。

調べることが好き、歴史から学んだ研究・調査

―英語より歴史が好きだったという、高校までのお話をお聞かせください。

中高は一貫校だったのですが、「高校受験がないから、絶対に遊ぼう!」と思い、勉強は全くやっていませんでした(笑) 中高はバスケ部に打ち込み、「バスケをするため」に学校に行っていた思い出があります。

ブロックを前にした、小学生のころの石井先生
▲小学生のころの石井先生

ただ、小学生から歴史は好きで、ずっと歴史の本や漫画を読んでいました。日本史と中国史が好きでしたね。ちょうど高校生のときに奈良県で纏向遺跡(まきむくいせき)が見つかったこともあり、邪馬台国がどこにあったのか知りたくてよく調べていました。

父親の実家が福岡だったので、吉野ヶ里遺跡にも行きました。そのときに初めて「調べる」ということをしたんですよね。ちゃんと本を買って、読んで、資料をまとめるみたいな作業を始めました。それが今にも繋がっていて、研究で調べる基本になったと思います。

中学生の頃、カンボジアへ旅行に行った石井先生
▲中学生のころには、家族でカンボジアへ旅行

―苦手だった英語を、将来の職業にしようと思ったのはどうしてですか?

高校の進路選択では考古学者か学芸員を夢見たのですが、現実の就職を考えると「英語の先生だったら食いっぱぐれることはない」って考えました(笑) ですが、英語が苦手で、センター試験でもボロボロだったので、これはやばいと思い、浪人のときにちゃんと英語を勉強したって感じです。

数学は苦ではなかったのですが、英語だけは苦痛でした。数学は「解ける」という感覚があるじゃないですか。でも英語は「解ける」という感覚がない、「英語がわかる」っていうことがなんかあんまりしっくりこなかったですね。

大学では英文科に進学します。英語が嫌だなと思ってはいたんですけど、英語の先生にならざるを得ないなと(笑) でも、子供の頃から何かを深めたい、極めたいという気持ちは常々持っていて、大学で英語をやるならとことん極めたいなと思っていました。

大学で英語レベルの違いを痛感、学問として深めることを決意

―大学、大学院で英語の教職の道を志した動機は何ですか?

教師になるために、国立の教育大学を目指していたのですが、浪人のときに国際系か文学部を考えたんです。文学部でも教員免許は取れるんですけど、英語を軸というか、英語教育を念頭において受験から取り組みました。

自分の兄が同志社の理工学部にいたこともあり、兄と同じ同志社の文学部へ進みます。同志社に入ってみると帰国子女も多く、そもそも英語ができるっていうレベルが全然違うなあという感じがしました。

友人と祇園祭に行った石井先生
▲同志社大学時代、祇園祭へ

みんな英語が、なんというか体から出ている感じがして、読むのと書くのはそんなに苦労しなかったですが、当時は相手に喋られたら固まってしまう感覚があったんですよね。これは勝負にならないなって。当たり前のことに気づいて、英語を学問として深めた方いいかなと思うようになります。

大学3年の後半から就活だったんですけど、このままじゃ色々な面で駄目だなと思いました。英文科を出ているけど、英語も中途半端だし、帰国子女みたいな方に対して太刀打ちできない、何かをやったわけじゃないと思い、将来を考えて大学院へ進みます。

同志社大学の卒業式で、立て看板の前に立つ石井先生
▲同志社大学の卒業式にて

また、「どうせだったらイギリスかアメリカに留学して修士号をとるっていうのが早いよ」という話を聞き、調べたらイギリス留学1年間で修士号が取れることを知ったんです。ただ、そうなると就職はもう教員系しかないなという思いもありました。

-コーパス言語学との出会いと、研究内容について教えてください。

コーパスとは、他の言い方をすると「電子的に分析できる言語資料」です。それ自体には価値がなく、言語資料として集めてきただけではあります。ただ、統計手法を用いることによって、特徴的な表現であるとか、文体を抽出することができる学問がコーパス言語学です。

コーパスデータの一例
▲コーパスデータの一例

言語学は、人がコミュニケーションするときの成立条件に元々興味があって出会いました。英語論文を書くという営みを理解することで、コミュニケーションの成立条件を考えることができることを、留学中にデータを自分で編集・分析したときに感じたんです。

「コーパス言語学」との出会いは、同志社大学にいたころ、たまたまいらっしゃった広島大学出身の先生から「コーパス言語学」をやってみたらと声をかけられたときです。そのとき、「コーパス言語学」がどんな学問かいまいちわかっていませんでした。

しかし、その後同志社大学の先生から、「コーパス言語学」といえば英・バーミンガム大学院だと紹介いただき、進学先の広島大学大学院時代にバーミンガム大学へ留学しました。

広島大学大学院時代の石井先生
▲広島大学大学院時代の石井先生

帰国後は、広島大学のライティングセンターで河本先生と出会い、英語論文分析の共同研究が始まりました。河本先生のご専門は生化学・分子生物学でして、長年、英語論文の執筆指導を行っておられます。

石井先生が河本先生と共著した書籍
▲河本先生との共著で、書籍を出版

―イギリス留学では貴重な体験をされたと伺いました。

バーミンガム大学は、例えば「コリンズコウビルド英語辞典」という辞書をつくっている研究者がいる大学なんですけど、自分のコースは私1人だけだったんです。英語教授法の授業は百人ぐらいの大教室で行われるのですが、あんな贅沢な授業を、1人でずっと受けていました。

バーミンガム大学院での石井先生
▲英国・バーミンガム大学院にて

あと、イギリスの大学院の課題はものすごく多いので、ずっと読む作業が多かったです。とりあえず読み、とりあえず書くみたいな文化なので。そのときに研究の習慣みたいなのができました。

留学中、ロンドンのビッグ・ベンの前に立つ石井先生
▲留学中、ロンドンへ旅行。ビッグ・ベンの前で

英語が苦手と感じる高専生に、英語が楽しいと感じてもらいたい

―高専生の教員としての活動、教育方針などお聞かせください。

博士課程に進学したのと同時に、山口県の私立高校に勤務していたのですが、2019年に神戸高専がたまたま英語科の募集を2人出していて、2人だったらいけるかなと思い応募したところ、ご縁もあって採用になりました。

高専生の特徴として、グループワークなどのさまざまな活動で、しっかり目標を決めているところがあると思います。学生のみなさんはものすごく熱心なんですよ。

低学年の授業でも自身と関わりのあることを発言してもらったり、ホームルームや席替えも自分たちでやってもらったりと、基本的に自分たちでやってくださいっていう方針です。

高専生の突き詰める能力はものすごいパワーがあるなと思います。でも、英語が嫌いな学生は多いです。おそらく苦痛に感じていると思います。

ですが、自分の説明方法を工夫し、英語の裏にある原理みたいなものをちゃんと話すと、普通の学生でも火がついたときの英語力はすごいなと思います。英語が苦手と感じている高専生も、英語が楽しい(苦痛ではない)と感じてもらえるように授業を工夫したいと思います。

―最後に、未来の高専生に向けてメッセージをお願いします。

神戸高専の研究室から見えた朝日
▲神戸高専の研究室から見えた朝日

高専は選択肢の幅が広いですね。だから悩むんだと思います。高専は羨ましいところですよ。これから極めたり突き詰めたりして、人生を考えてほしいと思います。あと、いいタイミングでいい人に出会ってほしいですね。そのような出会いを常に探しておいてください。

石井 達也
Tatsuya Ishii

  • 神戸市立工業高等専門学校 一般科 講師

石井 達也氏の写真

2009年3月 私立高槻高等学校 卒業
2014年3月 同志社大学 文学部 英文学科 卒業
2015年12月 英国バーミンガム大学院 応用コーパス言語学専攻 修了
2017年3月 広島大学大学院 教育学研究科 言語文化教育学専攻(英語文化教育学) 修了
2019年4月 神戸市立工業高等専門学校 一般科 助教
2020年4月より現職
2021年3月 広島大学大学院 教育学研究科 教科教育学専攻(教育学) 修了

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