仙台高専を卒業後、長岡技術科学大学でバックドライバビリティ制御技術と出会い、産業用ロボットの研究に取り組む、一関高専の川合勇輔先生。人間と同じような動きができるロボット社会の実現に向けた技術と可能性についてお話を伺いました。
「制御」という言葉の格好良さで、高専へ進学
―まず、仙台高専へ進まれた理由をお聞かせください。
子どもの頃から理科や数学が得意で、典型的な「理系少年」でしたね。特に数学は式を解くこと、理科は科学実験が好きでした。国語や英語には興味を持てませんでしたが、英語がめちゃくちゃ必要だということは、高専生で痛感することになります。
小学校のときは進研ゼミで勉強に打ち込んでいて、5~6年分貯めたゼミのポイントを使って、欲しかった天体望遠鏡を手に入れ、月などの天体観測をしました。
中学1年生のときは近所の塾に通っていたんですが、その塾に東京理科大出身の先生がいらっしゃって、「川合君は数学と理科が好きなのだから、高専が良いんじゃないか」と薦められたのが高専との出会いです。仙台高専(当時:仙台電波高専)の学科に「電子制御工学科」があって、「制御って格好いいな」と惹かれて、進学を決めました(笑)
―高専での研究は、いかがでしたか。
3年生頃から始まった制御理論の授業が自分自身に1番しっくりきたこともあり、4年生の3月頃から始まるプレ卒研から5年生の卒業時まで、大場譲先生の研究室(制御工学を用いた研究室)に所属しました。
取り組んでいたのは、ロボット2台を遠隔で操作する「異構造バイラテラル制御」に関する研究です。ここから制御の理論と実験の面白さにハマっていった感じで、ここでも「制御」という言葉の格好良さに惹かれました。もう「制御」マニアですね(笑)
高専5年生の夏、大場先生から「学会に出すから」と提案いただき、異構造バイラテラル制御に関する研究論文をつくりました。中途半端なことが嫌いだったので、夏休みをすべて潰して研究に打ち込みましたね。成果をしっかり出して、富山での学会に参加することができて良かったです。
高専卒業後の進路は、制御工学についてもっと学びたいと思い、大場先生の母校である長岡技術科学大学に編入を決めました。
中途半端を嫌って、五年一貫制博士課程へ
-長岡技科大では、どのような研究をされていたのでしょうか。
長岡技科大では大場先生の出身研究室である大石研究室(モーションコントロール研究室)に所属し、特に大学院では「バックドライバビリティ」(逆駆動性)に着目したモーションコントロールに関する研究に従事しました。
長岡技術科学大学は最初から大学院へ進むカリキュラムが組まれていて、高専出身生が8割ほどいましたね。大学院へ進学することを決めておくと大学の卒業試験がなく、その代わり半年間の企業インターンシップ義務がありました。
インターンシップに行った企業は、神戸にある三菱電機 先端技術総合研究所です。宿舎なども会社持ちで、職業訓練でしたので、日当をもらいながら学ぶことができました。半年間の勉強の合間に、京都や神戸にも遊びに行って、インターンシップは楽しかったですね(笑)
バックドライバビリティとの出会いは、修士へ進んだ1年生の頃に、大石先生と横倉先生から「バックドライバビリティというものがあるので、やってみないか?」と言われたときです。それ以降、バックドライバビリティを中心に人間支援ロボットに必要な制御技術の研究に取り組んでいきました。
実は、修士の卒業後には就職も考えていたのですが、「バックドライバビリティの研究で先駆者を目指したい」という目標もあり、やや就職活動がおろそかになってしまいまして……。結果、ロボット系の企業の面接に落ちたことを契機に、本格的に研究の道へ舵を切ります。
-その後、高専で教鞭をとられることになったきっかけを教えてください。
修士課程のときは、博士課程は自分には無理だと思いつつ、どこかでまだ研究がしたいと思っていました。就職活動が中途半端になったこともあったので、思い切って修士課程の途中で、五年一貫制博士課程の技術科学イノベーション専攻に転専攻しました。
そこでは、研究をしながらリサーチアシスタントとして月額5万円をもらい、授業料の免除や企業からの助成金など、比較的恵まれた環境で勉強することができましたね。
その後、1年間は大石研究室で引き続き産学官連携研究員として所属し、博士課程で取り組んでいたバックドライバビリティ制御技術を応用して、産業用ロボットの熟練研磨技術の研究に取り組みます。無事に博士(工)を2020年3月に取得することができました。
そして、今後も研究を続けようと、高専教員の求人を探していたところ、実家に近い一関高専で公募していることを知りました。ちょうどタイミング良く強電分野での教員の枠があり、ご縁もあって2021年4月から一関高専で教えることになったんです。
『攻殻機動隊』のような、近未来的な世界を目指して
-現在研究されているバックドライバビリティについて教えてください。
学生時代に引き続き現在も減速機付きアクチュエータのバックドライバビリティ向上に関する研究をしています。この研究は、近年の少子高齢化による労働人口の減少や人手不足の解消のため、ロボットによる「人との協働作業」や「人手作業を代替する自動化」「医療介護現場での介助」といった、人間支援技術の開発の必要性が高まってきたことが背景にありますね。
この問題に対して、人に危害を加えない安全なロボットを実現するためにバックドライバビリティという概念があるんです。バックドライバビリティは、ロボットアームの先端を人の手などで持って動かしたときの「動かしやすさ」のことを言います。
通常はモータに制御電圧をかけてモータを駆動することでロボットアームを操作する「順駆動」が一般的です。これの逆の流れでモータを駆動させるのがバックドライブ(逆駆動)であり、その駆動のしやすさを示す指標がバックドライバビリティ(逆駆動性)になります。
バックドライバビリティの技術が向上すると、ロボットを軽くすることができるので、ロボットが人や物に接触したときの衝撃力を低減でき、人はケガをせず、物の破損を防ぐことができるんです。研究では、バックドライバビリティを伝達関数として表現し、そこから目標指標を設定し、その有効性をシミュレーションと実験の両面で検証しています。
-今後の研究の課題や、現状について教えてください。
ヒトの腕は脱力(筋肉を弛緩させる)するとブラブラした状態になります。生き物はこのような高いバックドライバビリティを容易に実現できますが、ロボットではなかなか難しく、人間と同じ動きができるかが課題です。
現在はロボットの「1関節」を再現する「1自由度」(1つの方向のみ動作する)の簡単なモデルで検証しています。今後はこれを多自由度へ拡張して、ロボットアームを人に実装し、その有効性を検証していきたいですね。
また、VR空間との連携にも興味があるので、この分野にも取り組んでいきたいです。ロボットと映像を組み合わせたもの、例えばアニメの『攻殻機動隊』のサイボーグのような、そんな近未来的な世界を目指しています。
―高専での教育方針などについて教えてください。
今自分が持っている知識のすべてを学生たちへ伝えていきたいと思っています。私もまだまだ若手ですが、将来の日本を担うには学生たちです。より早く最先端の問題へ取り組んで、世の中をより豊かなものにしてもらいたいと思って学生と接しています。
受け身の学生が多いので、能動的に活動して欲しいなと思いますね。その一環として、学校で取り組んでいる課題解決型のインターンシップや、学内・学外のコンテストへの参加についても積極的に学生の相談に乗り、担当教員として協力しています。
部活動は、バスケットボール部と機械技術部(ロボコン部)を見ていますね。どちらも主担当ではないですが、私が知っている知識や技術を伝えつつ、学生たちが自分で考え、自由に活動する環境づくりに努めています。
―最後に、未来の高専生に向けてメッセージをお願いします。
高専では早くから専門的な分野に取り組むことができますし、実験もたくさんできます。モノづくりに興味を持っていれば、そういったことに打ち込む時間が多く取れると思いますよ。就職や進学にも有利です。理系に進むなら高専はお薦めですよ。
川合 勇輔氏
Yusuke Kawai
- 一関工業高等専門学校 未来創造工学科 電気・電子系 助教
2012年3月 仙台工業高等専門学校 広瀬キャンパス 電子制御工学科 卒業
2015年3月 長岡技術科学大学 工学部 電気電子情報工学課程 卒業
2020年3月 長岡技術科学大学大学院 工学研究科 五年一貫制博士課程 技術科学イノベーション専攻 修了、博士(工学)
2020年4月~2021年3月 長岡技術科学大学大学院 工学研究科 技術科学イノベーション専攻 産学官連携研究員
2021年4月より現職
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