進学者のキャリア大学等研究員

建築をデザインすること≒人生をデザインすること 「コ・クリエーション」の世界観を実現する

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高専時代に巡り逢った恩師の影響で建築の世界にのめり込んだ、岡山理科大学工学部建築学科で講師を務められている馬淵大宇先生。専攻科、大学院への進学のなかで考えた未来設計を紐解きます。

小さな感動体験と将来への危機感が、建築を学ぶ原動力に

―高専に進学したきっかけを教えてください。

中学の授業で制作したアート。
中学の美術の時間に制作した絵画作品

中学校1年生のときに短期間の語学留学を経験しまして。小学校教員だった母に言われるがまま、イギリスのケンブリッジに2週間滞在しました。その際に、日本から持っていった使い捨てのフィルムカメラでたくさん写真を撮って帰ったんです。

帰国後に現像してみると、そのほとんどが建物の写真でした。意識をして撮影していたわけではなかったのですが、小さな感動体験だったのだと思います。

自宅で美術の制作する中学生時代の先生。
中学の美術の制作風景(自宅)

学校の成績も5教科より美術と技術が秀でていました。進路選択で「美術」と「技術」を足して2で割った分野が「建築」ではないかと考えるようになり、建築学科のある石川高専の推薦入試を受けることに決めたのです。面接に行くと、ひとりの先生が私の留学体験に興味を持ってくださいました。後に恩師となる、河内浩志先生です。

―高専での学生生活についてお聞かせください。

高専時代の仲間たちと。
デザコンの前身である「四高専建築シンポジウム公開設計競技」へ参加

高専の自由な気風に影響されて、1年生の頃は遊び呆けていました。授業が終わると、部活のバトミントンに励んで、放課後は先輩と一緒に映画館に行ったりカラオケに行ったり。とにかく青春を謳歌していた時代です。そんな私に「お前はバトミントンで飯を食っていくのか」と問いかけてくれたのが河内先生でした。首を横に振ると、「じゃあどうやって飯を食っていくんや」と言われたのです。考えるまでもなく、私には、建築しか残されていませんでした。

当時は建築をものにしないと、この先何も思い通りの人生を描けないのではないかと本気で考えさせられました。その後、河内先生が顧問をされていた建築研究部へ入部した私は、スポンジのような吸収力でどんどん建築を好きになっていきます。

恩師と学生向け見学会を行った際の風景。
恩師・河内浩志先生と共に実施設計PJの現場で学生向け見学会を行う様子

今では非常勤講師を勤めている広島工業大学で、河内先生と同じ講義を担当することもあります。同じ教員の立場で恩師と同じ教壇に立つ今日の状況を、とても感慨深く感じています。高専で恩師と出会い、建築と生き様を学べたことは本当に良かったと思っています。

―卒業後は専攻科へ進学されたのですね。

ええ。高専の5年間では学びが足りないと思い、河内先生の研究室に入りました。当時研究していたテーマは、日本の近代建築に多大な功績を残した建築家の一人である村野藤吾の言説に関する研究です。建築の中でも「建築論」と呼ばれる分野で、村野氏が残した言葉を基に、建築そのものを問うことに挑戦しました。同時に、設計活動も盛んな研究室で、年1件のペースで戸建住宅を担当するなど、数々のプロジェクトにチャレンジできました。

専攻科2年。20歳になった私は、10ヵ年計画を立てました。Excelで1年を12等分にして、10年後のゴールのために今何をすべきかのプランを書き込んでいったのです。設定したゴールには「研究者になる」という夢のほか、当時、体調を崩したこともあって「鍼灸あマ指師になり、おばあちゃんの治療をする傍ら、その子や孫の住まいを設計する」という全く別のプランもありました。いいタイミングで、自分の本当にやりたいことに向き合えた時間をつくれて良かったなと思います。

試行錯誤の末に直感を信じて、自分の人生をデザインする

L.A.の女性と記念撮影。語学学校で英語を猛勉強したそう。
L.A.でベビーシッターの傍ら、語学学校に通い英語を猛勉強!

研究者になるには大学院への進学が必須でしたので受験したのですが、英語の試験で引っ掛かり不合格に。その後1年間は、知り合いの設計事務所でお世話になりながら大学院浪人をしました。またその間、語学力を鍛えるため、大学院受験に関する資料をパッキングして渡米し、ベビーシッターをしながら語学学校に通う日々も経験しました。その成果もあり、結果的には早稲田大学に進学しています。

―進学や就職などの人生の分岐点で先生が大切にしていることを教えてください。

大学時代、研究室で仲間と話をする先生。
早稲田大学渡辺仁史研究室の日常風景

私は、徹底的な試行錯誤の末の直感力を大切にしています。建築は正解がない世界です。設計者は常にベストを考え抜き、その末に導かれた結論を信じてかたちにします。人生の分岐点でも同じことです。自分の未来を決める羅針盤は自分の中にしかありません。徹底的に調べ、吟味した末に自ら決断できたことであれば、あとは覚悟して前進するのみ。自分の決めた軸がしっかりしていれば、結果は自ずからついてくると信じています。

建築をデザインする感覚と同じで、自分の人生をデザインするんです。あとは、そこに向けて思いつく限りの布石を打つ。それだけです。

―大学院時代の研究テーマをお聞かせください。

VR実験の様子。
早稲田大学時代にVRと出会い、お茶の水女子大学の施設を借りて実験をした様子

高専時代は良くも悪くも「井の中の蛙」でした。狭い世界から広い世界に出て、わかったつもりでいた建築の捉え方もさらに広がったのです。私の所属したゼミでは、主に建築情報(シミュレーション)を扱っていて、私はVRとストレス指標を用いた建築設計プロセスに関する研究をしていました。

例えば、高層ビルの設計。昨今よく全面ガラス張りのオフィスビルなどを見かけますが、あれはデザイン的にスタイリッシュな反面、オフィス内で働く高所恐怖症の方にとっては大きなストレスになります。こうしたマイノリティーユーザーのシミュレーションはあまりなされていません。かといって、実際の高層ビルのデザインを変更しながら検証するのは現実的ではありません。そこでVRを使って空間を再現し、その中でユーザーのストレス指標をみながらデザインを検討できる方法を提案しました。

現在はこの時のテーマを応用して、VRを本当の意味で有効に活用する設計方法や設計教育の研究をしています。

VRを用いてコ・クリエーションの実現を目指す!

例えば、ベテランの設計者と新人設計者が協働で建物をつくるとき、図面を見ながら話をするのですが、細かいディテールやデザインをイメージできているベテランとそうでない新人との間には大きなギャップがありました。

これは、建築主と設計者の間でも同じです。打合せでは時間をかけてヒアリングをしたり、模型を使って説明したりと、この溝を埋めるよう努力しますが、小さな齟齬の積み重ねで双方にストレスがかかり、トラブルに発展してしまうケースも少なくありません。ここにVRを有効活用することで、より効率的かつ全員が納得できる、建築の「コ・クリエーション」が実現すると考えています。

高専生は広い世界で活躍できる!

―今後の展望とともに最後に学生へのメッセージをお願いします。

最終的な目標は、プロフェッサー・アーキテクトになることです。その目標に向けて、まずは建築研究と設計実務の両輪に励み、建築における「コ・クリエーション」の実現を目指します。機会があれば、10カ年計画で検討した建築設計をしながら、鍼灸院を開設してみるのもおもしろいかもしれませんね。

建物を上空から撮影した写真や、室内をいろいろな角度から撮影した建物の写真
馬淵研究室にとって建築研究と設計実務は活動の両輪。研究室の総力を上げて取り組んだ建築作品が2021年度グッドデザイン賞を受賞しました!

これから高専を目指す中学生は、今の自分ができる十分な試行錯誤をしたのなら、ぜひ自分の選んだ道を信じてみてください。時に悩むことがあっても、学んでいるなかで恩師や興味のあるテーマに出会い、楽しくなっていくことは往々にしてありますよ。

岡山理科大の研究室の学生みんなと集合写真。
真ん中にはグッドデザイン賞を受賞した建築物の模型。
岡山理科大学の研究室の学生たち

そして高専生になったら、ぜひ誇りをもってください。高専生は、これまでの日本を確実に支えてきましたし、これからも支えていく存在です。専門性を強みにした皆さんが広い世界で活躍する日を楽しみにしています。

馬淵 大宇
Daiu Mabuchi

  • 岡山理科大学 工学部 建築学科 講師
    博士(建築学)・一級建築士・鍼灸あマ指師

馬淵 大宇氏の写真

2006年 石川工業高等専門学校 建築学科 卒業
2008年 石川工業高等専門学校 専攻科 環境建設工学専攻 卒業
2011年 早稲田大学 創造理工学研究科 建築学専攻 修士課程 修了
2014年 早稲田大学 創造理工学研究科 建築学専攻 博士後期課程 満了退学後 博士(建築学)
2014年〜2015年 早稲田大学 理工学研究所 PJ付嘱託研究員
2015年〜2016年 釧路工業高等専門学校 建築学科 助教
2016年〜2017年 釧路工業高等専門学校 創造工学科 助教
2016年〜2017年 北海道教育大学 非常勤講師
2017年〜 岡山理科大学 工学部 建築学科 講師
2021年〜 岡山理科大学 建築歴史文化研究センター 兼務研究員
2021年〜 広島工業大学 非常勤講師

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