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「デザイン×テクノロジー×起業家精神」は今、どこまで来たのか——神山まるごと高専のオープンデーから現在地を探る

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「誰かから感謝されるモノづくりやコト起こしをしたい人」に来てほしい——神山まるごと高専が開校される前の2022年8月、月刊高専のインタビューで大蔵峰樹前校長はそうお話しされました。

2023年4月の開校から約3年経った2026年2月21日(土)。学校理事長の寺田親弘氏が代表を務めるSansan株式会社の渋谷本社で開催された「神山まるごと高専 関係者向けオープンデー」の記者説明会では、クリエイティブディレクターの村山ザミット海優さん、1期生の中本慧思さん、2期生の下口慶夏さん、英語担当の廣瀬智子さん、そして五十棲浩二現校長が、それぞれの視点から学校での取り組み、学校で抱いた思いをお話しされました。

大蔵前校長のインタビュー記事で掲げていた目標「デザイン×テクノロジー×起業家精神の育成」「神山町との連携」「誰かから感謝されるモノづくりやコト起こし」は、今どこまで達成されているのか。これまでの3年間を読み取ります。

神山まるごと高専オープンデーの様子。学生による展示や、3年間の活動報告、グッズ販売などが行われていました。
▲神山まるごと高専オープンデーの様子。学生による展示や、3年間の活動報告、グッズ販売などが行われていました

「デザイン×テクノロジー×起業家精神の育成」——学生が実感した手ごたえと思い

<寮のDXアプリ・文化祭の決済アプリ——神山の精神「Just do it!」>

1期生の中本慧思さんは、中学生の頃からノーコードでアプリ開発に取り組んでいました。しかし神山まるごと高専に入学後、ノーコードでの開発にとどまる自分と、本格的なプログラミングで成果を出す同級生との差を痛感し、自信を失う時期があったそうです。

1期生の中本さん
▲1期生の中本さん

転機は2年生の夏、神山まるごと高専のロボットチーム「Hanabi」に参加し、社会貢献活動として子どもたちがモノづくりを共有できるSNSアプリを開発したときでした。自分でプログラムを一から組むことの圧倒的な自由度を実感した中本さんはその後、寮生活の課題を解決するアプリを開発。点呼の電子化、物品管理の簡略化など、寮に関わるすべての業務をDXしようという提案は、スティーブ・ジョブズのプレゼンをオマージュした発表で学内の注目を集めました。

すると数日後、中本さんの友人がサプライズでアプリのデザインを提案してきました。自身のデザインにもともと納得していなかった中本さんは、そのデザインを大変喜んだそうです。最終的には「DOME」という名前でリリースし、今では後輩や寮スタッフも使う「なくてはならないインフラ」に育ちました。

さらに中本さんは、文化祭(まるごと祭)で来場者に使用してもらう決済アプリの開発プロジェクトリーダーを務めることに。法律の確認や外部でのプレゼンに時間を要した結果、イベント直前なのに機能が未完成という危機を迎えましたが、村山さんに背中を押してもらいながらチームを再編し、目標と優先順位を共有したことで開発が加速。当日は「チャージが早い!」「本当に学生がつくったんですか?」といった来場者からの声をもらい、「すごく報われた気持ちになり、とても良い景色を見ることができた」と振り返りました。

オープンデーでは、まるごと祭の決済アプリの展示もありました
▲オープンデーでは、まるごと祭の決済アプリの展示もありました

自分のやりたいことや仲間内の課題を出発点に、テクノロジーとデザインを組み合わせ、使う人の反応から学び続ける——やってみよう(Just do it!)精神から生まれる循環が、すでに学生の中に根付き始めていることがわかります。

<ピントを合わせ、到達したら次のピントへ——シリコンバレーへの旅>

2期生の下口慶夏さんは、幼い頃から「この世界はどうなっているんだろう?」という好奇心を原動力に生きてきたそうです。中学3年生のときに神山まるごと高専を「自分の好奇心を満たせる、最高の遊び場」と直感して入学。自然でかつ即興性が試される英語でのディスカッションや、「自分の表現の原点を作品で表現せよ」といった課題など、高密度な学びに圧倒されながらも、授業目標にピントを合わせることで集中して取り組めるようになりました。

そして、2025年度に創設された学内のアワード「KMC AWARDS」で表彰された下口さんは、表彰者内での選考の末、シリコンバレー研修に参加。Waymoの自動運転車に乗り、Uberの本社で社員に英語で質問し、テスラのショールームに訪問し、起業家と投資家の進捗共有ミーティングに同席するといった圧倒的な刺激の洪水の中で、「全部にピントを合わせようとして、また見失ってしまう」という感覚に陥りながらも、シリコンバレーの青い空を見上げて心を落ち着かせ、「何を学ぶか」にピントを当て直す経験をしたそうです。

2期生の下口さん。
▲2期生の下口さん

このような異世界の感覚に陥りながらも、またシリコンバレーに戻ってくるのではないかという確信めいたものを抱いた下口さん。帰国後、寺田理事長に「不思議な気持ちです」と打ち明けると、「本当に行きたいならやった方が良い。やらない選択肢はないんじゃない?」と言われたとのこと。ピントを合わせ、そこに到達したら次にピントの合う何かを見つけ、そこに進んでいく。そのような「自分の旗を自分で立てる姿勢」——アントレプレナーシップが、2年生の中に芽吹き始めていることがうかがえます。

「神山町との連携」——積み上げる信頼、そして地域課題へ

大蔵前校長はインタビューで、神山町との連携について「まずは本校を理解してもらい、信頼を得ることが先」とし、『神山町全体の本校に対する信頼を徐々に深めていったのちに、「連携して○○をやりましょう!」となれば嬉しいです』と話していました。3年を経て、その方針は着実に実を結びつつあります。

その1つに、2025年のまるごと祭が挙げられます。中本さんが開発した決済アプリが町民の方々に好評だったことも挙げられますが、伝統行事「棒搗き(ぼうづき)」を町民の方々と再現したことは、連携を最も体現したものと言えるでしょう。

まるごと祭での棒搗きの様子。まるごと祭には、神山町の地域住民や全国からの来場者など約2,500人が参加しました。
▲まるごと祭での棒搗きの様子。まるごと祭には、神山町の地域住民や全国からの来場者など約2,500人が参加しました

村山さんは、いつも年始に行う1泊2日のスタッフ合宿で、2027年度——1期生が社会に巣立つ「完成年度」——の折り返しにあたるこの2025年度を「勝負の年」と位置づけたとお話しされました。

そして、神山まるごと高専の開校前からのビジョンであるβメンタリティを再度意識し、1,2年目で積み上げてきたものをあえて崩して、もっと新しいチャレンジにも踏み出そうと、まるごと祭の規模を拡大したと話します。KMC AWARDSの創設も新たなチャレンジでした。

※完成品ではなくβ版として世に出し、フィードバックを受けながらより良くしていく姿勢のこと。

KMC AWARDSのカテゴリ「βメンタリティ」でエントリーされたプロジェクトの紹介コーナー。
▲KMC AWARDSのカテゴリ「βメンタリティ」でエントリーされたプロジェクトの紹介コーナー

また、DCON(全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト)に向けて、中本さんもメンバーに入っている3年生チームは、介護現場の課題をAIで解決するプロダクト開発をするにあたり、徳島県内の介護事業所を約20か所訪問。リアルなフィードバックをもらいながら開発を続けています。実際に地域に出て課題を把握し、地域の人々と共に磨き上げることは、神山だけでなく徳島全体に広がりつつあります。

神山町にある「豆ちよ焙煎所」と神山まるごと高専の学生がコラボしたドリップバッグがオープンデーで販売されていました。
▲神山町にある「豆ちよ焙煎所」と神山まるごと高専の学生がコラボしたドリップバッグがオープンデーで販売されていました

「誰かから感謝されるモノづくりやコト起こし」——スタッフも問われた「あなたは何がしたいか」

先ほど取り上げた中本さんによるDOMEやまるごと祭の決済アプリ開発は、寮のインフラになっていることや、まるごと祭の参加者からの声から、大蔵前校長が語った「誰かから感謝されるモノづくりやコト起こし」をまさに体現していると言えます。

しかし、この問いかけは、学生だけに向けられてはいませんでした。英語担当の廣瀬智子さんは、「自分のためにこの学校に来た」と正直に打ち明けます。公立高校で12年教え続けながらも、生徒が自分で選択するという決断に迫ることができるのは高校3年生の進路選択のときくらいであり、さらに、担任・授業・部活に追われて自分の人生の選択感が薄れていく中、同僚から神山まるごと高専の話を聞き、直感を信じて応募したそうです。

英語担当の広瀬さん。
▲英語担当の広瀬さん

しかし来てみると、自信満々なキラキラした学生たちを見て自信を無くし、自分の存在感を小さくしようとしてしまいました。そして、最初の職場面談で「廣瀬さんは何をしたいと思っていますか?」と問われた廣瀬さんは、自分がこれまでしてきた「すでにある枠の中で、期待を超える活躍をしようと頑張る」ことは、この学校では求められていないと感じます。「学生も含めて一人一人が作り手なのだと思い知らされました」と、廣瀬さんは振り返りました。

そんな廣瀬さんは、つい最近の終業式でのエピソードが印象的だったと話します。1年生が全学年120人の前に立ち、「私たちってわざわざ選んでこの学校に来たんだよね。人間の未来は突然やってこない。未来を変えることは、今の積み重ねだと私は思う」と、堂々と語ったそうです。

その覚悟を持った学生の表情に、廣瀬さんは心が震えました。『私にとって人間の未来を変えることは、目の前の人が抱いた「自分で選ぶ覚悟」を応援することだと思っています』——大蔵前校長が望んだ「誰かから感謝されるモノづくりやコト起こし」のマインドは、スタッフの中でも醸成されていることがうかがえます。

1期生の卒業年度=完成年度へ向けた3つの柱

このように大蔵前校長が挙げた「デザイン×テクノロジー×起業家精神の育成」「神山町との連携」「誰かから感謝されるモノづくりやコト起こし」は、いくつかの目に見える/見えない成果として生まれていることが分かりました。しかし、今はあくまで折り返し地点であり、2年後の完成に向けて行うべきことはまだまだあります。

神山まるごと高専の開校から3年目が終わる現在までの活動をまとめた展示。
▲神山まるごと高専の開校から3年目が終わる現在までの活動をまとめた展示

五十棲校長は、4年目以降に向けた3つの柱をオープンデーで示しました。1つ目は「卒業研究」。先ほど取り上げたDCONに向けた取組のような「神山町や徳島県内の課題を、テクノロジーとデザインで解決していくプロジェクト」を生み出し、学校全体の起業への機運を高める環境をつくっていくとのことでした。

五十棲校長
▲五十棲校長

2つ目は「起業キャリア応援」。先ほどの下口さんのような「人生の早いタイミングで自分の旗を自分で立てるマインドを持ち、キャリアを形成していく」ことを「起業キャリア」と定義し、2025年の夏に新設されたこの部署。学生全員が20歳で起業するわけではないという現実を踏まえつつも、学生全員が「起業キャリア」を歩めるよう、地方で勢いのある企業も含めたインターンシップの充実や、起業経験者がスタッフとして神山に居住し、メンタリングする体制の整備を進めるとのことでした。

そして3つ目は「ハード」。2026年4月には4,5年生用の2期寮が完成しますが、自習室・電子工作室・ハイスペックPCルーム・ピッチスペース・400人規模のホールなどを備えた新校舎の建設も決定しています。新校舎は1期生が卒業する2028年3月までに竣工させる予定。スタッフも増強し、2026年度を「本当に勝負の年」と定め、さらなる教育体制の整備を進めていくと宣言されました。

神山町の方々やパートナー企業のみなさんから送られた、学生に向けてのメッセージ。大きな期待が寄せられていることが伝わります。
▲神山町の方々やパートナー企業のみなさんから送られた、学生に向けてのメッセージ。大きな期待が寄せられていることが伝わります

2028年3月、最初の卒業生を社会に送り出すとき、神山まるごと高専は何を証明するのか——そのカウントダウンが始まっています。

○イベント情報
【神山まるごと高専 関係者向けオープンデー】
日時:2026年2月21日(土)10:00〜16:00
場所:Sansan株式会社 渋谷本社
内容:神山まるごと高専の紹介・まるごと祭2025のコンテンツ展示・ワークショップ体験・グッズ販売・学生との座談会 etc.

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