神戸高専でちょうど40年教鞭をとられ、教務主事や地域協働研究センター長、日本高専学会の会長も歴任されてきた赤対秀明先生。これまでの教員生活のなかで取り組んでこられた活動や、高専の未来について伺いました。
ずっと神戸で暮らしたい!「神戸愛」がかなった高専教員の道
―高専に着任されたきっかけは?
私は兵庫県の中部地区の出身なんですが、1浪した後、神戸大学に進学しました。予備校時代も含めて、5年間神戸に住んでいたんですが、神戸が大好きになったんですね(笑)。できることなら神戸にずっと住みたいと思ったので、大学4年生の時に神戸市の公務員試験を受けたんです。
機械工学科を出て公務員というと「技術職」があったので試験を受けたんですが、試験内容がまぁ難しく、残念ながら落ちてしまったんです。それでどうしようかと思っていたんですが、研究もしたいからということで大学院に進学。修士で2年間また勉強をしていたんですが、再び神戸市の公務員試験を受験しました。でもまったく対策とかしてなかったんで、またしても不合格。懲りないですよね(笑)。教授にも「いつまで夢みたいなことを追っかけているんだ」って怒られました(笑)。
でもそんなときに教授から呼び出しがあり、「神戸高専で、ちょうど同じ専攻の先生がご退官され空きができるから、行ってみないか」という話をいただき、赴任することになりました。ご退官される先生というのが、私の指導教官の恩師で、私は孫弟子にあたり、そうしたご縁もあって声を掛けていただいたんです。
―大学時代から混相流の研究を?
そうですね。大学では流体の研究室が2つあったんです。片方がすごく厳しいと有名な研究室だったので、必然的にもう一方の研究室に人が集まり定員をオーバーしてしまったんで、じゃんけんで配属を決めることに。そしたら真っ先に負けてしまい、やむなく厳しいといわれる研究室に配属決定(笑)。
でも今思えば、その研究室に入ったことが高専に赴任したきっかけになっていますし、教授の教えは私の高専教員としての礎にもなっていると感じています(人生、1回のじゃんけんに負けたことで好転するのですね(笑))。そうして配属が決まった研究室が混相流の研究をしているところだったので、この混相流をメインテーマとして研究していました。
流体は、例えば気体・液体・固体と分けたときに、気体だけが流れている、液体だけが流れているというのが始まりです。そこから、気体の中に固体が混ざるのを「固気二相流」、液体の中に気体が混ざるのを「気液二相流」といい、それが3つ全部集まったのが、「固気液三相流」となります。
例えば、掃除機でゴミを吸い込むと、気体と固体が同時に吸い込まれているので「固気二相流」、ストローでジュース吸い込むと、最後は空気とジュースが入ってきますよね。それが「気液二相流」というようにごく身近にある状態なんです。
こうした研究を高専に赴任してからも続けていたのですが、当時はまだ高専に専攻科がない時代でした。でも将来的には専攻科ができ、大学相当の学士が取れようになっていくので、先生も博士号が必要だという話を受け、お世話になった神戸大の教授の研究室を訪れ、社会人ドクターという形で入れていただくことになりました。結局8年掛かってドクターを取得。当時は高専の授業が終わった平日の放課後と土日に研究室に通っていたので、相当忙しかったですね。
そのとき指導教官に教えていただいたんですが、「5K」のバランスが大事だよと。5Kとは、教育・研究・校務・健康・家庭のこと。健康や家庭をないがしろにしてまでやることに意味はないと、5Kのバランスをちゃんと保ちなさいと言われ、身に染みました。
高専の良さを磨きつつ、新しい「総合高専」として発展してほしい
―教育の面では早くからアクティブラーニングや社会実装教育に取り組まれていたそうですね。
近年アクティブラーニングというのは主流になってきているんですが、私は、高専に赴任して10年くらい経った頃、当時は「学生参加型授業」という呼び方で取り組んでいました。先生が一方的に教える受け身の授業スタイルというのが、日本の基本的な教育だったんですが、それだと授業が活性化しないし、下手したら授業中に学生が寝てしまうとか、心ここにあらずという学生が出てきてしまうんです。私自身、授業でそうした学生がいるのを感じていて、それがきっかけとなり、いかに積極的に授業に取り組めるかを考え、始めたものになります。
例えば、本校の場合は10人グループで1テーマの実験を行っているんですが、そのグループをさらに3つに分け、小グループのプロジェクトチームとして活動させました。意見交換から方向決め・分担決め・実験・報告会・質疑応答などを、このプロジェクトチームで行うので、寝てる暇がないんですよね(笑)。これだけの少人数制なので、むしろやっていない学生がいたら、学生同士で注意しあってくれるんです。
レポート作成は10人で1冊仕上げるスタイルにして、1人3ページくらいを担当させました。ボリュームは少ないけれど、「誰か一人でも提出できなかったらグループ全員でペナルティ」という形にしたら、責任感が生まれてしっかり取り組んでくれるんです。こうした、いまではアクティブラーニングといわれる取り組みを行ってきたおかげで、授業は活性化できたと思います。
また社会実装でいうと、私が地域協働研究センター長時代にさまざまな企業と共同研究を始めたんですが、そのなかでも「マイクロバブル」の共同研究が今でも活発に進行しているものの一つです。マイクロバブルの研究では、ものを生産したり洗浄したりする部分で、地域産業に役立つ技術として学生も多くの企業と関わる機会が増えてきており、非常に高専らしいテーマかなと思っています。
高専はほとんどの研究室が、それぞれの研究室単位で活動している一匹狼のようなところがあります。ですが私の研究室は、もう一人の流体工学の先生、鈴木隆起先生と実験室を共にし、2人体制の研究室運営をしています。
2人で行えば、担当学生も増え、これまでに本科生9名、専攻科生6名の15名のときもあり、大学の研究室の雰囲気に似ています。研究の幅も広がりますし、卒研生も2人で指導し合え、お互い補完できますし、学生も2倍の指導を受けることができます。そうした意味で、もっと多くの高専教員がこうした方法を取り入れてもいいんじゃないかと思っています。
―高専教員としてちょうど40年、教鞭をとられてきた思いと、これからの高専に託す思いは?
やはり40年も教育の現場に立っていると、教育システムも変われば学生の質も変わります。指導の仕方にも変化が生まれ、企業や社会が求める人材像にも変化があるなと実感することばかりです。
教員生活はあと半年となってしまいましたが、ずっと変わらず思っていることは、高専の一番良いところは、15歳からの早期一貫実践教育が受けられるというところなんです。日本の子どものほとんどは、普通科の高校に進学し、受験戦争を戦って大学に入学します。
受験戦争をしている間は、専門分野を鍛える機会がなく、むしろ受験が終われば勉強に疲れてしまい、大学では遊んでしまうとか、バイト中心の生活をしている学生も少なくないのが現実です。実際にある調査では、大学生が一番勉強時間が少ないという結果もあるくらいなんですよね。それって本当にもったいないと思うんです。
15歳から専門分野が鍛えられるところも良いと思っています。ただ今はほとんど工学系に限ってしまっているので、高専を文系にも広げてほしいなと思っています。宇部高専や富山高専など、現在4校に文系学科がありますが、それが全国に広がっていければと考えています。
私は「総合高専」と呼んでいますが、いわゆる単科大学と総合大学があるように、単科高専ではなくて「総合高専」。文系も含む高専になれば、女子生徒の進学先のひとつにも挙がり、中学校も男女関係なく全員の進学先として見てくれるんじゃないかなと思います。
また高専に入学してからも「理系に向いていなかった、文系に進めばよかった」といって高専を途中で辞め、文系の大学を受け直す子が稀にいます。そうした学生にとっても、校内に転科できる文系学科があれば、受け皿にもなり得るんじゃないかと思うので、そういう意味でも「総合高専」という形で発展していくことを願っています。
赤対 秀明氏
Hideaki Shakutsui
- 神戸市立工業高等専門学校 機械工学科 特任教授
1982年 神戸大学大学院 工学研究科 修士課程 修了、同年 神戸市立工業高等専門学校 機械工学科 着任、1989年 同 助教授、1997年 同 教授、1995年 博士(工学)取得(神戸大学)
1991年 神戸市立工業高等専門学校 教務主事補佐、2002年 同 地域協働研究センター長、2006年 同 専攻科長、2009年 同 研究担当副校長(兼専攻科長)、2010年 同 教務担当副校長、2014年 同 国際協働研究センター長、2018年 同 機械工学科長、2020年 定年、
2003年 日本高専学会 副会長、2017年 日本高専学会 会長
神戸市立工業高等専門学校の記事
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