中国のご出身で、小学生の時に来日された矢後英一(やご ひでかず)さん。学生時代からご自身のバックグラウンドを活かして活躍されています。恩師からの一言が行動指針になっているという矢後さんに、高専時代の思い出や、現在のお仕事についてお話を伺いました。
「日本の教育の方が豊か」と感じる理由
―矢後さんはどのような幼少期を過ごされたのですか。
生まれは中国で、小学校3年生の時に来日しました。もともと中国人は日本人に比べて目立ちたがり屋で活発なので、日本に来てからは学級委員長などを率先してやりました。中国は「みんなの先頭に立つ」ということをすごく大切にしているんです。
日本と中国の違いでいえば、中国は学歴社会なので、日本よりたくさん勉強しないといけなかったんですよ。もともと勉強が好きなタイプではなかったので、中国にいるときは全然授業についていけなかったです(笑) でも、中国の方が数学も英語も授業内容が進んでいたので、日本に来てから少し勉強が好きになりました。
僕の感覚では「日本の教育の方が豊か」だと思います。中国は授業時間も長いですし、机にひたすら向かう学習でした。書道や美術、水泳など、中国で一切やってこなかったことを日本で経験して、豊かな人生になりましたね。
―その後、富山高専に進学されています。
中学生のときに、父が高専の存在を教えてくれました。リーマンショックの中、富山高専は就職率100%を謳っていたので、「これは将来に活かせるぞ」と思いましたね。
国際ビジネス学科は、短期と長期合わせて常時10人以上の留学生がいました。シンガポールやカンボジア、スリランカなど、さまざまな国から来ていたのですが、僕がもともと中国出身ということもあり、留学生との交流がすごく思い出に残っています。
部屋も建物も違うのですが、寮で一緒にゲームをしたり、ラーメンを食べたり、楽しかったです。海外の方と交流することが本当に好きで、英語のスキルも伸びました。
-高専時代は留学もされたそうですね。
3年生のときに、台湾に3週間留学に行きました。学校近くの寮に住んだのですが、学校が夏季休暇だったので、現地の学生との交流は正直あまりありませんでした。ただ、チューターを担当してくれた女子学生とはすごく仲良くなりましたね。
基本的に授業は半日で終わるので、午後の時間は自分たちで旅行プランを立て、学生の力だけで海外を楽しみました。博物館に行ったり、パイナップルケーキを食べたり、思い出がたくさんあります。
-中国でのインターンシップも経験されたそうですね。
4年生のときに、2週間ですが中国のYKK株式会社さんでインターンシップを経験しました。YKKさんの中国工場は1つの街のように広かったです(笑) 中国の従業員さんはすごく日本語も流暢ですし、真面目に仕事をされていました。大企業で実際に働いている従業員さんの働きを知り、刺激をいただきましたね。
「チャンスを掴みにいくのは、ひとつの能力だ」
-ゼミではどのようなことをされたのですか。
宮重徹也先生の研究室に入って、「中国で成功する人材マネジメント術」をテーマとして研究を進めました。日系企業が中国に進出したときに、どのようなマネジメントをすれば人が育つかという内容です。
自動車メーカーのマネジメントを軸にして研究をしたのですが、宮重先生が授業で教えてくださったマネジメント方法が、調べていくうちにいろいろと出てくるんですよ。知識としてインプットしていたことが、現場でどう使われているのかを知ることが出来て勉強になりました。
-宮重ゼミで印象深かった思い出はありますか。
宮重先生は企業のご出身なので、企業さんとつながりをたくさん持っていらっしゃいました。ですので、学生にもよく「この会社の方と集まるから来てみる?」とお声がけいただく機会があって、積極的に参加するようにしていたんです。
それを見た宮重先生が「チャンスは平等に全員に与えられる。でも、チャンスを自分のものとするかどうかで成長できるかが決まるんです。矢後くんはチャンスを自分の糧にしているから、絶対成長できると思うよ」と言ってくださって、それがすごく心に残っているんです。
実は、この言葉をいただくまでは少し焦っていまして……。高専では、古民家を買ってハウス運営をしたり、町おこしをしたり、積極的に個人活動をしていた友達がいたので、「負けていられないな」という思いが正直あったんです。
でも、宮重先生に「チャンスを掴みにいくのは、ひとつの能力だ」と言われたときに、「今やっていることは、有意義なことなんだ」と気付いて、より自主的に動けるようになりました。
学生は受動的でもどうにかなりますが、社会人は自分で情報を取りに行かないといけないですよね。自分の課題やキャリアを自ら掴みに行く姿勢を、宮重先生の言葉で教えていただきました。
-高専卒業後に進学された大学でも、中国へのインターンシップを経験されています。
大学では中国のビジネスを肌で感じたいと考えたからです。中国ですごく進んでいるIT分野の会社へインターンシップに行きましたね。スマートスピーカーのチームに配属されて、日本人の大学生20人のチームリーダーになりました。
全員のタスク管理やスケジュール管理などを行ったのですが、授業よりIT会社で作業していた時間の方が長かったですね(笑) 中国語と日本語が両方話せるアドバンテージがあることや、メンバーにタスクを振ったり、モチベーションを高めたり、そういったリーダーシップを取れることが自分の強みだと認識できました。
自分の“自分らしさ”は「ポジティブに捉えられるところ」
―現在の仕事に就いている経緯と、その内容を教えてください。
1年間の留学が終わり、いざ日本に帰ってきたときにコロナの流行が始まりました。ギリギリで日本に帰ることが出来て、就職活動を始めたのですが、どこの会社も「中国事業は撤退した」と、良い反応をいただけなかったんです。「中国と日本の橋渡しがしたい」と、すごく時間をかけて下準備をしていたのに、その準備が無駄になると思いましたね。
そんな中、株式会社フェローシップの代表取締役社長である小山が「中国は必ず復活するから、中国事業を推し進める」と話してくださって。「世界中の人々が“その人らしさ”を活かし輝きつづける社会を創る ~Empower your uniqueness~」という使命にも共感しました。
現在は、「中国の方々が日本で安定した生活を実現するために、仕事探しをサポートしたい」と、日々業務に励んでいるところです。中国の方に向けた転職の自社メディアTENJeeの責任者を務めています。フェローシップの人材ビジネスを通して、“その人らしさ”が活かせるようなお仕事をご紹介し、日本でのキャリアアップに貢献できることはすごくやりがいがありますよ。
あと、高専で簿記や経営、経済、物流、マーケティングなどを一通り学んできたことが、今生きています。いろんな業界の人と触れ合うので、実務は理解できなくても、基礎知識は頭に入っているので、雰囲気が理解できていることが嬉しいです。
僕の“自分らしさ”は「ポジティブに捉えられるところ」だと思っているんですよ。幼少期は国籍や文化の違いを感じ、悔しい思いをしてきましたが、それを「自分を成長させてくれたいい機会だ」と捉えられているのが自分の強みでもあります。課題にぶつかっても、「チャンス」と捉えて、今後も頑張っていきたいです。
―最後に、現役の高専生へメッセージをお願いします。
高専は自由にいろいろなことができるので、それだけチャンスがあるんですよね。それを掴みに行く人は、それだけ成長できる機会があると思っています。学ぶことも普通科と違ってユニークで、すぐ仕事に活かせるものなので、ぜひ「この分野のスペシャリストになるんだ」という思いで過ごしてほしいです。
現役生には是非いろんなことにチャレンジしてほしいと思います。仮に結果は出なくても、その歩み自体は経験として残るので、自分の成長につながるんです。僕も高専で留学や異文化経験、言語力が伸びたこと、ライバル意識をもって友達と過ごせたことなどが、財産になっています。
チャンスを掴んでいくと、見える景色が段々と変わってくるので、卒業までには自分がどんな人間で、何を成し遂げたいと思っているのかが分かってくると思いますよ。
矢後 英一氏
Hidekazu Yago
- 株式会社フェローシップ グロキャリ事業部
2018年3月 富山高等専門学校 国際ビジネス学科 卒業
2021年3月 北京語言大学 東京校 卒業
2021年4月より現職
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