弓削島で生まれ育ち、弓削商船高専で情報工学を教えられている益崎智成先生。船乗りの伝統を受け継ぎつつ、情報工学分野でも国際交流に繋がる研究を続ける益崎先生に、弓削商船高専の魅力や活動についてお話を伺いました。
生まれも育ちも弓削島。自然な流れで高専教員に
-まず、弓削商船高専について紹介いただいてよろしいでしょうか?
弓削商船高専は愛媛と広島の中間にある瀬戸内海の弓削島にある学校です。商船学科、電子機械工学科、情報工学科の3つの学科があります。元々は船乗りの学校で、明治34年(1901年)に海員学校からスタートして120周年の記念式典も行いました。
商船高専は、現在は全国に5校あり、その内3校が瀬戸内にあります。電子機械工学科・情報工学科があるものの、弓削商船高専も船乗りの専門学校がスタートですから、「船乗りだけじゃないんだよ」とPRするのは毎回苦労しています。
弓削商船高専では文化的校風なのでしょうが、先生のことを「教官」と呼ぶんです。私はここの出身なので特色かどうかピンとこないのですけど、どの学科の先生に対しても「教官」と呼ぶ校風・文化は「乗り物系の学校」の伝統を感じます。
あと、地理的なこともあって寮生活が基本です。学生はみんな楽しそうですね。門限とか、巡検とかがあって厳しいと学生は言いますが、先生たちとも関係が密接になって、いい面もあり、寮生活を通して自立した学生が多いと思います。
通学にはフェリーを利用して来る学生も結構いますね。自転車とか、バイクも一部許可しています。通学とはいえ乗船時間は10分ぐらいです。尾道、福山とか広島側の学生も見かけます。当然商船系の学科もあるわけですから、部活もヨットとかカッターとか海に関連するものもありますよ。
―弓削商船高専で教員になったきっかけについて教えてください。
私は生まれも育ちも弓削商船高専のある弓削島です。父は弓削商船高専で電子機械工学科の教員を務めていました。ですから子供の頃から工学に触れる機会もあり、高専に行くこともよくありましたね。
父が家庭でも電子工作キットやパソコンに触れさせてくれていたので、情報工学科に興味を持ち、自然な流れで弓削商船高専へ進学を決めました。双子の兄がいるのですが、兄と一緒に弓削商船高専に進んでいます。兄は造船系の企業へ就職したので、私が父の跡を継いだ感じです。
私が教員になったきっかけは、父の影響も大きいのですが、高専卒業時に恩師から「君が将来は弓削商船高専の先生になって戻ってきたら、代わりに私がやめるからね」と冗談交じりに言ってくれたのも理由の1つです。たぶん、島での教員生活には地元出身者が向いていると思ってくれたのだと思います。
大学では画像処理系の研究をしていました。博士課程に入り、将来の就職についてはまだ具体的には何も考えていなかったんですけど、卒業前に突然、恩師からFacebookで「弓削商船高専の先生やってみんか?」って連絡が来ました。
ちょうど博士号取得見込みで新人教員を探していたみたいで、かつ「卒業生がいるぞ」ということで声を掛けていただいたようです。母校の教員になることは選択肢の1つとしてあったので、特に悩むこともなく「私でよければ」くらいの感じでした(笑)
自分の最新の研究に関して大学で探求するよりも、高専の学生たちと一緒に最新技術に触れ、「すげぇ!」とか感動しながら、次世代の技術者を育てたいと思いましたね。自分としてもモチベーションを持って取り組めそうだなと思い、高専の教員を志望しました。
手話の学習システムの開発から、国際交流も兼ねた環境調査の研究も
-現在取り組んでいる研究について教えてください。
画像処理に関するアプリ開発やロボットのインターフェースの作成、手話の学習システムを学生と協力して進めています。専門の画像処理に関する研究の他に、環境調査、呼気の調査、教育研究などさまざまなテーマに取り組んでいます。
手話の学習システムの分野は私の専門ではないのですけど、学生たちが「ぜひやりたい」と言うので始めました。手話のドラマもあったので「やってみたら」と言っているうちに、手話の学習システム開発をする研究室になっていましたね(笑)
具体的には指の動きを「指文字」というアルファベットやひらがなを指の形で表現したものをカメラで撮影します。実際にちゃんとその形になっているのかを評価できるシステムで、手話をカメラで読み込んで文字に直してくれるというイメージでしょうか。
実際の手話まではまだ難しいのですが、指文字という手話の中でも「あいうえお」とか「ABC」とかを表現するのだったら、上手くカメラで読み込んでシステムで評価することができるところまでは研究が進んでいます。
―環境調査など、国際交流を通した研究についてもお聞かせください。
弓削商船高専ではタイのナコンパノム大学と協定を結び、タイと高専の学生が協力して課題解決を行う短期のプロジェクトを実施しています。過去には、自動操船の環境調査船によるメコン川の水質調査などの実績があります。
これまでに2度プロジェクトに参加し、メコン川の水質調査をタイと日本の教員と学生で協力して行ってきました。今後は、私の専門である画像処理を用いた研究を絡めて、本格的な環境調査システムの開発に発展させていく予定です。
また、そのプロジェクトの引率を2019年から私が引継ぐことになり、学生間の交流とタイの先生とのやり取りを行っています。最近は国際交流も兼ねたメコン川の水質調査について、ナコンパノム大学の先生と話を進めていますね。
基本は水質の環境調査がメインですが、今後はメコン川の上をドローンで撮影して、川の増水を定期的に調べ、定点カメラでメコン川を撮影し、色や温度を自動でデータ収集するシステム構築を考えています。これをクラウドに上げ、タイと日本の大学両方で評価できるようにしようという話もあります。
その他、国際交流活動としてタイだけでなく、モンゴル科学技術大学へのインターンの引率や、弓削商船高専への留学生の対応(日本語スピーチコンテスト・国内旅行・母国紹介などの情報発信)も国際交流推進室として対応しているところです。
テニス部顧問として全国優勝。切り札は外部コーチのお父さん?
-高専で力を入れている活動等について教えてください。
テニス部の顧問として、女子ダブルスが全国高専体育大会で去年優勝しました。1年生から5年生まで続けてくれた学生たちがやってくれましたね。ちょうどその頃外部コーチ制度ができたのですが、そのコーチが高専を退職した私の父でした。鬼コーチになっていただきました(笑)
全国高専体育大会では四国の複数校の選手で結成した女子四国チームでも監督を任され、全国優勝しました。全国1位になったので、先日、公益財団法人愛媛県スポーツ協会表彰で優秀指導者として表彰していただきました。
学校の広報活動では、mBotやmicro:bitを使った出前授業や、AI入門の公開講座も積極的に行っています。
※mBot:ビジュアルプログラミング環境「mBlock(エムブロック)」で制御することのできるプログラミングロボット
※micro:bit:イギリスの公共放送局であるBBC(英国放送協会/British Broadcasting Corporation)が中心となって開発した教育用の小型コンピューターボード
また、学科横断の実験授業として本校の福田英次先生と協力し、電子機械工学科と情報工学科の1年生に、mBotのフレームの自作と組み立て、プログラミングを協力して行ってもらう授業もしています。
今後はものづくりに興味がある学生を増やしたいですね。ものづくりに集中している姿を見ているとこちらが楽しくなります。「中学生からプログラミングを触ってきました」っていう学生が結構いて、見ていると嬉しいですね。「僕の授業はいらないんじゃないかな?」という優秀な学生も入ってくるんですよ。
―最後に、これから高専を目指す中学生に、高専の魅力についてお話しいただけますか。
今や1人に1台パソコンが支給されている中学生の皆さんは、私たちの頃よりパソコンに触れる機会も多くなってきています。その上で「使うだけじゃ我慢できなくなった」という人たちには、ぜひ高専に来てほしいと思いますね。
高専は「ものづくり」について基礎から5年間勉強できます。身近になったスマホやパソコンなど、日本のものづくりのプロフェッショナルになってほしいですね。特に弓削商船高専のアピールポイントは海ですから、海に関わるシステムはうちにしかない取り組みだと思います。
もちろん自然だけじゃなく、マイコン部の活動も積極的にやっていて、高専プロコンの競技部門で優勝もしています。プログラミングとかソフトウェアの競技としてセキュリティとかプログラミングを極めたいのであれば、その地盤もあります。
あと寮生活が出来るのは1番の売りですね。釣りとか、自転車でしまなみ街道を巡るような週末も楽しいです。あと、夜はコンビニが開いておらず、想像できないような田舎暮らしも体験できますよ(笑)
益﨑 智成氏
Tomonari Masuzaki
- 弓削商船高等専門学校 情報工学科 准教授
2010年3月 弓削商船高等専門学校 情報工学科 卒業
2012年3月 豊橋技術科学大学 情報工学課程 卒業
2014年3月 豊橋技術科学大学 情報・知能工学専攻 博士前期課程 修了
2016年4月 弓削商船高等専門学校 情報工学科 助教
2018年6月 豊橋技術科学大学 情報・知能工学専攻 博士後期課程 博士号取得
2021年4月より現職
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