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東北大学大学院を修了後、宮城県庁での勤務を経て、母校である福島高専に着任された丹野淳先生。学生時代の研究、卓球部の指導、地域の企業や自治体と連携して取り組まれている現在の研究について、お話を伺いました。
地域住民に寄り添える仕事がしたい
―先生が福島高専に進学されたきっかけを教えてください。
小学生の頃、豪雨で自宅が浸水しそうになったことがありました。雨水が玄関まで入りかけて困っていたとき、夜中にもかかわらず市職員の方が土のう袋を持って、助けに来てくれたんです。そこで土木職を知り、住民に寄り添える仕事をしたいと思ったことがきっかけです。
正直こちらが本命かもしれないのですが(笑)、卓球への熱意もきっかけの1つでした。福島高専の卓球部は強豪校で、そこで自分も強くなりたいと思っていたんです。

小学校から練習に通っていた地元の卓球センターのコーチが福島高専の体育教員だったり、中学校の卓球部の先輩方が高専へ進学されていたりと、高専が身近な存在だったことも大きかったですね。ぜひ、進路に悩んでいる中学生の皆さんも、色んな視点から高専を身近に感じていただきたいです。
―高専では、どのような研究をされていたのでしょうか。
建設環境工学科(現・都市システム工学科)に入学し、上水道工学に関する研究をしていました。
水道水は、湖沼の水を取水し、凝集沈殿処理を行うことによって得られます。水道水の水質を担保するために、酸・アルカリ剤を入れて、凝集処理効率を向上させているのですが、当時は経験則に基づいて注入量を決めていました。それを定量的に評価するため、酸・アルカリ剤の組み合わせによる水質の変化を調べていたんです。
原発事故をきっかけに、エネルギー問題を意識
―専攻科在学中に、東日本大震災を経験されています。
東日本大震災があった3月11日は、午前中に実験室で実験をしていて、午後に家に戻ってすぐに地震が起きました。
東日本大震災の1週間前には防災・減災の授業があり、地震や津波の知識を学んでいたのですが、発災時には何もできず、「人間の無力感」と「自然災害の恐ろしさ」を同時に感じました。頭では分かっていても、突発的に動くことは難しいと身をもって経験しましたね。

震災から1ヶ月ほどは、県外に避難をしていましたが、いわき市に戻ってきてからは、福島高専の先生と一緒に、現地踏査をしながら、木に引っ掛かっていた靴や建物の浸水痕をもとに、津波痕跡調査をしました。陸地にあるはずのない船の残骸を見たときは、衝撃を受けましたね。
高専で土木工学を学ぶ中で、人々の暮らしを支える学問と分かっていましたが、東日本大震災の経験で更に実感しました。
―福島高専を卒業後、東北大学大学院に進学されたんですね。
原発事故をきっかけに、エネルギー問題について強く意識するようになりました。高専時代に研究していた「水」に携わりながら、「低炭素社会」や「再生可能エネルギー」に関する研究ができないかと考えていましたね。
そんなとき、東北大学の環境保全工学研究室で、原田先生が「低炭素」で「省エネルギー」な「排水処理技術」について研究されていることを知ったんです。上水道分野から下水道分野に変わることへの不安もありましたが、原田先生のもとで学びたいと思い、研究室に入りました。
大学院入学後は、中国の大学に短期留学する機会がありました。初めての海外だったので、多様な価値観や文化を知り、常に切磋琢磨しながら研究に励む学生の向学心に触発されましたね。この留学を機に視野が広がり、思考が深まったことで、より研究に真摯に向き合うことができました。

宮城県庁に入庁し、震災からの復旧・復興業務に従事
―大学院を修了された後、宮城県庁に就職されたのはなぜでしょうか。
大学院のときに、研究に挫折しまして……(笑) 社会のことを知らない状態で、専門性を突き詰めてもいいのだろうかと不安になり、一旦、社会に出てみようと思ったんです。
様々な業種の就職活動をしましたが、土木業界全体の仕組みを知ることができ、これまで学んだ土木の専門知識を少しでも東日本大震災の復旧・復興に還元したい思いから、宮城県庁に入庁しました。最初の3年間は、土木部 道路課 道路建設班で、県全体の道路建設事業の予算管理や、各土木事業所の事業進捗管理などをしていましたね。
その後、人事異動があり、東日本大地震で甚大な被害を受けた石巻市や女川町などを管轄している東部土木事務所で2年間勤務しました。県庁の仕事とは異なり、道路工事の現場監督業務を行い、震災の復旧・復興業務の最前線に携わっていました。

オリジナルな人生を目指し、高専教員の道へ
―その後、なぜ福島高専の教員になられたのでしょうか。
宮城県庁の仕事は忙しさの中にも充実感とやりがいがあり、上司の方々や同期、後輩のみなさんにも大変お世話になっていたので、宮城県庁でずっと働きたいと思っていました。そんなある日、福島高専で教員の公募が出ることを知りました。
宮城県庁に勤めて5年、様々な業種の技術者と仕事をする中で、もう一度、自分自身の専門性について考え、今後どのようなキャリアを歩みたいかを立ち止まって考えるタイミングがありました。「自分の行動や思いを、実社会に形として少しでも残してみたいな」とずっと思っていたので、「高専で研究者の道に進むことで実現できるかもしれない」と思ったんです。

さらに、大学院時代に研究をやり残したという思いも心の片隅に残っており、博士課程への進学を決心しました。高専に勤務しながら、博士号を取得することはとても大変でしたが、無事に2022年3月に博士号を取得できました。学位記を手にしたときには、3年間やり切ったという充実感に溢れていました。
―学生と接するうえで、意識されていることはありますか。
学生に寄り添った教育指導を心掛けています。良い意味で、学生と教員がフラットな関係でいることが大事なのかなと。私自身、学生から学ぶことってたくさんありますからね。互いに高め合える関係性を築けたら良いなと思います。

―学生と接する中で、うれしかったことはありますか。
卒業生が高専を訪ねてきてくれて、高専生活の思い出話ができることですね。
教育ってなかなか目に見える成果がないので、学生に指導する中で「学生のためになっているだろうか」と自問自答することもあります。そんなときに、卒業生から「あのとき、こういう言葉をかけていただき、今でも心に残っています」と言ってもらえたときは、本当に嬉しかったですね。みなさんもぜひ、卒業後も高専や研究室に遊びにきて、当時の思い出話や近況報告を聞かせてほしいですね。

―福島高専では、卓球部の顧問をされているんですね。
私は、ラケットを持って学生と一緒に練習しながら指導しています。また、自分の経験を少しでも学生に伝えられたらという思いで、選手ファーストの指導を心がけています。

私自身、卓球を通じて人間的に大きく成長することができたと思います。ぜひ、真摯に部活動に取り組み、目標に向かってコツコツ頑張ることで、自分の成長を実感してもらいたいですね。
福島高専から、バイオマスエネルギー技術を発信したい!
―現在、福島高専でどういった研究に取り組まれているのでしょうか。

再生可能エネルギーの1つである、バイオマスエネルギーの技術である「メタン発酵」の研究に取り組んでいます。
「メタン発酵」とは、酸素のない条件下で、生ごみや下水汚泥などのバイオマス資源から微生物の代謝反応を利用して、メタンガスを生成する技術です。廃棄物をリサイクルすることができるとともに、発生したメタンガスを発電などのエネルギーにも利用もできます。
いわき市には県内唯一の小型分散型メタン発酵施設があり、地域で発生する食品廃棄物を利用して、メタンガス化しているんです。地産地消型のエネルギー施設を増やすために、地元企業と自治体でワーキンググループをつくっています。私は、稼働しているメタン発酵施設の水質分析評価やエネルギー収支評価、バイオマス資源のメタン生成ポテンシャル調査などを担当しています。

今後も、地元企業や他大学と連携しながら、地産地消型の再生可能エネルギーとして、メタン発酵技術に関する研究を行いたいですね。また、自治体とも連携して、地域に根ざした研究を進めていきたいと思っています。福島県の復旧・復興、持続可能社会の形成のために、福島高専からバイオマスエネルギーに関する知見を発信していきたいです!
丹野 淳氏
Jun Tanno
- 福島工業高等専門学校 都市システム工学科 助教

2010年3月 福島工業高等専門学校 建設環境工学科 卒業
2012年3月 福島工業高等専門学校 専攻科 物質・環境システム工学専攻 卒業
2014年3月 東北大学大学院 工学研究科 土木工学専攻 修士課程 修了
2014年4月 宮城県庁
2019年4月より現職
2022年3月 東北大学大学院 工学研究科 土木工学専攻 博士課程 修了
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