インタビュー

地元企業を興すサポート役! 地域のシンクタンクとしての高専

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全国高専の中で4校しかない文系学科のひとつ、福島高専の「ビジネスコミュニケーション学科」。そこで教鞭をとられている芥川一則先生に話を伺い、福島の復興をはじめとした、地域経済活動に貢献するさまざまアイデアや高専生に託す想いを聞かせていただきました。

理系から文系への転身と、文系学科としての取り組み

-福島高専着任までのご経歴は?

大学院生時代の芥川先生。
恩師2名と食卓を囲む。
大学院生時代の恩師とともに

生まれも育ちも福島・会津なんですが、私は少し変わった経歴で、大学は理工学部を卒業しているんです。卒業後は役場職員の土木職を経験し、その後、県の事務職員として図書館の電算化に従事。その時期に社会人をしながら大学院で都市経済学を学んで博士号を取得し、縁あって高専に赴任することになりました。

実は土木を経験している人って、経済の分野に精通している人が多いんですよ。いわゆる都市計画というのは、単に新しいビルや施設をつくって都市開発をするのではなく、経済的要因を加味してないといけないんです。

それに公務員の土木職の仕事といえば、ほとんどが予算の振り分けです。技術的な部分の多くは民間の業者が行うので、あとはどう上手にお金を振り分けるか、出来上がった施設をどう運営するかが仕事になってきます。

そうした土木職の経験を経て、「世の中を回しているのはお金なんだな」と改めて実感しました。とくにこれからは投資の時代。企業も個人も労働でお金を稼ぐ時代から、資産運用でお金を稼ぐ時代になってきました。

私の大学院時代の恩師が2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンの知り合いで、20年も前に彼らから最先端の都市経済学を学ぶことができたんですが、これが非常に貴重な経験となりました。

-先生が教えていらっしゃる「ビジネスコミュニケーション学科」では、どういったことに取り組まれていますか?

学生が作成したパンフレット。色鉛筆で仕上げた日本原子力研究開発機構の建物外観が2つ。キャラクターとともに。
日本原子力研究開発機構(JAEA)のパンフレット

本科では、日本原子力研究開発機構(JAEA)のパンフレット制作を行っています。JAEAなどが主催する、福島第一原子力発電所の廃炉関連技術を競う「廃炉創造ロボコン」には、本校の工学系の学科が取り組んでいるのですが、文系学科でも何か連携ができるんじゃないかということで、3~4年前からパンフレット制作に携わらせていただいています。ほかにも学科紹介の動画制作や、リクルート用の企業紹介動画の制作などにも取り組んでいますね。

また専攻科では、より実践的な社会の課題に取り組んでもらっています。これは個人的な見解ですが、私は「大学や高専の役割とは地域のシンクタンクであるべきだ」と考えているんです。

今まではセミナーや講演会を開いて知識を共有することが地域貢献として成り立っていたんですが、いま問題になっているのは、人口減少局面ということなんです。「日本人口減少局面における地域経済の課題」というのが私の研究テーマなんですが、私は実際に地域の企業の方に提案し、事業を興すことで地域貢献に繋げています。

例えば、2016年頃には外国人技能実習生と企業を繋ぐ協同組合を企業の方と一緒に運営し、地域企業への技能実習生の供給などをサポートしました。また当時この取り組みに参画してくれていた学生が、卒業後、組合に就職してくれたんです。当時は技能実習制度がぼちぼち注目され始めていた時期でしたが、現場の声を聞きに行くと、組合は解散する予定だという方がいらっしゃったんです。日本の人口が減っていく中、確実に技能実習制度が重要になってくるという側面もあったため、企業と学生を巻き込んで組合の課題に取り組みました。

テーブルを囲んで芥川先生と女子学生5名と議論している場面。留学生も。
留学生を交えて福島の復興について議論する

三次元データを活用した「スーパーシティ構想」とは

-三次元データを活用したスマート農業の促進などにも、地元企業と一緒に取り組まれているそうですね。

3次元データを活用した高性能な地図。
機械可読高精度三次元地図 (Machine Readable Hyper 3 Dimension Map(Marhy 3D Map)) 

福島の復興に関しては、補助金ではなく「市場育成」という観点で取り組んでいます。その第一段階として、内閣府が取り組む「スーパーシティ構想」に参画するため、私たちは「機械可読高精度三次元地図」というデータを活用しようと考えています。

「スーパーシティ構想」とは、国家戦略特区として地域を限定し、最先端技術を導入して、各地域の根本的な課題解決に働きかけるというもので、物流や交通・防災・社会福祉など10の分野の中から、5つの分野を選んで取り組んでくださいというものです。その5つの事業に、「機械可読高精度三次元地図」を利用するんですが、これがどういうものかというと、レーザースキャナーを搭載したドローンを飛ばし、誤差5㎝以下という正確さでx・y・zの座標を測量した地図データなんです。

田畑が広がる大地の上空をドローンが飛ぶ。
レーザースキャナーを搭載したドローン

例えば農業の分野では、このデータと準天頂衛星「みちびき」の位置情報を使い、予めガレージから田んぼまでの動線や、田んぼの中の動線をプログラミングしておけば、完全自動運転トラクターを動かすことができます。これまでは、田んぼの中だけでの自動運転は可能でしたが、これを使えばガレージから自動で動かすことができるんです。

ほかにも防災の分野では、ハザードマップへの活用を考えています。このデータは1㎝単位のシミュレーションも可能なので、震災や津波が起きた際の浸水・崩壊規模を予測し、二次災害への対応に役立てるほか、罹災証明の省力化にも活用できればと思っています。

災害の復興には2つの点があるのですが、ひとつは「道路や橋を直す公共事業」、もうひとつは「個人の住宅の補修」です。これには罹災証明書が必要になってきますが、自治体や保険会社がこのデータを共有すれば、資金計画がスピーディーに行える利点があり、またシミュレーションによって、土地の価値も算出できるんです。20年に一度は浸水する土地と、50年住んでも浸水しない土地では、価値がかわりますよね。こうした経済観念まで含めたハザードマップを考えています。

担当者がPCを操作しドローンを操る。
ドローンをPCで操作

高専生に夢を託す

-先生のお話を伺うと、データの活用であらゆる事業を興せそうですね。

私はあくまで高専教員としての立場で、「産と官を結びつける御用聞き」だと思っています。私自身がお金儲けをしようとは思っていないので、「学」の持つ中立性と信用度を活用して、地元企業を元気にしたい。規模の経済から脱却していかなくては、地方、特に田舎はどんどん立ち行かなくなっていきます。これから人口が減少していくなか、何で儲かるかというと「人」なんです。「高度人材」なんです。

高専教員として、私がうれしいなと思う部分は、私がやりたかったことを学生が叶えてくれているところかなと思っています。先の話にもあった技能実習生の件も、「これからは外国人労働者に関する事業や、高度人材に関わっておいた方が良いよ」という話をしたところ、組合に就職し取り組んでくれたので、学生に自分の夢を実現してもらっているイメージですね。

芥川 一則
Kazunori Akutagawa

  • 福島工業高等専門学校 ビジネスコミュニケーション学科 教授

立命館大学理工学部土木工学科卒。
会津坂下町役場に就職し都市計画を担当、その後福島県庁に就職。福島県立図書館の電算化を担当するとともに、福島大学大学院経済学研究科修士課程終了。
東北大学情報科学研究科人間情報科学専攻に在学中に、福島工業高等専門学校建設環境工学科助手として採用される。同コミュニケーション情報学科助教授、2016年4月より同ビジネスコミュケーション学科教授。専門は、都市経済学、地域経済学など。副校長(研究・地域連携担当)、地域環境テクノセンター長、ビジネスコミュニケーション学科長も務める。

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