インタビュー

研究一筋だからこそ気づけた、社会の課題。高専教員が考える未来の技術者像とは

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粉体工学を専攻し、企業の抱える課題解決にも取り組んできた、大分高専の尾形公一郎先生。経験を活かし、企業向けのセミナーにも登壇しています。なぜ企業で働いた経験のない教員がDXや経営を? 話を伺いました。

メーカー志望が一転、教員に

―高専教員になった経緯を教えてください。

元々、バイクや自動車が好きで大分高専に進学しました。その後、重工や鉄鋼メーカーに入って大規模な設備の設計開発に携わりたかったんですが「大学には行っておきたい」と思って本科を卒業後、3年次編入で九州工業大学に進学しました。高専在学中は材料力学の研究室だったので、メーカーで就職する前にいろんな分野の勉強がしたくて、固体と気体が混ざりあう「固気二相流」という流体系の研究室を選んだんです。

部屋で話す男性
大分高専にて取材

修士のときに進路を悩んでいましたが、修士1年時に教授の助言を頂きながら自分で考えた研究テーマを研究したくて博士課程に。某大手メーカーに勤める研究室の先輩から、うちに来ないかという熱心なお誘いも頂きました。

大変有難いお言葉で体が2つあれば両方できるのになぁと思いましたが、自分がやりたいと決めた道に進んだことが、現職につながるきっかけと感じています。

―どうしてメーカーを選ばなかったのでしょうか。

「博士課程まできたら大学か高専の先生になりたい」と思うようになりました。当時、いったん企業に勤めてから教職に就くのは難しいと言われていたこともあり、メーカーは諦めて山口の大島商船高専に入職。9年前に母校である大分高専に赴任しました。

―先生の研究について教えてください。

専門は粉体工学です。身の回りにある小麦粉や化粧品をはじめとする、粉体の取り扱いを研究しています。

例えば、砂時計。砂時計は上部の砂の高さが減っても、一定の速度で流れ続けます。水は高さが変わると速度が遅くなるんですね。粉体の流出速度は供給される粒子のサイズと密度、排出する穴径に依存しているので、容器内の粉の高さによらずに一定に流れるんです。

物体が落ちるときには当然重力が働きますが、あまりに粒子が細かいと浮遊したり、物に付着したり、ハンドリングが非常に難しくなります。そこで粒子の大きさや形状、粒子に働く表面力を考慮して粉体の動きを予測する方法を確立させるのが大きな目標です。

細長い部屋に機械が並んでいる
実験室には機器がずらり

過去には、ごみ焼却場の排出ガスを浄化させる消石灰の扱いに関する研究を企業と進めました。サイロから流れる消石灰の流動性に及ぼす付着性の影響を明らかにしたんです。また、粒子を造粒することで流動性が向上することも分かりました。企業の課題をテーマに、成果を得られた実例ですね。

壁や天井に多く使われている、石膏ボードの再資源化の研究にも取り組んでいます。廃棄された石膏ボードからつくられる「再生半水石膏」は地盤改良の固化材として注目されているんです。

地盤工学や燃焼工学が専門の先生と協働して、中間処理施設に集められた廃石膏ボードを乾燥処理し、石膏の結晶水が離脱するメカニズムの解明について実験的に検討しています。

実はこの実験、加熱装置にポン菓子機を使っているんですよ。

―お米でつくる、あのポン菓子ですか?

はい。加熱と加圧の両方が同時にできるので、乾燥効率が高いんです。改良して圧力センサと熱電対を取りつけ、Bluetoothでデータをパソコンに送信。圧力と温度の時系列データを取得し、石膏の加熱脱水特性の調査を可能にしています。

小型のポン菓子機
実験に使っているポン菓子機

ものづくりの未来を見据えた教育

―国立高等専門学校機構のプロジェクト「GEAR5.0」においてユニットサブリーダーを務めていらっしゃいますね。

はい。マテリアル部門の高専研究連携ネットワーク「K-Drive」の第5ブロックの協力校である大分高専の取りまとめを担当しています。

具体的には、より質の良い論文を出す、外部資金を獲得する、学内のプロジェクトをまとめる、事業遂行をマネジメントするなどが業務です。

今は、中核拠点校の鈴鹿高専や他ブロックの協力校の鶴岡・小山・呉高専、連携校である都城高専と連絡を取り合う、校内での研究グループの活動や社会実装を目指した動きをサポートするなどを担当しています。また、地域の中小企業を訪問して、企業の抱える課題のヒアリングなども実践しています。

本プロジェクトでは学生をからめた協働研究ができる産学協働研究室「K-Team」の設置を目指しています。今年度は全体で5つできる予定で、本校でも1つ立ち上げる予定です。4年後までに全国で各ブロック2つ、計10研究室立ち上げるのが目標です。

GEAR5.0の特徴は研究成果の社会実装を通じた教育にあると思っています。研究の成果を社会に還元するために、論文を発表したり、特許を申請したり。学んだことが現場でどのように活かされていくか、肌で感じられます。社会につながる研究を通じた教育ができれば、学生のモチベーションが高まるはずです。

―経営者向けの講座もされているようですが。

北九州高専の久池井茂先生とともに「第4次産業革命 エグゼクティブ ビジネススクール」の講師を勤めました。中小企業向けにDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要さを伝えています。

―メーカーに就職しなかった先生が、なぜDXを?

久池井先生にお声がけいただいたときに、自分がこれまでの研究で培ってきたものとリンクすると感じました。粉体はものを生産する過程で、素材・中間製品・最終製品として取り扱われます。エグゼクティブビジネススクールでは企業経営全体を見渡すことができるERP(Enterprise Resource Planning)システムの内容を担当しています。粉体と企業経営は全く別物に見えますが、私の中では、粉体を用いてモノづくりをすることと、原材料の調達から販売に至るまでの、ものの供給連鎖を最適化しようというSCM(Supply Chain Management)は同義で捉えることができるのではないかと考えています。

現場主義だった中小企業のモノづくりやマネジメントを部分最適から全体最適へ転換することで、その企業が発展できるチャンスをお手伝いできるのではないかと思ったんです。

―学生教育で気を付けていることはありますか。

学生には「目の前の仕事をこなす技術者に収まるのではなく、全体を見て仕事できるようになりなさい」と話しています。企業のなかでリーダーとして輝けるポテンシャルが高専生にはある。実務的な業務をやり通したうえで、主任や係長、課長……末は社長と企業のマネジメントで活躍できる要素を持っています。現場と経営の両方の事情が分かる上司になれるはずです。

学生には授業の中で、いま社会で起きている変革や求められている人材など、技術者も将来的にはマネジメントや経営に関わる可能性があることを話しています。頭の柔らかい学生に物事の考え方や概念を教えておくだけでも、非常に良い影響があるのではないでしょうか。

尾形公一郎
Koichiro Ogata

  • 大分工業高等専門学校 機械工学科 准教授

1994年 大分工業高等専門学校機械工学科卒。
2001年 九州工業大学大学院工学研究科博士後期課程修了、九州工業大学サテライト・ベンチャー・ビジネス・ラボラトリ 研究員。
2003年 大島商船高等専門学校 電子機械工学科 助手、2006年 同講師、2010年 同准教授。
2012年 大分工業高等専門学校 機械工学科 准教授。
2017年 英国リーズ大学工学部化学プロセス工学科 客員研究員。

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