熊野高専卒業後、豊橋技科大で交通に関する研究をされた近大高専の中平恭之先生。現在も引き続き交通に関する研究を続けながら、母校で教授を務められています。そんな中平先生に学生時代の話や研究の内容について、お話をお伺いしました。
父も兄も高専出身、昔から身近な存在だった
―当時の熊野高専(現:近大高専)に進学された理由を教えてください。
私は名古屋生まれなのですが、父の仕事の都合で熊野に引っ越すことになったんです。そして、引っ越した場所が熊野高専の近くで、父も兄も熊野高専の出身だったこともあって、私にとって高専は身近な存在でしたね。
私が住んでいた熊野は田舎で、遊ぶところもあまりなかったんですよ(笑) だから、先輩のバイクを改造して遊んでいることも多かったです。本当は電気や機械の勉強ができる学科に行きたかったのですが、当時は成績が足りなかったので、土木工学科に進みました。
―熊野高専での生活はどうでしたか。
当時は男子校で、先輩方が怖かったイメージがありますね(笑) ラグビー部に所属していたのですが、先輩方にビシバシ鍛えてもらいました。ラグビー部のメンバーとは、今でも連絡を取っていますよ。OB会が盛んで、コロナになる前は年に1回は会って、昔話や近況報告をして盛り上がっていました。
あとは、先生方も厳しかったです(笑) でも、先生が厳しかったおかげで、高専に入ってから勉強をするようになりました。1年生のときに特待生に選んでもらえたので、2年生、3年生と上がってからもプレッシャーはありましたね。そのプレッシャーがあったからこそ、5年間しっかりと勉強ができたんだと思います。
ラグビーという共通点から、廣畠先生の研究室に
―熊野高専卒業後、豊橋技科大に進まれたんですね。
はい、先生に豊橋技科大を勧められたので、進学を決めました。豊橋技科大に進んでからは、交通の研究をしていましたね。廣畠康裕(ひろばたやすひろ)先生の交通計画研究室に所属して、駐車場の案内板に関する研究をしていました。廣畠先生も学生時代にラグビーをしていたと聞いていたので、廣畠先生の研究室を選びましたね(笑)
当時は駐車場が満車か空車かの情報を案内板で表示していたんですよ。駐車場の近くに行かなくても空いているエリアがわかるんですが、当時は案内板が導入されたばかりで、効果があるかどうかわかっていませんでした。だから、実際に効果があるかを調査していましたね。この研究は大学院に進んでからも続けていましたが、難しかったので、何度も先生に聞きながら、研究を進めていました。
「真実と思しきものを調べる研究だ」の真意とは
―廣畠先生はどのような先生だったんですか。
優しい先生でしたね。でも、論文を書いているときは厳しく指導してくださいました。きっとメリハリがある方だと思います。廣畠先生が言われていた言葉で今でも心に残っているのが「真実はわからないけど、真実と思しきものを調べる研究だ」という言葉です。真実がはっきりとわからない難しさやもどかしさはありますが、真実に近いものを調べるということは、今でも念頭に置いて、研究をしていますね。
あと、廣畠先生は空き時間によく数学の難題をチャレンジされていました。当時は少し話題になっていたフェルマーの定理の問題なんかを1人で解かれていましたね(笑) それまで数学にあまり興味はなかったんですが、廣畠先生の姿を見て私も興味を持つようになりました。大学院卒業後、フェルマーの定理が解けたと書いてある本を読んで、感動したことを覚えていますね。
体を動かす仕事をしたくて建設会社に就職
―建設系の会社に就職した理由を教えてください。
私が大学生だった時代は不況で、周りの友人は公務員試験を受ける人が多かったんです。私も周りに流されて公務員試験の勉強をしたこともあったんですが、自分は公務員に向いていないと思ったので、本気で勉強することができなかったんですよね。
そして、自分がしたい仕事を考えたときに、私は体を動かすのが好きだということを思い出しました。だから、現場仕事もある建設系の会社に就職しようと思いましたね。その後、建設系の会社からコンサルの会社に転職したのですが、測量の仕事をしていました。
社会に出て役立った測量、学生にもしっかり教えたい
-高専で学んだ内容は、就職した際に役立ちましたか。
熊野高専では1年生のときから測量の授業があったんですよ。だから、入社してすぐ測量の仕事はこなすことができましたね。周りの新入社員は、最初はできていない人も多かったので、一歩前に出ている気がして嬉しかったです。
私は今、近大高専で測量実習の授業を担当しているので、学生にはしっかりと教えるようにしていますね。測量実習の授業のコマ数は、私が学生だった頃より減っているのですが、測量の知識や技術を学生には叩き込んで、社会に出てからも役に立てて欲しいです。
―その後、近大高専に勤めるようになった経緯を教えてください。
コンサルの会社にいるときに、森本清十郎先生から連絡があって、近大高専の公募があることを知ったんです。森本先生は、私が学生だった頃に土木工学科長をされていた先生で、学校内でよく声をかけてくれていた先生でした。もしかしたら、大学院まで進んでいた同級生が少なかったので、私のことを覚えてくれていたのかもしれませんね。
でも、そのときは修士課程までしか出ていなかったので、高専で働きながら博士論文を執筆しました。月に1回は大学に行かなければならなかったので、大変でしたね。今思えば、よく頑張ったと思います(笑)
悩んでいたとき、廣畠先生が背中を押してくれた
―高専で働いてみて、どうでしたか。
実は、最初は「自分が人にものを教えて良いのか」という不安があったんですよ。だから、高専の教員を辞めようか悩んだときもありましたね。でも、悩んでいることを廣畠先生に相談したら、「自分も教える力はないけど、ここまでやってこれた」と話してくれたんです。私にとって廣畠先生は尊敬できる先生だったので、こんな偉大な先生でも私と同じように思っていたことにびっくりしましたね。
そして「せっかく今の仕事に誘ってもらえたんだから、辞めるとか言わないでしっかり頑張れ」とも言ってもらったんです。廣畠先生の言葉がなかったら、ここまで続くことはなかったかもしれませんね。
―現在はどのような研究をされているんですか。
現在は、人の移動と犯罪に関する研究をしています。これは、私の研究室にルワンダからの留学生であるルマンジ・イポリテさんが来てくれたので、母国に帰ってからも有益になるような研究をしたいと思ったから始めました。
犯罪の中でも「自転車の窃盗」にフォーカスしていて、人が徒歩や自転車で移動したデータと照らし合わせながら、犯罪が発生しやすい場所を調べています。でも、犯罪が起きた詳しい場所は、開示されていないんですよ。ピンポイントで発生場所がわかれば、もっと詳細に分析することができるので、今後は警察とも協力しながら研究を進めていきたいですね。
あとは、公共交通の利便性に関する研究もしています。特に高齢者のアクセスについて、調べていますね。私の地元は田舎で、車を持っていないと移動が不便なんですよ。その経験もあって、過疎地域や地方部の公共交通を何とかしたいという思いがありました。だから、車を持っていない高齢者の方でも不自由なく移動できるシステムがないか考えているところです。
素直になって、学生生活を満喫してほしい
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
高専に進学すると、5年間という長い期間を高専で過ごすことになります。そして、幅広い年代の学生がいるので、入学したときから20歳の先輩と関わることもあるんですよ。10代のうちから、こんなに幅広い年代の人と接することができるのは、高専の利点だと思いますね。
私は高専の新入生には、必ず「素直になりなさい」と伝えています。素直な子って、可愛がりたくなるんですよ。先生だけではなく、先輩からも可愛がってもらえるので、楽しい学生生活を送れると思いますよ。先生や先輩の力も借りながら、高専での5年間を有意義なものにしてください。
中平 恭之氏
Yasuyuki Nakahira
- 近畿大学工業高等専門学校 総合システム工学科 都市環境コース 教授
1995年 熊野工業高等専門学校(現・近畿大学工業高等専門学校)土木工学科 卒業
1997年 豊橋技術科学大学 工学部 建設工学科 卒業
1999年 豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 建設工学専攻 修了
2008年 豊橋技術科学大学 博士号取得(工学)
2021年より現職
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