インタビュー

すべてのスタートは好奇心から。「やりたい!」気持ちを大切に

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2022年の4月に着任し、教職キャリアをスタートさせた小山工業高等専門学校の長尾和樹先生。「パルスパワー」研究を中核に、さまざまな学術活動に取り組まれています。学生たちに「きっかけ」を与えたいと願う先生に、お話を伺いました。

「ロボコン」仲間と熱中して過ごした高専生活

―高専を目指したきっかけは、何だったのでしょうか?

私が「高専」という存在を知ったのは、小学校4年生のときでした。結構早いでしょう(笑) というのも、祖父から唐突に「高専の先生になりなさい」と言われまして。高専には縁のないはずの祖父だったので、びっくりした記憶があります。

そんな祖父は高専2年生のときに亡くなりました。祖父が何を考えていたのか、真意は永遠の謎です。私の人生の宿題の1つですね。

それと、今でもハッキリ覚えているのは、小学6年生のとき、テレビでたまたま見た「高専ロボコン」の映像です。当時は、年末のゴールデンタイムの時間帯に「高専ロボコン」の全国大会の様子が放送されていたんですよ。

そのとき、地元の詫間電波高専(現・香川高専 詫間キャンパス)が出場していて、作り込まれたロボットに、確実な操縦、他のチームを寄せ付けない圧倒的な強さ、テレビの前で釘付けでした。

さらに、優勝だけでなく大賞も同時に受賞する瞬間を目の当たりにし、カッコいいな、自分も「これがやりたい!」と、その一心で高専に進学しましたね。中学校の担任の先生には、「“そんな理由”で高専に進学するの?」とあきれられ、真顔で怒られました(笑)

―高専生活はいかがでしたか?

学生時代はずっとロボコンに熱中して過ごしました。授業中は寝て、放課後ロボコン頑張るみたいな生活を(笑) 半分冗談ですが、それほどおもしろくて楽しくて、夢中になっていました。5年生最後の年は、地区大会に優勝して、全国大会に出場することができましたね。ベスト8で惜しくも判定負けてしまいました。

ロボコンの会場の様子
▲全国大会での様子。この年のテーマは「蕎麦の出前」。「うどんならもっと出前できたのにね」と言われました。

25人ぐらい仲間がいたのですが、一緒に切磋琢磨してやっていました。5年生の11月末にロボコン活動を終えたときは、「これから何しよう?」という感じでしたから(笑)

と言っても、その頃には大学への進学がすでに決まっていたので、残りの高専生活をどう過ごそうかと。今思えば贅沢な悩みですね。寮生活も本当に楽しかったですよ。何より通学時間を気にしなくてよかったので、時間を忘れていろいろなことに取り組めましたし、寮生活を共にする仲間と夜遅くまでお菓子を食べながら雑談したのも楽しかったです。

―大学への進学はどのような思いで決めたのですか?

もともとは専攻科に進学して、そのあとに就職しようと考えていました。半導体関連の仕事に就きたいなという将来への思いもありましたね。高専に入学する半年前に高専の高度化再編(合併)が行われた直後でした。

「詫間電波高専」も「高松高専」と合併し、合併後初めての学生だったこともあり、周囲の友人たちもたくさん専攻科を希望しており、専攻科の倍率はとても高いものに感じていました。

また、長岡技術科学大学出身の先生方との接点が多かったことも進学の決め手になりましたね。この頃あたりから高専教員を意識するようになり、将来高専の教員になれたらいいなという思いも心の中にあったので、「教員」を視野に入れての進学でした。

偶然出会った「パルスパワー」に好奇心を抱く

―「パルスパワー」に興味をもったきっかけは何でしょうか?

長岡技科大に進学し、授業でたまたま出会った分野でした。単純におもしろそうだなと思ったんです。「好奇心」が湧いた感じですね。

大砲のような形状のパルス電源
▲大型のパルス電源。この装置で大電流電子ビームを加速させ、それからマイクロ波を発生させる研究をメインでやっていました。

高専時代には「パルスパワー」との関わりはありませんでした。詫間キャンパスでは「弱電」科目しかなかったので、「強電」系の学科も科目もなかったんです。たまたま偶然に出会えたのは、「ロボコン」と同じですね(笑)

「パルスパワー」はどういうものかと言いますと、ゆっくり貯めたエネルギーを一瞬で使う技術です。わかりやすくイメージできるのは、使い捨てカメラの「フラッシュ」です。

1度フラッシュを焚くと、すぐにはフラッシュが焚けないですよね。その間にゆっくり電気を溜めて一気に使う、あの仕組みです。フラッシュランプに一気にエネルギーを投入するからこそ、一瞬ですがあの強い光を出すことができるのです。

測定器の前に座る長尾先生
▲自作の測定器を用いた実験準備の様子

「パルスパワー」は、この他にも「シイタケ」のボタ木(原木)に放電するといっぱい育つといったさまざまな用途があるんですよ。最近だと、青魚にいるアニサキスをパルスパワーで殺虫する研究が注目されています。

―博士課程は、どのような生活でしたか?

想像通りの答えかもしれませんが、日中を研究室で過ごしていました。後輩とともに実験を繰り返し行って、夜帰って寝るという(笑) 息抜きは、研究室の仲間とのゴルフや釣りでしたね。実験がうまくいかず、むしゃくしゃしているときは、よく後輩と海辺にドライブに行き、荒れた日本海や星空を眺めながら缶コーヒーを飲んで帰っていました。真夜中に無理矢理?ドライブに連れて行かれる後輩はたまったもんじゃないですよね(笑)

マスクをして机に突っ伏す長尾先生
▲実験がうまくいかず、絶望しているところ。もちろんこの後、後輩と海へコーヒーを飲みに行きました(笑)

国際学会へも多く参加させてもらいました。アメリカに行くことがほとんどでしたが、アメリカは私の肌に合うのか、とても好きでしたね。イノベーション専攻のカリキュラムでは、研究インターンシップという、2週間以上海外で研究活動を行う科目がありました。

青い間欠泉
▲国際学会での発表が終わった後は、指導教員とイエローストーンへ。間欠泉が有名ですが、これもパルスパワー。

ですが、2週間は短すぎるので、せっかくならと3カ月間テキサステック大学で学びましたね。テキサステック大学は、パルスパワー技術において世界をリードする大学の1つで、パルスパワー研究者の間では、テキサステックで研究をすることは研究者としての登竜門と言われています。実験装置一つ一つの規模が大きく、深く研究に取り組むことができました。

テキサステック大学の学生さん3名と長尾先生
▲テキサステック大学にて、同じ研究グループの学生さんたちと

ここでは、加速器に使われる大電流電子ビーム発生のための電極(カソード)の研究開発に取り組みましたね。このときに得た知識や経験、考え方は、帰国後の研究においてもとても重宝しましたし、これからの教育研究活動においても心強い武器になると思っています。

丸い金属の中に、黒いとげとげがあるカソード
▲開発したカソード

実は、教職に就こうと思っていながらも、就活をした経験もあるんです。でも結局のところ、企業で働ける気がしませんでしたし、企業の人にはそれを見抜かれていました。何より「研究」することが好きだったので、このまま好きなことを続ける方が自分には向いているなと思いました。

―なぜ小山高専に応募されたのですか?

大学の研究室に、小山高専出身の後輩が多かったんです。修士をめざして勉強する後輩たちから相談を受ける機会が多く、後輩たちをサポートしてあげたいという思いが強くなりました。「教える」ということに対しても興味が深まりましたね。

そういった経験と、小山高専の公募のタイミングが噛み合わさりまして。私の好きな日本酒の1つが栃木の酒蔵だったこと、都会過ぎず田舎過ぎない過ごしやすさにも、とても魅力を感じています。

「やってみたい」気持ちにフタをせずトライ!

―先生の研究や授業について教えてください。

さまざま学術機関や企業との共同研究を進めています。例えば、現在進行中の「パルス電源」の共同開発は、スマホやパソコンをはじめ様々な電化製品に使われている半導体を製造する装置の電源として使用されています。半導体の性能向上やさらなる小型化を司る大事なところであり、さらに省エネ化を実現すべく研究に励んでいます。

授業では、1年生から4年生まで広く関わりがあります。私が学生時代に熱中した「ロボコン」ですが、今はサポート側に回って学生の手助けをしていますね。小山高専のロボットは今もそうですが、昔から見ていて楽しいものが多く、でも強いんですよ。他にも高専生が1から加速器の開発製作に挑戦する「加速器プロジェクト」など、多くの活動に携わっています。

―学生たちを指導するうえで、大切にしていることは何ですか?

正門から見た小山高専
▲小山高専 正門

「きっかけ」を与えられる授業を心がけています。例えば、授業で使用するスライドは、意図的にパッと見ただけでは理解が“少し”難しいようにしています。講義を聞いて、学生が自分たちの頭で考えて、自分の言葉でプリントに書き込み、“自分だけの教科書”へと完成させてほしいからです。

「なんで、交流回路を複素数で表すの?」、「実効値を使って計算すると何がハッピーなの?」といった本質的なところから、「何でこうなるのだろう?」という疑問やひらめき、それらすべてを大事にしていってほしいと思っています。

ここだけの話ですが、授業の準備の際には、自分が高専生だったときの授業ノートを参考にしています。当時の自分は何が分からなくて、何に苦しんだのかの記録も詰まっているので。その部分は手厚く分かりやくなるように意識しています。

私自身まだ着任して日も浅いので、あまり先のことを考えず、「今」に集中して過ごしていますね。学生との関わり方も考えている最中です。学生から「こんなことやりたい」というリクエストがあれば、それに応えるようなスタイルを目指していきたいなと。

―これから高専をめざす中学生に向けて、メッセージをお願いします。

自分の「やりたいこと」を見つけて来てくれると、高専は最高の学びと体験が得られる環境です。「やりたい」に大した理由は必要ありませんからね。「好奇心」のままに、興味のあることに取り組んでみたいという思いがあれば十分です。

でも、やるからには全力で、1回や2回の失敗でくじけずに、100回200回失敗しても最後までやりきってほしい。「やりたい」を究めるのは本来楽しいものですし、失敗したことや意図せずうまくいったことも含めて、そういう経験こそ普段の授業や実験より貴重で、はるかに大事だと思っています。もちろん普段の授業や実験も大事ですよ。

私の場合はたまたま高専の存在を知っていて、たまたま見ていたテレビで、たまたまロボコンの全国大会の様子が放送されていて、たまたま地元の高専が出ていたことがきっかけでした。偶然が重なった結果が今の自分です。みなさんにとっての「たまたま」は何になるか。そのときどきを楽しみましょう。「きっかけ」は偶然のタイミングで訪れますからね!

長尾先生の後輩二人の写真(2枚)
▲長岡技科大の学生のころ、後輩の影響で新しい趣味となったカメラ。写真の2人は同じ研究グループの後輩で、小山高専の鈴木真ノ介先生の研究室出身。これも偶然ですね。

長尾 和樹
Kazuki Nagao

  • 小山工業高等専門学校 電気電子創造工学科 助教

長尾 和樹氏の写真

2015年3月 香川高専(詫間キャンパス) 電子システム工学科 卒業
2017年3月 長岡技術科学大学 工学部 電気電子情報工学科 卒業
2022年3月 長岡技術科学大学大学院 工学研究科 5年一貫制博士課程 技術科学イノベーション専攻 修了
2022年4月より現職

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