新居浜高専をご卒業後、長岡技科大に進学し、現在は愛媛大学で教壇に立たれている梶原智之先生。高専への進学のきっかけは「大好きな剣道」だったのだそう。学会でもトップレベルの研究をされている梶原先生に、高専時代の思い出や研究のお話を伺いました。
「剣道」と「学業」の両立ができる新居浜高専に進学
-新居浜高専に進学を決めた「きっかけ」はなんでしたか?
中学3年生の時に、両親から新居浜高専の存在を教えてもらいました。ただ、その時は高専に行くつもりは全然なくて。ずっと剣道をやっていたので、私立の剣道強豪校に行きたかったんですが、親からは「剣道だけでは行かせません」と言われました(笑)。
ちょうどその頃、剣道が強い近所の子が何人か高専に行くというのを聞いて、新居浜高専のオープンキャンパスに参加したんです。そこで電気情報工学科の5年生が、すごく目をキラキラさせて説明をしてくださって。それで進学を決めましたね。
-新居浜高専での生活は、いかがでしたか?
「電気情報工学科」では、電気と情報の両方が学べるんですが、授業を受けるにつれて情報分野の方に興味が湧きました。オセロゲームや電子オルゴールのプログラミングの授業が面白かったですね。
「情報処理技術者試験」や「ITパスポート試験」などは、独学で挑戦していました。決められた勉強より、自分で目標を決めて勉強するほうが楽しかったですね。
部活は、もちろん剣道を続けました。高専では地域の強い子たちがたくさん集まっていたので、熱心に打ち込みましたね。レベルの高い環境で毎日学ぶことも多かったですし、力がどんどん付いていくのが実感できました。
3年生の時には、オーストラリアにホームステイもしました。その家には僕だけじゃなくて、他に2人ぐらい日本人がいたんですが、その後、そのうちの1人と再会したんですよ。その人のお姉さんと僕のいとことの結婚式だったんですが、本当に驚きましたね(笑)。
-卒研では、どのような研究をされたんですか。
幼稚園からエレクトーンも習っていたので、音楽とプログラミングの両立がしたいと思い、自動作曲の研究をしました。AIが自動的に一小節単位で、メロディをつくってくれるので、そのメロディがどのぐらい好ましいかなどを、ユーザーに判断してもらいました。ランダムの曲候補から好みの楽曲に育てることや、ユーザーによって仕上がる楽曲が変わることが面白かったですね。
長いコードを書くのは、卒研が初めてだったんです。本当は少しずつコードを書いて、テストを繰り返さなければいけなかったんですが、当時はそういったことも分からなかったので一気に書いちゃって。もちろん動かないんですが、「どこにミスがあるか分からん」という状態で(笑)。苦戦しながら完成させた記憶がありますね。
「高専トップの成績」が、大学では通用しなかった
-梶原先生は、その後、長岡技科大に行かれているんですね。
大学に編入することは、わりと早いタイミングで決めていたんです。その頃から「高専の先生になりたい」とも思っていたので、それには博士号が必要だということで。
担任の先生から「特待生で行けるよ」と長岡技科大を紹介していただき、進学しました。実は、高専時代はトップの成績だったので、大学でもトップの成績を取れるだろうと安易に考えていたら、これが大間違いで(笑)。「これはまずいぞ」と危機感を覚えましたね。
高専時代は、剣道やエレクトーンなど、自由にやりたいことをやっていたんですけど、同級生たちは「ちゃんと勉強をしてきた」人たちだと分かって。東京高専の武田美咲先生も同級生だったので、よく一緒に勉強していました。
-長岡技科大大学院まで行かれていますが、どんな研究をされたのですか。
大学では、山本和英先生の研究室で、「自然言語処理」という「言葉に関する人工知能の研究」をしました。高専時代に地元の道場で剣道を教えていたんですが、先生って難しいことばかり話すじゃないですか(笑)。僕は小学生でも分かるような言葉で伝えることを心がけていて、その経験もあって「難しい言葉を分かりやすく言い換える」という研究テーマにしました。
インターネット上の「難しい言葉と易しい言葉のセット」を自動的にたくさん集めるという内容だったんですが、なんとか成績を挽回したくて、研究室に入ってからは何日も寝泊まりしながら研究していました。学部4年生の時の初めての学会発表で賞をいただいて。長岡技科大に入って初めて「上手くいった」と感じた瞬間でしたし、大きな自信になりました。
様々な恩師のもとで、修業を積む
-博士課程は、首都大学東京(現:東京都立大学)の大学院に行かれているんですね。
修士の時にITベンチャー企業にインターンシップで行ったのですが、そこでのメンターが博士号を持たれていたんです。それで、博士号を取った後でも就職することができることが分かり、進学後に仕事を決めようと思いました。そこで、高いレベルを目指し、東京に行こうと決めたんです。
博士課程の指導教員であった小町守先生は、たくさんの成長の機会をつくってくださいました。博士1年時にはイギリスのリバプール大学への留学費用を小町先生から支援していただき、ボレガラ・ダヌシカ(Danushka Bollegala)先生のもとで研究しました。
小町先生は、僕が書いた論文を尊重して「一部訂正」というやり方だったんですが、ダヌシカ先生は「これが正解の書き方だ!」と、ほぼ全部書き直す勢いで教えてくださって(笑)。あれはかなり力が付きましたね。
さらに博士2年時には、「統計数理研究所」の持橋大地先生と共同研究を行いました。持橋先生は、とても数学に強い先生だったので、「『この言葉』と『この言葉』が同じ意味」というのを数式で表せるんです。今までなんとなく感覚で理解していたものを、違うアプローチで説明できることは、とても刺激的でしたね。
また国際会議でお誘いいただいたことがきっかけで、博士3年時には「情報通信研究機構」の藤田篤さんのもとで修業しました。藤田さんは「言い換えの研究」について日本一詳しい方なのですが、ここでの経験も大きな学びになっています。
藤田さんの方がもちろん僕より詳しいのですが、「言われたことを全部受け入れてはいかん!」と、意見を主張する大切さを教えてくださって。合宿まで組んで時間をかけて指導してくれて、最後の方はちゃんと意見をぶつけられるようになりましたね。
小学生が剣道の教科書を読めるよう、サポートしたい
-現在は、愛媛大学で助教をされていらっしゃるんですね。
学生時代に多くの先生にお世話になったおかげで、博士号取得後、自然言語処理のトップレベルの国際会議で研究成果を発表できるようになりましたが、いつかは地元の愛媛に帰ろうと思っていたんです。愛媛大学で公募が出たので、案外早く戻ることが出来ました。
最近は、言い換えの研究の他に、機械翻訳の品質評価の研究などもしています。また、2022年からNLP若手の会の委員長を拝命したので、自然言語処理の分野の若手を盛り上げていけるよう頑張りたいと思っています。
将来的には、小学生が剣道の教科書を読めるように、「自分に最適化された教科書で、効率的に知識を得られるようなサポート」を自然言語処理で実現していきたいと思っています。
僕はそれほど能力が高くなかったところから、優秀な先生にお世話になって成長できたので、学生への恩送りをしていきたいと考えています。自分の学生には「僕より早いタイミングで、トップレベルの発表が出来るように」と、意識して接しているんです。
実は出身研究室の人は、人工知能や自然言語処理関連の仕事に就かない人も多いんですよ。自然言語処理に対して、ポジティブなイメージをもって社会に出てほしいですし、人工知能や自然言語処理のファンをもっと輩出していきたいですね。
-最後に高専生にメッセージをお願いします。
僕は高専に入るまでパソコンも触ったことがなかったですし、大学に入るまで「自然言語処理」という言葉も知りませんでした。進学はターニングポイントになっていて、高専や大学への進学で新しい世界を知ることができたので、そのステージに進むことができました。
現役生のみなさんも大学進学で自分の選択肢を増やしてから、仕事を選べばいいんじゃないかなと思います。
あとは高専や大学でひたすら勉強して良かったと思っています。受け身で勉強してたわけではなく、研究室を選ぶ時にも、いろんな研究室の先生に話を聞きに行って候補を絞りました。現役生には何事も積極的に情報を求めていってほしいですね。
梶原 智之氏
Tomoyuki Kajiwara
- 愛媛大学大学院 理工学研究科 助教
2011年 新居浜工業高等専門学校 電気情報工学科 卒業
2013年 長岡技術科学大学 工学部 電気電子情報工学課程 卒業
2015年 長岡技術科学大学大学院 工学研究科 電気電子情報工学専攻 修了
2018年 首都大学東京大学院 システムデザイン研究科 情報通信システム学域 修了
2020年 大阪大学 データビリティフロンティア機構 特任助教
2021年より現職
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