中学生時代、たまたまテレビで見た「ロボコン」の世界。「アイデアを形にしたい!」とモノづくりに憧れた少年は、一途にロボティクスの可能性を切り拓いてきました。東京工業高等専門学校 冨沢 哲雄先生の研究内容、学生への思い、そして「楽しさ」哲学についてお話を伺いました。
人生を決定づけた「ロボコン」との出会い
―先生が茨城高専を目指したきっかけは?
両親が音楽を趣味にしていたので、私が物心ついた頃にはピアノを習わされていました。子供のころはコンクールで最優秀賞をもらったりしたこともあり、結構上手だったんですよ(笑)。
でも、ただ親や先生の言う通りに演奏することに楽しみを感じなくなった時期があって。そんなとき、たまたまテレビで「ロボコン」を見ました。「楽しそう!」とときめいたんです。
自分より少しだけ年上の人たちが、自分のアイデアを形にして、ものづくりをしてる姿に感動し、それで地元茨城高専の門をたたいた感じですね。入ったからにはロボコンをやろうという思いでした。「ロボットをやってる」って、人に言えるのカッコイイじゃないですか!?
―高専での生活はいかがでしたか?
信頼できる先輩や友人たちとロボット部を立ち上げ、創部メンバーの一員として夢中になって、さまざまなロボコンに出場しました。仲間にも恵まれてNHKロボコンでは操縦者として全国大会にも出場。
当時、大会で戦った相手チームの指導教官が、現在勤務している東京高専の副校長(多羅尾 進先生)です(笑)。昔の敵チームが、今は同じチームで仕事をしているなんておもしろいでしょう?
もうひとつ思い出されるのは図書館でのアルバイトですね。当時の茨城高専では、夜間帯の図書館運営を学生がやっていて。ロボットをつくる時間と、お金との両方が欲しかった私は、図書館の受付カウンターの中で、こっそりロボットの設計図を描いていました。
図書館での業務の中で、何が一番面倒かというと、返却された本を書架に戻すという作業なんですね。それを解決するロボットの構想を日々練っていました。このアイデアは、進学した筑波大学で実現させたんですよ。
「人と共存して働くロボット」を目指し無我夢中!
―筑波大学では、ロボット研究に夢中だったそうですね。
大学へは、研究者になろうと思って進学しました。「普段の生活の中で、人間の役に立つロボットをつくりたい」という私の理念と共通していた大矢 晃久先生(現:筑波大学 教授)のもとで学びました。最初に取り組んだ研究が、図書館での自律走行ロボットの開発です。
図書館にロボットを配置して、それを遠隔操作します。任意の本棚まで走行し、任意の本を棚から取り出す。ロボットがページをめくってくれて、写真を取って画像として送ってくれるというものです。
用が済んだら、本を棚へ戻してくれます。夢中になって研究に取り組むことで、IEEE Japan Chapter(米国電気電子学会 日本支部)から賞をいただく幸運に恵まれました。受賞をきっかけにNHKがニュースとして取り上げてもくれました。
当時何となくですが、「20代は勉強」「30代は研究」「40代は教育」と考えていて、そのとおりの人生を歩いている感じですね。今もひきつづき研究には夢中ですが。
―趣味の旅行についても、ぜひ聞かせてください。
日常的なことを繰り返してると飽きちゃう性格なんです。なので、「非日常」を味わって気持ちをリセットできる旅行が大好きです。高専時代は青春18きっぷで鉄道の旅、大学入学後はクルマを使って国内いろんなところへ旅行に出かけました。
大学院に入ったころには47都道府県をすべて制覇してしまい、国内旅行では刺激が足りなくなってきたのですが、帰国子女や留学生の友人に触発されて海外旅行に手をだしたところ、どっぷりハマってしまいました。
でも学生なので、お金がないわけです。どうしたら海外に行けるのかを考えた結果、研究して国際学会にたくさん論文を通そうと。そしたら先生がお金を出してくれますからね(笑)。身銭を切らずに海外旅行に行きたいという不純な思いから、人一倍研究を頑張っていました。大学院の5年間で20カ国は行ったはずです。
―先生は、社会経験が豊富ですよね。
博士号を取得後、産業技術総合研究所、電気通信大学、防衛大学校に勤務しました。私の場合、職場が変わってもずっと一貫して「人間の実生活環境の中で、人と共存して働くロボットをつくる」ということをテーマに、研究をつづけてきました。防衛大だから戦車や戦闘機の研究というわけではないんですよ。
研究室内でロボットが動くだけでは、いつまでたっても実用化できないと思い、実際に街中で走らせたいと考えていました。筑波大学の恩師である油田信一先生(現:筑波大学 名誉教授)を中心として、行政や企業に何度も足を運んで交渉し、ついに2007年、日本で初めて公道をつかってのロボット実証試験「つくばチャレンジ」の開催にこぎ着けました。
これはつくば市内の街中で、移動ロボットが自律走行する技術チャレンジです。研究者と地域が協力して毎年継続していて今年で16年目になりますが、ここで育った学生の多くが、自動運転関連のエンジニアとして活躍しています。
―「ロボコン」の主審経験もあるそうですね。
電気通信大学(東京都調布市)は、場所柄、東京高専からの進学者がいて、私の研究室に受け入れることもありました。それで東京高専の先生方とのつながりもでき、主審のお話をいただきました。かつてロボコンの競技者であった自分が、今度は主審をするなんて楽しいめぐり合わせですよね。
そんな縁がきっかけとなって、東京高専へ着任しました。私のロボティクスの経歴を買ってくださったのかなと思います。ちょうど私も「40代は教育」と思っていたので、高専で仕事ができたら楽しそうだなと思いました。
人々の生活を「楽(らく)」にしたい!
―先生の活動について教えてください。
「スマートシステム研究室」で卒研の学生たちを日々指導しています。「ロボット工学研究室」との合同部屋になっていて、通称「スマロボ」です。研究室は、私がDIYリフォームしています。学生が気軽に集まって談笑できるようなスペースにするとともに、日常生活支援ロボットの研究もできるように、家庭のリビングやカフェに似せたインテリア空間になっていて、ミーティング用の机はちゃぶ台です(笑)。
この空間を使って人やロボットがどのような行動をするのか、各種センサで観測を行ったりしています。とはいえ居心地が良いせいか、この研究室にはうちの卒研生だけではなく、その友人やサークル仲間など誰かしら学生がいて、いつも賑やかです。ときどき、近隣の研究室の先生方もコーヒーを飲みに来てくれたりします。
それと今は、ロボコンゼミの顧問もやっています。東京高専は、昨年10月に行われた関東甲信越地区大会で、優勝とアイデア賞を取ることができました。私自身がかつてロボコンを見て、「高専に行きたいな」と思ったように、地元の小中学生の中からそんな未来の高専生がでてきてくれるとうれしいですね。
―最後に学生へメッセージをお願いします。
「楽しい」と思うことを、ぜひやってほしいと思います。楽しいことをしていれば、無我夢中になれるでしょう。夢中にやれば、どんどん自分ができることが増えていって、やがて誰よりも詳しくなれる。
そして、自分の作品や仕事が人から必要とされるようになれば、これ以上幸せなことはないと思うんですよね。だから私は学生たちに「何ソレ、おもしろい!」と思える研究しかやっちゃいけないよと指導しています(笑)。
私は、ロボットをつくって、人々の生活を“楽(らく)”にしたい。そのために寝る間を惜しんで研究している今がとても“楽(たの)”しいのです。みなさんも、一緒にロボット工 “楽”(こうがく)しませんか!?
冨沢 哲雄氏
Tetsuo Tomizawa
- 東京工業高等専門学校 機械工学科 准教授
1999年 茨城工業高等専門学校 電子制御工学科 卒業
2001年 筑波大学 第三学群工学システム学類 卒業
2006年 筑波大学 大学院システム情報工学研究科 知能機能システム専攻 修了
同年 日本学術振興会 特別研究員(PD)
2007年 産業技術総合研究所 特別研究員
2009年 電気通信大学 大学院情報システム学研究科 助教
2016年 防衛大学校 情報工学科 講師
2017年 名古屋大学 大学院情報学研究科 客員准教授
2020年 より現職
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