
東京高専を卒業後、専攻科に進まれ、現在はユーキャン株式会社で働かれている鈴木洋平さん。進路を決める際には、就職と専攻科で迷われたそうです。鈴木さんがなぜ専攻科を選ばれたのか、高専時代の思い出や、研究のお話、現在のお仕事について伺いました。
バイオテクノロジーに興味があって、東京高専に進学
―東京高専に進学されたきっかけを教えてください。
同級生が高専の存在を教えてくれたのがきっかけです。私が住んでいたのは神奈川県相模原市なんですが、神奈川県にはそもそも高専がなかったので、身近な存在ではありませんでした。
あと、当時の私は新聞の記事で「砂漠の緑化事業」を知り、名前の響きもあって、「バイオテクノロジーってかっこいい」と思っていまして(笑) 高専はバイオテクノロジーに繋がるような教育を受けられることを知り、オープンキャンパスにも参加して、東京高専の物質工学科を受験しました。

―実際に東京高専に進学されてみて、いかがでしたか。
中学まではある程度勉強できたのですが、物理の最初の試験で0点を取ってしまって(笑) 授業もついていくのがやっとで、教科書も読んでもよく分からなかったし、先生の説明もちんぷんかんぷんでしたね。それでも板書はノートに一生懸命取ってあり、書くことだけはとにかく努力していました。
一般科目や物理に関しては成績が振るわなかったのですが、3年生から始まった専門科目に関しては、実験もあったので理解できました。また、同じく3年生のとき、研究室に半年間配属をされて、半年ほど自由研究をしたんです。オープンキャンパスでもお世話になった三谷先生の研究室に入り、3人1組のチームで、何度でも繰り返し使えるカイロをつくりました。
原理については、酢酸ナトリウムを溶かして温めると水溶液になるのですが、そこに刺激を与えると、過冷却現象が起こり、真っ白な結晶になります。その時に発熱が起こるので、その反応を使ってホッカイロをつくりました。袋の形状や袋の材質などもこだわった記憶がありますね。
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いろいろ試行錯誤して、三谷先生にも先輩たちにも非常に迷惑をかけっぱなしだったのですが、制限なく自由に研究させてもらえました。
-高専時代はどのような部活に所属していたんですか。
卓球部に入り、1年生から4年生まで週2,3回ほど汗を流していました。3年生からは部⻑になりましたね。その頃の卓球部のメンバーが、私以外は結構強かったんですよ。みんなで話し合いながら部をまとめていって楽しく練習できましたし、高専大会に勝つこともできて、全国大会に2回行くことができました。
また、学生会選挙では審議委員⻑に就任させていただきました。活動そのものはあまり覚えてはいないのですが(笑)、垣根を越えて他学科との交流ができたのは非常に良かったですね。

焼成火山灰土壌について研究を行う
-卒業研究はどのようなことをされたのですか。
引き続き三谷先生の研究室で「焼成火山灰土壌を用いた、下水中からのリン酸吸着除去」について研究をしました。私が3年生の時に東京高専の専攻科が認可されたこともあり、先輩がそのまま専攻科に進学されたので、他の研究室とは迷わなかったですね。三谷研は人気が高かったのですが、うまく配属が決まりました。
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研究内容としては、火山灰を焼き固めてつくった土を「焼成火山灰土壌」と呼ぶのですが、リン酸を吸着する力があるので、下水を通してリン酸を吸着除去するものです。
植物の三大栄養素には「窒素・リン酸・カリウム」があります。しかし、リン酸含有率の高い下水を海に流してしまうと、植物プランクトンが大量発生して赤潮などの原因になるんです。研究自体は先輩から引き継いでいて、私の代で数カ年の研究でした。
企業との共同研究でしたので、下水処理場の一部に大きな実験装置を置かせていただいて、その中に焼成火山灰土壌を充填して、下水を供給して綺麗にする実験を実施しました。毎週下水を採取して、入口のリン酸の値と、焼成火山灰土壌を通した後の出口のリン酸の値を調査。毎週同じことをやり続けるのは大変でしたし、実験中は目が離せなかったですね。実験の手法や操作方法、洗い物一つにしても、結果にダイレクトに影響が出るので、丁寧に実験することを覚えました。
-その後、専攻科に進学されています。
実は就職と専攻科への進学で悩みました。4年生の夏休みにインターンシップでとあるメーカーの研究所に行かせていただいて、乳液に関する研究をしたことがあります。すると、割と熱心に取り組んでいたので、ありがたいことに就活の時期に「ぜひ来てほしい」とお声がけいただいたんです。楽しそうだと思いましたが、まだ地元を離れたくない気持ちも強く、いろいろ考えた結果、専攻科に舵を切りました。
専攻科では、焼成火山灰土壌のポテンシャルの道筋を見出すことができました。また、東京高専と釜山(プサン)の大学とで交流があり、英語でプレゼンをさせていただく機会もありましたね。研究内容を英語で伝えるという数少ない経験ができました。

専攻科では自由に過ごせましたし、本科からの環境の変化がないことは、何かに集中するためにはぴったりでした。私以外にも6人ぐらい専攻科に残りましたし、大学進学組や就職組とも遊ぶことができて嬉しかったです。
自分がいなくなることは、臓器不全に陥ることと一緒
―現在はどのような仕事をされているのですか。
卒業後に目指したいなと思ったのは研究職だったんです。今まで研究に携わってきたこともあり、水処理関係の会社をターゲットにして就職活動をしていました。
そんな中、ユーキャン株式会社という中小企業に決めたのは、三谷先生と弊社の社⻑がゼミ室でたまたまお茶をしていたことがあって、その時に三谷先生が社⻑に私を紹介していただいたことがきっかけなんです。ユーキャンは加湿器を取り扱っていたので、水関係の仕事ができるところが魅力的に見えました。
仕事内容は所長になってからもほとんど変わらず、基本的にはお客様のところへ行って、自社の製品をPRして、導入の検討をいただく業務内容です。加湿器のための水処理装置も取り扱っているんですが、その原理は高専で勉強してきたので、何の抵抗もなく理解することができました。水は水道水、純水、軟水があるんですが、それぞれの違いをスラスラ答えられるのは、高専の授業のおかげですね。

営業職なので、受注をいただいたときが一番嬉しいです。我々の仕事は「出来て当たり前」という風潮があるんですよ。「水が漏れている、故障している」という連絡もありますが、「導入して良い結果が得られました」という報告をいただけるとやりがいがありますね。
我々の製品は、普段の生活で目にすることはあまりないと思います。でも、あるとないとでは大違いで、無いと困るお客様も多いんです。特に半導体産業や電子産業の生産ラインは、静電気が発生しないように湿度を保つ必要があり、加湿器は必需品です。生産産業でも役に立っているという誇りはあります。
また企業においてサラリーマンは「⻭車」に例えられることがありますが、ユーキャンでは⻭車ではなく、全部やらないといけません。人の体に例えると、心臓だし、指だし、足だし、内臓だし。自分がいなくなることは臓器不全に陥ると言ってもいいくらい、いろんなことをやらせていただいています。
意欲さえあれば会社の隅々まで携わることができるので、そういう意味で中小企業は面白いと思います。風通しも良く意見も通りやすいですし、意思決定は早いです。

今後は経営方面のお仕事もしていきたいですし、もちろん会社も大きくしたいとは思っています。高専生に会社の魅力が伝わるように、発信もしていきたいですね。
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
研究室に訪ねてくるお客様がいれば、できるだけ一緒の席にいてほしいです。話の内容が頭に入ってこなくても、所作や言葉遣いだけでも勉強になると思います。大人側も学生さんがいろいろ聞いてくれると嬉しいと思いますし、今後関わることがないかもしれないと思っていても、「育てたい」という意識は芽生えるんです。高専は大人がたくさんいるところなので、些細なことでも大人とコミュニケーション取ることは大切だと思います。
専攻科は、より⻑期にわたる研究に取り組める環境です。1年以上時間をかけた方がいいと感じるものがあれば、専攻科はすごく良いですよ。5年生までと違って、研究室で過ごす時間が圧倒的に増えますし、直属の後輩に恥ずかしい姿を見せるわけにはいかないので、研究にも力が入ります。また、人に教えることで改めて自分の学習にも繋がりますので、ぜひ専攻科も進路の選択肢として考えてほしいですね。

鈴木 洋平氏
Yohei Suzuki
- ユーキャン株式会社 営業部 東京営業所 所長

2005年3月 東京工業高等専門学校 物質工学科 卒業
2007年3月 東京工業高等専門学校 専攻科 物質工学専攻 修了
2007年4月 ユーキャン株式会社 入社
東京工業高等専門学校の記事



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