大学院修了後、東京都市大学・広島商船の勤務を経て、現在は鹿児島高専で教壇に立たれている佐藤正知(ただとも)先生。大学時代は「飛び級制度」をつかい、大学院に進学されたのだとか。学生時代の思い出や研究のお話、教育への思いなどを伺いました。
「飛び級」制度を使い、大学院に進学
-佐藤先生は、横浜国立大学のご出身なんですね。
そうなんです。高校の時から数学や化学が得意だったことと、家から通えるところを探して、横浜国立大学に進学しました。物理(電子電気系)は得意ではなかったのですが、「就職するときに役立ちそう」というイメージで電子情報工学科を選びました(笑)。
4月のガイダンスで「飛び級」のシステムがあることを知り、目指してみようと勉強を頑張りました。もともと大学院の修士課程まで進むつもりだったので、当時お付き合いをしていた同級生の彼女を卒業後2年待たせるより、1年でも早いほうがいいだろう、というのが理由だったんです(笑)。でもすぐ別れてしまいましたけどね(苦笑)。
飛び級の条件が「成績上位5%か、優が75%以上を満たした上で、院試に合格」という条件でした。成績もしっかりとれていたので途中からは真剣に狙っていきましたね。3年の夏休み期間に院試を受けて、後期の半年間で卒業研究相当の特別実習を行うというハードスケジュールでしたが、無事に飛び級で大学院に進学できました。
恩師のもとで「ウルトラワイドバンド」の研究をする
-研究は、どのようなことをされたのですか。
河野隆二先生の研究室で「ウルトラワイドバンド」の研究をしていました。河野先生は講義で90枚ぐらいパワーポイントを準備されるんですが、表紙だけで授業が終わる回もあるんです(笑)。
ずっと「学生達と海外の学会に行った」「新しい研究会を作った」「今度国際会議の議長をやる」など世界的に活躍している話をされるんですが、「河野研に入れれば、自分もそんな経験ができるかも」と思っていました。いま私も授業をする側ですが、「学生をやる気にさせる」「学生が寝ずに聞く」授業は、河野先生を理想にしていますね。
「ウルトラワイドバンド」は、3GHzから10GHzという広い周波数帯を使って通信する方法です。この超広帯域のアンテナをつくることが当時難しかったので、「サブバンド」と呼ばれる複数の異なる周波数帯のアンテナを使用し、超広帯域をカバーするという研究を行いました。
本当は装置をつくるところもやりたかったんですが、ハードウェアをつくる研究室ではなかったので、シミュレーション中心で研究が終わってしまいました。ただ、シミュレーションしたときに、思っていた通りの結果が出たことは嬉しかったですね。
河野先生が多忙だったこともあり(それでも週2回の輪講は必ずやる)、学部生や修士課程の研究はたくさんいる博士課程の先輩達が見てくれる研究室だったんです。私も学年が上がるにしたがって後輩の面倒を見るようになり、研究のアドバイスをしていました。これが性に合っており、今につながっていると思いますね。
-国際会議では、フィンランドに行かれたんですね。
「ウルトラワイドバンド」の研究で、初めて国際会議に行きました。立ち振る舞いもよく分かっていなかったので、自分の発表が終わった後に、遊びに行っちゃったんですよ(笑)。
フィンランドに「ロヴァニエミ」という村があるんですが、そこに絵本に出てくるようなサンタクロースがいて、しかも日本語が話せるんです! 記念に写真撮影をしてもらったんですが、その時にサンタが「1+2は? サンタ!」って言っていて(笑)。「日本のことをよく分かっているな」と思いましたね。
変化を求めて、大学教員から高専教員へ
-大学教員を経て、広島商船に着任されたんですね。
博士修了後、運よく大学教員の道に進むことができました。10年間勤めましたが、「寝る間も惜しんで研究するような人が適任だ」と思い始めたんです。とはいえ、教育も研究も好きだったので、「高専の教員がいいのでは?」と思い、その後ご縁をいただき、広島商船に着任することができました。
高専に来てから、いろいろ苦労しましたね。実は、最初の電気磁気学の中間試験で、「全員赤点」という結果を出してしまったんです(苦笑)。そこでかなり反省をして、授業やテストのやり方を徹底的に見直しました。辻校長先生がいつも「平均点は教員の教え方の点数」と仰っていて、それを身に染みて実感しましたね。
-現在は、鹿児島高専に着任されていらっしゃるんですね。
瀬戸内海の離島生活もよかったんですが、「自分の教員としての実力が他の高専でも通用するか試したい」と思っていたところ、運よく鹿児島高専にご縁をいただきました。母の郷里で親戚が多かったのも、きっかけのひとつです。2021年度は広島商船の教員も併任していて、鹿児島高専の両方で授業を持っています。
現在は電波を利用した「無線通信の物理層」の研究を中心に行っています。特に送受信で複数のアンテナを用いる「MIMO(マイモ)」技術や、「OFDM(直交周波数分割多重)伝送」の性能改善に向けて検討を進めています。
実はこれらの技術は、携帯電話では4Gや5G、無線LANで既に実用化されているので、私が目指しているのはアンテナ数が100素子を超えるような大規模なMIMOや、同時接続ユーザ数がとても多い環境での通信法の確立を目指しています。
さらに地域連携の研究としては、「瀬戸内海でテレビが映らない地域の改善」の研究をしています。テレビ電波を出す中継局は瀬戸内海にたくさんあるのですが、中継局同士が連携できていないので、そこが連携できればテレビが映る地域が増えるんです。3年ほど前から始めたのですが、今はコロナの影響で広島になかなか測定に行けなくて。今後進めていきたい研究ですね。
できる学生には、早めに単位をあげられる仕組みがあれば
-「教育」の面で、意識していることを教えてください。
どこの高専にも、残念なことに一定数「その学問に興味を持たない学生」がいるんですよ。意欲がなければどうしても成績が上がらなくなってしまいます。教員はどの学生にも意欲を持たせて教育をしていかなければならないんですが、詰め込み授業をしてもあまり意味がないんです。
「これから勉強することが、どう役に立つのか」と意識付けしたうえで、学生にやる気になってもらわないといけなんですよ。もともと高専を選んでいるぐらいなのでレベルは高く、やる気になってくれさえすれば飲み込みは早いんですが、そこは常に悩んでいますね。
また、できる学生は1~2年間あれば5年分の勉強がすぐできちゃうと思うんですよね。ただ高専は一斉授業形式なので、「できる学生を伸ばしきれていない」ということも感じます。学生自身も「夕方まで授業受けて、部活をして家に帰る」というルーティンだったら、自分がしたいことになかなか時間が割けないと思います。
「できる学生に早めに単位をあげて、空いた時間に必要なことができるシステム」ができれば、学生はもっと頑張れるのにと、個人的には思いますね。システム上、今はなかなか難しいことですけどね。
鹿児島高専全体で取り組んでいる「Well-being」とは
-最後に高専生にメッセージをお願いします。
鹿児島高専の氷室校長先生が「Well-being」を目標に挙げられています。「Well-being」とは、「肉体的にも精神的にも満ち足りた状態」を指すようなのですが、分かりやすい表現で言えば「時間を忘れて何かに没頭」していれば、その状態が一種の「Well-being」なんです。
勉強でもロボコンでも部活でもいいんですが、学生一人ひとりに「Well-being」の環境を教員全員でつくっていきたいと思っています。
学生にはよく「在学中に新聞の記事に載るぐらいの何かをしなさい」と伝えています。例えば「起業」は高い確率で失敗するかもしれないけど、それをネタに就活できたり、新しい発想につながったりしますよね。大人と話す機会はたくさんつくっているので、それを使って学生には社会経験をたくさんしてほしいですね。
佐藤 正知氏
Tadatomo Sato
- 鹿児島工業高等専門学校 電気電子工学科 准教授
1999年 神奈川県立光陵高等学校 卒業
2002年 横浜国立大学 工学部 電子情報工学科 中退(飛び級)
2004年 横浜国立大学 工学府 物理情報工学専攻 博士課程前期 修了
2007年 横浜国立大学 工学府 物理情報工学専攻 博士課程後期 修了
2007年 武蔵工業大学 知識工学部 情報ネットワーク工学科 助教
2010年 東京都市大学(旧:武蔵工業大学) 知識工学部 情報通信工学科 講師
2017年 広島商船高等専門学校 電子制御工学科 准教授
2021年より現職
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