高専×企業共同研究

東京高専と「高信頼無線伝送技術」の共同研究を実施!放送を支える「NHKテクノロジーズ」

SHARE

この記事のタイトルとURLをコピーしました
公開日
取材日
東京高専と「高信頼無線伝送技術」の共同研究を実施!放送を支える「NHKテクノロジーズ」のサムネイル画像

「株式会社NHKテクノロジーズ」は、公共メディアである「NHK」を支える総合技術会社です。今回、共同研究を行った東京工業高等専門学校(以下、東京高専) 電気工学科の濱住啓之教授と、その教え子で社員の佐藤響さん、共同研究プロジェクトに参加された社員の村上洸太さんの3名にお話を伺いました。

高専で学んだ技術を、そのまま生かせる環境が特徴

多くの高専卒社員が働くNHKテクノロジーズ

2019年、NHKグループの技術会社である「NHKアイテック」と「NHKメディアテクノロジー」が統合し、総合技術会社「NHKテクノロジーズ」(以下、NT)が誕生しました。

NTは、公共メディアである「NHK」を支える総合技術会社として、放送番組等の制作・送出・送信・受信・ネット展開に関わる技術業務、番組制作設備や放送設備、共同受信施設の整備および保守、基幹業務や情報セキュリティに関わるシステム・ソフト開発、サービスの提供など、放送に関わる幅広い技術業務を担っています。

放送には「電気」と「電波」が必要とされます。放送現場の仕事は、高専での学びとは直接結びつきにくいと思われるかも知れませんが、NTで扱う技術は、放送設備技術、放送技術、情報システム技術、建築と多岐にわたり、高専で学んだ内容をそのまま生かすことが出来ます。

新人研修にて電波測定実習を行っている様子

各分野で高専出身者が活躍しており、高専卒と大卒のキャリアアップが同じであることや、高専卒女子が活躍していることも特徴です(2021年度入社高専卒女子比率30%)。

電気・電子、通信、機械、情報、建築など、高専で学んだ技術を「総合技術会社」NTで生かしている先輩が、たくさん在籍しています。

「心の目で電波を視る」とは? 共同研究を行った東京高専 濱住教授と高専OB社員インタビュー

-共同研究が始まったきっかけを教えて下さい。

東京高専 電気工学科 濱住啓之教授

濱住教授:私が元々情報通信関係の研究をしていたこともあって、2017年に共同研究のご相談をいただきました。NTさんはNHKの放送や通信を扱っていますから、信頼性が非常に高い伝送や無線技術をお持ちだったので、私の研究内容と親和性が高かったのです。

放送は、携帯電話のように切れたらかけ直すことができないため、NTさんは信頼性に関してはとてもシビアな感覚をお持ちです。この信頼性を追求する姿勢が、私共の研究の方向性とマッチしたことが共同研究を実施した理由です。

そして2018年から共同研究で、映像や音声信号を途切れることなく確実に伝送する「高信頼無線伝送技術」の研究がスタートしました。

-共同研究ではどの部分を担当されたのですか。

映像の無線伝送実験風景

濱住教授:共同研究では、送受信のアンテナを複数使って、信頼性を上げる「MIMO(マイモ)技術」(multiple-input multiple-output の略)が使えるのではないかと仮説を立てて進めていきました。

一般的に放送や通信は、「送信にひとつのアンテナ、受信にひとつのアンテナ」で送受信します。ただ、災害や環境の変化などでアンテナに不具合が出てしまうと、送受信が出来なくなってしまいます。

そこで複数のアンテナで送受信できる「MIMO技術」を使うと、ひとつのアンテナがダメになったとしても、他のアンテナで通信を補うことが出来るため、安定した通信ができるようになります。

今回は数kmをターゲットにし、山の「てっぺん」から「ふもと」まで電波を飛ばし、装置が現実的に使えるかどうか検討しました。

実は「電波がどこまで飛ぶか」の計算は、かなり難しいです。見通しが良ければさほど問題はありませんが、構造物や山など、ありとあらゆるものが反射の要因となり、電波を弱くしてしまいます。いろいろな反射の条件がある中で、電波の性質を鑑みて現実に近い値を導き出すことは、とても難しかったですね。

佐藤響さん [(株)NHKテクノロジーズ 新潟事業所  2020年入社] 東京高専 電気工学科卒

佐藤さん:私は2018年に濱住教授の研究室に入り、2020年にNTへ入社しました。今回の共同研究では、「MIMO技術」の回線設計を主に担当していました。

目に見えないこともあって、電波というものはイメージでしかありません。学生時代、屋上で電波を送受信したりと、さまざまな経験が出来たことは、本当に大きかったですね。

濱住教授:「反射物との戦いが、無線との戦い」といっても過言ではないよね。電波は目には見えないから、「心の目で電波が視える」ようになることが大切なのです。

-佐藤さんの入社のきっかけや、仕事内容について教えていただけますか?

2020年3月 東京高専 卒業式の写真
左:佐藤響さん、右:濱住啓之教授

佐藤さん:もともとメディアに興味があったことと、濱住教授に出会ったことがきっかけで、放送系に職種を絞って就活を行いました。NTは番組の制作から放送まで一貫して行っているので、メディアのほとんどを経験できるのではないかと思い入社しました。

現在は、テレビやラジオの中継局の点検や工事を行っています。建物の上や山の上など中継局がある場所はバラバラなので、測定器を持って1時間以上、道もないところを歩くこともあり、そこは大変さを感じます。

でも、災害時に、電波が途切れることなく放送ができた時は、大きなやりがいを感じます。通常の業務の中でも災害を想定しながら工事をしており、上司とも対策を考えているので、実際に災害が起こった時に電波が途切れることなく、必要な情報を皆様にお届けできた時は達成感があります。

-今回の共同研究は、今の仕事にどう役立っていますか。

佐藤さん:やはり、中継局の設備への理解は濱住教授の教えが生きていますね。濱住教授は知識や経験が豊富なので、工事や点検の手順なども教授の教えを判断材料としています。正直に言うと、学生の時にもっと勉強しておけばよかったと思ったこともありました(笑)。

濱住教授の研究室

濱住教授:もっと厳しく鍛えた方がよかったかな?(笑)。でも、場数を踏むことで、電波が「心の目で視える」ようになるからね。これが出来ると、信頼性が高い電波の確保に繋ぐことが出来るようになるよ。

佐藤さん:そういえば、教授にはまだお伝えしていなかったのですけど、会社の全面的なサポートもあり、「第1級陸上無線技術士」の資格を取得しました!教授に教えていただいたことが試験にたくさん出てきました。

放送設備の点検を行う佐藤さん

濱住教授:それはすごいね!おめでとう!学生の時に頑張っていた子が、企業でも活躍している姿を見ることは、とても嬉しいですね。

共同研究プロジェクトに参加したNT社員インタビュー

-東京高専との共同研究はいかがでしたか。

村上 洸太さん[㈱)NHKテクノロジーズ 送受信センター 2018年入社]埼玉工業大学 工学部 電子情報専攻 卒

村上さん:大学の研究で「マイクロストリップアンテナ」を製作していたこともあり、2018年から共同研究に参加させていただきました。

共同研究では、回線の設計や品質の変化などを担当しました。さまざまな災害を想定して、カメラやドローンで中継局を確認するための無線システムを研究することが出来たことは大きな経験となりましたね。

現在はマイクロ回線の設計などを主に行っていますが、その技術も今回の共同研究で培うことが出来ました。濱住教授は真摯に優しく教えてくださり、大学のおさらいもしながら研究を進めていくことができました。

今回、東京高専に初めてお伺いしたのですが、「高校+大学」のイメージでどこか懐かしい感じもありましたし、大学では見たことがないような設備もおいてあり新鮮でもありました。

入社前までは「NTは現場や施工管理の仕事であり、研究はしない」というイメージだったのですが、今回いい意味で裏切られました(笑)。大学のときから研究は好きでしたし、機会があればまたぜひ、このような共同研究に参加したいと思っています。

-最後に高専生にメッセージをお願いします。

放送機の据付作業を行う村上さん

村上さん:NTは「縁の下の力持ち」の会社です。たとえ災害が起きたとしても滞りなく日本全国の皆様に情報を届けるため、日頃から設備の保守点検をしていくことが主な使命です。決して目立つ存在ではありませんが、世の中になくてはならない会社だと思っています。インフラ系に興味があれば、ぜひご検討ください!

―みなさん、貴重なお話をありがとうございました!今後も放送を支える存在として、ご活躍くださいね!

株式会社NHKテクノロジーズ
〒150-0047 東京都渋谷区神山町4-14 第三共同ビル
TEL:03-3481-7820
https://www.nhk-tech.co.jp/

SHARE

この記事のタイトルとURLをコピーしました

東京工業高等専門学校の記事

松林先生
ものづくり環境を整備することで、学生の創造力を大きく伸ばす。「どこでもドア」も体験できる「シンクロアスリート」の実用化に向けて
幹部自衛官から大学研究者へ転身、そしてベンチャー創業。全ての経験を、目の前にいる高専生の学びにつなげたい
教員は「より良い学びを提供する存在」。高専だからできる「文学×ものづくり」の授業とは。

アクセス数ランキング

最新の記事

宮下様
高専は何でも学びになるし、人間としての厚みが出る。「自立して挑戦する」という心意気
若林先生
研究は技術だけでなく「人と人がクロスする連携」が重要。「集積Green-niX」の「X」に込めた半導体への思い
柏渕様
ライフステージに合わせてキャリアチェンジ。高専で磨かれた“根性”は専門外でも生きている