北九州工業高等専門学校 生産デザイン工学科の教員でありながら、高専内ベンチャーの立ち上げや、産業用ロボットを提供するスタートアップ企業の代表も務め、高専内に留まらない活動の幅広さを見せる滝本隆特命教授。起業したい学生の意欲を刺激する、先生の高専と企業を繋ぐ取り組みについて伺いました。
教育と社会を繋げる高専内ベンチャー
―先生が立ち上げられたという「合同会社Next Technology」について、教えてください。
北九州高専生産デザイン工学科の機械創造システムコースで准教授をしていた際に立ち上げた会社で、2012年に設立しました。高専内で会社を持っているケースはまだ少ないと思うんですが、私自身起業に興味があるという話の延長から、研究室の学生が「何か物を売ってみたい」って言い始めたんです。ロボットキットみたいなものを売ってみたいということがきっかけで、学生たち自身が起業について一から調べ、設立しました。
最初は、研究室の学生が共同代表になる形で始まり、5年ほど前からは、北九州高専の学生が卒業後そのまま代表を務めています。現在は、今年度専攻科を卒業した、渡邊祥気という者が代表を務めています。
事業内容としては、基本的に特注のロボット開発を行っていて、ドローンや3Dプリンターの開発を担っています。どちらかというと、フィジビリティスタディ、可能性試験みたいなもので、ちょっとした実験装置を作り、素早くモノを提供しましょうというところから始めました。
話題になったものでいうと、「におい計測ロボットはなちゃん」ですかね。とある建設会社の社長さんが、「家に帰ると、足が臭いって息子に言われる」とポロっと話してくれ、そこから何か面白いものができないかと製作しました。
いまでは我々のプロダクトとして販売しているのですが、クラウドファンディングと北九州市の女性起業家支援制度で資金調達をして開発を進め、日本テレビの番組「月曜から夜ふかし」にも取り上げてもらうなどして、全国的に有名になった成果のひとつですね。
こうした面白い取り組みを通して、真面目な製品の開発や共同研究に発展させていて、例えば表情を識別し、その表情に合わせたアロマを噴出するIoT製品をオムロンやさくらインターネットと一緒に開発するなどしています。
やはり高専内に会社を置く意味として、教育と社会をうまく繋げ、懸け橋になってほしいという思いが一番にありました。企業連携をはじめとした社会貢献活動において、アントレプレナーシップを高めるために学生に参加してもらい、研究を加速させる。企業と研究、教育をうまく絡めた取り組みとしてスタートさせたんです。学生たちが新しい一歩に挑戦する環境作りとして、こういう会社を高専内に設立し、活動しているというのが特徴ですね。
実はいま「高専起業部」という活動を始めているんですが、Next Technologyがサポートする活動のひとつで、スタートアップをやってみたい学生たちを集めて、いろいろなイベントに参加するとか、地域の問題や課題を解決するというような活動をしています。
―確かに起業したいという学生のサポートが高専内企業でできるのは、需要がありそうですね。
「部」といっても厳密には、「高専スタートアップコミュニティ」という形で、2019年の春に立ち上げました。Next Technologyの活動自体を手本とし、起業のノウハウや魅力など実際に見て教えるためのコミュニティです。
全国の各高専には、起業に興味のある学生って何人かはいるんですよ。そういう学生たちを集め、Next Technologyの運営に携わる形で学んでもらっています。そういう意味では、各高専にこうした会社があれば学生の支援にも繋がるので、今後は高専内ベンチャーを増やしていけたらという思いがありますね。
スタートアップ企業の立ち上げと、高専生の起業家精神の育成
―現在は教員のほか、「KiQ Robotics株式会社」の代表も兼務されているそうですね。
2年ほど前に立ち上げた会社です。立ち上げをきっかけに、高専の方は特命教授という形で非常勤になっています。
もともとNext Technologyの立ち上げもスタートアップではあったのですが、ベンチャーキャピタルからお金をもらうとか、会社を大きくするといった部分は支援できていませんでした。それにスタートアップを経験していないものが支援するのも、という思いもあり、自身でもやってみようと思ったのがきっかけです。
「世界一働きやすい生産現場を作る」ということをミッションに、いわゆる産業ロボットの活用をしています。人の置き換えでロボットを使うのではなく、ツールとして、人がロボットを使ってする仕事に変えたいということを訴求していこうと考えている会社です。
特に中小企業では、人材不足による自動化の促進が急務ではあるものの、生産ラインの変更は時間とお金の面で難しいとか、大規模な設備投資ができない現場が多いと思うんです。簡単に使えるロボットシステムがあれば、生産現場って大きく変わるんですよ、というのを我々は目指しており、訴求したいところなんです。
我々が2月末にリリースした「クイックファクトリー」というサービスがあるんですが、作業前と作業後の2枚の写真をロボットに見せるだけで、勝手に作業を進めてくれるというロボットパッケージになっています。製品の箱詰め作業や並び替えなどの作業を担ってくれるもので、専門的な技術者がいなくても導入できるのが大きなポイントで、「ハンド」「ビジョン」「アプリ」のすべてがパッケージ化されているのが特徴です。
こうした取り組みでベンチャーキャピタルから出資をいただき、製品を世に出そうとしているところで、3~4年後を目標に上場できればと活動しています。
―北九州高専には起業家を生み出し、育てる土壌が出来上がっているんですね。
高専内ベンチャーもそうですが、北九州市自体もそうした取り組みに力を入れていると思います。「IoT Maker’s Project」という取り組みなんですが、IoT関連のビジネスプランを募集し、開発資金提供から試作開発まで支援するもので、5年ほど前からスタートしました。
北九州市を始め、地元企業が出資し、個人法人を問わず全国から応募可能という形で行っています。この取り組みに、北九州高専の専門化チームとNext Technologyが、他の企業と一緒にサポートメンバーのメンターとして参加しているんです。採択されたアイデアを実現するための試作支援を我々が行っているので、アイデア勝負で持ってきたものでも、高専のようなものづくりのプロが支援をすることで、新しいビジネスの創出が望めるというところが魅力かなと思います。
高専生にとっても、こうした取り組みを通して普段から試作支援をくり返し、アイデアを持ったさまざまな人たちの声を聞きながら新しいものを作っていくという環境は、すごく夢ある活動だと思うんです。
これからの世の中はおそらく、「お金のために働く」というより、「どういう働き方ができるのか」という部分が、働くことの目的になってくると思うんです。だからこそ、「何かにチャレンジすることは素晴らしい」という風潮や環境を整えてあげることが重要なんじゃないかなと思います。そうした活動をできる限り設けていきたいですね。
滝本 隆氏
Takashi Takimoto
- 北九州工業高等専門学校 生産デザイン工学科 特命教授
KiQ Robotics株式会社 代表取締役CEO
2003年 北九州工業高等専門学校 制御工学専攻 専攻科 卒業
2005年 大阪大学大学院 基礎工学研究科 システム創成専攻 博士前期課程 修了
2008年 大阪大学大学院 基礎工学研究科 システム創成専攻 博士後期課程 修了、同年 福岡県産業・科学技術振興財団 知的クラスター創成事業 研究員
2010年 北九州工業高等専門学校 機械工学科 講師、2012年 同准教授、
2015年 北九州工業高等専門学校 生産デザイン工学科 機械創造システムコース 准教授
北九州工業高等専門学校の記事
アクセス数ランキング
- きっかけは、高専時代の恩師の言葉。「チャンスの神様の前髪」を掴んで、グローバルに活躍!
- 丸紅ロジスティクス株式会社 国際事業本部 フォワーディング第三事業部 国際第四営業所
太田 恵利香 氏
- 高専時代の研究をまとめた記事が話題に! ワンボードコンピュータとの運命の出会いから、現在のIT社会を支える
- 福山大学 工学部 情報工学科 教授
山之上 卓 氏
- 高専OG初の校長! 15年掛かって戻ることができた、第一線の道でやり遂げたいこと
- 鹿児島工業高等専門学校 校長
上田 悦子 氏
- 日本のマーケティング力を底上げしたい! 価値観にとらわれず行動し続け、起業マインドを磨く
- 株式会社Hoche 代表取締役
小川 勝也 氏
- 「高専生はかっこいい!尊敬する!」学生に厳しかった安里先生の、考えが変わったきっかけとは
- 新居浜工業高等専門学校 機械工学科 教授
安里 光裕 氏
- 高専・材料・人のおもしろさを伝えてロボコンに並ぶ大会に! 高専マテリアルコンテスト主催の先生が秘める教育への想い
- 久留米工業高等専門学校 材料システム工学科 准教授
佐々木 大輔 氏
- 好きなことを突き進んだからこそ今がある。「自由」と「多様性」が高専の魅力
- 独立行政法人国立高等専門学校機構 本部事務局 准教授/国際参事補
小林 秀幸 氏