インタビュー

結果でなく、プロセスが重要。小さな達成感が研究者の原動力となる

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「自主探究」という独自のプログラムを主軸に、グローバルエンジニアの育成を目指している青森県の八戸工業高等専門学校。「自主探究」の特色や教育に込める思いについて、圓山重直校長先生にお話を伺いました。

15歳から挑む、答えのない研究

八戸高専校内のレンガ広場にて、学生複数が笑顔で歩いている様子。
八戸高専赤レンガ広場 (八戸高専カレッジガイド2020より)

―八戸高専の特色について教えてください。

本校では、平成27年度から「4学期制」と「自主探究」を導入しています。「4学期制」とは、春・夏・秋・冬の4つの学期で授業を展開することで、短期集中型の授業であることが特徴です。アメリカの大学では一般的なセメスター制度で、日本の大学でも一部が実施しています。高専では本校が全国に先駆けて導入しました。

この4学期のうち、冬学期を中心に実施しているのが「自主探究」です。本校の「自主探究」は、自ら抱いた疑問や課題に対して、まだ誰も出していない答えを科学的に探索し、見究めようとする活動を指します。

危険を伴うものや倫理に反するものを除き、基本的に研究テーマ設定は自由です。しかし、まだ誰も研究をしていない新しい視点がないといけません。そのためにはまず、先行研究や関連情報を調べて、どの部分が自分の独自性(オリジナル)なのかを明確にします。

―自主探究のおもしろさは、どんなところでしょうか。

大きな教室の中で、2つのスクリーンに内容を映しながら、学生が発表している様子。
一年生が自主探究の中間発表をしている様子。発表者の内容について、全員で質問やコメントを言います。発表者は、それに応じて研究内容を修正していきます。写真奥にいる教員は司会をしており、アドバイスはしますが教えません。

“自分で問題を見つけて、自分で研究するところ”ですかね。何の基礎知識もない15歳の学生に「自主探究」を実践させると、“テーマ設定”の段階で多くの学生が困惑し苦戦します。なぜなら中学までは“答え”のある勉強しかしてこなかったからです。

「自主探究」には“答え”が見つかっていません。“答え”があるかどうかすら、わかりません。最初はほとんどが失敗し、学生たちは一度は頭を抱えます。

しかし、この悩む過程こそが重要だと私は考えています。「成功」か「失敗」かはあまり関係なくて、うまくいったらそれはそれでいいですけど、うまくいかなくても「ここまでやりました」と発表できればいいのです。

ボードにポスターを貼って、自主探究について発表する様子。発表者のタイの留学生と圓山校長。
タイの留学生が自主探究発表会で説明している様子。(八戸高専カレッジガイド2020より)自主探究の成果は、学生がポスターで発表します。学生の中には、外国人の来訪者に対して英語で発表する学生もいます。タイ留学生の自主探究発表の様子は、タイ王室にも報告されました。

さらに、「誰もやったことがないことをするって、こんなに楽しくて、苦しいのか」ということがわかってもらえたら大成功。最初は失敗だらけでも、そのプロセスや達成感が研究者の原動力になっていくのだと思います。

―具体的に学生たちはどんな自主探究をしているのでしょうか。

ある学生は、キャンパス内のリスの行動を調べていました。八戸高専内のリスの生態なんて、もちろん誰も研究したことがないテーマです。最初は校内にカメラを設置し、リスが通る瞬間を狙ってシャッターを切っていたようですが、うまく捉えられず、一定時間ごとに自動でカメラのシャッターを切る設定に変更。研究中に何万枚も記録し、リスの動きを調べていました。

上記のような流れで、自分でテーマを決め自分で研究をしているので、発表で何を質問されても具体的に答えることができるんです。学外のコンテストや学会では、高専の1年生が大学生や大学院生を打ち負かしてグランプリを取ることも珍しくありません。

― 一度テーマを決めたら、卒業までずっと同じ研究をされるのでしょうか。

シンガポールからの留学生と、白衣を着て、実験器具を手に話し合っている学生の様子。
「国際自主探究」では、学生がモンゴルやシンガポールなど海外の研究テーマを日本で調べて、学生が海外に行って現地の学生や教員と一緒に研究を行います。日本人とシンガポール人の果物摂取量の比較研究で、シンガポールの学生と議論している写真です。

当初は卒業までの5年間、同じ研究をしても良い制度でした。研究内容は高まりますが、社会に出て企業に入ったときに“自分の好きなテーマしかできない”となると、厳しいのが現実です。こうした経緯から、学年が上がるごとに、制約が厳しくなるような制度設計をしています。

個人で自由にテーマを決めて実施する自主探究は、1年生のみ。2・3年生になると、「グループ自主探究」や海外に行って実施する「国際自主探究」、4・5年生は「卒業研究」と、高学年になるに従って研究方法やテーマが変わります。「自主探究」の成果そのものでなく、培った自分のアイデアや、ものの考え方を生かして、次の研究に進んでいくイメージです。

国際的に活躍できるエンジニアを目指して

―八戸高専では「グローバルエンジニア」の育成にも力を入れていらっしゃるとお伺いしました。

清潔な空間で、テーブルを囲んで、4人の学生が勉強しあっているところ。留学生に興味津々の様子。
国際寮のコモンスペースで留学生と勉強を教えあっている様子。国際寮には個室とコモンスペースがあり、キッチンやランドリーなどが設置されています。コモンスペースでは、テレビを見たり勉強をしたり、日本人と留学生が共に生活をして異文化を学んでいます。

ええ。本校では、英語のコミュニケーション力と専門力を合わせた英語教育「KOSEN英語」や、シンガポールやモンゴルの学生とともに研究をする「国際自主探究」など、さまざまなグローバル教育に取り組んでいます。

最も重要視しているのは、言葉だけではなく、多様なものの考え方の理解です。「良い」「悪い」ではなくて、「違い」を受け入れるようにならないと国際的なエンジニアとしては通用しません。言葉も食べ物も、考え方も文化も違う中で、若いうちから協調性や国際性を身に付けることが大切だと考えています。

私自身も、大学院時代にイギリスへの留学を経験しました。当時は英語が苦手でむしろ嫌いでしたが、1年も住んでいると寝言も英語で言うようになって(笑)、現在でも交流を続けている友人がいます。

シェアハウスにて、すき焼きパーティーをしている。国際色豊かな顔ぶれ。
イギリスのインペリアルカレッジに留学した時、学生寮で「すき焼きパーティ」を行った時の様子。この学生寮では、イギリス人学生だけでなく色々な国籍の留学生が共同で生活していました。寮の形態は、いわゆるシェアハウスです。この寮をモデルにして、東北大学の国際寮を作りました。同様な形式の国際寮が本校で建設中です。

学生たちにも若いうちにグローバルな体験をしてほしいという思いから、東北大学在職中に、イギリス留学時に滞在した寮を参考にして、留学生と日本人が一緒に住む混住寮を作りました。その後、この形式の寮が多くの大学で作られました。

八戸高専でも同様な国際寮を平成31年3月に改修しました。現在は、2棟の国際寮の建設が行われています。これらのシェアハウス型国際寮で留学生と日本人学生が日常生活を共にすることにより、若いうちから国際感覚を身に付けることができると考えています。

―圓山先生の学生時代について、ぜひお聞かせください。

学生時代の圓山校長が仲間とともに飛行機の飛行にチャレンジしている様子。
大学1年生の時、ハンググライダーといういわゆる人力飛行機を設計・制作しました。大学の専門書を勉強したり、本当の飛行機を開発した東北大学の先生に教えを受けたりして、自分たちで制作しました。試験飛行では、テレビ局が取材に同行して、全国ニュースで取り上げられたこともありました。本校で行っている「自主探究」の先駆けといえるでしょう。

幼い頃から「飛行機オタク」でしたね(笑)。学生時代は友人たちとハンググライダーを作っていました。まだ「鳥人間コンテスト」なんてなかった時代でしたが、企業から興味を持っていただいたりして協賛を受け、本当に空を飛んだんですよ。

今考えれば、これも「自主探究」みたいなものですね。これが縁で、ある研究室に所属して流体工学の研究に従事し、イギリスに留学しました。「自主探究」がきっかけで、私の人生はずいぶん変わったのかもしれません。

高専の新たな人材育成のモデルをつくる

―高専教育の展望についてはどのようにお考えですか。

15歳という成長の黄金期(ゴールデンエイジ)に、受験のための勉強ではなくて、専門的な勉強に取り組むことは、非常に大きな価値があると確信しています。海外に行ったり、留学生と交流したり、自主探究のように自分でものを考える姿勢を養ったり。何をやるかなんて全く問題ではなくて、そのプロセスを習得してもらうことが重要です。

これらの経験は、本科で就職しても専攻科や他大学に編入し大学院に進学しても、最終的には企業の技術者や研究者となって、日本の科学技術や産業に貢献することにつながっていきます。高専生の活躍が期待されているのは、今や日本だけに留まりません。モンゴルやタイでは日本の高専システムを導入した高専ができています。海外の高専の新たな人材育成のモデル校となれるよう、今後も尽力していきます。

圓山 重直
Shigenao Maruyama

  • 八戸工業高等専門学校 校長

1977年3月 東北大学工学部機械工学第二学科 卒業
1979年9月 ロンドン大学インペリアルカレッジ航空工学科修士課程 修了(科学修士およびThe Diploma of Membership)
1980年3月 東北大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程前期2年の課程修了
1983年3月 東北大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程後期3年の課程修了
     東北大学工学博士
1983年10月 東北大学 助手(高速力学研究所)
1988年4月〜1989年1月 在外研究員として米国パデュー大学機械工学部に派遣
1989年5月 東北大学 助教授(高速力学研究所)
1997年6月〜2017年3月 東北大学 教授(流体科学研究所)
2003年9月〜2008年3月 21世紀COEプログラム「流動ダイナミックス国際研究教育拠点」拠点リーダー
2006年1月〜 11月 国立大学法人東北大学 総長特任補佐
2006年4月〜2014年3月 国立大学法人東北大学 教育研究評議会 評議員
2006年11月〜2017年3月 国立大学法人東北大学 総長特別補佐
2008年6月〜2013年3月 グローバルCOEプログラム「流動ダイナミクス知の融合教育研究世界拠点」拠点リーダー
2012年4月 紫綬褒章 受賞
2012年6月〜2017年3月 国立大学法人東北大学 副理事
2015年4月〜2017年3月 東北大学 ディスティングイッシュトプロフェッサー
2016年6月〜7月 フランスINSAリヨン(国立応用科学院リヨン校)客員教授
2017年4月〜 現職

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