九州大学大学院を修了後、地元にある大分高専に着任された德丸和樹先生。「面倒を解決するために研究が始まった」という德丸先生に、研究のお話や学生時代の思い出、特任助教として取り組まれている「GEAR5.0」について伺いました。
東京の大学へ進学するも、辞めて再チャレンジ
―德丸先生は、一度東京に出られてから九州に戻られているのですね。
大分の岩田高校を卒業後、東京理科大学の理工学部に進学しました。でも田舎出身なので、あまり東京が合わなくて。今後を考えていたとき、両親のアドバイスもあり、地元に戻ることを決意したんです。
理科大は2年間通っていたので、編入学の道もあったとは思うのですが、大学を辞めたあと予備校に1年間通って再チャレンジする道を選び、九州大学の工学部に入学しました。これがすごく良い選択でしたね。
同級生もだいたい九州出身なので話も合いますし、分野も自分の興味のある分野に進むことができました。あのとき決断して良かったと思っています。
―九大ではどのようなご研究をされたのですか。
セラミックス加工の研究をテーマにしました。私が配属されたのは三浦先生・津守先生の研究室で、三浦先生が「粉末冶金(やきん)」という、粉末材料から金属やセラミックスをつくる研究をされていたのがきっかけです。
具体的には、セラミックスの表面に髪の毛1本分ほどの微細な凹凸を付け、発電効率を上げるという研究でした。京都大学のグループが、「表面に凹凸を付けることで発電効率が50%上がる」というシミュレーション結果を出していたので、実物で実証してみようというものです。研究室初の加工法だったこともあり、数㎛ほどの凹凸を、専用のプレス装置を開発しながら付けるのはかなり苦労しましたね。
また、津守先生との出会いも大きな影響がありました。津守先生のアイデアはすごかったんです。実は私の研究テーマは、津森先生が新たに開発された、粉末冶金の分野に別の分野の加工法を取り入れたものでした。津守先生を見ていると、「私もこんな研究者になりたい」と思うようになりましたね。
こうして、三浦先生・津守先生の研究室で研究したことにより、「工学の楽しさ」が分かるようになりました。
-その後、博士課程に進んでいらっしゃいます。
同級生よりも3年間遅れて入学しているので、「博士課程に進むと30歳ぐらいで就職か」と思い、進学するか迷っていたんです。でも、先生方に相談したときに、「お前ならいける」と背中を押してもらえたので、進学を決意しました。
博士課程での研究テーマも、変わらずセラミックスの加工をやりました。ただ、加工だけでなく、シミュレーションなどを使った加工予測を入れたんです。
研究室自体にあまりシミュレーションのノウハウがなかったので、導入にはかなり苦労しました。しかし、シミュレーションを入れたことによって、より良い加工条件が早く分かるので、何度も加工する手間が省けたことは良かったです。
さまざまな分野の先生とコラボしている「GEAR5.0」
-その後、大分高専に着任されたのですね!
きっかけは、当時の大分高専の校長先生から「GEAR(ギア)5.0(※)の教員を探している」とお声がけいただいたことです。研究室の先輩が久留米高専出身で、その先輩の研究スキルが圧倒的に高かったので、高専のすごさはもともと知っていました。「GEAR5.0」という研究に特に力を入れるポジションだったこともあり、受けてみようと思ったんです。
※GEAR5.0:国立高専機構の推進する「未来技術の社会実装教育の高度化」のこと。地域密着型・課題解決型・社会実装教育といった従来の高専の特長を生かしつつ、企業・自治体・大学などと連携し、「複数の分野を融合して」社会課題に取り組める人材を育成するためのカリキュラムを開発する取り組み。
もともと高専のイメージが、「先輩みたいにガンガン研究をしている」というイメージでしたが、実際着任してみると、学生さんはけっこう受け身に感じました。ですので、授業中はなるべく自主性を出してもらうよう考えながら組み立てています。
積極的に意見を言ったり、学生同士でディスカッションをしたりする形を取っていますが、まだまだ試行錯誤中です。ただ、クラス替えがなく、本当にみんな仲がいいので、一度テーマを与えるとスムーズに話し合いができています。本当に、優秀で真面目な学生が多いですね。
―現在はどのような取り組みをされているのですか。
「GEAR5.0」では、博士時代にやっていたセラミックスの研究を引き継いでいます。ただ、加工装置は全部九大にあるので、一から立ち上げました。凹凸を付ける前のセラミックスは、膜のような薄いシート状のものを使っていたんですが、この膜をつくるのがとても面倒くさいんです(笑)
「スピンコート法」という、回転させた基板の上に液体状の材料を垂らすと、材料が遠心力で基板上に薄く広がっていくという方法を取っていたのですが、中央に粉が溜まって20㎛ぐらいの凹凸ができてしまい……。この研究においては、けっこう大きな凹凸なんですよ。
でも、今使っている「遊星式(ゆうせいしき)スピンコーター」は、遊園地のコーヒーカップのように、基板に自転と公転2つの回転を与える方法です。これによっていろいろな方向に動作が起きるので、より均一な膜をつくれるようになりました。だいたい凹凸が0.5㎛程度まで抑えることができているので、4%まで軽減しましたね。
この研究は、大分高専の尾形公一郎先生にも協力していただきました。粉末の挙動を見るためには、専用の機械がないとできなかったのですが、九大時代は機械がなかったんです。尾形先生が研究に必要な機械をお持ちでしたので、課題が解決しました。
この経験を生かして、今は小山高専の加藤岳仁先生(月刊高専No.002、No.003、No.084)と共同研究しています。加藤先生は太陽電池のパネルの研究をされているのですが、そのパネルは樹脂性です。「遊星式スピンコーター」で樹脂性の膜をつくると特殊な構造ができるので、これが発電効率を上げることに使えるんじゃないかと考え、一緒に研究を進めています。
素材がセラミックスのものしか研究したことがなかったので、樹脂をどう扱っていいか分からないという苦労はありますね。また、オンラインで打ち合わせをしていますので、お互い実物をなかなか見れず(笑) そこが難しいところではあります。
「GEAR5.0」は自分の理想をかなえてくれた
―「GEAR5.0」のメリットは、どのようなところにあると思いますか。
「GEAR5.0」は鈴鹿高専から始まった、「各地域の高専をつなげて、一つの大きな研究室をつくろう」というプロジェクトなので、「最先端の研究が大分にいながらできる」という個人的な理想をかなえてくれていると思います。
個人的な1番のメリットは、いろんな研究分野の先生と一緒に研究できることです。例えば、大分高専だけだと教員は60人ぐらいしかいないのですが、全国で考えるとざっと50倍になります。研究テーマが広がり、コラボして新しいものをつくれるのは魅力ですよね。同時に、研究装置も1つの高専内だけだと限りがあるので、研究装置を分散して置きながら、使いたいときに使えることもメリットです。
他の先生方とコラボしていると、研究のノウハウを得られるのはもちろんですが、自分が普通だと思っていることを、他の分野の方から「すごい」と思われることがあります。自分では気付かなかった新しい可能性にも気付かせてもらえて、ありがたいです。
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
学生には、「モノづくりがしたい!」という気持ちをもっと前面に押し出してほしいです。教員はみなさん博士号持ちで、研究やモノづくりにすごく興味を持っています。やりたいことをアピールしたら、先生たちが拾ってくれると思うので、その気持ちをどんどん前に出して、好きなようにやってくれればいいなと思いますね。
あとは「必要は発明の母」という言葉にもあるように、私の研究も「セラミックスの膜づくり面倒くさい」から始まっているんですよ。不満や面倒くさいで終わるんじゃなくて、それを「自分でどうにかして解決しよう」という気持ちを持ってほしいと思います。
今は、調べれば全部「攻略法」が分かる時代ですが、自分で試行錯誤するトレーニングを積み重ねると、研究や仕事にも役立つと思いますよ!
德丸 和樹氏
Kazuki Tokumaru
- 大分工業高等専門学校 機械工学科 助教(GEAR5.0特任助教)
2008年3月 私立岩田高校 卒業
2015年3月 九州大学 工学部 機械航空工学科 卒業
2017年3月 九州大学大学院 工学府 機械工学専攻 修了
2021年3月 九州大学大学院 工学府 航空宇宙工学専攻 博士後期課程 単位取得退学
2021年4月より現職
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