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<後編>「滋賀県立高専共創フォーラム」第2回イベントをレポート! キーワードは「STEAM教育」と「ダイバーシティ」 ―トークセッション編―

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2024年9月11日(水)に滋賀県の栗東芸術文化会館SAKIRA 中ホールにて【「滋賀県立高専共創フォーラム」第2回イベント】が開催されました。第1回よりも規模を大きくして開催された本イベントでは、「STEAM教育」や「ダイバーシティ」をキーワードとした基調講演やトークセッションを実施。本記事はその模様をレポートする後編の記事となります。

<前編>はコチラ
創立記念講演&トークセッションイベントのレポート記事はコチラ
滋賀県立高専に関する三日月知事へのインタビュー記事はコチラ

理工系分野におけるダイバーシティの推進が求められる

本イベントの第2部であるトークセッションのテーマは「高専発!ダイバーシティで未来を切り拓く!」。

トークセッションのコーディネーターを務めた中島さち子さんと、パネリストの豊田高専4年生の佐藤舞乙さん、豊田高専2年生の内藤千晶さん、第一工業製薬(株)の社員で新モンゴル高専1期生のエンフバヤル・エンフウヤンガさん、甲賀高分子(株)代表取締役の石田秀幸さん、奈良高専副校長・教務主事の藤田直幸先生、NPO法人Waffleの森田久美子さん
▲トークセッションのコーディネーターを務めた中島さち子さん(左から1人目)と、パネリストのみなさん。左から、豊田高専4年生の佐藤舞乙さん、豊田高専2年生の内藤千晶さん、第一工業製薬(株)の社員で新モンゴル高専1期生のエンフバヤル・エンフウヤンガさん、甲賀高分子(株)代表取締役の石田秀幸さん、奈良高専副校長・教務主事の藤田直幸先生、NPO法人Waffleの森田久美子さん

トークセッションでの議論の前に、滋賀県の岸本副知事からテーマ設定に関する課題認識についての説明がありました。

岸本副知事は、基調講演でも取り上げられたSTEM分野における女性比率の低さなどを例に挙げつつ、OECD加盟国を対象とした国際学力調査(PISA2022)において、義務教育終了段階の15歳時点では日本の女子生徒における数学・科学の学力が男子と全く遜色なく世界トップレベルであることに言及し、以下のように続けました。

岸本副知事:では、なぜ15歳時点での数学や科学の学力は劣っていないのに、日本の女子生徒は理工系分野を選択しないのでしょうか。親・本人・教師の思い込みや、教育費用、キャリアイメージ・ロールモデルの情報不足、ライフイベントとキャリアとの両立の困難さ、職場の働きやすさなどの要因が挙がっております。

私たちは県立高専の設置をこうした状況を打破する1つのきっかけにしたいと強く考えております。県立高専では、「ダイバーシティが学びを充実させ、学生の人格形成に資する」という考えから、積極的にダイバーシティを推進していきます。そのための一つとして、県立高専に入学する女子学生の割合を高め、女性エンジニアも育てていきたいと考えております。

ダイバーシティを推進するために、理工系分野に進む女子生徒を増やすために、今私たちにできることは何か。現役高専生や高専卒業生、企業関係者が一堂に会し、自身の経験や取組紹介を通じて、女性エンジニアのキャリアイメージを発信するとともに、それぞれの立場で何ができるのかを考えるきっかけとなるようなトークセッションが展開されました。

では、具体的にどのようなことが話されたのでしょうか。

高専における女子学生の比率や、女子学生を増やすための取り組みを始めた背景などについて、奈良高専の藤田先生から話題提供があり、ITや理工系分野に進学する女子学生の現状について、以下のとおり議論が展開されました。

奈良高専の藤田先生と、NPO法人Waffleの森田さん
▲奈良高専の藤田先生(左)と、NPO法人Waffleの森田さん

藤田先生:まず、今日絶対覚えていただきたいのは、「1%だけど…10% それが高専」です。これは、中学校から高専に入学する人の割合は1%ですが、技術者に占める高専卒生の割合は10%、という意味です。日本の技術をずっと支えてきたのが高専と言えます。

現在、高専生に占める女子学生の割合は23%(2023年)です。また、女性技術者の割合は14%(2023年)です。興味深いのは、女子学生の比率と女性技術者の比率の推移が相関係数0.9という非常に強い相関関係にあることで、ともに順調に増えている状況と言えます。

藤田先生のスライドより。高専女子学生比率と、女性技術者の比率の推移。右肩上がりに上昇中。
▲藤田先生のスライドより。高専女子学生比率と、女性技術者の比率の推移

中島さん:女子学生の比率を上げる取り組みを始めたきっかけや、高専の女子学生の比率が増えてきている要因・背景について教えてください。

藤田先生:もともとは、低くなってきている入試倍率を上げようとしたのがきっかけでした。比率の低かった女子に志願してもらえるようになれば、入試倍率が上がるのではと考えたのです。2009年のことでした。

藤田先生のスライドより。女子学生を増やすための、奈良高専の主な取り組み一覧
▲藤田先生のスライドより。女子学生を増やすための、奈良高専の主な取り組み

藤田先生:しかし、こういった取り組みを始めた当初、私は周りの女性教員から指摘されたのです。「先生は女性を“数”だと思っているけれども、そうではなくて、女性の特質や苦労をしっかり理解したうえで取り組んでいますか。」と。

2010年頃の当時は、女子学生の就職が業界によってはまだ難しい時期でした。そこで高専に入学した女子学生がちゃんと就職できて、卒業後も生涯エンジニア(技術者)として活躍できる環境を整えないといけないと考えたのです。

そのため、女子学生と企業関係者を交えて「高専女子フォーラム」を2011年度に初開催しました。女子学生のキャリア教育のみならず、女子学生だからこその視点、ひいてはダイバーシティの視点の必要性を企業の方々に感じていただく機会をつくったのです。

森田さん:例えば、昔は男性の体のダミーだけで車の衝突テストをしていたため、女性の方がけがをする確率が高かったという話があります。理工系分野、科学技術分野はとても大事な社会基盤ですので、そこには多様な視点が入っていることが重要です。

藤田先生:高専以外でも社会における意識に変化があり、今では女子学生の方が比較的早く就職先が決まる状況になりました。また、高専全体で教員の女性限定公募などを実施し、奈良高専では入試において女性エンジニアリーダー養成枠を設置したこともあり、女子学生や女性教員が増加。高専内の男子学生や、私を含めた男性教員の意識も変わったと感じます。

高専生・新モンゴル高専出身の社員・経営者からのリアルな声

実際に高専に入学した女子学生は、どういうきっかけで理工系分野に興味を持ち、どんな学生生活を送っているのでしょうか。豊田高専の佐藤さんと、内藤さんがお話しされました。

豊田高専の佐藤さんと内藤さん
▲豊田高専の佐藤さん(左)と内藤さん

佐藤さん:もともと中学生のときから数学や理科が好きだったので、それが活かせるところに行きたいと考えて高専を選びました。環境都市工学科という土木系の学科の学生ですので、卒業後は土木の中でも特に興味のある「橋などの構造物の維持管理」に関連した、技術開発に携わる仕事をしたいと思っています。

内藤さん:私は数学や理科が得意だったわけではないのですが、機械やロボットが動いている姿を見て純粋にかっこいいなと思ったことから理系に興味を持ち、高専に入学しました。卒業後のことはまだ明確に決めていませんが、ロボット系や今学んでいる電気系の専門的な知識をより深めることができる大学への進学を考えています。その後は、自分で一から開発できる技術者になりたいです。

中島さん:佐藤さんはチーム名「かきっ娘」のメンバーとして「CO₂を吸収する無焼成の牡蠣殻タイル」を開発され、GCON2023で最優秀賞を受賞されました。内藤さんもGCON2023終了後に新メンバーとして加入されています。この活動や高専そのものが自身にもたらした影響は何かありますか。

会場には、牡蠣殻タイルの完成品が展示されていました
▲会場には、牡蠣殻タイルの完成品が展示されていました

佐藤さん:こういった活動は課外活動の扱いとなり、積極的に先生に参加の意思を示したり、チラシを見て応募したりしないと参加はなかなかできません。私もGCONまではあまり課外活動に参加していなかったのですが、最優秀賞を受賞したことが嬉しく、次も参加したいと思いました。今はマンホールのアップサイクルプロジェクトという、処分されるマンホールに価値を付けて、別のものに生まれ変わらせるプロジェクトに参加しています。

内藤さん:高専に入るまで、「挑戦」という言葉は自分には無縁だったと思います。しかし、ロボットを自動制御してサッカーのような競技で戦わせる「ロボカップ」や、今回のようなイベントに登壇するなど、積極的に挑戦するようになりました。高専に入学すると精神面が変わると思いますので、少しでも興味があったら、ぜひ挑戦してみると良いと思います。

また、エンフバヤル・エンフウヤンガさんは、2014年9月に開校した新モンゴル高専の第1期生として卒業され、現在は第一工業製薬(株)で働かれています。日本という異国、そして女性エンジニアとして勤務している会社の環境をどのように捉えているのでしょうか。

第一工業製薬(株)のエンフウヤンガさん
▲第一工業製薬(株)のエンフウヤンガさん

エンフウヤンガさん:私が通っていた新モンゴル高専は「新設の学校」ということで、モンゴルの企業には高専がどのような学校なのかそこまで認知されていませんでした。新モンゴル高専が日本の高専の仕組みをそのまま導入した学校だったこともあり、自然と日本の企業に就職したんです。

実際に働いてみると、職場環境は高専の研究室に似ていてすぐに慣れましたし、仕事内容も先輩がつくられた基準書などをもとに丁寧に教えていただけたので、「やっていける」と思いました。私の部署や他の部署にも海外出身の方がいますし、毎年モンゴルから後輩も入社しているので、働きやすい環境です。

中島さん:新モンゴル高専の環境はいかがでしたか。

エンフウヤンガさん:1期生でしか味わえない経験だったと思います。授業カリキュラムは、大学レベルの専門的な内容がかなりたくさんありました。非常に大変でしたが、実習の時間が多く、自律して勉強に没頭した経験が、会社でも生きていると思います。また、私のクラスは女子が多く、半分が女子学生でした。

一方、企業の経営者は女性活躍の推進をどのように考えているのでしょうか。甲賀高分子(株)は滋賀県湖南市に本社を構えている高分子素材のハード&ソフトメーカーです。その職員に占める女性の割合は4割以上。女性の活躍推進のために心がけてきたことについて、代表取締役の石田さんは以下のようにお話しされていました。

甲賀高分子(株)の石田さん
▲甲賀高分子(株)の石田さん(右)

石田さん:「誰もが働きやすい企業を目指してきた」のがすべてです。そのために「働きやすい企業とは何か」を自問自答しながら施策を実行しつつ、それが外部から認められる必要があると考え、滋賀県の中小企業で1番初めに子育てサポート企業として厚生労働省より「プラチナくるみん」の認定を受けました。また、滋賀県が認定している女性活躍推進企業の認証も第一号でいただきました。

中島さん:誰もが働きやすい企業をつくろうとした背景や、それによってどのような影響があったのかを伺えますでしょうか。

石田さん:私が若かった80年代後半は「24時間戦えますか」という栄養ドリンクのCMに登場したフレーズが流行した時代で、その価値観で育っています。そのときは経済成長の真っただ中で、多くの企業の社員は疲弊しながらも頑張り、その分成果が出る世の中でした。しかし、今の日本はマーケットが縮小しているので、どちらかと言うと「考える力」や「発想力」が必要だと考えています。

そのため、様々な制度によって社員のワークライフバランスを整えました。勤務後に十分な時間があれば、異業種の方との交流や、資格の勉強、趣味など、社員は様々なことにチャレンジできます。そのチャレンジが仕事にも活かされ、仕事の生産性向上につながりました。

中島さん:いろいろな社員がいることで、いろいろな働き方があることが認識できると思います。いろいろな人がいるからこそ、それが企業に良い影響を与えているんですね。

佐藤さんや内藤さんのように高専で充実した学生生活を送り、エンフウヤンガさんのように企業で存分に活躍しているという事例を増やすことで、さらに女子学生、女性社員が増え、ダイバーシティがより保たれた高専・企業になるという循環をつくる。そのためには学びやすい・働きやすい環境や仕組みを具体的に構築し、それが運用されるようにすることが大事である。そうしたことが、このトークセッションから浮かび上がってきます。

Mentimeterを利用して聴講者からの質問をリアルタイムで受け付けている様子
▲Mentimeterを利用して聴講者からの質問をリアルタイムで受け付けました。

「男の子だから」「女の子だから」の前に立ち止まる

ダイバーシティを推進するためには、学校や企業だけでなく、私たち一人ひとりの意識を変えていくことも重要です。そのためにできることを、森田さんがお話しされていました。

森田さん:ちょっと一回立ち止まってみることが大事だと思います。私には今5歳の子どもがいるのですが、初対面の方に男の子だと伝えると「やっぱり元気ね」と言われ、試しに女の子だと伝えると「じゃあ、おしとやかになるのかしら」と言われたことがありました。つまり、子どもの性別によって大人の回答が変わるのです。これは、男の子に車のおもちゃを与え、女の子に人形を与えることと同じだと思います。

そういう大人の思い込みは、子どもに移ってしまうことがあります。ですので、子どもと接する際には、自分に思い込みがないかを問い直してみるのはいかがでしょうか。結局、それが個人を見ていくこととなり、ダイバーシティを進めていくことになると思います。

中島さん:私が「数学研究者」として表に立つと、「なんだ、普通の人なんですね」と言われることがあります(笑)。 世にも珍しい「女性の数学研究者」ってどんな人なのだろうと思っていたのかもしれませんが、実際はただ数学が好きなだけの人なんですよね。それは工学でも土木でもテクノロジーの分野でも同じです。

ですので、男女関係なく理系的な体験ができる機会を、滋賀県立高専含め、高専サイドでどんどん提供してほしいなと思います。

無意識のバイアスは知らず知らずのうちに悪気なく形成され、それが積み重なると、ジェンダーバランスを含めたダイバーシティに偏りを生み出す原因になる。森田さんは子どもに対する反応や与えるモノを例に挙げていましたが、他にもたくさん似たような事例があると考えられます。この記事で紹介した言葉に与えられたカラーもまた、無意識のバイアスによるものなのかもしれません。

しかし、ゼロからスタートする滋賀県立高専は、無意識のバイアスの積み重ねがない状態だと言えます。だからこそ、STEAM教育やダイバーシティ含め、様々なことに挑戦でき、それが他高専のモデルケースになる可能性を秘めているのです。

最後に、奈良高専の藤田先生による言葉をお借りします。

藤田先生:強力なライバルができると思っています。しかし、滋賀県に高専ができることで高専の認知度は上がりますので、喜ばしいことです。

実は滋賀県立高専ができることによって、近畿地区には国立高専が4つ、公私立高専が4つという50/50の状態(※)になります。これは非常に珍しいことです。国立・公私立で手を取り合っていきたいと思います。

※ここでは、国立は明石/奈良/舞鶴/和歌山の4校、公立は大阪公立大/神戸市立/滋賀県立の3校、私立は近畿大の1校を指す。

 

◎イベント情報
【「滋賀県立高専共創フォーラム」第2回イベント】
日時:2024年9月11日(水)13:30~16:00
場所:栗東芸術文化会館SAKIRA 中ホール

内容:
1. 基調講演
テーマ「県立高専の学びとSTEAM教育の可能性」
講演者:中島さち子 氏(STEAM教育者)

2. トークセッション
テーマ「高専発!ダイバーシティで未来を切り拓く!」
<パネリスト>
・佐藤舞乙 氏
(豊田工業高等専門学校 環境都市工学科4年)
・内藤千晶 氏
(豊田工業高等専門学校 電気・電子システム工学科2年)
・エンフバヤル・エンフウヤンガ 氏
(第一工業製薬株式会社)
・石田秀幸 氏
(甲賀高分子株式会社 代表取締役)
・藤田直幸 氏
(奈良工業高等専門学校 副校長・教務主事)
・森田久美子 氏
(NPO法人Waffle)
<コーディネーター>
・中島さち子 氏
(STEAM教育者)

主催:「高等専門学校の設置に向けた共創宣言」9団体(滋賀県商工会議所連合会、滋賀県中小企業団体中央会、滋賀県商工会連合会、滋賀経済同友会、滋賀経済産業協会、びわこビジターズビューロー、滋賀県建設業協会、公立大学法人滋賀県立大学、滋賀県)

後援:内閣府、滋賀県教育委員会

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