
小学生のうちから、技術者を目標に勉強していたら?
そんな教育機関が世界中にあったら?
優れた技術者を増やし、より豊かな未来を目指す、高専初のNPO法人が設立されました。
前編に引き続き、栃木県小山市の小山高専機械工学科・複合工学専攻 加藤岳仁准教授にインタビューします。

小中学校から、技術者を目指す教育を
-ここからは、加藤先生が理事長をつとめる、NPO法人エナジーエデュケーション(以下、NPO-EE)についてお伺いします。目的は何でしょうか?
高専はもちろん、小中学校、大学、大学院と連携して良い技術者を育てる強固なレールをつくる。これがNPO-EEの目的です。現在は21高専、26教員が参画しています。
メンバーは私と面識のある方ばかり。研究者である前にみなさん人格者でいらっしゃって、信頼しています。

若い先生にも積極的に加入していただきました。学内外における様々な業務をスムーズにこなす方は人間力も高いと感じています。誰でも入れているわけではなく、メンバーは私が責任を持って選んだ方ばかりです。
-そもそも、どうしてこのNPO-EEを設立されたのですか?
2015年の国連サミット以降、SDGs(Sustainable Development Goals・持続可能な開発目標)やSociety5.0などの考え方が広まっています。
社会を変えるには、国や地域を越えて活動する技術者の育成が必要不可欠です。彼らを支援するのがNPO-EE。ゆくゆくは海外にも拠点を広げ、世界規模で技術者の育成に尽力するつもりです。
技術を伝えるだけでなく、メンタルヘルスについてのサポートも検討しています。私の昔の教え子には、就職先で精神面で負担を抱え、突然会社を休み学校を訪ねてきた子もいました。在学中から仕事をするうえでの心構えやトラブルの対処法を伝えておくべきだと考えます。
NPO-EEは海外で活躍できる技術者を育てる教育システムを作り上げようとしています。最終的には世界中の生活水準を底上げし、すべての人々に電気のある生活を届けることが目標です。
世界の子どもたちに科学の楽しさを知ってほしい
-研究についてのお話でも、途上国について考えていらっしゃいましたよね。何かきっかけがあったのでしょうか?

はい。学会や国際会議で海外に行くことが年に何度かあるのですが、その先々で衝撃を受けました。フィリピンではチャーターしたタクシーの運転手に「この地域はドアにロックしておかないと危ないよ」と言われたんです。スラムを通るところでした。
すぐに子どもたちが群がってきて吸いかけのタバコを売りに来ます。海沿いに目を向けると、道で排泄をしている子どもがいました。下水道が整備されていないんです。
タイでは、暑くて不衛生な出店で母親と一緒に働く子どもを見かけました。そのとき「この子たちは科学を学ぶ楽しさを、まったく知らずに生きていくのだろうか」と感じました。これは何とかしなきゃいけない、と。
調べるうちに、途上国では教育システムが破綻しているとわかりました。そこで、法人として海外に学校を建てたいと思っています。最先端のエネルギー教育をするんです。
ゆくゆくは学校の子どもたちが卒業後エンジニアになるまで、サポートするプログラムをつくります。現地の法人とうまくタッグを組みながら、広げていく予定です。
—現在、NPO-EEではどんな活動をされているのでしょうか。
2019年の10月に設立したばかりで、これからだっていうときにCOVID-19が流行してしまいまして……。本来ならば研究発表の場、プチ学会を開催する予定でした。先生方が指導している学生を連れて来るので、200人くらいの規模になるはずです。
研究者だけでなく、興味のある企業の方にも見ていただければと思います。その学会から、共同研究や学生の就職につながればうれしいですね。
-今後の展開について教えてください。
今後はネットワークをより広げて、協力体制を整えたいと考えています。企業の「こういう人材が欲しい」という希望にも応えられる。研究者だけでなく学生も、ネットワークから紹介できるシステムです。人と人をつなげる橋渡しが、NPO-EEの役割になれば光栄です。
加藤 岳仁氏
Takehito Kato
- 小山工業高等専門学校 機械工学科・複合工学専攻 准教授

2007年 九州工業大学大学院 生命体工学研究科 博士後期課程 修了。住友化学株式会社 入社、筑波開発研究所 勤務
2012年 小山工業高等専門学校 機械工学科・複合工学専攻科 助教、2013年 同 講師、2016年 同 准教授
2019年 NPO法人エナジーエデュケーション 理事長
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