![行動することで未来が見えてくる! 明確な目標設定で起業を実現した「音声研究のプロフェッショナル」のサムネイル画像](https://gekkan-kosen.com/wp-content/uploads/2024/02/プロフィール写真-800x533.jpg)
東大発のベンチャー企業「Parakeet株式会社」を2022年に創業された代表取締役 CEOの中村泰貴さんは福島高専出身です。誰の声でも好きにカスタマイズできる最先端AIの研究・サービス開発・展開まで手掛ける中村さん。これまでの歩みと研究の魅力についてお話を伺いました。
大学編入を目標に入学した高専で、東大への編入を意識
―なぜ高専へ進学されたのですか?
中学校の頃から大学編入を志していたため、高専を選択しました。当時はロボットに興味があり、地元の福島高専へ見学にも行きましたが、現地で先輩方の研究の様子を見てみると、なんだか自分の想像していた内容とは違っていまして……。「自分が望む道は、ロボットではないのかもしれない」と思い、最終的には電気工学科を選びました。
入学後は、大学編入を目標に据えていたものの、どの大学に編入するかは漠然としていました。しかし、1年次の終わりごろ、5年生の卒業式に参加した際に、東京大学に進学した先輩が2名いることを知り、そこで初めて東大に憧れを持ったんです。
さらに2年生のとき、福島高専で講演された方が、「4年生のときに一念発起して勉強したら、東大・京大・東工大に受かった」とおっしゃっていました。当時の私は浅はかだったかもしれませんが、「4年生から勉強して受かるのだから、2年生の自分が今から勉強したら必ず受かるのでは?」と考え、東大合格を目指して勉強を始めることにしました。
大学編入については、高専からの大学編入生による団体・メディア「ZENPEN」に集まる情報を活用しながら、企画にも積極的に参加していました。
情報が得られるのはもちろん、ここで得られた財産は、「東大編入を目指す全国の高専生」と「横のつながり」です。少人数のグループをつくり、SNSを活用して仲間たちと交流したり情報交換したりしながら受験に臨めたので、「やはり行動を起こすことが大事だな」と実感しました。
—勉強がうまくいくコツを教えてください!
「モチベーション維持」に尽きると思います。私の場合は、東大の受験を目指すために塾に通いながら、高専の授業は独学で1年ほど早めに終わらせて、4年次は過去問題の研究など本格的な受験準備に備えました。
とは言え、モチベーションを長時間維持するのはそう簡単ではないので、何らかの工夫が必要なのは間違いありません。私は自宅の壁中に英単語を貼り付けるなど、常に視界に入るようにして生活の一部に組み込んでいました。
高専と東大、それぞれで感じたメリット
—「高専でよかった」と思うのはどんなところですか?
早い段階で専門分野に触れられるのが大きいと思います。また、指導してくださるのは博士の学位を持つ先生方ばかりだったので、教科書の範囲を越えた深い知識までしっかりと教えてもらえるのがありがたいと感じました。
高専時代にさまざまな分野に触れれば、向き・不向きや「やりたい」「やりたくない」を見極めることができます。結果的に、自分の希望する分野に早く出会えるので、将来を考えるうえでとても重要だと思います。ちなみに私自身は、4年生のときにインターンシップに参加した経験も、進路を決めるのにかなり役立ちました。
さらに、上級生が20歳である点も、成長期の10代にとってはかなり刺激的です。1年生の場合、上級生は5歳も上なので、すごく大人に見えます。先輩方とは実験の授業などで交流する機会があるので、年齢もタイプも異なる多様な社会生活を、いち早く経験できる環境だと思います。
—東京大学に入学して良かった点を教えてください。
もちろん、高専とはまったく違う環境が待っていました。周りにいるのは、当たり前のように努力する人ばかりです。そんな尊敬できる友人が増えていくので、互いに刺激を受けながら高め合えるのが魅力だと思います。
また、さまざまなバックグラウンドを持った方が集まっているので、起業する際に、その助けを大いに借りることができました。起業支援プログラムにもたくさん参加したところ、東大出身者が非常に多く、対話の機会をたくさんいただけたことも良かったです。
研究面では、高専や他大学と比べて研究の予算が大きいこともメリットだと感じます。
—その後、大学院進学までの道のりについて聞かせてください。
大学3年次の頃から、音声合成を専門とする研究室のインターンに応募し、その期間の成果を国際会議等で発表したことがありました。ウィーンでの国際会議で、不慣れな英語に悪戦苦闘しながらの発表でしたが、研究から発表までの流れにやりがいを感じることができ、大学院への進学を決断しました。
![](https://gekkan-kosen.com/wp-content/uploads/2024/02/研究室インターンでウィーンの国際会議にて発表した時の写真学部4年.jpg)
起業する際に専門的なバックグラウンドを持っていると、持っていない人と比べて、音声領域が今後どのように進展するかといった予測を立てやすく、それが現在の事業に生きていると実感しています。
AIを用いた音声研究の最前線で
—Parakeet株式会社の創業までの経緯と、事業内容について教えてください。
修士1年生のときにダメ元で出した独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の「未踏アドバンスト事業」に通り、1年間リアルタイム音声変換技術の開発に取り組みました。その期間が終了する間際、松任谷由実さんの楽曲「Call me back」をAIでかつての荒井由実さん(※)のデビュー当時の声でデュエットする案件に携わらせていただき、それに伴って法人を立ち上げたことから始まります。
※荒井由実:松任谷由実の旧芸名。1972年に荒井由実としてデビューしたが、1976年11月29日に編曲家の松任谷正隆と結婚し、その後は松任谷由実として活動を続けている。
情報音声処理やAIの機械学習を研究するチームとして、東京大学大学院 情報理工学系研究科の研究室でプロジェクトに参画。デビュー当時の荒井由実さんと、現在の松任谷由実さんが時を越えてデュエットする、という壮大な企画に携わらせていただき、長期間にわたって技術開発を実施しました。
その企画はアルバムでも弊社の名前が記載されるとともに、2022年の『第73回NHK紅白歌合戦』でも披露されました。松任谷由実さんのステージに関わる技術の一部を担当させていただいたことは、自分自身にとっても大きなチャレンジとなりましたね。
現在は、最先端のAI音声変換技術を用いて、誰の声でも自分以外の人の声色にリアルタイムで変換できるソフトウエア「ParakeetVC」を開発・提供しています。目指すビジョンは、革新的で高品質な製品を通して、人々のコミュニケーション体験を豊かにすること。「あらゆる人々が、楽しく快適に暮らせる社会を実現したい」という思いからスタートしました。
![](https://gekkan-kosen.com/wp-content/uploads/2024/02/リアルタイム音声変換ParakeetVCのデモ動画公開時.png)
さらに、具体的なミッションとしては、2030年までに「世界で最も傑出した音声合成技術を持つ会社」という評価を確立したいと考えています。最近では、会社を故郷である福島県に移し、特に福島県浜通り地域での対話音声AIの普及に尽力しています。
—音声研究の魅力やおもしろさは、どんなところにあるとお考えでしょうか?
技術を使って、人と人とのコミュニケーションを楽しくできる点です。人と人に限らず、ロボットと人間、あるいはロボットとロボットでも良いかもしれません。楽しく快適なコミュニケーションのお手伝いができることが、研究者としての達成感ややりがい、モチベーションにもつながります。
この研究を突き詰めれば、究極的には「脳」にたどり着くと考えています。いずれは、人々が考えていることを話さなくてもアウトプットできるようになったり、脳と脳で意思を伝達できるようになったり……。昔はSFの世界でしかなかったことでも、脳科学と工学の融合で、もっと多くの技術が誕生していくと思います。
—最後に、未来の高専生や現役の学生にメッセージをお願いします。
とにかく「行動」すること。将来何をしたいのか今迷っているとしたら、または自信がなくて立ち止まっているとしたら、考えてばかりいるよりも、まず始めてみるのが大事。とにかく自ら動き続けることで、自分が目指したい道や興味を持って突き詰められる分野に出会えるはずです。
高専には、専門分野に早い時期から触れられるという大きなメリットがあります。たくさんの可能性に若い頃から触れて目標ができれば、ゴールに向けて「やるべきこと」が決まっていきます。わからなければ「仮決め」でもいいので、うまく自己暗示をかけながら理想に向かって進んで、夢をつかんでください。
中村 泰貴氏
Taiki Nakamura
- Parakeet株式会社 代表取締役 CEO
![中村 泰貴氏の写真](https://gekkan-kosen.com/wp-content/uploads/2024/02/切り取り_プロフィール写真-470x329.png)
2017年 3月 福島工業高等専門学校 電気工学科 卒業
2020年 3月 東京大学 工学部 システム創成学科 卒業
2022年 3月 東京大学大学院 情報理工学系研究科 修士課程 修了
2022年 4月 東京大学大学院 情報理工学系研究科 博士課程 進学
2022年 Parakeet株式会社 代表取締役 CEO
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