今回は大阪大学大学院 工学研究科(以下、阪大工学研究科)に在学中の高専卒業生4名に取材させていただきました。出身高専や現在の学部も異なるみなさまは、なぜ進学先に阪大工学研究科を選ばれたのでしょうか。現在の研究内容とともに、阪大工学研究科の魅力を解き明かしていきます。
授業や研究、課外活動。高専での思い出
―みなさまが高専に入学したきっかけを教えてください。
高見さん:私が明石高専に入学したきっかけは2つあって、1つ目は周りの環境を変えたかったからです。高校に進学しても周りの人間関係があまり変わらなかったので、そこを変えたいと思いました。2つ目は、専門的なことを学びたいと思ったからです。祖父が大工をしていたこともあって建築に興味があったので、建築学科のある明石高専を選びました。
青田さん:私は中学校から理科が好きになったのですが、理科の先生がかなり専門的な先生だったので、普段からかなり実験をさせていただく機会が多かったんです。それで自分が興味のある分野を深掘りするような勉強をしたいと考えて、普通高校ではなく奈良高専に進学することにしました。
水野さん:僕も奈良高専の出身です。きっかけは、中学校の頃からロボットを見るのが好きで、ロボコンの存在を知り、高専に行きたいと思い始めました。それで近畿圏の高専をいくつか調べた中で、奈良高専が成果を出していたので、そこが決め手になりましたね。
二川さん:僕は香川高専の出身です。きっかけは、中学校の頃から技術や数学、理科が結構得意だったので、先生に相談したところ高専を勧めていただいたことです。また、オープンキャンパスの内容が非常に面白かったので、高専が第一志望になりましたね。
―高専時代の印象深い思い出を教えてください。
高見さん:卒業研究です。5年間の集大成として「JR須磨駅の駅舎の改築」というテーマで、駅舎の設計をしました。東京一極集中や再開発による高層ビル建設など、「都市や都市化が良い」という風潮に違和感があったので、地域にはその地域特有の良さがあると思い、この研究を始めましたね。
青田さん:奈良高専では物質化学工学科を選択したので、主に化学について研究しました。いろいろな先生と関わるうちに「有機化学」という分野が面白いなと思うようになったので、卒業研究では、「有機電子輸送材料」というデバイスに使われるような有機物について研究しました。
水野さん:奈良高専では電子制御工学科に入って、卒業研究では農業用のロボットを制作しました。重たいものを持ったり、足場が悪い中で物を運ぶのを手伝ったり、自動で農場の見回りをするような、半自動でアシストする電動台車に関する研究をしていました。
また、ロボコンは4年生まで参加して、2年生の時には「アイデアが面白い」と大会の運営委員会の人に評価いただいたことをきっかけに、特別に全国大会のエキシビションとして披露させてもらえたことがとてもいい思い出として残っていますね。
二川さん:僕は電気情報工学科を選んだのですが、電気回路の設計や、プログラミングなどの勉強を主にしていました。印象的に残っているのは、回路設計の授業で、不審者が来たときにセンサーを使って警告してくれる防犯システムを作成しました。今まで学んできたことの集大成として一つの作品を制作したことはすごく印象に残っています。
数ある大学の中で、なぜ阪大工学研究科を選んだのか
―進学先に阪大工学研究科を選ばれた決め手を教えてください。
高見さん:今所属している「ビジネスエンジニアリング専攻」があったことが大きな決め手になっています。私は建築学科を卒業して、そのまま専攻科に進学したのですが、実は次の進路として就職を考えていたんです。
しかし高専時代に研究していた「まちづくり」について、いろいろな知識を身に付けたいと思い、進学を選びました。ビジネスエンジニアリングは、まちづくり系の研究ができつつも、専攻としては工学と経営の両方が学べるところに惹かれて選びました。
青田さん:阪大には今私が専門としている有機化学分野の著名な先生方がすごくたくさんいらっしゃって、「最先端の有機化学に触れるなら、絶対に阪大工学部だ」というアドバイスを高専のときにもいただいていました。
元々は有機合成分野をメインに研究しようと考えていたのですが、現在はつくるだけではなく、つくったものの性質を評価するという両方に研究分野を置いています。
水野さん:高専生のときに阪大の先生と共同研究する機会がありまして、赤ちゃんのアンドロイドをつくって、その親のアンドロイドと触れ合わせて、親子間の情報のやり取りがどのように行われているのかを研究したんです。
ロボット系だと開発にフォーカスを当てている研究が多かったのですが、「ロボットを使って新しい発見をする」というアカデミックな考え方がとても新鮮で面白かったので阪大に進学しようと思いました。
二川さん:進学するならレベルの高い大学を目指したいと思っていたんです。実際にオープンキャンパスに行ってみると、阪大は雰囲気がすごく自分に合うと感じて、第一志望で編入しました。
今は制御工学が研究分野なのですが、身の周りの制御対象の動きを数式的にモデル化することがすごく面白いです。また研究室の髙井先生がすごく優しくて魅力的な方で、ここなら楽しい研究生活が送れそうだと思いました。
―現在はどのような研究を行っているのですか。
高見さん:今は加賀・武田先生の研究室で、「持続的まちづくり」というキーワードのもと、「関係人口」をテーマに研究を進めています。関係人口とは、いわゆる観光客と地域住民の間の人たちで、地域といろんな関わり方をするこれからの地域の担い手のことです。その人たちがどんな過程をたどって、観光客から地域と積極的に関わるようになるのかを研究しています。
「関係人口」というキーワード自体にいろんな解釈の仕方があるので、どういった人たちを関係人口と定義するのかが難しいですね。その分、自分の観点からさまざまな捉え方ができるので、考えを突き詰められるところが面白いなと思います。
青田さん:私は南方先生の研究室に所属していますが、指導いただいているのは武田先生です。今の研究は「TADF分子」という、最終的にはテレビやスマホの画面が光る部分に応用できるような分子です。電気を光に効率よく変換できるような設計について研究しています。
色の変化や光の強弱などがあるので、視覚的に面白いですね。最終的につくりたいものは世の中にないものなので、研究を進めるごとに情報が減っていく中、うまくいかなくなったときにどこまで戻るか、どういう方向に切り替えるかを考えるところが難しいです。
水野さん:僕は東森先生の研究室で、人間の舌のように柔らかい素材でできたロボットについて研究しています。ほとんどの素材がゴムでできていて、空気圧で膨らませることによって、表面形状をいろいろ変えて、それによっていろんなものを持ったり、ハンドリングできるようなロボットについてが対象です。
ゴムは液体を混ぜて固めてつくるのですが、柔らかい材料はすごく不安定なので、何時間も放置して固めた試作品が、空気を入れたときに裂けたりするとすごくショックですね。また、繰り返し引っ張ったりすると特性が変わってくるので、評価がすごく難しいという点もあります。
二川さん:僕は髙井先生の研究室で、自動運転に関連したテーマに取り組んでいます。自動運転は注目されている分野で、ドライバー不足の解消や渋滞の解消など様々な効果が見込めます。しかし、この効果はそもそも自動車がちゃんと安全に目的地へたどり着いてくれる前提のもとに成り立つので、この前提を確固なものにするためにこのテーマを選択しました。
二川さん:内容としては、障害物などが与えられた際に、障害物をちゃんと避けながら、そのゴール地点に自動車を導くような制御器の設計をテーマとして取り組んでいます。最初は何も知らない状態だったので、コードが内部でどんな動きをしているのか理解することが難しかったです。最初はエラーばかりでも、自分の中で原因を解釈して、自分の要求を落とし込んで結果が得られたときに、達成感がありますね。
食に景色に……研究だけではない阪大の魅力
-阪大の美味しい食堂を教えてください。
水野さん:入学してびっくりしたのは、食堂が多いことですね(笑) キャンパス内に5つほどあり、GSEコモン・イースト棟の最上階(15階)には「カフェレストラン ラ・シェーナ(2024年3月末閉店予定)」もあります。僕は「鯨屋」という食堂の唐揚げ定食が好きですね。カレーもおいしくて、白米を持ち込んだら割引もあります。
青田さん:阪大病院の方まで行ったらスタバやサブウェイもあるし、コンビニも何店舗かあるので、食に飽きることなく楽しめていますね。基本的にテイクアウトで楽しんでいます。
高見さん:「NSSOL Café」というカフェの日替わり定食はAとBがあって、お肉やお魚など気分に合わせて選べるので気に入っています。
水野さん:そこは本格的なラーメンも出てきますよね(笑) ラーメン屋さんがつくるような本格的なスープや返しなんですよね。
二川さん:僕は「ファミール」という生協の食堂がお気に入りです。ファミールは基本的にはいろんなメニューがあって、その中から自分で好きなメニューを選べるので、飽きずに食べられるのが魅力です。メインは毎日変わりますが、「オクラ巣ごもり玉子」というオクラの上に温泉卵がのっていて、しょうゆで和えているサイドメニューがあるのですが、それは固定で毎日食べていますね(笑)
-阪大のオススメスポットを教えてください。
二川さん:僕が好きなのはサイバーメディアセンター前で、春は桜が、秋はイチョウがすごくキレイです。研究に疲れたら、そこにある池の周りをよく散歩していますね。
水野さん:桜はキャンパス内のいたるところに咲いているので、春は通学途中の景色がいいですね。千里門からの道で、雲一つない快晴の日、桜と青空とビルのコントラストが綺麗で思わず写真に撮りました。
高見さん:私はバスで阪大病院の方から通学しているのですが、道沿いが芝生になっている場所があり、そこでよく親子が遊んでいるので、その風景を見て癒されていますね。秋だとイチョウ並木がきれいなだけでなく、キンモクセイの香りもするので、嗅覚的にも秋を感じながら、気持ちよく過ごせています。
青田さん:夜になると猫やタヌキが出るので、それも癒されますね。また、高い建物が多いので、万博公園の観覧車が見えたり、遠くまで見渡すことができるので、落ち着くスポットが多いです。
青田さん:個人的には図書館もお気に入りなんです。勉強できる部屋が3階まであるので、試験前でも比較的席を確保しやすいですし、個人用の席もあるのが嬉しいです。専門書で埋め尽くされているので、研究に必要な書物をすぐに見つけることができますね。
―最後に、現役の高専生へメッセージをお願いします。
高見さん:自分が経験して思ったことですが、やっぱり勉強だけじゃなく、課外活動にたくさん打ち込んでほしいと思います。自分のこれまでの考えを覆されたり、大きな刺激を与えてもらった経験もかなりあったので、自分の考えや視野を広げられるいい機会になると思います。
また、私が所属しているビジネスエンジニアリング専攻は、ビジネスという少し違った視点から工学を学べます。自分の専門分野を突き詰めるルートもあれば、ちょっと違った視点から同じ分野を学ぶ環境も阪大にはあるので、選択肢が広いことが阪大の魅力だと思いました。
青田さん:時間に余裕があると思うので、興味が向くものや、やってみたいけど勇気が出ないことに挑戦できる機会が高専だと思います。勇気を振り絞って、やりたいことを全部やってほしいですね。
また、阪大は研究室そのものに入る運営費もすごいですし、先生方個人で取ってこられている研究費も多いので、使いたい機器が使いたいように使えるという面では、かなりレベルの高い研究ができると思います。また、先生方がすごくバックアップしてくれるところもありがたいところですね。
水野さん:受験勉強がないという面でも、高専生は高校生よりもアドバンテージがあるので、多くある時間をよりよく使ってほしいです。編入の時には、高専には情報がなかなか入ってこないので、そういった面では学校の成績を取る以外にも結構大変なところはあると思います。
でも、阪大には意外と高専出身の先生方や、高専OBOGの先輩がいらっしゃるので、勇気を出して進学してもらえたら嬉しいですね。あとは、時には無駄なことして楽しむことも大事です(笑)
二川さん:高専は5年間同じ学科で過ごしていくので、その分野の知識はすごく身に付くんですが、逆にその分野の知識に凝り固まってしまう人が一定数いると思います。そうなると他の分野の知識を取り入れることをしていかなくなると思うので、定期的に他の学科の友達と関わりあって、いろんな分野の知識を身に付けてほしいです。
阪大には優秀な方が多いので、研究室で悩みを相談すると、自分が言いたいことをすぐ解釈してくれて、適切なアドバイスをくれる人が多いです。いい刺激になるし、切磋琢磨し合って高めていけるとても良い環境だと思います。ぜひ阪大でお待ちしています!
水野 海渡氏
Kaito Mizuno
- 大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程1年
2019年 奈良工業高等専門学校 電子制御工学科 卒業
2021年 奈良工業高等専門学校 専攻科 システム創成工学専攻 修了
2023年 大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 博士前期課程 修了
青田 奈恵氏
Nae Aota
- 大阪大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 博士前期課程2年
2020年 奈良工業高等専門学校 物質化学工学科 卒業
2022年 大阪大学 工学部 応用自然科学科 応用化学コース 卒業
高見 優菜氏
Yuna Takami
- 大阪大学大学院 工学研究科 ビジネスエンジニアリング専攻 博士前期課程1年
2021年 明石工業高等専門学校 建築学科 卒業
2023年 明石工業高等専門学校 専攻科 建築・都市システム工学専攻 修了
二川 健太氏
Kenta Futagawa
- 大阪大学大学院 工学研究科 電気電子情報通信工学専攻 博士前期課程1年
2021年 香川高等専門学校 電気情報工学科 卒業
2023年 大阪大学 工学部 電子情報工学科 卒業
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ヒューマンネットワーク高専 顧問
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