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「北九州高専」×「北九州市」 高専と行政の連携で地域産業を盛り上げるその狙いに迫る

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「北九州高専」×「北九州市」 高専と行政の連携で地域産業を盛り上げるその狙いに迫るのサムネイル画像

北九州高専客員の教授として、高専と行政のコラボレーションによる「企業の成長と学生の育成」に取り組む北九州市のロボット・DX推進担当課長の大庭繁樹さん。北九州高専と北九州市の連携から生まれる「地域産業の振興と高専の将来性」についてお話を伺いました。

高いスキルの高専生に感動した大学時代

―まず、高専生の印象をお聞かせください。

北九州市には北九州高専があり、中学の同級生も何人か通っていました。その頃の高専のイメージは、入学式もない、全校集会もない。掃除もしなくていいみたいな話が友達から流れてきて「そんないい学校があるんだ」というのが高校時代の印象でしたね(笑)

大学の進路選択では薬・工・理のどの学部に進むか迷ったあげく、電子工学の道を選びました。大学での研究は、コンバータというパソコンのアダプタにある四角い部分の小型化についてです。

そして、大学3年生のときに4人の高専生が編入してきました。みんなめちゃくちゃ優秀でびっくりしましたね。そのときに高専に対するイメージがガラリと変わりました。とにかくみんな真面目で、授業は常に1番前の席で聞いていたのを覚えています。

高校から大学に進学した人は座学中心ですから実験に慣れてないので「へたっぴ」なんですよ(笑) シミュレータソフトもうまく使えないですし、はんだ付けもうまくできません。なのに、高専出身者はテキパキとしていて動きも良い。実験のときもスピードの速さや質の良さはさすがでした。

―大学生の頃は、留学もされていたと伺っています。

教養課程の頃に英語の単位を落として留年したことが悔しく、しっかり勉強しようと、休学して4か月間オーストラリアへ留学したことがあるんです。「将来のいい経験になるのでは?」という考えもありました。

大庭さんとオーストラリアで出会った皆さま
▲オーストラリア留学中の大庭さん(1997年)

ここでオーストラリアを選んだのは、南半球で夏の時期だったから、という単純な理由でした。語学学校には日本人、韓国人、スイス・イタリア・ドイツなどといった英語圏でない人たちが集まっており、実際いろいろ話をしてみると、みんな自分の国に誇りを持っている。「外国=アメリカ」と思っていた自分に、世界はアメリカだけじゃないっていうことに気づかせてくれましたね。視野を広げてくれた留学は、貴重な経験でした。

環境からエネルギー、そしてロボット産業の振興へ

―電子工学の分野から行政の道を目指した理由について教えてください。

大学卒業時には「もういい加減、働きたいな」という思いが強かった一方で、これまでの研究を仕事としてやっていけるのか踏ん切りがつかずにいました。企業に入り研究一本でやっていくことがイメージできず、合わないのではないかと思ったんです。

自分の社会人人生を何に捧げるのかを考えたとき、生まれ育った地域のために時間を使いたいと強く思ったので、「北九州市役所」という道を選び、電気の技術職として採用されました。

北九州市役所を上から撮った写真
▲小倉北区都心部にある北九州市役所。中央にある城は小倉城で、北九州市役所はその写真右にあるガラス張り15階建ての建物

―北九州市役所ではどんな業務を担当されましたか。

市役所に入ったのは1999年です。ごみの焼却工場が最初の勤務地でして、設備の維持管理・修繕・改修を担当しました。ごみの焼却工場はいろんなごみが入ってきて、そして、高温で燃やすところなので、機器のトラブルが相当出るんですよね。毎日トラブル続きで仕事には事欠かなかったです(笑)

2000年問題(※)で、大晦日から新年にかけて工場で過ごしたのも良い経験でした。焼却工場は24時間体制で稼働していますが、2000年1月1日0時の時点で工場の操業に問題がないか確認する業務でした。メーカーの方と一緒に数か月かけて確認・改良をしていたのですが、やはり0時の瞬間はドキドキしました。ごみを掴むクレーンシステムの時計に若干の不具合が生じましたが、すぐに復旧し、それ以外も問題なくホッとしましたね。

※2000年問題:2000年1月1日に、コンピュータの動作で何らかの異常が発生する可能性があるのではないかと話題になった問題。コンピュータが登場した当時は、メモリ容量、表示、印字スペースの制限などがあり、年号を下4桁ではなく下2桁で管理しているプログラムが多かったため、問題となった。実際は、世界中でシステムの見直しや対策が行われたこともあり、深刻な問題はほとんど発生しなかった。

その後、2008年4月に環境局の本庁部署へ異動になるのですが、同年7月に北九州市は「環境モデル都市」という、「低炭素社会の実現に向けて高い目標を掲げ、先駆的な取り組みにチャレンジする都市・地域」に選ばれます。

10年以上、「環境モデル都市」の仕事をしました。特に2011年の東日本大震災以降は、節電プランをつくったり、風力発電・太陽光発電などをどんどん広げていく政策をつくったり、バイオマス発電所を企業に働きかけて誘致したりといった取り組みをしていましたね。節電や発電などは、学生時代の学びだけでは全然太刀打ちできません。社会人になって、学ぶ量は相当増えていますよ(笑)

環境、SDGsに力を入れている北九州市は世界からも注目されており、2018年7月には、日本の代表都市としてニューヨークの国連本部で市長が発表しました。私も担当として同行し、世界に向けて北九州市の環境改善、SDGsに向けた取組みを発信できたのはとても印象に残っています。

国連の旗が並ぶ前で写真に写る大庭さん
▲SDGsに向けた取り組みの発表で訪問した国連本部(2018年)

このように様々なことをしていたので当分異動はないだろうと思っていました。すると、青天の霹靂とはこのことで、産業経済局で「ロボット」の仕事を突如することになります。「ロボット産業担当係長」という役職でして、「市役所にロボット係長とかいるんだ」という印象でした。

でも、いざやってみると相当面白いんですよ。北九州市には世界的なロボットメーカーの安川電機さんがあり、九州工業大学や北九州高専などでの研究教育も盛んです。北九州高専はロボコンで日本一になって有名でしたからね。

一方、当時から企業の人手不足が始まっていましたから、「ロボットを地域企業で役立つように広げ、産業として育てていくこと」「ロボットを活用して地域の生産性向上に寄与していくこと」がロボット係長のミッションでした。

高専生の育成と地元企業の底上げに取り組む

―北九州高専との連携の内容や取り組みについてお聞かせください。

デジタルトランスフォーメーション(DX)の時代を迎え、ロボット産業担当係長からロボット・成長産業担当課長、ロボット・DX推進担当課長と、役職の名称がちょっとずつ変わりました。シンプルで、かっこいい感じです(笑) 私が来た4年前にはDXという言葉はなかったのですが、定着しましたね。日々、楽しく業務を行っています。

青空の下の、北九州市 ロボット・DX推進センターの建物
▲北九州市 ロボット・DX推進センター

北九州高専には、「高度な人材を育てても、なかなか地元で活躍できる場がない」という問題意識がありました。そのため、地元企業のDXを進めることで高専生が地元で活躍できるよう、企業向けの取り組みを進めています。「地域経済の振興」「若者の地元定着」という北九州市のテーマとも一致しますので、連携して事業を進めているところです。

―北九州高専は「未来技術人財育成事業(COMPASS 5.0)」の拠点校となり、客員教授になられましたね。

北九州高専にはロボコンで有名な久池井先生がいらっしゃるのですが、非常に熱心な先生で、学生だけでなく、地域の企業も育てるエグゼクティブビジネススクールを開校されています。

ホワイトボードの前で議論する方々
▲北九州高専主催エグゼクティブビジネススクールの様子

地域企業の成長は行政の重要ミッションでもありますので、いわば共催事業です。私は久池井先生と、このエグゼクティブビジネススクールと、地域にロボットを普及させるカギとなるシステムインテグレータ産業の振興を一緒にやっていますね。この2つの事業が2020年に認定され、北九州高専が「COMPASS 5.0」の拠点校になりました。

この事業を推進する前から私も連携していましたが、北九州高専が「COMPASS 5.0」に採択されたことで、より一層連携を深めていこうとなり、客員教授を拝命したのです。

高専と連携して企業も成長させ、学生も成長させるという好循環の仕組みをつくっていきたいなというのが、私の1番本音の部分ですね。DXやRX(ロボットトランスフォーメーション)へ向けてデジタルなものづくりができ、それによってロボットの社会進出ができる、そういう高専生を育成しようと奮闘中です。

そのほかにも、北九州学術研究都市で開催されるトマトロボット競技会(ロボットがトマト採取の速さを競う競技会)には、毎年高専生が参加しています。また、タイのPIM大学(パンヤピワット経営大学)と連携したインターンシップ事業の一環として、北九州高専生とタイの学生が交流する事業なども行っていますね。

壁に映したスライドを囲む人々
▲北九州高専とPIM大学の学生が交流

―高専の良さと、将来像をお聞かせください。

高専の良さは「しっかり育て上げるところ」だと感じています。どこでも通用できる技術者として育て上げるという高専のシステムは、ものすごく良いですよね。そのシステムに共鳴し、活躍したい学生が集まっているのが高専ではないかなと思います。

一方で、重要なのは「将来的なキャリアプラン」ではないかと考えているんです。そのキャリアプランとして「地域企業にも良いところがあるよ」と伝えたいですね。高専生に対する企業のみなさんの期待値はすごいです。地方自治体として高専生のみなさんに様々なキャリアプランを用意しないといけないと思っています。

大庭さんと職場の皆さま
▲現在の職場のメンバーと。大庭さん(前列左)の右にいらっしゃる方は高専出身です

―最後に、未来の高専生に向けてメッセージをお願いします。

高専にいる期間は、高校3年間、大学2年間に該当する5年間です。その時間をどう使っていくのか、高専に上がる前に真剣に考えることになるでしょう。卒業、就職まで見据えた選択になると思いますよ。

世の中がデジタルシフトしていく中で、グローバル企業や大企業だけでなく、全ての企業でDXが必要不可欠になっていきます。ですので、みなさんの活躍の場所は、世界だけでなく地元にもあるのです。「地域産業をアップデートしていく」——地域で活躍する高専生が出てくることを期待しています。

大庭 繁樹
Shigeki Oba

  • 北九州市役所 産業経済局 地域経済振興部 ロボット・DX推進担当課長
    (北九州工業高等専門学校 客員教授)

大庭 繁樹氏の写真

1994年3月 福岡県立東筑高等学校 卒業
1999年3月 九州大学 工学部 電子工学科 卒業
1999年4月 北九州市役所 入職
2012年4月 北九州市役所 環境局 環境未来都市推進室 政策係長
2021年4月より現職
2022年1月 北九州工業高等専門学校 客員教授(併任)

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宮元先生
塾講師から技術専門職員になり、目指すは高専機構の「縁の下の力持ち」! 好奇心で突き進んだキャリアについて
社会実装や研究に必要なのは「人の縁」。高専発のDXシティを目指す
高専から大学・院、企業就職を経て、博士課程へ。日本最大級の研究所で、医療に役立つ研究を

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