インタビュー

社会で“生きる”力を育てる 多様性を追求した社会実装教育

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博士課程修了後に日立製作所に就職。シリコンバレーでの勤務を経て会社を起業し、スマートフォン向けフレキシブル基板の量産ラインなどで用いられるプラズマ処理装置の開発に成功するなど、第一線で活躍されてきた加藤聖隆先生。2つの会社の代表を務めながら、2017年からはサレジオ高専 機械電子工学科で非常勤講師として教鞭をとられてきた加藤先生による、活きたキャリア教育や高専にかける想いを伺いました。

テクノロジーの追求だけじゃない、「哲学」を意識した社会実装教育

-サレジオ高専で教鞭をとることになったきっかけは、何だったのでしょうか?

2016年に発足した「さがみはらIoT研究会(相模原市IoT推進ラボ)」を通してサレジオ高専の機械電子工学科の先生方と連携をしていました。その活動の中で、当時サレジオ高専の副校長をやっていらっしゃった平岡一則先生(機械電子工学科にて半導体デバイス工の講義をご担当)がちょうど退官されるタイミングで、代わりに半導体の講義ができる方を探していたそうで、私に声を掛けてもらいました。

屋外にて、ロボットを囲んで動きを見守る人々。
Sagamihara IoT活動風景

私が代表を務める会社でプラズマ評価機器の開発を一緒にやってくれる共同研究先を探していた際に、たまたま面識のあったサレジオ高専にコンタクトをとり、長期インターンシップという形での連携させてもらったのが、高専と関わるきかっけでした。

高専生の素晴らしいところって、やっぱり実際に手が動くというところにあると思うんです。大学生より幼いぶん、純粋で溢れんばかりのエネルギーを持ち合わせているし、一般的な基礎学力を付けながらも、実践的な技術を振るう良さが高専にはあるかなと。高専生は産学連携に非常に向いているんじゃないかなと感じましたね。

-「さがみはらIoT研究会」の活動について教えてください。

相模原市が事業推進主体となり、地域課題解決に資するIoT新ビジネスの研究などを、中小製造業や周辺地域の大学・高専と連携しながら実施する取り組みです。サレジオ高専からは、機械電子工学科の学生有志が10 名程参加し、個別テーマにて研究開発や機器試作を進めました。

オンラインミーティングの様子。この字のデスクの真ん中でプロジェクター投影を行う。
Sagamihara IoT研究会風景

その取り組みのひとつとして、農業用IoTの技術である地中水分量測定用のセンサシステムの開発をしています。農業用IoTというと頭に思い浮かべるのは、「スマート農業にして効率を上げよう」みたいな発想になると思うんですが、私たちの取り組みではそのプロジェクトに、東京高専とサレジオ高専の学生と先生のほか、中央大学の哲学科の先生にも入ってもらっています。なぜ哲学の先生がいるのかというと、地球環境問題を倫理的に解決するため、「環境哲学」という立場から講義してもらっているんです。

-IoTの技術開発に哲学の先生ですか。おもしろい発想ですね。

農業は、経済合理性に基づいた資本主義的な農業が良いといわれていますが、そうじゃないだろうと私は思うんです。例えば「福岡で採れるみかんはこういう味」とか、土地ごとにそれぞれの味がある。だったらそのローカルの味をより引き出すようなテクノロジーがあってもいいじゃないかと。

要するに技術的や経営学的な面のみに着目して議論をしていたら、テクノロジーはすべて合理性を追求することに偏ってしまうんじゃないかと思うんです。経済活動自体は大事だし、農業によって生計を立てるお金儲けも大事ですが、「テクノロジーってもしかしたら私たちの環境を守るためにあるんじゃないの?」という部分を社会実装で取り組んでいるんです。福岡には福岡の味、相模原には相模原の味を追及してローカル色を出すというのを技術的に取り組もうとしています。このような考え方は、哲学分野では「アグラリアン・アグリカルチャー(=農的農業)」という言葉で呼ばれているようです。便利さの追求だけがテクノロジーではないということですね。

これは私の経験から得た考え方なのですが、シリコンバレーで働いていたころ、人生において“成功する”って一体なんだろうと考えたんです。豪邸に住むようなお金持ちの人たちをたくさん見てきた中で、彼らの楽しみってお金を稼ぐことやお金持ちになることじゃないんです。ホームパーティをする際に、友人のためにピザを手づくりするような、ハンドメイドの時間を楽しむことなんですよね。そういう観点から高専生たちを見ると、めちゃくちゃ楽しんでるんですよ。自分を表現しながらも、それが評価されたら嬉しいんだなと。日常の出来事に喜びをもっていくと、このCOVID-19禍でも楽しく前向きに生きていけるんじゃないかと思っています。

同僚と笑顔で写真に収まる加藤先生。
SiliconValleyの仲間との再会(2016年)

これからの社会を生き抜くために必要な「多様性」を持つ高専生と共に

-第一線で活躍されてきた加藤先生から見て、高専生の魅力とは?

客観的に見て、高専と聞くとどうしても「ロボコン」を想像するんですが、でもだからって高専生がみんな「ロボコン」に取り組んでいるわけじゃないんです。例えばサレジオ高専には、ほかにはないデザイン科があるように、高専は多様性があるんです。各高専が持っている多様性にもっとスポットライトがあたると良いんじゃないかと思っています。

サレジオ高専の授業中の黒板。様々な単語が記載されている。
サレジオ高専での授業風景

少子化が進むこれからの日本は、多様性が大事です。教員は成績を付けたり評価しなくてはいけない立場なので、彼らの多様性を高めるところが難しい部分もあると思いますが、私のような外部の者との関係で共に研究開発をしたりする中で、何か補完できるものがあるんじゃないかなと思っています。

実はサレジオ高専に以前、筋ジストロフィーを患う学生がいたんです。彼は5年間無遅刻無欠席で頑張って、いざ卒業ってときに就職先が見つからないんだという話を聞き、私の会社に特別枠で入社してもらうことにしたんです。そんななか、昨年COVID-19が流行したことが、彼にとってはある意味チャンスになりました。

自身の経験を生かして、車いすの開発も行っている。
活躍している筋ジストロフィー技術者

オンライン会議が当たり前になったことで会議にも参加できています。昨年夏に、カナダのインキュベータであるDMZが開催しているサマーキャンプ(Basecampという名称)にて英語で事業計画をプレゼンしました。これをきっかけにして、カナダの障がい者向け機器を作っている会社とのOnlineでの会議を持つことができ、ビジネスの可能性が生まれてきています。どんな学生も、どの瞬間に花が開くかわかんないんですよ。そういう学生らにスポットライトを当てて、今現在頑張っている高専生に対して何か温かいものが贈れたらと思っています。

加藤 聖隆
Kiyotaka Kato

  • サレジオ工業高等専門学校 機械電子工学科 非常勤講師

1993年 早稲田大学大学院 理工学研究科 電気工学専攻 博士課程 修了、同年 株式会社日立製作所半導体事業部。
1997年 米国・KLA Tencor社入社
1999年 株式会社ケイテックリサーチ社 起業
2005年 有限会社サーフクリーン 起業
2016年 さがみはらIoT研究会(相模原市IoT推進ラボ)コーディネーター
2017年 サレジオ工業高等専門学校 機械電子工学科 非常勤講師
2018年 ケイスクエア 代表、さがみはらロボット導入支援センターコーディネーター
2019年 相模原市経済交流コーディネーター、Landing Pad Tokyo エグゼクティブディレクター

加藤 聖隆氏の写真

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