母校である函館工業高等専門学校の教員として、研究教育活動にご尽力されている下町健太朗先生。地元・函館のため、「電力」と「エネルギー」をキーワードに、さまざまな研究を行われています。教員になったきっかけや、現在のご研究内容についてお話を伺いました。
自分に合った研究環境を求め、母校の教員へ
―先生は、函館高専のご出身なんですね。高専に進学したきっかけはなんだったのでしょうか。
中学2年生の時、函館高専の1日体験授業に参加したことがきっかけです。それまでは高専について全く知らなかったのですが、その時の授業がとにかく楽しくて、「自分が学びたいことはこれだ!」と感じたんです。
また、子どもの頃から、ソニーが発売していた音楽プレーヤーやゲーム機器が好きでして。漠然とそこで働きたいという思いがあり、そのためにはどうしたらよいかを考え、高専へ進学することを決めました。
―高専生活はどうでしたか?
クラスメイトに非常に恵まれていた印象がありますね。5年間同じクラスで、切磋琢磨しながら学生生活を共にできたことは、本当に良い思い出です。
そして4年生の時に参加した電力会社のインターンシップが1つの転機になりました。内容としては、設備見学が主な活動だったのですが、スイッチ1つで函館全域が停電してしまうようなシステムの巨大さと、それを運用する設備の重要性に感銘を受けまして。
入学当初にあった家電への興味が、電力・エネルギーに移り、今の分野の研究を始めるきっかけになりました。
―そこからなぜ、高専の教員へ?
専攻科の時に参加した学会で、3割ほどしか内容を理解できず、まだまだ知らない専門知識があることを痛感したんです。そこで、最先端の技術を追求するため、「背景や理論の知識も含めて、もっと学びたい!」と思い、大学院への進学を決めました。
そうして専攻科・大学院での研究を続けるうちに、電力・エネルギーの分野はまさに大変動の時代であると強く実感し、「この分野にずっと携わっていたい」と考えるようになっていきました。
それで「自由な発想」や「他分野との交流」、「他世代との交流」という条件を自分で設定し、これを軸に高専や大学に応募したところ、縁あって母校で教員になることができました。
漁村が抱える問題を解決する「漁村マイクログリッド」
―現在のご研究内容を教えてください。
函館市や北海道南部の道南地域を対象として、「漁村マイクログリッド」に関するさまざまなシミュレーションを行っています。
現在主流となっている電力システムは、火力発電所や原子力発電所といった大きな施設で大量に発電し、そこから各地に送電するというしくみです。それに対し、「マイクログリッド」は、地域に小さな発電所を設置し、その地域の中でエネルギーのマネジメントしようという考え方です。
函館には、多数の漁村が点在しているのですが、それらは燃料費の高騰や収入源である水産資源の減少などの問題に直面しています。
他方で、漁村は周りが海で囲まれていることから遮へい物がないうえ、海風もあることから、大きな風力のエネルギーが得られます。また、函館にある津軽海峡は安定して海の流れが速いという特徴があり、そこからエネルギーを取り出すという研究も行われています。つまり、漁村は再生可能エネルギーの導入ポテンシャルが高い地域であるというわけです。
これを利用することができれば、化石燃料購入のための燃料費は抑えられ、余剰エネルギーを輸出することで新たな収入源となり、漁村を救う手がかりになるのではないかと考えています。
―この問題に目を付けたきっかけはなんだったのでしょうか。
教員として函館に戻ってきた頃、「せっかく海があるのだから釣りをしてみたい」と思っていたんです。ちょうど、函館高専には趣味で釣りをやっている先生が多くいらっしゃって、何度かご一緒させていただくうちに、すっかりはまってしまって。
毎週のように海に通っていると漁師さんの知り合いも増え、世間話をすることも多くなりました。その中で、困り事を聞いていた時、燃料費の高騰や収入源である水産資源の減少の問題が深刻であることを知ったんです。
水産学についての知識は全くなかったものの、お世話になっている漁師さんに恩返しがしたいと思い、電気の分野からできることはないかを、ひたすら考えました。そして、燃料費に関する問題を解決すれば、少しでも漁村のためになるのではないかと考え、この研究を始めました。
―具体的にはどのようなシミュレーションをされているのですか?
まず、漁村に人が何人住んでいて、どのような建物があるかというデータを収集し、その地域で1年間に必要とされる電力量を推定します。なおかつ、そこで取られている太陽光や風速、海の流れのデータからどれくらいのエネルギーを取り出せるのかを推定し、それが必要な電力量を賄えるのかをシミュレーションしているところです。
実現にはまだ時間がかかると思いますが、函館市を始め、各所に協力を仰ぎながら、今後も研究を進めていきたいと考えています。
学びを支え、交流を深める「ピアチュータリング」
―「ピアチュータリング」の取り組みについて教えてください。
函館高専では、学年をまたいだ学生間の交流がすこし希薄だと感じていました。また、学力不振になると1人で抱え込んでしまう学生も一定数いて、それをなんとかしたいという思いは多くの教員が持っていました。
そうした背景から、上級生の学生が下級生の学生に教えあいをする場(ピアチュータリング)を公式に設定し、昨年から試験的に実施しています。
その際、上級生に対しては、1時間の研修を10回ほど行っています。30~40分間は、ハラスメントに関する注意をはじめ、よりよいサポートのためにはどうしたらよいのかについて学んでもらいます。
残りの20分は、実際にこういった学生が来たらどうするのかというケーススタディを行い、理解を深めてもらう。そうして、しっかりとした研修を行ったうえで、基本的には上級生に任せ、学生だけで進めてもらっています。
先生に質問するのは緊張してしまうようなことでも気軽に質問することができますし、この機会に上級生とのつながりを持ち、学業に対する不安の解消につなげてほしいと考えています。
―先生が学生に指導するうえで大切にしていることは何ですか?
COVID-19の影響でオンライン授業を余儀なくされる状況が続いていますが、どうしても顔が見えない授業なので、学生が理解できているのかを把握することが難しいんですよね。
そのため、どうにか学生の理解を深める方法はないかと考え、約15分ごとに質問を投げかけるしくみを考えました。一定時間ごとに、自分がどこまで理解しているのかを確認してから次のステップに進むため、集中力も続くようになり、学生からも好評です。
これは、刻々と変わる日々の中で、学生のためにどうしたらよいのかを考え続けたからこそ、見出せた方法だと思います。授業に限らず、「万人がこれをマネすればうまくいく」という方法が見つかるまでは改善を止めず、考え続けていきたい。もしかしたら今後のキャリアの中で見つけられないかもしれませんが、それでも、止めてはいけないと思うんです。
これからも、目の前にいる学生のことをよく観察し、その時々に合ったより良い方法を考えつつ、学生に向き合っていけたらと思っています。
下町 健太朗氏
Kentaro Shimomachi
- 函館工業高等専門学校 生産システム工学科 電気電子コース 准教授
2009年 函館工業高等専門学校 電気電子工学科 卒業
2011年 函館工業高等専門学校 専攻科 生産システム工学専攻 修了
2013年 北海道大学大学院 情報科学研究科 システム情報科学専攻 修士課程 修了
2016年 北海道大学大学院 情報科学研究科 システム情報科学専攻 博士課程 修了、函館工業高等専門学校 生産システム工学科 助教
2021年より現職
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