石川高専をご卒業後、豊橋技科大に進学し、現在は愛媛大学で研究をされている野村 信福(のむら しんふく)先生。学生時代から剣道部やプロレス同好会など、精力的に活動されてこられた野村先生に、高専時代の思い出や、恩師とのお話、現在の研究などを伺いました。
数学の教師であり、剣道部の顧問でもある恩師との出会い
-石川高専に進学を決めたきっかけは?
子どもの頃「宇宙戦艦ヤマト」にハマっていて、「波動砲をつくる!」という明確な目標がありました(笑)。今でもそれは諦めていないのですが、ともかくエンジニアになりたかったので、中学の先生に相談したところ、高専を勧められて。希望の勉強ができることと、親元を早く離れてみたいとも思っていたこともあり、石川高専の機械工学科に進学しました。
授業はかなり難しかったですよ。数学の豊原先生は、所属していた剣道部の顧問でもあったんですが、授業がとても厳しく、でも哲学的ですごく分かりやすかったんですね。教科書は豊原先生が執筆されたものを使っていたんですが、「ただ問題を解けばいい」ということではなく、「何を意図してこの問題がつくられているのか」を考えさせられるような授業でした。
高校に進学した同級生が、テスト前になると数学の問題を聞きに来るのですが、それらがスラスラ解けるぐらい、レベルの高い数学を教えていただいていました。その時の教科書は、今でも私のバイブルになっています。
-剣道部に所属されていたんですね。
中学時代は、県でもかなり強かったんです。高専時代は「黄金時代」と呼ばれていたぐらい、負けた記憶がないんですよ(笑)。その代わり練習はエンドレスで行われ、本当にきつかったですね。豊原先生は部活の時の方が優しく、よく部活終わりに勉強も見てもらっていました。文武両道を大切にしている先生でしたね。
それを受け継ぎ、愛媛大学でも「文武両道のゼミ」にしています。「勉強だけ」「運動だけ」できる人は世の中にたくさんいますが、両方できて初めて、人生の幅が広がるんです。学生には「質問があるなら、ジョギングについてくれば教えてあげる!」とよく言っています(笑)。
当時、剣道部では「敬天愛人」と書いた手ぬぐいを使っていたので、OB会を「敬愛会」と名付けて、今でもみんなで集まったりしているんですよ。残念ながら数年前に豊原先生はお亡くなりになったのですが、敬愛会のみんなでお墓参りに行ったりしていますね。
-卒研では、どのような研究をされたんですか。
「破壊力学」に関するテーマが与えられ、「J積分」のプログラムを作っていました。当時「カードパンチャー」という「カードにパチパチ穴をあけて、カードの束を流し込んでプログラムを書く」という方法でプログラミングしていたんです。
おかげで大学に入ってから「デジタルとは?」「2進数とは?」などの基礎部分は、「カードパンチャー」のイメージがあったので、すんなり入ってきましたね。
ただ学生時代は球技大会の練習で骨折し入院してしまい、病院で1カ月間ずっとカードにパチパチ穴を開けていた思い出しかないんですよ(笑)。
数学ができる人に英語を教えたほうが、上達は早い
-豊橋技科大に進学したきっかけを、教えてください。
高校3年生になったら、同級生が大学に進学するじゃないですか。「普通高校から、あれだけ易しい数学で大学に行けるなら、俺が進学したら、もっと深いところまで学問を突き詰められるのでは」と思ったんですよ(笑)。
そこで、軽い気持ちで同級生に問題を借りて、センター試験の英語を解いてみたんです。そしたら全く歯が立たなくて(笑)。そこから目覚めて、高専3年から独学で英語の勉強を始めました。その頃から進学することを決めていたように思います。
-豊橋技科大では、「プロレス同好会」を立ち上げたらしいですね。
「プロレス同好会」を発足させ、体の大きかった「ジャイアン」(杉浦 公彦先生)をレスラーに誘いました。私もレスラー役だったのですが「喋りの方が上手い」ということで、途中から実況を主に担当していたんです。実は今でも「愛媛プロレス」の実況をすることもあるんですよ。(笑)。
英語が弱いことには自覚があったので、ジャイアンたちと昼休みに集まって、英語のテープを聞きながら勉強していましたね。今でもそう思っているのですが、「英語の勉強に関しては、数学ができるひとに英語を教えたほうが上達は早い」んです。
高専生は英語が苦手な人が多いですが、ロジカルな思考はきちんと育っていますから、少しやれば言語構造が理解でき、すぐに会話力も上達します。高専では授業時間も多くなかったので、潜在的に苦手意識を持っているだけです。
「液中プラズマ」という、画期的な研究成果を出す
-大学では、どのような研究をされたんですか。
「超音波」のテーマを与えられ、「超音波を使って熱を奪う」という研究をしました。この研究は、現在にもつながっているんです。
超音波が発生すると泡が出ますよね。その泡が「光る」という現象が見つかり、「泡の中が高い温度になって、光っているのでは?」という仮説を立てました。そしてこれが「波動砲のタネにつながるのでは」と思ったんです。実際に「泡の中で核融合が起きる」という論文が発表されていて、超音波でできる泡の中の圧力や温度を計測しました。
「泡ができる=プラズマ化している」ということですから、「液体の中で泡がプラズマを起こすタネになるかもしれない」と研究を続けたところ、液体の中で初めてプラズマを起こすことに成功したんです!「液中プラズマ」といって、当時、画期的な研究成果でした。
不自由さを受け入れると、世の中はずいぶん変わってくる
-現在の研究を教えてください。
現在は、「再生可能エネルギー」に関する研究を行っています。バック・トゥ・ザ・フューチャーの「デロリアン」を目指して、「ゴミから燃料を作りだす」という研究です。
実際に「太陽光を使って廃油から水素を取り出す」という工程を経て、水素自動車を走らせることに成功しました。この様子は全国放送でもオンエアされました。ただ、まだタイムスリップまでには至っていないので(笑)、引き続き研究を続けています。
また、「カーボンネガティブ」につながる研究もしています。実は、「カーボンニュートラル」では空気中のCO2は減りません。CO2を実質減らさなければ温暖化は止まらないんです。CO2と何かをくっつけて他の物質にできないか研究を続けています。
「再生可能エネルギー」はすぐ実現するものではありませんが、「私たちがどこまで不自由さを受け入れることができるか」で結果は変わってくると思うんです。
例えば「エスカレーターではなく階段を使う」など、身近なことから実践していけば、意外と「カーボンニュートラル」達成は難しいことではないと思っています。150年くらい前までは、「カーボンニュートラル社会」だったわけですから。
私たち研究者は、「少々不自由でもいいじゃないか」とう考え方を受け入れていけば、世の中はずいぶん変わってくると思いますね。それが、新しいアイデアを生むと思っています。
座右の銘「左は世界を制する」の意味とは
-高専生にメッセージをお願いします。
まずは「カーボンニュートラル」、「ゼロエミッション」、さらにその先の「カーボンネガティブ」が達成できるかどうかは、今の若い高専生の柔軟な頭脳にかかっていると思っています。せっかくエンジニアとして勉強してきたその知識を、学問の分野で生かしてほしいですし、「違う分野に入って、新しい立ち位置でもう一度世の中を見る」という経験をしてほしいですね。
2020年4月に、愛媛大学で学生起業塾を立ち上げました。すでに、複数の学生起業家を輩出し、ベンチャー企業の立ち上げにも成功しています。高専生の方が大学生に比べ、起業に対するチャレンジ精神が高いように感じますし、学生のうちにどんどん挑戦してほしいと思っています。大学の学生にも「いま無理しなかったら、いつ無理するの?」と日々伝えています。
私の座右の銘は「左は世界を制する」なんです。もともとはボクシングで、左ジャブの重要性を言っているのですが、私は「左利きは世界を制する」と解釈しています。左利き選手が、右利き選手とプレイするのは普通のことですが、右利き選手にとっては違和感があるので、左利きのトッププレイヤーは長く王者に君臨できるという意味です。
「多くの人とは違うものを持っているということはアドバンテージ」なんです。高専生は数学とか機械いじり、プログラミングやロボコンを経験し、普通高校生とは違う経験を持っています。それが大きな武器になると思います。そして将来、一緒に「波動砲」の研究が出来れば最高に嬉しいですね!
野村 信福氏
Shinfuku Nomura
- 愛媛大学大学院 理工学研究科 生産環境工学専攻 教授
1985年 石川工業高等専門学校 機械工学科 卒業
1987年 豊橋技術科学大学 工学部 エネルギー工学課程 卒業
1989年 豊橋科学技術大学大学院 工学研究科 エネルギー工学専攻 修了
1993年 豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 総合エネルギー工学専攻 修了 博士(工学)
1994年 愛媛大学 工学部 助手、1999年 同 助教授
2005年 米国ワシントン大学 応用物理学研究所 在外研究員
2007年より現職
愛媛大学 理工学研究科 教授
同 学長特別補佐、産学連携推進センター長 兼任
株式会社テクノネットワーク四国(四国TLO) 取締役 兼任
一般社団法人「えひめベンチャー支援機構」 代表理事 兼任
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