海・山・川と広大な自然に恵まれた和歌山県。ミカンや梅・桃など、様々な果実の名産地としても有名なこの地で、植物がもつ原料の研究を続けているのが和歌山高専 生物応用化学科の奥野祥治教授です。研究に対する思いについて伺っていく中で見えた、学生たちへのメッセージとは。
企業に就職するも、あきらめられなかった研究
―先生は「県産農海産物による未病予防」について、研究されているんですね。
はい。和歌山県立医科大学で研究員を務めていた頃から続けているので、もうかれこれ15年になります。「未病」とは「自覚症状はないが検査では異常がある状態」と、「自覚症状はあるが検査では異常がない状態」を総称するもので、例えば高脂血症や肥満・骨粗鬆症などはすべて未病の対象です。
かねてから「和歌山の特産物を使って、地域に貢献する研究ができないか」という話が出ていたので、南部町の名物である梅の機能性について医学的に証明してみようと取り組んだことがきっかけでした。
研究を続けていると梅の成分には胃がん細胞の増殖を抑制したり、梅エキスには抗アレルギー効果が見られたりと、まさに発見の連続でしたね。最近は「ジャバラ」や「仏手柑(ぶっしゅかん)」といった植物の研究も進めています。将来的には、研究結果をもとに加工食品や健康食品を作り、社会貢献に繋げることが目的です。
―研究のおもしろみは、どういったところにありますか?
薬の原料は、人間の手でゼロから作ろうと思ってもなかなかできるものではありません。ところが、自然界の植物には最初から備わっているものがあるんです。まさに薬の出発点が植物にはある。研究を突き詰めれば突き詰めるほどに植物のポテンシャルが解明されるので、とてもおもしろいですよ。
―博士の前期課程を卒業後、一般企業に就職されたご経歴があるんですね。
後期課程に進むべきか考えたときに、「博士がとれる頃には30歳になっている。そろそろ就職をしたほうがいいのではないか」と思ったんです。そこで、美容商材の販売企業に就職する道を選びました。
配属先は商品研究をする部署。どの原料を混ぜたら髪にツヤが出るのか、ダメージケアにはどんなアイテムを開発したら良いのかなどを考える日々を送りました。中小企業だったので、開発だけでなく商品の企画書を作ったりリーフレットの原案を考えたりと、幅広い経験をさせてもらいました。
しかし、ここでできるのは、あくまでも「原料会社から送られてきた原料をどうやって調合するのか」という、“商品開発のための研究”でした。これはこれで楽しかったのですが、2年ほど経った頃にふと、「やっぱり自分は、もっと植物の原料について研究を極めたい」と思ったんです。そして、大学院に戻る道を選んだというわけです。ちょっと回り道でしたね(笑)。
学生の質問が、さらなる学びに繋がる
―研究一筋だった先生が高専の教員になったのはなぜですか。
和歌山県立医科大学で3年ほど研究員として働き、「この先どうしようか」と考えていたときに、ちょうど募集を見つけたのがきっかけです。和歌山は「果汁王国」とも言われていて、専業農家も多い。加工品ではなく植物そのものを売っているので、自分の研究を生かしてさらに地域貢献に生かせるのではないかと思いました。
―実際に高専の教員になって、いかがですか。
高専の学生は非常に素直で柔軟性が高いですね。最初はなかなかスムーズに研究が進まなくても、一度軌道にのったらあとは自らの経験を応用してどんどん実践してくれます。大学で研究員を務めていた頃は、一人で黙々とやる作業が多かったのですが、今はそんな優秀な学生たちと一緒に研究ができるので、とても楽しいです。
こちらが驚くような純粋な質問をしてくることも、学生ならではですね。「そうなることは当たり前だから」と今までは考えもしなかったことが、学生の疑問によって「じゃあ何でそうなるのか今から実験してみよう」と向き合うきっかけになっています。
すると意外な結果が見えてくることもあるんです。教員という立場ではありますが、日々学生によって自分自身も成長していると感じます。
楽しまなければ意味がない!
―学生に教えるうえで大切にしていることは?
自分自身も手を動かして、学生と一緒の空間で研究をすることです。この世界は日進月歩ですから、新しい測定方法が次から次に出てきます。それに乗り遅れないためにも元気なうちはずっと現場にいたい。
何より、私自身、研究が楽しいと思うようになったのは、大学院生の頃に研究室にいた先輩方の姿を見てきたからなんです。納得がいくまで遅くまで研究に没頭し、なかには海外留学まで果たした方もいました。そんな背中を見て育ったからこそ、学生たちにも「研究を楽しむ姿」を見せ続けたいと思っています。
―学生に伝えたいことはありますか。
毎日の授業や研究に興味を持ち、楽しさを見いだしてほしいですね。社会に出ると、たくさんの仕事が待ち受けています。ときには自分が希望していないことでもやらなければいけない。
そのときに「嫌だな」とマイナスにとらえるのではなく、何でもいいから「楽しさ」を見つけることができれば、きっと世界が大きく変わると思うんです。私の研究のモットーは「楽しむこと」ですから、それをこれからも自分の背中で語っていきたいですね。
実は、今までは陸上の植物を使った研究をずっと続けていたのですが、最近は海の生物を生かせないかと考えているんです。それは、私自身、海が好きで、大学生時代からスキューバダイビングを趣味にしていたから。最近はなかなか潜れていませんが、サンプル採取という目的で海に行けると考えたら、研究がもっと楽しくなるのではないかと今からワクワクしています。
奥野 祥治氏
Yoshiharu Okuno
- 和歌山工業高等専門学校 生物応用化学科 教授
2003年3月 近畿大学大学院 総合理工学研究科 物質系工学専攻 博士後期課程 修了
2004年4月 近畿大学大学院 総合理工学研究科 物質系工学専攻 博士研究員
2006年4月 和歌山県立医科大学 第二病理学教室 博士研究員
2007年4月 和歌山県立医科大学 機能性医薬食品探索講座 助教
2009年4月 和歌山工業高等専門学校 物質工学科 助教授
2017年4月 フロリダ大学 客員研究員
2021年4月から現在 和歌山工業高等専門学校 生物応用化学科 教授
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