モンゴル工業技術大学付属高専(モンゴルコーセン)でバイオ工学を学び、現在は八戸高専の専攻科に在籍されているアルタンスフ・ハヤンヒャルワー(ハヤナー)さん。2027年4月には東北大学大学院へ進学予定です。海を越えて学びを深め、故郷モンゴルの環境問題に向き合う青年の姿に迫ります。
モンゴルコーセンで開かれた化学への道
ーモンゴルコーセンに進学したきっかけを教えてください。
数学と物理が好きで、それを生かせるエンジニアになりたいと考えていたことが入り口になりました。ただ、モンゴルでエンジニアを目指そうとすると、進学先として思い浮かぶのは大学1、2校ほどしかない状況だったのです。そんな時、母から「高専という学校もあるよ」と教えてもらいました。
当初は高専が大学とどう違うのかよく分かりませんでしたが、母と一緒に調べて相談するうちに、専門的な知識を実践的に学べる環境に惹かれ、モンゴルコーセンへの進学を決めました。
―入学後、バイオ工学科を選んだのはなぜですか。
実は入学当初は、化学があまり得意ではありませんでした。しかし、授業を受けるうちに原子や分子の反応を一つひとつ理解していく面白さに気づき、次第に深くのめり込んでいきました。「物理の計算とはまた違う、化学ならではの面白さがある」と感じたことで、最終的にバイオ工学科を選択しました。
特に興味を持ったのがバイオテクノロジーの授業です。遺伝子やDNAが細胞の中でどのように働くかを学ぶ内容は、今でも鮮明に記憶しています。

―モンゴルコーセンでは、どのような研究に取り組みましたか。
使われなくなった電子基板から銅を回収する研究に取り組みました。鉄を用いた「セメンテーション」という手法で回収率79.1%、亜鉛を用いた手法で純度93%を達成しました。
実験の手法自体はシンプルなものでしたが、「廃棄物に含まれる有価物を回収して再利用する」という考え方は、現在の研究に至るまで変わらない軸となっています。
―研究発表会では1位を受賞されたそうですね。
研究の集大成として、モンゴルにある3つの高専が参加する合同研究発表会で発表する機会がありました。
発表時間は5~10分と短く、複雑な研究内容をいかに分かりやすく伝えるかに苦労しましたが、結果的に1位を受賞することができました。研究の意義をしっかり伝えられたことが、評価につながったのかなと思っています。
また、普段はほかの高専の学生がどのような研究をしているのかを知る機会がほとんどなかったため、出場者の発表を見られたことも大きな学びになりましたね。

インターンシップで初めて日本へ
―モンゴルコーセン卒業後は、どのような進路を考えていましたか。
日本で就職するか、日本の学校へ進学するかという2つの選択肢がありました。ただ、進学を目指すには、一般的に日本語能力試験でレベル「N2」の取得が必要とされています。
モンゴルコーセンの日本語授業は、1年生から週2回、各90分のペースで続いており、卒業時にN3を取得することを目標としたカリキュラムでした。周囲を見ると、就職を選ぶ同期の多くはN3で十分と考えており、N2まで取得する学生はごくわずかでした。
それでも自分で勉強を続け、N2を取得できたときに「進学への道が開けた」と感じました。先生方に相談すると、進学を強く勧めてもらいました。

―数ある進学先の中から、八戸高専の専攻科を選んだ理由を教えてください。
進学先を調べていくうちに、モンゴルコーセンが提携している7つの高専があることが分かり、それぞれのカリキュラムを確認しました。
その中でも、バイオ工学系のコースがある八戸高専が、最も自分の学びたい内容と合致していると感じました。そこで、八戸高専 専攻科のマテリアル・バイオ工学コースへの進学を決めました。

―初めて日本を訪れたのは、モンゴルコーセン在学中だったそうですね。
はい。本科4年生の夏休みに、3カ月間のインターンシップで日本を訪れました。神奈川県大磯のホテル内にあるプールで、パラソルのレンタルを担当する仕事です。
一緒に働く日本の人たちと仲良くなり、いろいろな話をしていくうちに、「もっと日本で生活してみたい」と思うようになりました。この経験が、日本への進学を考えるきっかけの一つになりました。
八戸高専の充実した研究環境
―八戸高専では、どのような研究に取り組んでいますか。
ごみ焼却施設から出る「飛灰(ひばい)」に含まれる有害な鉛を、環境中に溶け出さないよう安全に固定する技術の開発に取り組んでいます。
ごみを燃やした後の灰には鉛などの重金属が残っており、そのままにしておくと雨水などに溶け出して土壌や地下水を汚染するおそれがあります。そこで、もみ殻を炭にした「もみ殻バイオ炭」をケイ素の供給源として加え、セメントの主成分に近い物質(C-S-H)をつくり、その中に鉛を閉じ込める手法を研究しています。
現時点では、水に溶け出す鉛を最大で約87%削減することに成功しています。ただし、日本の基準値にはまだ届いておらず、さらに削減率を高めるための方法を模索しているところです。どうすれば残りの差を埋められるか、試行錯誤が続いています。
―モンゴルコーセンと八戸高専で、何か違いを感じたことはありますか。
八戸高専に来て大きな驚きを感じたのが、研究設備の充実度でした。モンゴルコーセンでは学校内に分析機器が少なく、外部の施設に出向いて分析を行う必要がありましたが、八戸高専ではXRD(X線回折)やXRF(蛍光X線分析)をはじめとした機器が学内にそろっています。この環境の差は、研究の進め方や発想の幅にも大きく影響しています。
―研究以外の時間はどのように過ごしていますか。
アルバイトでカフェに勤めており、それもあって、コーヒーを淹れることが趣味の一つになっています。コーヒーの抽出は、温度や時間、豆の種類によって味が変わる化学的なプロセスでもあるので、面白いんですよね。友人の家のコーヒーマシンを借りて、さまざまなレシピを試すことも楽しみになっています。
趣味は、ゲームに街歩き、そして編み物です。同期とはマインクラフトで一緒に遊ぶこともありますし、一人のときもゲームを楽しんでいます。
編み物は、「まったくできないことをやってみたら、どうなるだろう」という好奇心から、日本に来る4カ月前にゼロから始めました。これまでの最高作品は、友人のために手作りしたズボンです。時間はかかりましたが、完成したときはとてもうれしかったです。
―専攻科修了後の進学先として、東北大学大学院を選んだ理由を教えてください。
将来的にはモンゴルに戻り、環境研究に関わる仕事に就きたいという思いが当初からありました。専攻科修了後に就職するという選択肢もありましたが、それでは現在の研究がここで終わってしまいます。モンゴルの環境問題に直接関わる研究をもっと深めたいという気持ちから、大学院への進学を決めました。
進学先として東北大学大学院の環境科学研究科を選んだのは、廃棄物のリサイクルや資源回収を扱う研究室の取り組みが、自分の興味がある分野と重なっていたからです。
―大学院では、どのような研究に取り組む予定ですか。
まだ正式に決まったわけではありませんが、モンゴルの石炭灰を、鉱山から出る酸性排水の浄化に活用する研究に取り組みたいと考えています。CO₂の固定と有害金属の除去を同時に実現することを目指し、廃棄物を「処理すべきもの」から「使える資源」として再定義することが研究の軸になればと考えています。進学後に指導教員と相談しながら、テーマを固めていく予定です。
モンゴルは国土の約77%が土地の劣化の影響を受けており、石炭灰による大気汚染や水質汚染も身近な問題です。その原因を一つでも減らしたいという思いが、この研究を続けるエネルギーになっています。
将来は日本で働くことを視野に入れていますが、最終的にはモンゴルの政府系研究機関で環境修復・砂漠化対策・循環型経済の分野に携わる仕事を目指しています。大きな目標ですが、できるところから着実に積み上げていくつもりです。
アルタンスフ・ハヤンヒャルワー氏
Altansukh Khayankhyarvaa
- 八戸工業高等専門学校 専攻科 マテリアル・バイオ工学コース 2年

2024年6月 モンゴル工業技術大学付属高専 バイオ工学科 卒業
2025年4月 八戸工業高等専門学校 専攻科 マテリアル・バイオ工学コース 入学(現在)
2027年3月 同 修了見込み
2027年4月 東北大学大学院 環境科学研究科(エネルギー環境群)進学予定
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