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「在来作物×高専技術」によって価値をつくる! 高専ならではのヨコ連携で、大分の農業に新たな可能性を

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「在来作物×高専技術」によって価値をつくる! 高専ならではのヨコ連携で、大分の農業に新たな可能性をのサムネイル画像

山形大学や宮城県庁で勤められたのち、2022年に大分高専の教員として着任された森田昌孝先生。「もちとうきび」に代表される大分の在来作物の栽培・加工・流通や、スマート農業、農福連携など、農業に関する多彩な研究を展開されています。高専教員になるまでの歩みと、研究の詳細などを伺いました。

学び直しのために、大学院へ進学

―農業へ興味を持ったきっかけを教えてください。

実家がもともと花卉(かき)園芸農家でして、子どものときはよく手伝っていました。その頃から農業が好きで、自分で畑をつくり、ジャガイモやトウモロコシを育てていたんですよ。ただ、つくっていた記憶はあるのですが、それがうまく育てられたのかは記憶がありません(笑)

取材をお引き受けいただいた森田先生
▲取材をお引き受けいただいた森田先生

―その後、新潟大学の農学部に進学されましたが、2002年に中退されています。

当時は就職氷河期でして、学科の半分ぐらいの人たちが正規雇用の内定をもらえず、かなりひどい状況でした。そんな中、学部3年生のときに国家公務員試験を力試しのつもりで受験したら偶然にも合格し、山形大学の農学部で技術職員の募集があったので、新潟大学を中退して就職することにしたのです

※文部科学省の機関であった国立大学法人は、2004年4月に法人化され、職員の採用は人事院が実施する国家公務員採用試験から、国立大学法人等が合同で実施する試験を通じて行うよう変更された。

―森田先生は山形大学で技術職員をされながら、2008年に同大学院 農学研究科の修士課程に進学されています。それはなぜでしょうか。

学び直しをしたいと思ったからです。技術職員としての仕事は高専と同じで、学生に対する実験・実習の支援や農場の運営管理がメインでした。しかし、山形大学で仕事をしていると、農学の面白さを感じるようになり、周りにも研究者の方がたくさんいらっしゃったことから、自然と研究職を志すようになったんです。

大学を中退した私が大学院に進学することはイメージしづらいかもしれませんが、「個別の入学資格審査により、大学を卒業した者と同等以上の学力があると認めた22歳以上の者」も入学資格に該当していまして、それで私は進学することができました。当時は第一次安倍政権による「再チャレンジ」政策の1つとして大学院進学の門戸が広がっており、運が良かったのかもしれません。

修士・博士課程では畜産に関する研究をしていました。手間暇かけて生き物を管理すれば、きちんとした製品になるという点に魅力を感じていました。

―博士課程を修了された2年後に、宮城県庁へ就職された理由は何でしょうか。

研究職になるには、いろいろなところで経験を積んだ方が有益だと考えたからです。宮城県の農業試験場などで勤務することで後々のキャリア形成につながると思い、転職を決めました。

また、東日本大震災の復興支援に関わりたかったことも理由の1つです。放射性廃棄物の処理や、その損害賠償請求の調査などに携わることができました。

宮城県庁に勤めていらっしゃった頃の森田先生。同僚と一緒に槍ヶ岳へ。
▲宮城県庁に勤めていらっしゃった頃の森田先生。同僚と一緒に槍ヶ岳へ

―農業試験場では、何の研究をされていたのでしょうか。

実は農業試験場で働く前から取り組んでいて、今も取り組んでいるのですが、トウモロコシの研究をしていました。「農家さんの収益を上げることができる、宮城県の土地柄に一番適したトウモロコシの品種を見つける」ことをミッションに、気候への適性や、病気への耐性などについて調査していました。

そういった調査を続けているうちに、トウモロコシにハマりました。トウモロコシほど人間の生活に深くかかわっている植物はありません。トウモロコシは世界的で1番の栽培面積を誇る植物であり、家畜の飼料などにも活用されていることから「人間の半分はトウモロコシでできている」と言われるほどです。そのスケールの大きさと重要性に惹かれていきました。

大分という土地で、在来作物に新しい価値を与える

―大分高専に着任された経緯について教えてください。 

宮城県庁では農業大学校で教師として勤務していた時期もあり、人を育てる仕事の大切さを感じていました。また、農業試験場ではスマート農業関連分野についても携わっていて、今後の日本農業を支える新たな牽引役になると確信していました。

そんな中、大分高専で「農業」に関わる教員公募があることを知り、ご縁があって採用いただきました。大分にはそれまで観光程度でしか訪れたことがなく、別府の印象しかなかったのですが(笑)、そもそも研究職に就くことを目標にしていたので、場所のことは気にしていませんでした。

大分高専の教員になってからは、2本のテーマで研究を進めようと考えました。1つが、宮城県庁で取り組んできた「トウモロコシの国産化(国産のトウモロコシを家畜の飼料とし、その肉を学校給食まで届けるという一連の流れ)」を続けること。もう1つが、機械系など他分野の高専の先生と連携して、スマート農業分野に関する研究に取り組んでいくことでした。

―トウモロコシに関して、森田先生は在来種のトウモロコシ「もちとうきび」などの在来作物に新たな価値を見出そうとされています。その経緯を教えてください。

最初は紫色のトウモロコシの研究をしていたんです。アントシアニンという成分が多く、健康増進作用が高い外国品種を栽培しようとしていたのですが、あまり売れなくて苦しんでいました(笑) そこで、県内をいろいろ探していたら、「もちとうきび」に出会ったんです。

森田先生が初めて出会った「もちとうきび」。今も大切に保管されていました。
▲森田先生が初めて出会った「もちとうきび」。今も大切に保管されていました

調べてみたら大分における在来作物の歴史的背景も面白くて、大分にはかつて南蛮貿易の拠点があり、キリスト教とともに南蛮渡来の食べ物もいち早く伝来したそうです。そういう在来作物と高専の技術を掛け合わせることで新たな価値を生み出せるのではないかと、研究方針を少しずつ切り替えることにしました。

在来作物の種が6つ。右側4つがトウモロコシ、右から5番目が高菜、6番目が米です。
▲在来作物の種。右側4つがトウモロコシ、右から5番目が高菜、6番目が米です

―素朴な疑問なのですが、在来作物は美味しいのでしょうか。

いい質問ですね。正直に言うと、あまり美味しくないです(笑) それもあって廃れていったのだと思います。

でも、加工原料にすると味の欠点が小さくなるんです。粉末にしてパンやクッキーに混ぜたり、ビール原料の1つであるコーンスターチとして活用したりすると、食味は関係なくなり、むしろ原料としての付加価値が生まれます。

現在は地元企業さんと連携して、クッキーやパン、ビール、コーン茶、タコスなど、さまざまな商品を開発している、あるいは開発中です。大分の特産品はカボスと椎茸が有名ですが、観光に来る方に向けたご当地食品が少なく、企業・飲食店では「地元食材を生かした商品をつくりたい」というニーズがもともとあったんです。

在来作物を活用した商品を紹介中の森田先生。手にされているのは、もちとうきびを原料としたクラフトビール「MOCHI」(藤居醸造との共同開発)。
▲在来作物を活用した商品を紹介中の森田先生。手にされているのは、もちとうきびを原料としたクラフトビール「MOCHI」(藤居醸造との共同開発)

大分は年間800万人ほどの観光客が宿泊する九州有数の観光県ですので、豊富にある在来作物を掘り起こし、かつてよりもバリエーションが豊かになった現代の食べ方に、高専の技術を活用して合わせることができれば、新しいマーケットが見えてくると思っています。

ありがたいことに現在は順調に進めることができていまして、各種メディアさんでもご紹介・取材いただく機会が増えました。そのご縁で、トウモロコシ専門家として、テレビやラジオ番組に出演したり、番組の内容監修を依頼されるようにもなりましたね。

―スマート農業の分野では、具体的にどのような取り組みをされていますか。

トウモロコシ畑を自律走行できるクローラ式の農薬や肥料散布ロボットや、パプリカを識別してグレーディングする(大きさや形状などで等級分類する)マニピュレータロボットを機械系の先生と一緒に開発を目指しています。

▲仙台高専の園田潤先生との、クローラ型自動走行局所施肥ロボットの共同研究の様子

また、最近は農作物の流通管理アプリも情報系の先生と開発中です。収量が少ない伝統野菜(在来作物)は既存の流通に乗りにくいのですが、生産者とレストラン・シェフの間をアプリによって双方向でつなぐことで、新たな流通の形をつくろうとしています。「野菜が今どのくらいあって、いつ出荷できて、値段はいくらか」が分かるよう、プロトタイプの作成まで進めることができています。

さらに、トウモロコシから認知症予防効果のあるフェルラ酸(ポリフェノール)を取り出して製品化する研究も機械系の先生と進めています。

在来作物などを育てている畑。手前で育てているのは、里芋やサツマイモです。
▲在来作物などを育てている畑。手前で育てているのは、里芋やサツマイモです
水やり中の森田先生。もともと大分高専のグラウンド端にあった土地を、森田先生自らの手で開墾し、畑にしたとのことです。
▲水やり中の森田先生。もともと大分高専のグラウンド端にあった土地を、森田先生自らの手で開墾し、畑にしたとのことです

―多くの先生と連携されているんですね。

高専の面白いところとして、各先生は個人事業主のようでありながら、ヨコとの連携を積極的に目指す点が挙げられると思います。大学ではあまり見られない光景です。

このヨコ連携は、部活などで先生同士が気軽に話して情報交換できる環境があるからこそだと思います。私もサッカー部の練習を見ながら「こういう研究をしたいと考えているんですけど……」と先生に話したら、「それだったらあの先生に相談してみては?」と繋いでいただいたことがありました。高専において農学研究は比較的新しい分野なので、他の先生方も興味を持ってくださり、高専で働き始めてすぐに連携することができました。

大分高専の木本智幸先生とのトウモロコシ用ロボット研究の様子。
▲大分高専の木本智幸先生とのトウモロコシ用ロボット研究の様子

また、先生方だけでなく、農業、特に食料生産の観点で興味を持っている学生も一部います。そういった学生の卒研サポートなどを行い、少しでも工学的知見を持った農業技術者を育成することができればと思っています。

コンテストを通して、「資格欄」と「火」を得る

―農業と福祉の連携にも取り組んでいらっしゃるそうですね。

在来作物の原種生産では種の選別・脱穀を手作業で行っていまして、その量は何十キロにも及びます。アメリカなどでは全部機械化されているのですが、日本ではそのような技術がなくなってしまったので、その作業を担っていただきたいと、福祉施設さんにお願いしています。

農業と福祉は、もともと相性がいいんです。私自身も前の職場では軽度知的障がいのある方と一緒に仕事や「農林系・畜産系研究機関での雇用拡大」に向けた研究をしていたので、何か仕事があれば福祉施設さんにまず声をかけるようにしています。

今後は農福工連携として、畑に行けない方がリモートで農業できるシステムや、畑に入っていける車椅子の開発なども、情報系や機械系の先生と一緒に進めていきたいと考えています。

ちなみに、もちとうきびスプラウトの創出などで共同研究させていただいている合同会社Farm SamさんはノウフクJASを取得しています。大事にしている思いが私と似ていたので、引き合わされるように一緒になり、研究をスタートさせた経緯があります。

※2019年に制定された「障害者が生産行程に携わった食品及び観賞用の植物の農林規格」のこと。「多様であること」に価値を見出し、「みんなが地域の一員となり、一緒になって地域を作っていく」取組を評価している。

「Farm Sam」代表の髙松修さんとの、コーンスプラウトの商品開発の際の1枚。
▲「Farm Sam」代表の髙松修さん(左)との、コーンスプラウトの商品開発の際の1枚

―教育面で大切にされていることを教えてください。

学生がより良い道に進んでいけるように道しるべを示すことが役目だと思っていまして、一番力を入れているのは、コンテストに積極的に参加させることです。

その理由としてはまず、エントリーシートの資格欄などを空欄にさせたくないという思いがあります。今の社会・企業では、高専や大学で得られた学業的な能力だけでなく、尖っている部分が求められていると感じています。最近ではコンテストをきっかけに特許を取得するケースも出てきました。そうなるとエントリーシートに特許出願と書くことができますし、「尖っている」と思ってもらえるはずです。

さらに、コンテストに参加することで、自身のやりたいことに気付き始めるんです。最初は嫌々参加していても、そのうち鼻息が荒くなり、今ではいろいろなコンテストに参加している学生もいます。そのような「学生に火をつける」ところに力を入れたいと思っています。

▲第3回高専起業家サミット(主催:国立高専機構、月刊高専)のプロトタイプ部門で優秀賞を受賞した大分高専「MiMiCs」は、森田先生が指導教員を務めていたチーム(左は当時の国立高専機構 理事長 谷口功氏)。「この頃になると、発案含めて学生自身で考えて取り組めるようになっていて、私は必要最低限の支援をするだけでした」とのことです

―最後に、高専への入学を検討している中学生の方へメッセージをお願いします。

高専での研究は社会実装、つまり現場で役に立つかどうかの視点で行われているものがほとんどですので、理論を学びたいだけでなく、社会を良くしたいと考えている方にはお勧めです。現場でコンクリートをこねている教授もいるんですよ(笑) このような光景も、大学ではあまり見られません。

苗に水やりをする森田先生。カボチャやトウモロコシ、ささげ豆などの苗を育てており、大分駅前にある祝祭の広場内に植える予定とのことです(取材当時)。
▲苗に水やりをする森田先生。カボチャやトウモロコシ、ささげ豆などの苗を育てており、取材後の6月12日(金)に大分駅前にある「祝祭の広場」内で植えられました
▲6月12日(金)に祝祭の広場で在来作物の苗を植えたときのニュース動画(OAB大分朝日放送)

常に現場の第一線で活躍している先生方が学生に教えているのが高専です。ぜひ高専に入学し、学んでいただきたいです。

雨の日にトウモロコシ畑の草刈りをする森田先生。研修室に留まることなく、栽培管理を行います。
▲雨の日にトウモロコシ畑の草刈りをする森田先生。研修室に留まることなく、栽培管理を行います

森田 昌孝
Masayuki Morita

  • 大分工業高等専門学校 一般科 准教授、博士(農学)

森田 昌孝氏の写真

2002年9月 新潟大学 農学部 農業生産科学科 中退
2002年10月 山形大学農学部附属やまがたフィールド科学センター 技術職員
 2010年3月 山形大学大学院 農学研究科 修士課程 修了
 2013年3月 岩手大学大学院 連合農学研究科 博士課程 修了
2015年4月 宮城県畜産試験場 草地飼料部、宮城県農業大学校 畜産学部(兼務) 技師
2018年4月 宮城県北部地方振興事務所 栗原地域事務所 畜産振興部、北部家畜保健衛生所(兼務) 技師
2021年4月 宮城県美里農業改良普及センター 技術主査
2022年4月 大分工業高等専門学校 一般科 講師
2024年4月より現職
2025年6月 おおいた財來作物研究会(会長)
2025年6月 大分県地域プランナー(6次化、地域資源活用、地域連携関係)

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