2026年3月6日、九州工業大学 百周年中村記念館2階・多目的ホールにて、「大学・高専教授と経営者による意見交換・交流会」が開催されました。
本イベントの対象は、経営者や企業の人事採用担当者です。人口減少や人材流出、採用環境の変化などを背景に、企業にとって理系人材の確保と育成は重要なテーマになっています。大学・高専の教員と学生も交えながら、これからの理系人材の採用や育成について考える場として実施されました。
今回のプログラムでは、講演によって九州工業大学による人材育成の考え方や、日本高専・大学支援財団による学生支援の取り組みが紹介されたほか、学生・企業・教育機関の三者によるグループワークも行われました。イベントを通して見えてきた、これからの理系人材育成のヒントをレポートします。
人は「制度」ではなく「構造」で育つ
まずは基調講演です。九州工業大学の楢原弘之教授が登壇し、これまで理系分野の学生教育に携わってきた観点から「人はどう育つのか」をテーマに、人材育成を考えるうえで大切な視点について語りました。

楢原教授は、「人が育たない」と悩む組織について、その背景には「人が育つための構造」が十分に整っていないという課題があるのではないかと指摘します。評価制度や研修制度といった目に見える仕組みも大切ですが、それよりも重要なのが、その背景にある意味づけや信頼、関係性だといいます。
講演では、組織の成長段階として、
1. 制度設計
2. 関係の設計
3. 意味の共有と委任
という整理がなされ、「うまくいかない組織は1の制度設計のみにとどまっている」と楢原教授は話します。
印象的だったのは、「失敗談」として紹介された、自身が関わった社会人向け大学院コースの事例です。立派な設備と制度を整えたものの、当初は思うように人が集まらなかったといいます。その原因を振り返る中で見えてきたのが、「受け手にとって学ぶ意味が十分に伝わっていなかった」ということでした。
特に組織が大きくなるほど、制度による統率は欠かせません。しかし一方で「なぜそれに取り組むのか」「誰がどのように関わるべきか」といった意味付けを取りこぼしてしまい、制度のみが形骸化してしまうことがあります。
「この取り組みがどう役に立つのか」といった意味を伝え、役割を任せ、対話をもって信頼関係を築くことで、初めて人は動き出す——制度を用意するだけではなく、その意味を伝えることや行動の原動力となる信頼関係を育てることが、人を動かすうえで欠かせないと話します。「人が育つ組織づくり」についての過程を丁寧に説明しました。

そして講演の最後には、企業や教育機関を通した地域連携にも話が広がりました。大切なのは、一つの組織で抱え込まず、境界を越えて育成の責任を共有すること、そして外部の視点を取り入れながら、お互いに変わる覚悟を持つことだと話します。そうした積み重ねが、地域の中で人を育てる好循環の第一歩になると締めくくりました。
公益財団法人 日本高専・大学支援財団の3名による講演
続いては、次世代の理系人材を経済面から支える「公益財団法人 日本高専・大学支援財団」による講演です。代表理事・田村隆弘氏、ファンドレイザー・古谷龍二氏、そして奨学生の南龍汰郎氏が登壇しました。
次世代エンジニアを支える「高専」の価値
代表理事の田村隆弘氏(都城高専 校長)からは、今や世界中から「KOSEN」として注目される高専教育の強みが語られました。5年一貫という特徴的な教育環境において、学生たちは低学年から専門科目や実験・実習に取り組みます。卒業研究が必修であることにも触れ、こうした学びの積み重ねが進学後や就職後の「即戦力」につながっていると説明しました。

実際に高専生が大学編入後も早い段階で研究成果を出していることや、企業からも実践的な人材として評価されている事例を紹介したうえで、中にはより高い専門性を身につけるために進学を希望しても、経済的な理由で難しさを抱える学生もいることを強調します。そうした学生のための奨学金支援の重要性を訴えて締めくくりました。
Z世代の価値観をどう受け止めるか
続いてのファンドレイザーの古谷龍二氏は、教育現場で学生と接する立場から、いわゆる「Z世代」の特徴について話しました。
Z世代を対象にした仕事観に関するアンケート結果を提示しながら、Z世代が働くうえで重視するのは、収入だけでなく、やりがいや自己成長、納得感のある仕事であること。反対に、企業が学生と向き合う際には「どんな成長ができるのか」「どんな意味のある仕事に関われるのか」を具体的に伝えることが大切だと述べました。
また、学生たちはSNSや多様な情報源を通じて企業研究をしていることにも触れ、これまでと同じ伝え方では魅力が十分に届かない可能性があるといいます。採用だけでなく、内定後のフォローも含めて、不安をどう解消していくかが重要だと語りました。

宇宙ロボット開発を目指し、日々挑戦を続ける学生の思い
最後に同財団の奨学生を代表して発表したのは、旭川高専出身で、現在は九州工業大学 工学部 機械知能工学科3年に在籍する南龍汰郎氏です。「将来は宇宙ロボット研究に携わりたい」と語る南氏のこれまでの歩みと、これからの大きな展望が語られました。

高専時代はロボコンに没頭し、全国ベスト4まで上り詰めた南氏は、あるときNASAのジェット推進研究所(JPL)が開発するヘビ型探査ロボット「EELS」を知り、宇宙ロボットに強く関心を持つようになったといいます。そこから宇宙ロボット研究に携わりたいという思いが強まり、九州工業大学への編入を決意。現在はJPLへの就職を目標にキャリアプランを計画し、日々勉学に励みながら大学発ベンチャーでインターンシップにも挑戦しています。
土星の衛星の海を探索するという壮大なプロジェクトに魂を揺さぶられました。ただロボットを作るだけではなく、人類のフロンティアを切り拓く仕事がしたい。その一心でJPLを最終目標に据え、宇宙ロボット研究の最前線である九工大への編入を決めました。

発表では、高専で得たものとして、ロボコンに思いきり打ち込めたこと、個性的な仲間と出会えたこと、そして実習を通して「手を動かす経験」を積めたことを挙げました。最後には、「とにかく動くこと」の大切さに触れ、「知識や経験、人とのつながりは行動する中で得られる」と語るなど、高専出身者らしい自律心もうかがえました。
日本高専・大学支援財団に所属する3名の講演を終えて、高専という教育機関の価値、Z世代が仕事や働き方に対して抱く価値観、そして実際に支援を受ける学生の高い志や目標が結びつきました。企業が「これからの理系人材」にどう向き合い、どうアプローチしていくべきかのヒントを掴む機会となったのではないでしょうか。
三者で考える理系人材のこれから。
グループワークで企業・教員・学生が対話
講演が終わり、最後は学生、大学・高専教員、企業関係者が同じテーブルを囲み、グループワークが実施されました。進行役を務めた古谷氏は、「正解を探すのではなく、理系人材が社会でプレゼンスを発揮するために、学生・企業・教育機関それぞれに何ができるのかを考える場にしたい」と目的を共有します。

まずは「学生」「教員」「企業」の各立場に分かれ、それぞれが次のテーマをもとに日頃感じていることを付箋に書き出しました。
学生: 社会に出るために本当に必要な準備とは何か
教員: 企業は学生をどう受け入れるべきか
企業: 今の時代、教育現場(高専・大学)に何を期待しているか
各テーブルではそれぞれの立場の参加者が熱心に付箋に書き出し、それぞれの立場から意見を出し合いました。理系人材が現在自社で十分に活躍できているのか、課題は個人にあるのか、それとも環境や構造にあるのかといった問いも共有され、参加者同士で考えを深めていきました。

グループワークは、企業にとっては学生や教員の率直な声に触れる機会となり、学生にとっては社会との接点を持ちながら、自身の学びやこれからの進路を考えるきっかけになったようです。
企業側からは、「学生と近い距離で普段の考えを聞けたことが新鮮だった」「教員や他社の考えに触れられて参考になった」との声がありました。一方、学生からも、「学校とは異なり、社会に出ると失敗は許されないと思っていたが、認識を改める必要があると感じた」「自分の専門性をさらに高めながらコンテストなどにも積極的に挑戦していきたい」といった前向きな声が寄せられました。
編集後記
今回の交流会は、理系人材の採用や育成をめぐる課題について、大学・高専、学生、企業がそれぞれの立場から向き合う機会となりました。採用そのものにとどまらず、育成や定着、地域とのつながりまで視野に入れて議論できたことは、大きな意義があったといえます。
変化の激しい社会状況のなか、このような場で直接意見を交わすことで、今後の連携の可能性や、理系人材を活かすための取組を見つめ直す機会になったのではないでしょうか。また、理系人材を取り巻くさまざまな課題に向き合ううえで、重視すべき視点や大切にしたい方向性について、互いに共通する認識を持っていることを確かめ合う場にもなったように思われます。
理系人材の採用や育成をめぐる課題は、企業であれ教育機関であれ、単独で解決できるものではありません。今後もこうした場で対話を重ね、互いの理解を深めていくことが重要になっていきそうです。
◇
◎イベント情報
【理系人材採用・育成戦略の最前線を探る 大学・高専教授と経営者による意見交換・交流会】
開催日:2026年3月6日(金)14:00~17:00
場所:九州工業大学 戸畑キャンパス内
百周年中村記念会館 2階・多目的ホール
主催:大阪中小企業投資育成株式会社
後援:北九州市、北九州商工会議所
運営事務局:メディア総研株式会社
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